Re:アンダンテ
場所はコボクタウン。ノルンの実家だという『Fika timme』で、エイトは困り果てていた。
「いや~うちの娘にボーイフレンドがねぇ~!」
「父ちゃん、ちげーから!」
「こんなガサツな娘であいすまない、まあ親睦はじっくり深めて頂いて」
「あーもう!」
ノルンは頭を掻くと、
「ガキ共に残った菓子あげてくるっ!」
と苛々したようにバスケットを抱えて出て行った。
「いやぁ本当すまないね」
「い、いや……ははは」
ノルンには悪いが、自分が釣り合うとも思っていないが、この純朴そうな父親の喜びを壊すのは憚られた。
「ロベルトさん! 大変だ!!」
へらへらと取り繕っていると店に男性が飛び込んできた。
「どうしたね?」
「パルファム宮殿に賊が! ありゃあ有名なハンターだ、確か名前は……セヴン!」
「!」
「セヴンか……ネットでハンドルをよく聞くね。わかりました、私が相手をしましょう」
ノルンの父親(ロベルトというらしい)はエイトに礼をすると、店を出て行った。
「……どうしよう」
エイトは膝で両の手をぎゅっと握って震えていたが、やがて、決心したように店を飛び出した。
★★★
「トリミアン~? おい、こんなポケモンじゃあ話にならないぜ。俺の色違いのトリミアンとどつき合ってみるか?」
パルファム宮殿、赤髪に褐色の男性がパルファム宮殿の主のポケモン、トリミアンを乱暴に持つと首を傾げた。
「でも毛並みはいいな。売れないこたないか」
「お、お願いだ。愛しのトリミアンちゃんを返してくれ」
「ああ、『愛しの』だぁ!? たかが商品になんて感情抱いてるんだよ」
「そこまでです!」
一人の男性がパルファム宮殿に走り込んできた。
「ろ、ロベルト殿! トリミアンちゃんが!」
「セヴンでしたね? お縄についてもらおうか!」
そう言うとロベルトはポケモンを繰り出した。緑の柄のちょうちょのポケモン、ビビヨンだ。
セヴンはそれを見ると、トリミアンを後ろに放った。
「『ていえん』の柄か……そいつは欲しがってたコレクターがいたな」
「自分の行為が恥ずかしくはないのかね?」
「はっ、正義の味方気取りのあんたにゃ言われたくないな!」
二人が睨み合った時だった。
「や、やめて兄さん!!」
飛び込んできた少年がその間に走り割り込んできた。
「!? エイトくん!?」
「……エイト?」
さすがのセヴンも目を丸くする。
「も、もうやめてよ、こんなの、よくないよ……!」
セヴンが動揺したのは一瞬のことで、やがて元の人を見下した笑みに戻った。
「少しは泣かなくなったかよ、我が弟」
「弟……」
ロベルトが驚いていると、エイトは拳をぎゅっと握って叫んだ。
「人のポケモンを盗ったら泥棒!!」
「……は?」
「え、えと……」
それきりしどろもどろになったエイトに、セヴンの目が冷たくなる。
「今、俺に逆らったか?」
「調教が必要なようだなあ! カメックス!!」
「……!」
彼が繰り出したポケモンは硬い甲羅を持つ水ポケモン。
「見せてやれ、メガシ……」
「ちょっとちょっと何やってんだよ皆!」
三たびの乱入。ノルンがヒトカゲと一緒にやってくる。ヒトカゲだけではない。
「フシギダネ……?」
「お前に会いたがってた。前に会ったフシギダネだよ」
「だね」
フシギダネはエイトの足元に行くと、にぱっと笑った。
「……」
「萎えた」
暫しの沈黙を破ったのはセヴンだった。カメックスをボールに戻すと、頭の後ろで腕を組んで、
「“テレポート”頼むわぁ」
そう言った瞬間、皆の視界からセヴンが消えた。
「しまった! 協力者がいたか!」
「父ちゃん……」
「ノルニル……女の子が無理してはいけませんよ」
「女でも無理したっていいだろ!」
ロベルトは暫く考えていたが、トリミアンの方へ向かい、きずぐすりで軽く手当をすると、主に『詳しいことはまた後日』と告げると、二人の腕を引いて城を出た。
★★★
「おやすみなさい、ノルン」
「んあ、エイトは父ちゃんと一緒?」
「はい、コボクにホテルはないからね」
「おやすみー」
「……おやすみ」
「だねっふし」
足元でフシギダネが鳴く。あの後勧められ、結局捕まえてしまったのだ。エイト的にもあのタイミングは助かった。
ロベルトの部屋への廊下を歩いていると、ロベルトは不意に口を開いた。
「セヴンが君の兄なんだね」
「……はい」
叱責される。そう思った。
「大変だったね」
「……え」
「あのような兄は、大変だ」
自分の故郷、メイスイではけしてかけられなかった言葉。
「あ、あの、えと」
「これを」
そう言って渡されたのはひとつのヒールボールを渡した。
「これは?」
「ビビヨンが入っている。私からお願いだ。あのセヴンという男を捕まえてはくれないか?」
「えと」
「君の成長の妨げになっているのはあの兄だ。しかし君はそれを突破するだけの地盤はある」
「そんなこと……」
「大丈夫、君が悪くないことは分かってくれる人は分かってくれるよ。明日、ノルンが目を覚ます前にコボクを出て……」
「そんなこったろうと思ったぜ!」
「!?」
二人が振り返るとむくれたノルンがいた。
「仕方ない子だな。ノルン……」
「前々から社会勉強しろ、とは言ってたよな!? これを期にカロスを満喫するぜ! よろしくなエイト、あのセヴンって奴も一緒にとっちめよーぜ!」
「だねふし♪」
明日から兄を探して?
メイスイを飛び出した時とは比べ物にもならない不安だ。
(でも、それで俺が変われるっていうんなら……後ろ指さされなくなるんなら……)
「うん、よろしく、ノルン」
【251028】
「いや~うちの娘にボーイフレンドがねぇ~!」
「父ちゃん、ちげーから!」
「こんなガサツな娘であいすまない、まあ親睦はじっくり深めて頂いて」
「あーもう!」
ノルンは頭を掻くと、
「ガキ共に残った菓子あげてくるっ!」
と苛々したようにバスケットを抱えて出て行った。
「いやぁ本当すまないね」
「い、いや……ははは」
ノルンには悪いが、自分が釣り合うとも思っていないが、この純朴そうな父親の喜びを壊すのは憚られた。
「ロベルトさん! 大変だ!!」
へらへらと取り繕っていると店に男性が飛び込んできた。
「どうしたね?」
「パルファム宮殿に賊が! ありゃあ有名なハンターだ、確か名前は……セヴン!」
「!」
「セヴンか……ネットでハンドルをよく聞くね。わかりました、私が相手をしましょう」
ノルンの父親(ロベルトというらしい)はエイトに礼をすると、店を出て行った。
「……どうしよう」
エイトは膝で両の手をぎゅっと握って震えていたが、やがて、決心したように店を飛び出した。
★★★
「トリミアン~? おい、こんなポケモンじゃあ話にならないぜ。俺の色違いのトリミアンとどつき合ってみるか?」
パルファム宮殿、赤髪に褐色の男性がパルファム宮殿の主のポケモン、トリミアンを乱暴に持つと首を傾げた。
「でも毛並みはいいな。売れないこたないか」
「お、お願いだ。愛しのトリミアンちゃんを返してくれ」
「ああ、『愛しの』だぁ!? たかが商品になんて感情抱いてるんだよ」
「そこまでです!」
一人の男性がパルファム宮殿に走り込んできた。
「ろ、ロベルト殿! トリミアンちゃんが!」
「セヴンでしたね? お縄についてもらおうか!」
そう言うとロベルトはポケモンを繰り出した。緑の柄のちょうちょのポケモン、ビビヨンだ。
セヴンはそれを見ると、トリミアンを後ろに放った。
「『ていえん』の柄か……そいつは欲しがってたコレクターがいたな」
「自分の行為が恥ずかしくはないのかね?」
「はっ、正義の味方気取りのあんたにゃ言われたくないな!」
二人が睨み合った時だった。
「や、やめて兄さん!!」
飛び込んできた少年がその間に走り割り込んできた。
「!? エイトくん!?」
「……エイト?」
さすがのセヴンも目を丸くする。
「も、もうやめてよ、こんなの、よくないよ……!」
セヴンが動揺したのは一瞬のことで、やがて元の人を見下した笑みに戻った。
「少しは泣かなくなったかよ、我が弟」
「弟……」
ロベルトが驚いていると、エイトは拳をぎゅっと握って叫んだ。
「人のポケモンを盗ったら泥棒!!」
「……は?」
「え、えと……」
それきりしどろもどろになったエイトに、セヴンの目が冷たくなる。
「今、俺に逆らったか?」
「調教が必要なようだなあ! カメックス!!」
「……!」
彼が繰り出したポケモンは硬い甲羅を持つ水ポケモン。
「見せてやれ、メガシ……」
「ちょっとちょっと何やってんだよ皆!」
三たびの乱入。ノルンがヒトカゲと一緒にやってくる。ヒトカゲだけではない。
「フシギダネ……?」
「お前に会いたがってた。前に会ったフシギダネだよ」
「だね」
フシギダネはエイトの足元に行くと、にぱっと笑った。
「……」
「萎えた」
暫しの沈黙を破ったのはセヴンだった。カメックスをボールに戻すと、頭の後ろで腕を組んで、
「“テレポート”頼むわぁ」
そう言った瞬間、皆の視界からセヴンが消えた。
「しまった! 協力者がいたか!」
「父ちゃん……」
「ノルニル……女の子が無理してはいけませんよ」
「女でも無理したっていいだろ!」
ロベルトは暫く考えていたが、トリミアンの方へ向かい、きずぐすりで軽く手当をすると、主に『詳しいことはまた後日』と告げると、二人の腕を引いて城を出た。
★★★
「おやすみなさい、ノルン」
「んあ、エイトは父ちゃんと一緒?」
「はい、コボクにホテルはないからね」
「おやすみー」
「……おやすみ」
「だねっふし」
足元でフシギダネが鳴く。あの後勧められ、結局捕まえてしまったのだ。エイト的にもあのタイミングは助かった。
ロベルトの部屋への廊下を歩いていると、ロベルトは不意に口を開いた。
「セヴンが君の兄なんだね」
「……はい」
叱責される。そう思った。
「大変だったね」
「……え」
「あのような兄は、大変だ」
自分の故郷、メイスイではけしてかけられなかった言葉。
「あ、あの、えと」
「これを」
そう言って渡されたのはひとつのヒールボールを渡した。
「これは?」
「ビビヨンが入っている。私からお願いだ。あのセヴンという男を捕まえてはくれないか?」
「えと」
「君の成長の妨げになっているのはあの兄だ。しかし君はそれを突破するだけの地盤はある」
「そんなこと……」
「大丈夫、君が悪くないことは分かってくれる人は分かってくれるよ。明日、ノルンが目を覚ます前にコボクを出て……」
「そんなこったろうと思ったぜ!」
「!?」
二人が振り返るとむくれたノルンがいた。
「仕方ない子だな。ノルン……」
「前々から社会勉強しろ、とは言ってたよな!? これを期にカロスを満喫するぜ! よろしくなエイト、あのセヴンって奴も一緒にとっちめよーぜ!」
「だねふし♪」
明日から兄を探して?
メイスイを飛び出した時とは比べ物にもならない不安だ。
(でも、それで俺が変われるっていうんなら……後ろ指さされなくなるんなら……)
「うん、よろしく、ノルン」
【251028】
