Re:アンダンテ
ノルニル・マルタンことノルンがコボクタウンから菓子をミアレシティに売りに行く途中、道から少し外れたところから何やら声がした気がした。
行ってみると二匹のポケモンと赤髪に白いニット帽の少年がパニックを起こしていた。
「どうしたんだ? そんなところで」
「あっ!? えっ、ご、ごめんなさい!!」
「何を謝ってるんだ?」
本当にわからない。
「ち、違う! ヤナップ、早く回復してあげなきゃ」
確かにその腕の中にはくたっとしたヤナップ。珍しいポケモンがいたものだ。
「弱ってんのか?」
「う、うん」
ノルンは空のモンスターボールを取るとそのヤナップに触れた。ヤナップはボールにお収まりカチ、とボールは音を鳴らした。
「あ、え!?」
「ほらミアレ行くぞ」
「え、えと」
ぐうううー……。
「……」
「……」
「腹減ってんのか?」
「うう……」
「仕方ねーなぁ。ほら、これでも食って紛らわしてろよ」
そう言ってノルンがバスケットから取り出したのは、苺のクッキー。
「え、でもお金なんて……」
「は!? 押し売りなんてしねぇよ。あたしはあたしの前で腹をすかせた奴がいるのが一番嫌なんだ!」
「ご、ごめん」
「謝るな、食え」
「う、うん……」
おずおずとノルンからクッキーを受け取りエイトは一口口に含む。パサパサとした食感の中に苺の風味が口の中に広がる。
「おいしい……」
思わず呟くとノルンはにっと歯を見せて笑った。
「だろ! 『Fika・timme』の看板は伊達じゃねぇからな!」
「それ、カロス語じゃないね」
「父ちゃんが別地方の出身なんだ」
「へー……」
「ほら、ヤナップをポケモンセンターに連れてくぞ。ミアレだ」
「う、うん」
「だね」
「フシギダネ……」
フシギダネは寂しそうにツタをエイトに絡ませる。
「連れてけって言ってるみたいだな」
「でも……」
ポケモンを持つのは、怖い。
「ふしゅ……」
その迷いを感じ取ってか、フシギダネがツタを引っ込めしょぼんとする。
「ごめんね……」
エイトはそう言ってそのフシギダネから離れた。ノルンは一瞬眉を顰めたが、一言だけ、
「俺はこのヤナップ手持ちとして入れちゃうけど」
「うん、それがいい。きっと、いい」
そう言って、二人はフシギダネに見送られ、ミアレに向かった。
★★★
「ここがカロス地方だ! ホイーガ、メリープ!」
「……も」
「メェ~」
「電車旅ご苦労さん。フタチマルとドガースもボールの中でお疲れ様だぜ」
それに応えるように二つのボールが揺れた。
「へぇ~、君、たくさんポケモンを持っているんだな」
後ろから聞こえた声に、眼帯の少年、、エイヴァルが振り返ると、紫の髪の服越しでもしなやかな体を持っているとわかる少年が、顎に手を当てながら頷いていた。
「君は? あ、オレはエイヴァル! イッシュからバンドメンバーを探しに来たんだ」
「テルロ。ミアレバレエ団に所属してる。実は、君を見込んで頼みたいことが」
「?」
テルロと名乗った青年は、一枚の紙と、一枚の写真を渡す。それぞれに、紙には『ジムバッジを集めに行きます』と書かれており、写真には可愛らしい桃色の髪を二つ結びにした少女が写っていた。
「これは?」
「知り合い筋……うちを贔屓にしてくれる人の娘さん、買い物にハクダンに向かわせたら、買い物用品とこの手紙だけ入ってたんだって」
「それはそれは……」
「バレエの練習あるから、ショウヨウシティ行ったんだとしたらギリ追えないんだよね~。ね、君頼まれてくんない? 秘密の場所教えるからさ」
「秘密の場所?」
「受けてくれる?」
エイヴァルはその件に対しては、秘密の場所関係なく迷いがなかった。
「困ってるなら、助けるぜ!」
その十分後、
「うわ~ビルの裏にこんな場所が……」
ミアレ出版というらしい会社の裏に潜むポケモン達、オンバットを見てエイヴァルは感嘆の声を上げた。既にテルロはバレエのレッスンに行っており、後は任せたと笑ってくれた。
一匹連れていくといい、と言われたが、仲がいいらしいオンバット達を引き裂くのは少し心が痛む。
と思っていたが、
一匹の個体がエイヴァルを凝視している。続いて、連れているホイーガ、メリープ。そして、
「おんばっ!」
嬉しそうにエイヴァルに抱き着いてきたのだ。
「え、えと」
オンバットはキラキラとした目でエイヴァルを見ている。
「一緒に……来る?」
「ばっ!」
こんな出会いもあるものなのだなあとエイヴァルはボールを握った。
★★★
「ヤナップ、元気になったぜ」
ポケモンセンターの前で待っていると、ノルンがヒトカゲとヤナップを連れてポケモンセンターを出てきた。
「あ、ポケモン持ってたんだ」
「ああ! こいつの火で焼き菓子を焼くとばっちりなんだ!」
「ノルンさんの店ってどこにあるの?」
「コボクタウン。近くまでしか父ちゃんが許してくれねぇんだ」
「ふうん……」
「お前は?」
「え?」
「名前だよ。俺はノルン」
「……エイト」
「エイトか! 折角だからコボク寄っていけよ! ミアレから来たってことは行く予定だったんだろ!」
「え、えーと」
『この恥さらし!!』
『犯罪者!!』
自分は何処へ行きたかったのだろうか。メイスイを飛び出して。
「ほら行くぞ。エイト! 野生ポケモンからならこのノルン様が蹴散らしてやるからよ!」
そう笑ったノルンはとてもエイトには眩しく見えた。
俺は君にはなれない。
★★★
「経験は積んだかな。ヤヤコマは確か進化するんだよね」
7番道路で皆に経験値を与えていたクロワは一つ息をついた。
「お疲れ様。ご飯にしよう。コボクタウンのお菓子屋さん、どれもおいしそうだよ。あ、ちゃんとフード食べないとお菓子はあげないからね」
手持ちたちを出してクロワは微笑んだ。既に経験を積んだコフキムシはコフーライに進化しており、ヤヤコマもそろそろと云った感じだ。デデンネは最初から進化しないし、タマゴはまだうんともすんとも言わない。皆クロワの頭の上だったり膝の上だったりでフードをおいしそうに貪っている。
「えーと、ホロキャスターでニュースを……」
「んあ、ガキ?」
不意に見えている洞窟の方から男が出てきた。
燃えるような赤毛の褐色の男性だ。
「どうかしました?」
クロワが首を傾げて尋ねると、彼は頭を数回掻いた後、
「今日は気分じゃねぇ。よかったな」
とだけ言い残して去って行ってしまった。
「なんなんだろ……」
クロワがまた首を傾げた時、膝のヤヤコマが震え出した。
「え、ヤヤコマ!? まさか」
光をヤヤコマが包み、現れたのは赤みの増した鳥ポケモン。
「えっと、ヒノヤコマね!」
「コマー」
甘えたなのはまだそうなようで、ポカポカとした体をクロワにすりつけてくる。
「あーもう、お菓子デデンネが食べちゃうよー?」
「コマ」
お菓子という言葉に反応して、ヒノヤコマもお菓子を食べる皆の輪に入って行く。
それをにこにこと見ながら、クロワはタウンマップを開き、次の町へのルートを確認していた。
役者は揃った。幕は上がった。
人生は歩く影法師。哀れな役者だ。
【251028】
うわまにさん宅テルロさんお借りしました。
行ってみると二匹のポケモンと赤髪に白いニット帽の少年がパニックを起こしていた。
「どうしたんだ? そんなところで」
「あっ!? えっ、ご、ごめんなさい!!」
「何を謝ってるんだ?」
本当にわからない。
「ち、違う! ヤナップ、早く回復してあげなきゃ」
確かにその腕の中にはくたっとしたヤナップ。珍しいポケモンがいたものだ。
「弱ってんのか?」
「う、うん」
ノルンは空のモンスターボールを取るとそのヤナップに触れた。ヤナップはボールにお収まりカチ、とボールは音を鳴らした。
「あ、え!?」
「ほらミアレ行くぞ」
「え、えと」
ぐうううー……。
「……」
「……」
「腹減ってんのか?」
「うう……」
「仕方ねーなぁ。ほら、これでも食って紛らわしてろよ」
そう言ってノルンがバスケットから取り出したのは、苺のクッキー。
「え、でもお金なんて……」
「は!? 押し売りなんてしねぇよ。あたしはあたしの前で腹をすかせた奴がいるのが一番嫌なんだ!」
「ご、ごめん」
「謝るな、食え」
「う、うん……」
おずおずとノルンからクッキーを受け取りエイトは一口口に含む。パサパサとした食感の中に苺の風味が口の中に広がる。
「おいしい……」
思わず呟くとノルンはにっと歯を見せて笑った。
「だろ! 『Fika・timme』の看板は伊達じゃねぇからな!」
「それ、カロス語じゃないね」
「父ちゃんが別地方の出身なんだ」
「へー……」
「ほら、ヤナップをポケモンセンターに連れてくぞ。ミアレだ」
「う、うん」
「だね」
「フシギダネ……」
フシギダネは寂しそうにツタをエイトに絡ませる。
「連れてけって言ってるみたいだな」
「でも……」
ポケモンを持つのは、怖い。
「ふしゅ……」
その迷いを感じ取ってか、フシギダネがツタを引っ込めしょぼんとする。
「ごめんね……」
エイトはそう言ってそのフシギダネから離れた。ノルンは一瞬眉を顰めたが、一言だけ、
「俺はこのヤナップ手持ちとして入れちゃうけど」
「うん、それがいい。きっと、いい」
そう言って、二人はフシギダネに見送られ、ミアレに向かった。
★★★
「ここがカロス地方だ! ホイーガ、メリープ!」
「……も」
「メェ~」
「電車旅ご苦労さん。フタチマルとドガースもボールの中でお疲れ様だぜ」
それに応えるように二つのボールが揺れた。
「へぇ~、君、たくさんポケモンを持っているんだな」
後ろから聞こえた声に、眼帯の少年、、エイヴァルが振り返ると、紫の髪の服越しでもしなやかな体を持っているとわかる少年が、顎に手を当てながら頷いていた。
「君は? あ、オレはエイヴァル! イッシュからバンドメンバーを探しに来たんだ」
「テルロ。ミアレバレエ団に所属してる。実は、君を見込んで頼みたいことが」
「?」
テルロと名乗った青年は、一枚の紙と、一枚の写真を渡す。それぞれに、紙には『ジムバッジを集めに行きます』と書かれており、写真には可愛らしい桃色の髪を二つ結びにした少女が写っていた。
「これは?」
「知り合い筋……うちを贔屓にしてくれる人の娘さん、買い物にハクダンに向かわせたら、買い物用品とこの手紙だけ入ってたんだって」
「それはそれは……」
「バレエの練習あるから、ショウヨウシティ行ったんだとしたらギリ追えないんだよね~。ね、君頼まれてくんない? 秘密の場所教えるからさ」
「秘密の場所?」
「受けてくれる?」
エイヴァルはその件に対しては、秘密の場所関係なく迷いがなかった。
「困ってるなら、助けるぜ!」
その十分後、
「うわ~ビルの裏にこんな場所が……」
ミアレ出版というらしい会社の裏に潜むポケモン達、オンバットを見てエイヴァルは感嘆の声を上げた。既にテルロはバレエのレッスンに行っており、後は任せたと笑ってくれた。
一匹連れていくといい、と言われたが、仲がいいらしいオンバット達を引き裂くのは少し心が痛む。
と思っていたが、
一匹の個体がエイヴァルを凝視している。続いて、連れているホイーガ、メリープ。そして、
「おんばっ!」
嬉しそうにエイヴァルに抱き着いてきたのだ。
「え、えと」
オンバットはキラキラとした目でエイヴァルを見ている。
「一緒に……来る?」
「ばっ!」
こんな出会いもあるものなのだなあとエイヴァルはボールを握った。
★★★
「ヤナップ、元気になったぜ」
ポケモンセンターの前で待っていると、ノルンがヒトカゲとヤナップを連れてポケモンセンターを出てきた。
「あ、ポケモン持ってたんだ」
「ああ! こいつの火で焼き菓子を焼くとばっちりなんだ!」
「ノルンさんの店ってどこにあるの?」
「コボクタウン。近くまでしか父ちゃんが許してくれねぇんだ」
「ふうん……」
「お前は?」
「え?」
「名前だよ。俺はノルン」
「……エイト」
「エイトか! 折角だからコボク寄っていけよ! ミアレから来たってことは行く予定だったんだろ!」
「え、えーと」
『この恥さらし!!』
『犯罪者!!』
自分は何処へ行きたかったのだろうか。メイスイを飛び出して。
「ほら行くぞ。エイト! 野生ポケモンからならこのノルン様が蹴散らしてやるからよ!」
そう笑ったノルンはとてもエイトには眩しく見えた。
俺は君にはなれない。
★★★
「経験は積んだかな。ヤヤコマは確か進化するんだよね」
7番道路で皆に経験値を与えていたクロワは一つ息をついた。
「お疲れ様。ご飯にしよう。コボクタウンのお菓子屋さん、どれもおいしそうだよ。あ、ちゃんとフード食べないとお菓子はあげないからね」
手持ちたちを出してクロワは微笑んだ。既に経験を積んだコフキムシはコフーライに進化しており、ヤヤコマもそろそろと云った感じだ。デデンネは最初から進化しないし、タマゴはまだうんともすんとも言わない。皆クロワの頭の上だったり膝の上だったりでフードをおいしそうに貪っている。
「えーと、ホロキャスターでニュースを……」
「んあ、ガキ?」
不意に見えている洞窟の方から男が出てきた。
燃えるような赤毛の褐色の男性だ。
「どうかしました?」
クロワが首を傾げて尋ねると、彼は頭を数回掻いた後、
「今日は気分じゃねぇ。よかったな」
とだけ言い残して去って行ってしまった。
「なんなんだろ……」
クロワがまた首を傾げた時、膝のヤヤコマが震え出した。
「え、ヤヤコマ!? まさか」
光をヤヤコマが包み、現れたのは赤みの増した鳥ポケモン。
「えっと、ヒノヤコマね!」
「コマー」
甘えたなのはまだそうなようで、ポカポカとした体をクロワにすりつけてくる。
「あーもう、お菓子デデンネが食べちゃうよー?」
「コマ」
お菓子という言葉に反応して、ヒノヤコマもお菓子を食べる皆の輪に入って行く。
それをにこにこと見ながら、クロワはタウンマップを開き、次の町へのルートを確認していた。
役者は揃った。幕は上がった。
人生は歩く影法師。哀れな役者だ。
【251028】
うわまにさん宅テルロさんお借りしました。
