私がもっと、強かったら
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『…………中也』
「…どうした?」
『…“失う”って、怖いね』
“失うって怖いね”
そう言った沙羅の声は震えていた
大切な人を一気に2人も
失ったら無理もないだろう
事情は一応訊いている
友人の織田作之助という男が
ついこの前の事件にて死んだという事
そしてもう一つは、
太宰治が行方を眩ませている事。
「俺は、此処にいる。消えたりしない」
『………うん』
言葉の少ない会話だったが、
それでもお互い何を思っているのか
なんとなく理解できてしまう
『……来てくれて、ありがとう。なんだか中也には沢山助けてもらってばっかりな気がするね』
抱きしめていた手をそっと離すと
沙羅は元通りの、いつもの笑顔で俺を見た
「…手前はもっと人に頼れ。沙羅が困ってるなら、俺は何度だって手前を助ける。」
『………ふふっ』
「そこ笑うとこか?!」
真剣に言ったつもりだったが、
突然沙羅が小さく笑った
『だって、言ってる事かっこよすぎて中也が一瞬王子様に見えたんだもん。柄に合わなすぎてっ』
「はぁ?折角人が心配してやってるってのに手前はいつもいつも…」
でも、こうして笑う沙羅の姿を見ると
______あぁ、いつもの沙羅だ。
って、そう思える
それは何よりも大切な事だった
『……中也が王子様なら、もしも私が消えてしまった時はちゃんと攫いに来てね。』
「………は…?」
『…なーんて、冗談冗談!』
沙羅は笑ってそう言っているけど
何故だか俺には、
冗談を言っている様には見えなかった
“もしも私が消えてしまった時は”
まるで、沙羅が、
何処かに行く事が判っている様に見えた
『さてと、早く残りの仕事も片付けないと!…ほんと、ありがとね、中也』
何事も無かったかのように
沙羅は側にあるソファーに座った
そして、太宰の分の仕事を片付け始める
……沙羅、
太宰の居場所、判ってるんじゃねぇのか?
そう言おうとしたけど、口には出さなかった
もしそうだとしたら、言ったところで
沙羅の意思は変わらないだろうから
沙羅の異能なら、
今日までの2週間もあれば
彼奴の、太宰の居場所なんて
簡単に見つけられる筈だ
「……俺は、手前が決めた事にケチ付ける気はねぇよ。」
書類に向かう沙羅の背中を見つめながら
独り言のように呟いて
返事をまたず、部屋から去った
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