ルミナスの手記

 場所は変わってタイガシティ。水場を挟んで観客席にはシェリー、エミール、バジーリオが座っている。
「姉さんの負けるとこ早く見たいな~。ラジオで言っちゃおうかな?」
 バジーリオはウキウキ、ニヤニヤしながら言っている。
「マジで性格終わってる……」
「でも、バチンキーでどうやって……」
「まあ、見てなよ」
 彼がふっと微笑んだ時、レフェリーが旗を上げる。
「これより、タイガジム公式戦再戦を始めます! 挑戦者の名前はミケランジェロ! 戦闘形式は以前と同じ! それでは、始め!」
 位置についた二人は、ボールを構える。
「付け焼刃の愚弟のアドバイス、ちゃんと活かせるかな?」
 誰が愚弟だ、とバジーリオが不満げにぼそりと呟く。
「はい、行きます!」
 暫しの目と目の睨み合いの後、二人はボールを投げた。
「ずもっ」
「ききーっ!」
 中から出てきたのはクズモーとバチンキーだった。
「変えなかったんですね」
「愚弟じゃあるまいし」
 愚弟ってゆーな、とまたバジーリオが呟く。横でエミールはげんなりしていた。
「では行きますよ! “ちょうはつ”!!」
 バチンキーがバチから手を離し、指をちょいちょい、としながらクズモーを煽った。
「ぐずっ!」
 それを見たクズモーは一気に顔がカンカンになる。
「あーそっか。覚えるもんなー」
「エミールさん?」
「“ちょうはつ”。あれを受けた相手はへんか技を撃てなくなる。つまり“どくどく”も“かげぶんしん”も撃てない」
「あ……!」
「こういう小テクが勝負の僅差をわけるんだよね~ん」
「……バジーリオくん。君本当口調が安定しないな」
「男は謎のひとつやふたつ持ってるくらいが丁度いいのさ」
「ほーん……」
「二人ともちゃんと試合を見てください!!」
 怒り狂ったクズモーはもう以前のような戦い方はできない。ナズナはふっと笑うと腕を上げた。
「どく技が“どくどく”だけだと思ったかい? クズモー、“ポイズンテール”!!」
「まずい! 下手したら結局毒っちまうぞ!」
「きゅうしょにも当たりやすいねぇ」
「あんた……」
 エミールはジト目でバジーリオを見る。
「さては……知ってたな」
「私はないとは言ってませんよ」
「キベンだろキベン!!」
「もう、バジーリオ様に喧嘩仕掛けないでください!!」
「私ィ!?」
 バジーリオはクスクス笑いながら呟く。
「私とて強いトレーナーが好きなのでね」

「転がってよけろ! バチンキー!!」
 しかしミケは迷わなかった。怒りで周りが見えなくなっているクズモーに冷静に対処すると、いつもの技を放った。
「“えだづき”!!」
 それがクズモーのお腹にヒットし、クズモーは吹っ飛ぶ。暫く起き上がろうと震えていたがくたりとその体を地面に戻した。
「クズモー、戦闘不能!」
 ナズナはひとつ息を吐くとクズモーにお疲れさん、と言いながらボールに戻した。
「見違えたじゃないか。きっとあんたもっと強くなるよ」
「今はナズナさんを倒すだけです」
「はは! それいいね!」

「そういえばクズモー以降のポケモンはわかんないんだな……」
「調整された手持ちの筈だからそんなやばいのは出ないとは思いますが」
「バジーリオくんが言うとなあ」
「バジーリオ様を馬鹿にしないでください!」
 シェリーの様子に今だけは面倒臭いなとエミールは思った。

 対してナズナが投げたボールは、
「出番だよ、ミガルーサ!」
「ガァ!」
 出てきたのは鈍色の魚のポケモン。細身で如何にもスピードがありそうだ。
「ミガルーサ、わからせてやりな! “アクアジェット”!」
 一瞬でミガルーサの姿がそこになかった。テレポートではない、突進に近い攻撃だ、避けられない!
「ぎきーっ!」
 バチンキーが痛みに悲鳴を上げる。
「バチンキー! まだ行ける! 上から行け! “はたきおとす”!」
 バチンキーの容赦ない平手が上からミガルーサに炸裂した。

「弱点をついたのは偶然かな?」
「みず、エスパーだからな……」

 ミガルーサは一瞬体勢を崩したがなんとか立て直し、ナズナの指示をおとなしく待つ。
「なるべくダメージを与えな! “サイコカッター”!!」
「ガぅ!」
 念波による刃。ミガルーサの体から絶えずそれが生成される。
(ここで決める!)
「バチンキー、僕を信じて! 突っ込んで“えだづき”だ!」
 ミケもバチンキーも怯まなかった。刃が耐えずバチンキーを切り裂くがバチンキーは止まらない。そしてミガルーサの腹に思い切りバチを突き入れた。
「ガァ~……」
 ミガルーサは一声鳴いた後その場に崩れ落ちる。
「ミガルーサ、戦闘不能!」
「計算の内さ! 行きなフローゼル!!」
「ザッ!」
 入れ替わって出てきたのは不適な顔つきの橙のポケモン。フローゼルというのか。
「バチンキー、“えだづき”……」
「させないよ! “アクアジェット”!!」
 フローゼルのタックルの方が速かった。吹き飛ばされたバチンキーはダメージの蓄積に頽れてしまう。
「バチンキー、戦闘不能!」
 審判のジャッジにミケは頷くとバチンキーをボールに戻す。
「ありがとう、バチンキー」
「後二体いるから余裕かい? ここから巻き直すよ!」
「本気で来てくれて嬉しいですよ」
 観客席からバジーリオの『ドMなの?』という発言が聞こえたが、詳しくは割愛。
「頼む、ルカリオ!!」
「くんぬ!?」
 ボールから出てきたのはルカリオ。ルカリオは不安そうにミケを見る。
「君ならできる」
「……くん」
 不安ながらも、勇気を振り絞った、という感じでルカリオはフローゼルに向き直る。
「それじゃ、隠し球を出すかねえ!」
 ナズナがボールを握ると、フローゼルをボールに入れる。その腕輪から出たピンクの光がボールに集まり巨大化、そのままコートにボールを投げ入れる。出てきたのは、あまりにも、巨大な。
「あれが……ダイマックス……」
 シェリーが呟く。
「そうだ。実際に巨大化してる訳ではないんだけどね。このジムにはラティス人工の、ガラル粒子に極めて近い粒子が設置されてるんだよね。パワースポットっていうんだけど」
「エコノミー・ガラル粒子だな」
「そーそー。果たして弱虫ルカリオくんはなにができるというのでしょうかっ!」
「煽るな煽るな」
「“ダイストリーム”!!」
 指示を受け、ダイマックスしたフローゼルが大量の水を発射する。ルカリオに向かって。
「ルカリオ、“はどうだん”で相殺だ!」
「る、るぅ!!」
 声に反射で反応して、ルカリオが慌てて闘波を出す。なんとか相殺できた。しかし天井から雨がしとしとと振り始める。

「あれは……?」
「ダイマックス状態で使う技は追加効果があるんです。強いて言えば特性のあめふらしですかねぇ」
「つまりみずの技が威力上がってるってことだ。あのルカリオで勝てるのか?」

 エミールの声が聞こえているのか、ルカリオが不安そうにミケを振り返る。ミケは感じた。真剣にルカリオに自分の気持ちを伝えなければ。
「ルカリオ、負けたっていいんだよ! 君は僕をあの研究所で見つけて、抱き締めてくれた! メガシンカがなんなのさ! 僕は『君』だから一緒に旅したいと思ったんだよ!」
「!」
 きらり。
「ルカリオ?」
 キーストーンが熱い気がする。
「闘って……くれるの?」
「ろっ!」
「わかった、ルカリオ!! メガシンカだ!」
 ネックレスのキーストーンを起動させる。ルカリオが一声吼えた。紫の繭に包まれ、現れたのは。
 闘気に満ち溢れた。薄水色の獣のポケモン。

「見ろ! メガシンカだぞ!」
「ミケさん!」
「……ほう」

「やっと本音で語り合ったみたいだね! フローゼル、もう一度……」
「“はどうだん”!!」
 ルカリオの腕から再びのはどうだんが出る方が速かった。
 メガシンカしていないときとは比べようもない速い重い一撃。それを受けたフローゼルは、一つ鳴き声を上げると段々と小さくなり、その場に倒れ伏した。
「フローゼル、戦闘不能! よってこの勝負、挑戦者ミケランジェロの勝利!」
「ミケさん!!」
「よーし、よくやったぞ!」

「……やった!」
「へぇ」
「やったぞミケランジェロくん!!」
 バジーリオ以外の二人が喜びもひとしお、ミケランジェロに駆け寄る。ルカリオも嬉しそうにミケランジェロに抱き着く。
「ははっ! 見違えたね! こりゃー負けだ負けだ!」
 豪快に笑っているナズナにはバジーリオが歩み寄った。
「いいザマですね、姉さん」
「水を差すんじゃないよ愚弟。頼もしいトレーナーが増えたのはいいことじゃないか!」
「チッ、テンプレ台詞ご馳走様でーす」
 おもしろくなさそうなバジーリオを置いて、ナズナはミケの方へ向かう。
「アクアスタンプだ。ちゃんと貼っときなよ」
 渡された青ベースのデザインのスタンプを受け取り、ミケは応えた。
「はい、本当にありがとうございました!」
 ナズナは初めて見せる優しい笑顔で頷き、手を差し出した。その手を重ねると強い力で握り込まれた。

★★★

 ポケモンセンター。
「次はヘリアルタウンだな。コップ遺跡を越えて行こう」
「はい、あ、僕元々いた町です」
「引っ越したんだっけか」
「ええ、父のオフィスがあったので」
「……その父っていうの」
「あ、お金を渡していたのは父が無職の時ですよ! イチヨウに呼んでくれたし」
 エミールはまだ釈然としない顔をしていたが、追及することはしなかった。
「ヘリアルは私がラジオ収録に使っているスタジオのひとつがあるね」
「え、ほ、本当ですか!?」
「可愛いプリンセス。君には特別に俺の仕事を見せてあげようかな」
「わ、わ……」
「言葉をなくしたオタクになってる」
「コップ遺跡にはガーディアントレーナーがいる。リーグの有志だね。道案内や強すぎるポケモンを倒してくれるよ」
 バジーリオはそう言うと。
「ミケくん、その内私ともバトルしてね」
「は、はい!」
 それを聞くと、バジーリオは楽しそうにからからと笑った。


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