Re:アンダンテ
「ここがヒヨクシティね!」
クロワはそう言うと、肩のデデンネを撫でた。
「デネ?」
「みんな、ここまでくるなんて思ったかな?」
デデンネが愛らしく首を傾げたので、クロワはその頬っぺたをもちもちする。
「次も頑張ろうね!」
「デネ!!」
同時刻、13番道路。
「ヒヨクでジム挑戦してなかったってどういうことだろうね……」
「追い抜いたか?」
「うーん」
エイヴァルは顎に手を当てる。
「ミアレに向かったのかもね……?」
「そうかもな! なんだかんだで結構歩いたよなぁ俺たち」
「でも、兄さんいなかったね……」
「お兄さんいるんだ」
「ああ! すっげー最悪な性根の悪い奴!」
「弟の目の前で言っちゃうんだ」
「はは……でも割りと本当のことっていうか」
とにかく! とノルンが一歩踏み出す。
「こんな砂埃ばっかりのとこ抜けて! さっさとミアレに戻って聞き込みするぞ……ってなんだその顔」
エイトとエイヴァルの視線はノルンの後ろに注がれ、固まっている。不思議に思ったノルンが振り返ると。
「……うわ!!」
身の丈3メートルはあろうかと白髪の男性が、三人を見下ろしていた。
「な、なんだお前!!」
「……」
男は暫し三人を見下ろしていたが。
「……永遠の命を与えられし花のポケモン」
それだけ呟くと、男は吹きすさぶ砂煙に消えて行った。
「何だったんだ……幻?」
「襲われるかと思った~!」
「さ、さすがにないよ。ちょっとおっきいだけの人だって……」
「「それはそれで怖い」」
「ええ……」
★★★
「プラントバッジ、ゲットね!」
「アローっ!」
「ビビ!」
「頑張ったね、ファイアロー、ビビヨン! 他のみんなも見守ってくれてありがとう!」
声をかけるとそれぞれのボールが元気よく揺れた。
「問題は次、か……ミアレに戻ることになるなあ……」
クロワは視線を下に落とす。実家にはまだ帰りたくないが、ルート的にミアレを経由した方が色々具合がいい。
「私を探してる人もいるしなあ」
でも。
「もし捕まっても、話したらわかってくれるよね……私がジム巡りしたい気持ちは本物だし」
顔を上げたクロワはもう迷っていなかった。
その時だった。
ぱち、ぱち、ぱち。
拍手が聞こえた。振り返ると、片目を隠した一人のストライプのスーツの男性が手を打っていた。腰にはほのおのいしを加工したアクセサリーがぶら下がっている。
「え、えと……」
「ああ、俺はレンゴク。しがないトレーナーさ」
「あ、クロワです!!」
クロワが慌ててぺこりと頭を下げると、レンゴクは楽にして、と笑いかけた。
「腕の奴、メガリングだよね。すごいな。メガシンカできるんだ」
「ええ、メガシンカできるポケモンはいないんですけど……」
「おお、それはいけないね! ところで悪い話ではないんだけど、フロストケイブのユキノオーを知っているかな?」
「ユキノオーですか?」
レンゴクは人のいい笑顔を浮かべて頷く。
「ユキノオーもメガシンカする。そしてこれだ」
差し出されたのは小さな綺麗な石。
「……これは」
「ユキノオナイトだ。ユキノオーをメガシンカさせるメガストーンだね。君に進呈しよう!」
「え!?」
「ささ、遠慮せず。フロストケイブはミアレの14番道路からクノエとヒャッコクを越えたところだ。是非とも頑張ってくれたまえ」
「あ、ありがとうございます! なんとお礼を言ったらいいか!」
レンゴクはうんうんと頷くと、ふと真剣な顔になった。
「君は何故そんなに頑張るの?」
「え?」
「失敬。実は、俺はたまに。『頑張ったところで簡単にそんなのなかったことになる』と感じることがあってね」
「……」
「メガリングを持ってるってことはジム巡りをしているんだろう。終わった後なにが残るの?」
「……それは」
「ああ、話し過ぎた。気にしないでくれたまえ」
そう言うとレンゴクはヒヨクシティの奥に消えて行った。
『何が残るの?』
クロワは少しだけ茫然とする。私はこの『旅でなにを残す』んだろう。
★★★
「随分意地悪なことを言うんだな」
声をかけられたレンゴクは声をかけてきた人物を見止めると、微笑んだ。
「君のお気に入りを傷つけてしまったかもしれないね。セヴン」
「そんなじゃない。……ガキが自分のやってきたことに意味なんて見いだせる訳ねーだろ」
「ほら、肩入れしてる」
そう言うとレンゴクは自分より頭一つ高いセヴンの胸を押す。
「……君も、最初はそうだったもんなあ?」
セヴンはなにも言わない。
「でも俺は君に期待しているよ。セヴン。君の町の人間とは、違う」
「……なにが言いてェ」
「俺を失望させないでねって言ってるんだ。ジルコニアを見つけ出した手腕は買う。だから、くれぐれもフロストケイブでしくじらないでくれよ?」
「チッ……」
「おお、怖い怖い」
★★★
数時間後、クロワはプリズムタワーの頂上にいた。クイズやバトルを乗り切った先に手に入れたのはボルテージバッジ。
トレーナー同士握手をして健闘を称えた時。
「そういえば……」
「?」
ジムリーダー、シトロンが言う。
「貴方を尋ねて人が来ていましたよ」
やはり、追われているのか。ありがとうございます、と礼をして、兄妹に見送られながらクロワはジムを後にした。
ジムから出た時だった。
「あ!! クロワだ!!」
大声にびくりとする。
振り返ると三人の男女がクロワを見つめていた。
「え、えっと……」
「君クロワだよね。家出したんだって? あ、オレはエイヴァル」
「ノルニル、ノルンでいいぜ」
「……エイト」
クロワはその場に縫い付けられたように動けない。
その様子を見たエイヴァルは苦笑する。
「うん、ノルンとエイトには話してなかったけど」
エイヴァルに注目が集まる。
「オレ、クロワちゃんに伝えたいことがあって。ちゃんとお母さんと話して、ジム巡りした方が健全なんじゃないかなーって」
意外にも家出自体を咎めるものではない言葉。
「話ついたら、オレ、全然着いてくしね? 聞かせてよ。君がどれだけ頑張って来たか」
それはクロワの胸の内にあった不安に直に触れるような言葉だった。そうだ、何もなくない。頑張ってきた。それだけでいいんだ。だったら、確かに母親とは話し合わなければならない。
「……る」
「ん」
「帰って、話する。お母さんと」
エイヴァルはふっと笑うと頷いた。後ろでノルンとエイトも嬉しそうだった。
「応援するぜ! いやーこの旅女子いなくてな!?」
「ノルンって女子に換算していいの」
「言うようになったなぁエイト!!」
なにやら一気に賑やかになった。クロワと肩のデデンネは気がついたら皆に釣られて笑っていたのだった。
【260726】
クロワはそう言うと、肩のデデンネを撫でた。
「デネ?」
「みんな、ここまでくるなんて思ったかな?」
デデンネが愛らしく首を傾げたので、クロワはその頬っぺたをもちもちする。
「次も頑張ろうね!」
「デネ!!」
同時刻、13番道路。
「ヒヨクでジム挑戦してなかったってどういうことだろうね……」
「追い抜いたか?」
「うーん」
エイヴァルは顎に手を当てる。
「ミアレに向かったのかもね……?」
「そうかもな! なんだかんだで結構歩いたよなぁ俺たち」
「でも、兄さんいなかったね……」
「お兄さんいるんだ」
「ああ! すっげー最悪な性根の悪い奴!」
「弟の目の前で言っちゃうんだ」
「はは……でも割りと本当のことっていうか」
とにかく! とノルンが一歩踏み出す。
「こんな砂埃ばっかりのとこ抜けて! さっさとミアレに戻って聞き込みするぞ……ってなんだその顔」
エイトとエイヴァルの視線はノルンの後ろに注がれ、固まっている。不思議に思ったノルンが振り返ると。
「……うわ!!」
身の丈3メートルはあろうかと白髪の男性が、三人を見下ろしていた。
「な、なんだお前!!」
「……」
男は暫し三人を見下ろしていたが。
「……永遠の命を与えられし花のポケモン」
それだけ呟くと、男は吹きすさぶ砂煙に消えて行った。
「何だったんだ……幻?」
「襲われるかと思った~!」
「さ、さすがにないよ。ちょっとおっきいだけの人だって……」
「「それはそれで怖い」」
「ええ……」
★★★
「プラントバッジ、ゲットね!」
「アローっ!」
「ビビ!」
「頑張ったね、ファイアロー、ビビヨン! 他のみんなも見守ってくれてありがとう!」
声をかけるとそれぞれのボールが元気よく揺れた。
「問題は次、か……ミアレに戻ることになるなあ……」
クロワは視線を下に落とす。実家にはまだ帰りたくないが、ルート的にミアレを経由した方が色々具合がいい。
「私を探してる人もいるしなあ」
でも。
「もし捕まっても、話したらわかってくれるよね……私がジム巡りしたい気持ちは本物だし」
顔を上げたクロワはもう迷っていなかった。
その時だった。
ぱち、ぱち、ぱち。
拍手が聞こえた。振り返ると、片目を隠した一人のストライプのスーツの男性が手を打っていた。腰にはほのおのいしを加工したアクセサリーがぶら下がっている。
「え、えと……」
「ああ、俺はレンゴク。しがないトレーナーさ」
「あ、クロワです!!」
クロワが慌ててぺこりと頭を下げると、レンゴクは楽にして、と笑いかけた。
「腕の奴、メガリングだよね。すごいな。メガシンカできるんだ」
「ええ、メガシンカできるポケモンはいないんですけど……」
「おお、それはいけないね! ところで悪い話ではないんだけど、フロストケイブのユキノオーを知っているかな?」
「ユキノオーですか?」
レンゴクは人のいい笑顔を浮かべて頷く。
「ユキノオーもメガシンカする。そしてこれだ」
差し出されたのは小さな綺麗な石。
「……これは」
「ユキノオナイトだ。ユキノオーをメガシンカさせるメガストーンだね。君に進呈しよう!」
「え!?」
「ささ、遠慮せず。フロストケイブはミアレの14番道路からクノエとヒャッコクを越えたところだ。是非とも頑張ってくれたまえ」
「あ、ありがとうございます! なんとお礼を言ったらいいか!」
レンゴクはうんうんと頷くと、ふと真剣な顔になった。
「君は何故そんなに頑張るの?」
「え?」
「失敬。実は、俺はたまに。『頑張ったところで簡単にそんなのなかったことになる』と感じることがあってね」
「……」
「メガリングを持ってるってことはジム巡りをしているんだろう。終わった後なにが残るの?」
「……それは」
「ああ、話し過ぎた。気にしないでくれたまえ」
そう言うとレンゴクはヒヨクシティの奥に消えて行った。
『何が残るの?』
クロワは少しだけ茫然とする。私はこの『旅でなにを残す』んだろう。
★★★
「随分意地悪なことを言うんだな」
声をかけられたレンゴクは声をかけてきた人物を見止めると、微笑んだ。
「君のお気に入りを傷つけてしまったかもしれないね。セヴン」
「そんなじゃない。……ガキが自分のやってきたことに意味なんて見いだせる訳ねーだろ」
「ほら、肩入れしてる」
そう言うとレンゴクは自分より頭一つ高いセヴンの胸を押す。
「……君も、最初はそうだったもんなあ?」
セヴンはなにも言わない。
「でも俺は君に期待しているよ。セヴン。君の町の人間とは、違う」
「……なにが言いてェ」
「俺を失望させないでねって言ってるんだ。ジルコニアを見つけ出した手腕は買う。だから、くれぐれもフロストケイブでしくじらないでくれよ?」
「チッ……」
「おお、怖い怖い」
★★★
数時間後、クロワはプリズムタワーの頂上にいた。クイズやバトルを乗り切った先に手に入れたのはボルテージバッジ。
トレーナー同士握手をして健闘を称えた時。
「そういえば……」
「?」
ジムリーダー、シトロンが言う。
「貴方を尋ねて人が来ていましたよ」
やはり、追われているのか。ありがとうございます、と礼をして、兄妹に見送られながらクロワはジムを後にした。
ジムから出た時だった。
「あ!! クロワだ!!」
大声にびくりとする。
振り返ると三人の男女がクロワを見つめていた。
「え、えっと……」
「君クロワだよね。家出したんだって? あ、オレはエイヴァル」
「ノルニル、ノルンでいいぜ」
「……エイト」
クロワはその場に縫い付けられたように動けない。
その様子を見たエイヴァルは苦笑する。
「うん、ノルンとエイトには話してなかったけど」
エイヴァルに注目が集まる。
「オレ、クロワちゃんに伝えたいことがあって。ちゃんとお母さんと話して、ジム巡りした方が健全なんじゃないかなーって」
意外にも家出自体を咎めるものではない言葉。
「話ついたら、オレ、全然着いてくしね? 聞かせてよ。君がどれだけ頑張って来たか」
それはクロワの胸の内にあった不安に直に触れるような言葉だった。そうだ、何もなくない。頑張ってきた。それだけでいいんだ。だったら、確かに母親とは話し合わなければならない。
「……る」
「ん」
「帰って、話する。お母さんと」
エイヴァルはふっと笑うと頷いた。後ろでノルンとエイトも嬉しそうだった。
「応援するぜ! いやーこの旅女子いなくてな!?」
「ノルンって女子に換算していいの」
「言うようになったなぁエイト!!」
なにやら一気に賑やかになった。クロワと肩のデデンネは気がついたら皆に釣られて笑っていたのだった。
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