ラティス地方雑誌

 おじいさまが『死んだ』。
 『死んだ』らもう会えない。
 でも、ぼくは。

「オシバナくん?」
 退屈すぎて、部屋を抜け出して庭園に出る。いつもはなしてくれる庭師のおじさんもいない。
 なんのポケモンかわからない噴水を眺めていると、不意に声をかけられ、ぼくは顔をあげる。少し色の黒い。綺麗なピンクの髪のおとこのこがいた。
「だあれ?」
「おれ? おれはアダバナ。きみとは従兄弟なんだ」
「いとこ? でもそんな話、おとうさまから聞いたことないよ」
「それはそう、おれの父ちゃんは勘当されているからね」
「かんどう?」
「もういないことにされたってこと! 死んだじいさんの遺言で、おれの父ちゃん特別に来てるから、あのさ」
「オシバナ! なにしてるの!」
 急におかあさまの声がうしろから聞こえた。振り返る暇もなく手を引っ張られる。すごい強い力で、アダバナというおとこのこになにも言えずにその場を去ってしまった。アダバナというおとこのこは笑っていたけど、どうしてだろう、少しさびしく感じた。

「あの子と話しちゃだめよ」
 ぼくをひっぱりながら、おかあさまは言う。顔はみえないけど、聞いたことがない声で、すこしこわい。
「どうして?」
「あの子の父親は、悪いことをしたの」
「わるいこと」
「よくない女と子供を作ったの」
「よくないの?」
「そう」
 おかあさまの手を握る力が強くなった。
「とにかく、あの子と話しちゃだめ、わかった?」
「……」
「返事は?」
「は、はい」
 ちちおやが、ひどいことをしたなんて、アダバナくんには関係ないんじゃないだろうか。そう言いつつも、ぼくは頷いてしまった。

 『そうぎ』は大人たちの指示で、どんどん進んでいく。棺桶の中のおじいさまはもう動かない。おかあさまがそう言ってた。
 とてもかなしくて、泣いていると。大人たちがヒソヒソ言う声が聞こえた。
『あの子、泣かないわね』
『汚らわしい目だと思わない? 黒いインクをぶちまけたみたい』
『おじいさまにちっとも似てないわね』
 多分、アダバナくんのことだ。と直感した。
 振り返るとやっぱりアダバナくんがいた。まわりに人はいない。それでも、彼はそこに立ていた。悲しみも、怒りも感じさせない、ただ静かにそこにあった。

「ねぇ」

 気がつくと、ぼくはアダバナくんに話していた。

「ともだちになろうよ」


【260227】
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