黒の時代
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「…ここか」
「他にあるかい?」
そっと酒場の扉を開け中に入れば
「やあ、どうも。お先にやってますよ」
いつものように、カウンターに座り
3人に話しかける安吾の姿があった
安吾は、ポートマフィアに入る前から別の顔があった。それは国の秘密機関、内務省異能特務課のエージェントとしての顔だ。任務はポートマフィアの動向を監視し。国内の異能力者を統括する秘密組織といえど、ポートマフィアと全面戦争となればただでは済まない。だからマフィアの内部にエージェントを潜入させ、動向を監視していた。
そしてそこにミミックの話が持ち上がった。日本上陸を計画していた異能犯罪組織は、特務課からしても頭の痛い存在だ。そこで安吾にミミックの動向も探らせる事にしたのだ。ポートマフィアのスパイとして。
つまり、安吾は二重スパイではなく
三重スパイだった訳だ。
「ミミックについて教えてくれ」
「ジイドと織田作さんが会的したという情報が入りました。ジイドの異能力は見ましたか?」
「見た」
「…不確定要素は大きいですが、異能力の特異点の問題もあります」
『異能力の、特異点?』
安吾の言った、
“異能力の特異点”という言葉
聞き覚えのない言葉に、
沙羅は安吾に問いかける
「ジイドに対して異能力を使ったとき、いつもと違うことが起きませんでしたか?」
「起きた」
「複数の異能力が干渉し合うと、ごくまれに全く予想もしなかった方向に異能力が暴走するという現象が政府機関によって確認されています。今の話、本当はしてはいけないことになっています。僕がこうして会っていることも。上層部に知られたら大問題になります。当面は姿を隠さなくては」
「おやおや。まるで自分が生きてここから出られるみたいな口ぶりだね」
オレンジ色の照明で照らされる
夜の酒場が、太宰の言葉により
安吾の表情と共に一瞬凍りついた
「ここを戦場にする気か」
『ええ、流石にここ戦場にするのはやだなー…』
織田作と沙羅は
太宰の突飛な発言にはもう慣れた、
とでも言いたげに冷静に言葉を返す
「私の気が変わらないうちに消えるんだ。別に悲しんでいるんじゃない。最初から分かっていたことだ。安吾が特務課であろうとなかろうと、失いたくないものは必ず失われる。求める価値のあるものは皆、手に入れた瞬間に失うことが約束されている。苦しい生を引き延ばしてまで追い求めるものなんて、何も無い」
無表情のまま太宰がそう言うと
3人共視線を下げて、
無言のまま数秒が経った
長いようで短い沈黙の末に
安吾がもう一度口を開いた
「太宰君、沙羅さん、織田作さん。いつか時代が変わって、特務課もポートマフィアも無い、我々がもっと自由な立場になったら…また此処で______」
その言葉は、
織田作によって遮られる
「言うな、安吾」
太宰も沙羅も、
何も言おうとはしない。
「それ以上言うな。」
織田作のその言葉を最後に、
安吾はそっと立ち上がると
下を向いたまま無言で店の外へ出て行った
カウンターのテーブルの上には
安吾が残していったグラスと、
一枚の写真。
4人で並んで撮った、
最後の写真
『………。』
沙羅はその写真をそっと手に取ると
どこか寂しそうな表情で
ただ黙って見つめていた。