Re:アンダンテ

 途中フウジョタウンを経由して、一行はフロストケイブに向かっていた。
「寒い!」
 ノルンが苛々したように言うとエイトも頷く。
「ちょっとこれ覚悟してた以上だね……」
「ユキノオーとマンムーがいるくらいだからなぁ……」
「大丈夫だよ、進もうって意志があれば進めるよ」
「クロワちゃんはブレないね~」
「ううん、ブレブレだよ。今はみんながいるから!」
「嬉しいこと言ってくれんじゃんクロワ。絶対ユキノオーゲットしような!」
「うん!」
 ノルンのグータッチにクロワもそれを返す。残りの二人も嬉しそうにそれを見ていた。

 数十分後、フロストケイブ。
 氷に足を取られながら一行は洞窟の奥を目指す。クロワのファイアローとノルンのリザードン(フウジョタウンで進化した)で暖を取りながら進むと、やがて開けた場所に出た。
「お、いたぞユキノオー」
 ノルンがボールを取り出す。
「待って。それだけじゃないな」
 エイヴァルがユキノオーの前を指差す、そこには袋を持った赤いポケモン。
「デリバード? 君ひょっとしてあの時の子じゃない?」
「デリ?」
 振り返ったデリバードはその場にいた四人の様子を見ていたが、やがてとても喜んだ。
「人懐っこいな」
「クロワちゃん、知ってるの?」
「フレア団に追いかけられていて……」
 クロワが説明を始めた時だった。
「……。残念だな」
 ドッ。
 低い声が聞こえ、それと同時に、何か重いものが背中に押しかぶさってきて、一行はその場に膝をついた。
 そこに現れたのは。
「……セヴンさん? どうして」
 クロワは現れた男の顔を茫然として見ていると、黒いリボンのポケモンを連れた(エスパーポケモンだ。恐らく今使われたのは“サイコキネシス”だろう)彼は少しだけクロワの顔を表情の読めない顔で見ていたが、やがてフイと顔を逸らすと、同じく蹲っているデリバードに向かった。
「よこせよ」
 そう言って、デリバードの背中の袋を蹴る。中からはキラキラとした石が沢山出てきた。その輝きは、よく知っている。
「メガストーン……とキーストーン……」
「このデリバードはイレギュラーだ。価値のあるもんばかり見つける。最初は貴族の手持ちだったらしいがあまりにがめつくて主人の元を抜け出したんだと」
「……」
「兄さん!」
 セヴンはエイトにも応えず、自分の鞄にメガストーンとキーストーンたちを詰めていく。そして最後にクロワに言った。
「お前を囮に使った」
「セヴンさ……」
「こいつは警戒心が強い上フロストケイブでも滅多に出会えない。かつてフレア団が無理矢理仲間にしようとして失敗した。それから益々見なくなってな。だが一回デリバードを助けたお前なら、『会えるんじゃないか』って上のブレインがな」
「それは、誰……?」
「教えるのは契約違反だ。じゃあな、クロワ、お前自体は悪くなかったぜ」
 そう言うとセヴンはリボンのポケモンに小声で指示を出し、頷いたポケモンが手を掲げると、両者の姿が消えた。“テレポート”だろう。と同時に、体の重さがなくなった。
「デリバード!」
 クロワが駆け寄るとデリバードは悔しそうな表情で、クロワの腕を振りほどくとフロストケイブを出て行った。
「えと……」
「ノオー」
 追いかけようとすると声をかけられる。事態を静観していたユキノオーだ。少し困ったような顔をした後、クロワの腰のモンスターボールを指差した。
「ユキノオー?」
「取り返そうって言ってるんじゃないかな」
「そう、なの?」
「ノー」
 肯定らしい。それならば、とボールを構える。
 その後ろでエイトはノルンを宥めていた。
「あいつ、あのクソセヴン!! 人のことコケにしやがって! しかも実の弟ガン無視とかありえねーだろ!」
「どうどう……」
「エイトくんとセヴンさんは兄弟だったんだね……」
 ボールを投げ、ユキノオーを捕まえたクロワが会話に入ってくる。
「うん、まあ。向こうも僕もお互いいらないんだろうけど」
「おうよ! あんな奴クーリングオフだ!」
「通販じゃないよ」
 その時、セヴンが来てからずっと震えていたエイトのボールからポケモンが二匹出てきた。
「ヤンチャム?」
「あっ、これは、その……」
 エイトは慌てていたが、やがてがっくりと項垂れた。
「兄さんにお揃いで捕まえてもらったポケモンだよ。チョルって名前なの」
「へー私ゴロンダ持ってたから親近感湧くなあ」
「軽蔑していいよ。兄さんを忘れたくて、ずっと出してなかったんだから」
 エイトは自分の腕を掴み、自嘲する笑みを浮かべる。しかし仲間たちは彼の望みを叶えなかった。
「セヴンさん、ゴロンダ持ってるんだよね」
「え?」
 クロワはエイトをまっすぐに見る。
「私はセヴンさんのこと詳しくないけど……すごい悪い人じゃないって感じがするんだ。だからエイトくんも、ずっとこのヤンチャム持ってたんじゃないの?」

『ほら、俺とお揃いだ。大事にしろよ!』

「……た」
 エイトは目を見開き、口を抑える。
「ん?」
「忘れてた。兄さんが本当は優しかったってこと。いつの間にか、町のみんなと同じ目で兄さんを見てた……」
 ああ、貴方はちゃんと優しかったのに。
「じゃあ、エイトくんはどうする?」
 エイトは一度目を閉じる。そして。
「兄さんを止める。まだ不安だし、怖いけど。ずっとこの話をすると軽蔑されると思っていたけれど。みんながもう一度チャンスをくれるっていうなら」
「誰の許可だよ。お前の気持ちだ」
 ノルンがエイトの頭を小突く。エイトがびっくりした後、ありがとう、と微笑む。
「話はまとまったかなー」
 エイヴァルが言った時だった。皆のホロキャスターが一斉に受信した。内容を見て、皆固まる。
「『残念ですがさようなら』ってどういうこと?」
「こいつフラダリじゃないか!? 有名だぞ」
「うーん、兄さんの件と無関係じゃなかったりする?」

「当たらずとも遠からず」
 すぐ背後から急に聞こえた声。クロワだけ聞き覚えがあった。
「ジル君……」
 黒ずくめの光る目を持つ青年。
「ごめんね、遅れて。フレア団のスパイもこれまでだ」
「え? スパイ?」
「とある人に頼まれてね。こう見えて国際警察なんだよ」
「……」
「フラダリが尻尾を出した以上、僕が対処しなくてはいけない。ああ、セヴンたちの件は別件だ。平行して動いてはいるけど。そっちのまとめ役はレンゴク。一気にメガシンカしたポケモンをフレア団アジトで暴れさせるクーデターを目論んでいる」
「……ジル君」
「幻滅した?」
 クロワはかぶりを振る。
「貴方が私に酷いことしたことなんてない」
「……ありがとう。手が足りないんだ。少し君たちの手を借りてもいいか?」
「できることが、まだあるなら……」
「僕も兄さんと決着をつけなくちゃ」
「乗りかかった船っすよ」
「おう! このノルン様に任せな!」
「よし、では今から僕たちはチームだ。表の事件はそれ向けの子供たちに任せて、僕たちはアジトを裏から叩くぞ。名付けて、『ミッション:フレア団』」
「で、そのアジトって……」
 ジルコニアは目を閉じた。
「セキタイタウンに向かうよ」


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