too early to give up.
翌日。
「そう、じゃあタマゴを託されたんだ」
「いけ好かない奴が二人いた」
そう言ってタマゴをお腹に抱えるミュシャが言うとアレイスはふふっと笑った。
「私もバトル見たかったな」
「ねーアレイスさん。一緒に食堂行かない?」
同時に同級生に声をかけられ、一瞬アレイスは戸惑う。
「行ってきなよ」
「でも、ミュシャさんが」
「あたしが行ったらあいつら嫌な顔するよ」
「そんな……」
「アレイスさーん?」
一緒に話しているのに、ミュシャの名前は呼ばれない。それが答えだとミュシャはぼんやり思っていた。
「じ、じゃあ! ごめん、私ミュシャさんと行くよ!!」
「そうそう……え?」
アレイスは恥ずかしそうにしながら、『行こ』と去って行ってしまった。
「なんであの子あたしのことあんなに気にすんだ……?」
それはそうとて、呼んだ女子たちの視線を受けながら食堂に行かねばならなくなった訳だが。
「カレーライス?」
「ガラルでは流行ってたんだ」
「ガラルも行ったことあるんだ。あそこバトルがエンターテイメントだから、気になるんだよねー。あたし的にはイリア選手が出た年が一番熱かった。やっぱ強い女っていいよね」
「ミュシャさんも強い女になりたいんだ」
「それはそう! 最近妙に馬鹿にされるし。みんなより強くなって何も言えなくさせてやるんだ」
「かっこいい……」
「アレイスもなれるよ」
そう言った時だった。
ぴき、とミュシャの隣の席から音がした。見ると置いてあったタマゴにヒビが入っている。
「あ、アレイス!」
「み、見てるよ!」
暫し震えた後、タマゴから何かが飛び出してきた。
「カルーッ」
中から出てきたのは青い揺らめく瞳を持つ赤いポケモン。
「カルボウだ。でもなんか目の色おかしくない?」
「これ色違いだよミュシャさん!」
「へえ……ほら、カルボウ、おやはあたしだよ」
「カルッ」
呼びかけられ、カルボウはその場で嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。
「懐こいねぇ」
「カルボウか。戦略の幅が広がるな」
「ふふ、またバトルのこと考えてる」
「カルカル」
「幸い近々宝探しもあるし、うんと鍛えてやろ」
「それって課外授業だよね」
「うん! 説明読んだ時からあたしずっとワクワクしてんだ! 宝になるかはわかんないけどとにかく強くなってみせる!」
「それだとチャンピオンとかかなあ」
「そう! あれわかりやすくていいよね! ……アレイスはどんな宝探しにするの?」
アレイスは考える仕草をした。
「そう、だなあ……」
よく熟考して彼女が出した答えは。
「ミュシャさんに着いて行こうかなあ」
「ほんと?」
「うん、暫くはそれでいいよ。だから……」
アレイスは呟いた。
「ずっと言いそびれてたんだから。私とバトルして」
「!」
ミュシャは目を見開いた後、挑戦的な目を彼女に向ける。
「いいよ、本気で来て」
★★★
「おい、ミュシャと知らない奴がバトルしてるぞ!」
「あ、アレイスさんじゃん。バトルとかするんだ、意外―……」
「近くで見に行こうよ」
そんな声を聞きながらミュシャは精神を落ち着かせていた。
初めての者と戦う時はいつも興奮する。なにをしてくるか、なにが得意か、自分はちゃんと返せるか。
(そう、戦闘はいつだってやり直しがきかない)
補足のようになってしまうが、ミュシャは『戦闘が好き』というより、『自分の強さを誇示したい』という思想の持ち主だった。甘く思われたくない、馬鹿にされたくない、強い自分でいたい……それを手っ取り早く示せるのがポケモンバトルだったから。元いたイッシュでは、彼女はボールすら持ったことがなかったのだが。父親がミュシャが『バトル実技コースに行きたい』と言った時、慌てて捕まえてきてくれたのがマメバッタだった。それからマメバッタと戦って、戦って、勉強して。今はパモット、そしてブロロン、カルボウを得て今に至る。
才能があったんだろう。皆そう言う。でも足りない。あのオウカとクニハルという男たちには馬鹿にされた。
(もっと強くならなくちゃ)
そうボールを握りしめ思い、ミュシャはアレイスに声をかけた。
「ポケモンは何体持ってる?」
「ええと、二体……」
「じゃあ2VS2でどっちかが両方力尽きた者の負け。交換はあり。行くよ!」
「うん!」
「それじゃあ……」
暫しの沈黙の後、視線が交差する。
「バトル開始!!」
ボールが二つ宙に舞う。
「カルボウ、デビュー戦だよ!」
「お願い!プリン!」
二人が選出したのはカルボウとプリンだ。
「先手必勝、“ひのこ”!!」
「プリン、“うたう”」
炎の燃える音とメロディが交錯する。
ひのこは直撃、うたうは。
「カル~……」
こちらも直撃、眠り込んでしまった。
「カルボウ、起きて!」
「続けていくよ、“おうふくビンタ”!」
ふわふわと近寄ってきたプリンがカルボウに容赦なくビンタをする。
四回ヒット、それなりのダメージを受けつつも、まだカルボウは起きない。
「カルボウ、戻れ!」
仕方なくカルボウを戻したミュシャは握り慣れたボールを握る。
「マメバッタ! “とびかかる”!」
「ぷり~」
痛がりつつ、攻撃が下がる効果も入ったようだが、あまり堪えているようには見えない。それはそうだ。フェアリータイプはむしタイプの攻撃を半減するのだから。
(相性くらい、なんだってんんだ! 勝つんだろ、ミュシャ!)
自分を鼓舞して、ミュシャは相手に立ち向かった。
★★★
マメバッタが倒れた後、カルボウもまた同じようにプリンの攻撃に沈んだ。
「か、勝った……?」
アレイスは肩で息をしている。それほどまでにマメバッタの攻撃は苛烈だったのだから。
ミュシャを見ると、信じられない、と言った様子だ。
「アレイスさん、すごーい!」
「アレイスって言うの? ミュシャのこと負かしちゃうのすげーかもあの子」
「ミュシャが負けてんの初めて見た」
ガヤの声はアレイスを讃える声だらけだ。
そしてミュシャが『負けた』ことを強調してくる。
「ミュシャさん」
アレイスが笑顔で駆け寄ってくる。
しかしミュシャが言い放った言葉は。
「近寄るな」
ぼそりと、しかしはっきりと。アレイスだけに届いた声。
「……え」
ミュシャは刺すような視線でアレイスを見た後、エントランスの方へ踵を返して行ってしまった。
「ミュシャ……さん」
未だ皆の賞賛を受けながらも、アレイスは茫然としていた。
★★★
「負けるのって悔しいよねー」
エントランスに入った途端、ミュシャは声をかけられた。
あの緑髪のスター団だ。
「なんの用? スター団」
「エンマって呼んでよ。君を迎えに来たんだ」
「スター団なら入らないよ」
「違う違うー。負けて悔しかったでしょ? 特訓場所、紹介してあげる」
疑問の視線を投げるとエンマは、
「大丈夫だよー、変なとこじゃないからー」
数秒後のミュシャは呟いた。
「負けないなら、いい……」
【251001】
「そう、じゃあタマゴを託されたんだ」
「いけ好かない奴が二人いた」
そう言ってタマゴをお腹に抱えるミュシャが言うとアレイスはふふっと笑った。
「私もバトル見たかったな」
「ねーアレイスさん。一緒に食堂行かない?」
同時に同級生に声をかけられ、一瞬アレイスは戸惑う。
「行ってきなよ」
「でも、ミュシャさんが」
「あたしが行ったらあいつら嫌な顔するよ」
「そんな……」
「アレイスさーん?」
一緒に話しているのに、ミュシャの名前は呼ばれない。それが答えだとミュシャはぼんやり思っていた。
「じ、じゃあ! ごめん、私ミュシャさんと行くよ!!」
「そうそう……え?」
アレイスは恥ずかしそうにしながら、『行こ』と去って行ってしまった。
「なんであの子あたしのことあんなに気にすんだ……?」
それはそうとて、呼んだ女子たちの視線を受けながら食堂に行かねばならなくなった訳だが。
「カレーライス?」
「ガラルでは流行ってたんだ」
「ガラルも行ったことあるんだ。あそこバトルがエンターテイメントだから、気になるんだよねー。あたし的にはイリア選手が出た年が一番熱かった。やっぱ強い女っていいよね」
「ミュシャさんも強い女になりたいんだ」
「それはそう! 最近妙に馬鹿にされるし。みんなより強くなって何も言えなくさせてやるんだ」
「かっこいい……」
「アレイスもなれるよ」
そう言った時だった。
ぴき、とミュシャの隣の席から音がした。見ると置いてあったタマゴにヒビが入っている。
「あ、アレイス!」
「み、見てるよ!」
暫し震えた後、タマゴから何かが飛び出してきた。
「カルーッ」
中から出てきたのは青い揺らめく瞳を持つ赤いポケモン。
「カルボウだ。でもなんか目の色おかしくない?」
「これ色違いだよミュシャさん!」
「へえ……ほら、カルボウ、おやはあたしだよ」
「カルッ」
呼びかけられ、カルボウはその場で嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねた。
「懐こいねぇ」
「カルボウか。戦略の幅が広がるな」
「ふふ、またバトルのこと考えてる」
「カルカル」
「幸い近々宝探しもあるし、うんと鍛えてやろ」
「それって課外授業だよね」
「うん! 説明読んだ時からあたしずっとワクワクしてんだ! 宝になるかはわかんないけどとにかく強くなってみせる!」
「それだとチャンピオンとかかなあ」
「そう! あれわかりやすくていいよね! ……アレイスはどんな宝探しにするの?」
アレイスは考える仕草をした。
「そう、だなあ……」
よく熟考して彼女が出した答えは。
「ミュシャさんに着いて行こうかなあ」
「ほんと?」
「うん、暫くはそれでいいよ。だから……」
アレイスは呟いた。
「ずっと言いそびれてたんだから。私とバトルして」
「!」
ミュシャは目を見開いた後、挑戦的な目を彼女に向ける。
「いいよ、本気で来て」
★★★
「おい、ミュシャと知らない奴がバトルしてるぞ!」
「あ、アレイスさんじゃん。バトルとかするんだ、意外―……」
「近くで見に行こうよ」
そんな声を聞きながらミュシャは精神を落ち着かせていた。
初めての者と戦う時はいつも興奮する。なにをしてくるか、なにが得意か、自分はちゃんと返せるか。
(そう、戦闘はいつだってやり直しがきかない)
補足のようになってしまうが、ミュシャは『戦闘が好き』というより、『自分の強さを誇示したい』という思想の持ち主だった。甘く思われたくない、馬鹿にされたくない、強い自分でいたい……それを手っ取り早く示せるのがポケモンバトルだったから。元いたイッシュでは、彼女はボールすら持ったことがなかったのだが。父親がミュシャが『バトル実技コースに行きたい』と言った時、慌てて捕まえてきてくれたのがマメバッタだった。それからマメバッタと戦って、戦って、勉強して。今はパモット、そしてブロロン、カルボウを得て今に至る。
才能があったんだろう。皆そう言う。でも足りない。あのオウカとクニハルという男たちには馬鹿にされた。
(もっと強くならなくちゃ)
そうボールを握りしめ思い、ミュシャはアレイスに声をかけた。
「ポケモンは何体持ってる?」
「ええと、二体……」
「じゃあ2VS2でどっちかが両方力尽きた者の負け。交換はあり。行くよ!」
「うん!」
「それじゃあ……」
暫しの沈黙の後、視線が交差する。
「バトル開始!!」
ボールが二つ宙に舞う。
「カルボウ、デビュー戦だよ!」
「お願い!プリン!」
二人が選出したのはカルボウとプリンだ。
「先手必勝、“ひのこ”!!」
「プリン、“うたう”」
炎の燃える音とメロディが交錯する。
ひのこは直撃、うたうは。
「カル~……」
こちらも直撃、眠り込んでしまった。
「カルボウ、起きて!」
「続けていくよ、“おうふくビンタ”!」
ふわふわと近寄ってきたプリンがカルボウに容赦なくビンタをする。
四回ヒット、それなりのダメージを受けつつも、まだカルボウは起きない。
「カルボウ、戻れ!」
仕方なくカルボウを戻したミュシャは握り慣れたボールを握る。
「マメバッタ! “とびかかる”!」
「ぷり~」
痛がりつつ、攻撃が下がる効果も入ったようだが、あまり堪えているようには見えない。それはそうだ。フェアリータイプはむしタイプの攻撃を半減するのだから。
(相性くらい、なんだってんんだ! 勝つんだろ、ミュシャ!)
自分を鼓舞して、ミュシャは相手に立ち向かった。
★★★
マメバッタが倒れた後、カルボウもまた同じようにプリンの攻撃に沈んだ。
「か、勝った……?」
アレイスは肩で息をしている。それほどまでにマメバッタの攻撃は苛烈だったのだから。
ミュシャを見ると、信じられない、と言った様子だ。
「アレイスさん、すごーい!」
「アレイスって言うの? ミュシャのこと負かしちゃうのすげーかもあの子」
「ミュシャが負けてんの初めて見た」
ガヤの声はアレイスを讃える声だらけだ。
そしてミュシャが『負けた』ことを強調してくる。
「ミュシャさん」
アレイスが笑顔で駆け寄ってくる。
しかしミュシャが言い放った言葉は。
「近寄るな」
ぼそりと、しかしはっきりと。アレイスだけに届いた声。
「……え」
ミュシャは刺すような視線でアレイスを見た後、エントランスの方へ踵を返して行ってしまった。
「ミュシャ……さん」
未だ皆の賞賛を受けながらも、アレイスは茫然としていた。
★★★
「負けるのって悔しいよねー」
エントランスに入った途端、ミュシャは声をかけられた。
あの緑髪のスター団だ。
「なんの用? スター団」
「エンマって呼んでよ。君を迎えに来たんだ」
「スター団なら入らないよ」
「違う違うー。負けて悔しかったでしょ? 特訓場所、紹介してあげる」
疑問の視線を投げるとエンマは、
「大丈夫だよー、変なとこじゃないからー」
数秒後のミュシャは呟いた。
「負けないなら、いい……」
【251001】
3/3ページ
