鬼滅の刃
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「サァ、ツイテ来イコノ私ニ!!カァア!」
叫ぶ鎹鴉の後を四人は続いた。
道中、伊之助の生い立ちを聞いた炭治郎は涙を流した。
親も兄弟もおらずどれだけ寂しかったかと。
場にしんみりとした空気が流れた。
善逸は次の任務を恐れて聞いていなかった。最悪である。
伊之助はこの空気を特に気にせず、妙なポーズをして炭治郎へ叫んだ。
「俺は必ず隙を見てお前に勝つぞ!!」
「俺は竈門炭治郎だ!!」
「かまぼこ権八郎!!お前に勝つ!!」
伊之助は名前を覚えるのが苦手だった。
伊之助の間違いに炭治郎は怒った。
今は亡き両親に付けてもらった大切な名前だからである。
温厚な炭治郎でもこればかりはしょうがない。
「誰なんだそれは!!」
「お前だ!!」
「違う人だ!!○○のことはちゃんと呼んでるじゃないか!!」
「は??○○は○○だろうが!!!」
「な、なんであんなに怒ってんだよあの二人ぃぃ…」
どんどん激しくなる二人の言い合いに善逸が怯えだしたことで、やっと○○が止めに入った。
『まあまあ…ごめんね炭治郎。ねぇ伊之助、人の名前はちゃんと覚えないと失礼だろう?』
「??どっか間違ったか?」
○○に宥められた伊之助は何が間違っているか分からなかった。
山育ちである故しかたがないと、炭治郎と○○はため息をつき善逸は引いた。
鴉が四人を連れて行ったのは藤の花の家紋の家だった。
到着すると、鴉が大きく叫んだ。
「カァアーーーーーッ!休息!!休息!!負傷ニツキ完治スルマデ休息セヨ!!」
「えっ?休んでいいのか?俺今回怪我したまま鬼と戦ったけど…」
炭治郎の問いに鴉はニタリと笑った。
確信犯である。
そのやりとりに苦笑した○○が戸を叩いた瞬間戸が開き、善逸は驚いて○○の後ろに隠れた。
それにカチンときた伊之助が善逸を押しどけ○○の背中に張り付く。
特に気にしてないのか○○は話し始める。
『夜分に申し訳ありません』
出てきたのは優しそうな小柄の老婆だった。
「お化けっ…お化けだっ」
「こらっ!!」
あまりにも失礼な善逸に炭治郎は注意した。
流石長男である。
「鬼狩り様でございますね。どうぞ…」
○○は物珍しそうに老婆をつつく伊之助の手を、これ以上失礼のないよう握った。
途端、伊之助はホワホワして大人しくなった。
家の中へと四人を上げた老婆は、一瞬姿を消すとものすごい早さで食事と布団の準備をしたのだった。
それに怯えた善逸は顔を真っ青に染めあげた。
「妖怪だよあの婆さん!!妖怪だ!!速いもん異様に!妖怪だよ!!妖怪婆!!」
騒ぐ善逸に炭治郎は青筋を立てて拳骨を落とした。
善逸は泣いた。
鴉の話では、この藤の花の家紋の家は鬼狩に命を救われた一族であり、鬼狩りであれば無償で尽くしてくれるそうだ。
心優しい老婆は医者まで呼んでくれ四人は診察を受けた。
結果、四人全員が肋を折っていた。
「四人とも肋が折れているとはな…」
『驚いたね…』
善逸、○○は二本、炭治郎は三本、伊之助は四本。
真顔で四人一列に布団に寝ていると伊之助が静かに口を開いた。
「コブが痛ェ…」
「ごめん…」
ぽつりと呟いた伊之助に炭治郎は謝った。
しおらしい伊之助が珍しく、○○は一人微笑んだ。
その後、老婆が用意してくれた食事に四人は手をつけた。
すると伊之助は箸を使わず、手掴みでガツガツと行儀悪く食べだした。
○○と師匠が根気強く教えたが直ることはなかった。
炭治郎と善逸が呆気にとられて見ていると、あろうことか伊之助は炭治郎の皿を奪った。
伊之助なりの挑発であった。
しかし、炭治郎はにこりと笑うと伊之助に自らの分を分け与えようとしたのだ。
「そんなにお腹が空いているならこれも食べていいぞ」
穏やかに微笑む炭治郎に伊之助は腹を立てた。
それを見ていた○○は優しい炭治郎をほほえましく思い、優しく笑うと炭治郎に自分の皿を差し出した。
『じゃあ、炭治郎には私のをあげるよ』
「えっいいのか?」
『もちろん』
可愛らしく笑う○○に、炭治郎は頬を染めながら嬉しそうに皿を受け取ろうとした。
瞬間、横から伸びてきた手が皿を奪った。
当然伊之助である。
伊之助は皿をひっくり返し、ガーッと口にめいっぱい入れて咀嚼してから飲み込んでしまった。
『こら伊之助!!謝りなさい!』
「ふんっ!」
プイッと顔を背けた伊之助に○○は眉を八の字にした。
『まったくもう…ごめんなさい炭治郎…』
「いや、いいんだ」
二人のやり取りを見ていた炭治郎は伊之助が自分に嫉妬していた事に気づいた。
伊之助は○○が本当に好きなのだろう。
分かりづらいが○○を母のように慕う伊之助を可愛らしく思い、炭治郎は優しく微笑んだ。
その様子を善逸だけは恨めしそうに睨みつけていた。
(こいつ完全に箱のこと忘れてるな…ふざけんなよこの野郎そんなすぐどうでもよくなるならなんで俺のことボカスカボカスカ叩きまくったんだこの野郎!! ○○の事までボロボロにしやがって!!馬鹿!!まつ毛!!)
善逸は語彙力がなかった。
(ん?そういえば……そうだ)
「……炭治郎。誰も聞かないから俺が聞くけどさ、鬼を連れているのはどういうことなんだ?」
「!!善逸……わかってて庇ってくれたんだな」
「う、ま、まあ……○○も分かってて守ってくれたんだ」
炭治郎は二人の行動が嬉しくなりにこりと笑った。
「善逸も○○も本当にいい奴だな、ありがとう!」
『いや、そんな事はないよ。気にしないで』
○○は聞こえてきた炭治郎の言葉に伊之助の説教を中断して炭治郎に微笑んだ。
伊之助は○○の説教を受けながらもホワホワとしていた。
どんな形であれ、○○に構ってもらえるのが嬉しかったのだ。
「おまっ!そんなほめても仕方ねぇぞ!!うふふっ!」
善逸は顔を真っ赤にして嬉しそうに倒れた。
喜び方が独特すぎである。
「俺は鼻が利くんだ。最初からわかってたよ、善逸と○○が優しいのも強いのも」
「いや俺は強くはねぇよふざけんなよ」
急に起き上がり、冷めた態度の善逸に炭治郎は戸惑った。
我妻善逸はめんどくさい男であった。
説教が終わり、○○と伊之助がそれぞれ布団に入り、部屋が静かになった瞬間。
部屋の隅に置いてある鬼の入っている箱がカタカタと動いた。
「うわっうわっ!!えっ?出てこようとしてる!!出てこようとしてる!!」
「大丈夫だ」
「何が大丈夫なの!?ねえ!!ねえ!!!」
「しーーーっ夜中なんだぞ善逸…!」
箱の中の鬼を恐れた善逸は騒ぎに騒いで最後にはドタンと尻もちをついた。
大きな音に炭治郎は焦って○○と伊之助を振り返った。
だが、善逸が騒ぐ中、○○と伊之助は既に穏やかな寝息を立てて夢の世界に入っていた。
○○は見た目に反し、意外にも神経が図太かった。
起きる様子のない二人に炭治郎はほっと胸を撫で下ろした。
炭治郎は困っていた。
禰豆子が妹だとわかると否や善逸がヘコヘコしだし、禰豆子に花を持ってきたり、伊之助は所構わず頭突きをしてきたりで疲れていた。
そんな炭治郎を支えていたのは○○であった。
善逸の暴走をなんとかしてくれるし、伊之助の頭突きを止めてくれるし、禰豆子の相手もしてくれた。
いつもニコニコして気にかけてくれる○○を炭治郎は天女のようだと思った。
骨折が癒えた頃、緊急の指令が来た。
゙四人共々那田蜘蛛山へ一刻も早く向かうこと゛
四人は急いで支度を済ませ外へ出た。
「では行きます!お世話になりました」
『長い間ありがとうございました』
炭治郎と○○がそれぞれ挨拶をして深く頭を下げると老婆もそれに返した。
老婆は懐から木の板と石を出すと、それを擦り、切り火をしたのだった。
「『ありがとうございました!』」
炭治郎と○○が礼を言うと、後ろにいた伊之助が突然飛び出してきて○○を守るように立った。
そしてグワッと腕を振り上げ叫ぶ。
「何すんだババア!!!」
危険だと判断した炭治郎が伊之助を押さえ、○○がその頭をポカリと殴った。
善逸は老婆を守るように前に立った。
そして目を吊り上げて怒った。
普段怒らない○○に、弱くだが殴られた事で伊之助はしゅんと沈んだ。
「馬鹿じゃないの!?切り火だよ!お清めしてくれてんの!!危険な仕事行くから!!」
『伊之助。守ろうとしてくれるのは嬉しいけど、ご老人には優しくね』
「…ウン」
『いい子だね、叩いてごめんよ』
小さく頷いた伊之助の頭を○○が撫でると、彼は元気を取り戻した。
老婆は何も気にしていないのか、ただただ穏やかに微笑んだ。
伊之助以外の三人は頭を下げた。
そして踵を返して走り出す。
「どのような時でも誇り高く生きてくださいませ。ご武運を…」
聞こえてきた老婆の声に、伊之助は首を傾げて横を走る○○に尋ねた。
「誇り高く?ご武運?どういう意味だ?」
『うーん…自分の信念を貫き通して生きなさい…みたいな事かな』
「そんな感じだな。ご武運っていうのは、お婆さんが俺たちの無事を祈ってくれてるんだよ」
○○と炭治郎が説明すると伊之助はどんどん疑問が増え、更に質問を重ねた。
段々何も返せなくなった炭治郎は加速し、○○は走りながら目を回して必死に答えを探していた。
炭治郎と同じく、氷鉋○○も存外真面目な男であった。
四人が那田蜘蛛山についたのは日が暮れてからの事だった。
「待ってくれ!!ちょっと待ってくれないか!怖いんだ!!目的地が近づいてきてとても怖い!!」
善逸は一本道のど真ん中に座り込むと大粒の涙をこぼして叫んだ。
「なに座ってんだこいつ気持ち悪い奴だな…」
「お前に言われたくねーよ猪頭!!気持ち悪くなんてない!!普通だ!!俺は普通でお前らが異常だ!!」
ビビビッと三人を順に指さす善逸に○○は苦笑した。
そこでパッと○○の視界が移り変わり、誰かが引っ張られる光景が見えた。
予知である。
○○がハッとして振り返ると同時に炭治郎も振り返った。
そこにはボロボロの隊士が一人倒れていた。
「たす…助けて…」
炭治郎、○○、伊之助が助けに向かうと、後ろから一人残された善逸の悲鳴が聞こえた。
だが構っている暇はなかった。
「隊服を着てる!!鬼殺隊員だ!何かあったんだ!大丈夫か!!どうした!!」
走りながら問う炭治郎の横を○○が駆け抜け、すぐさま隊士の手を取った。
と、同時に浮遊感が○○を襲い、咄嗟に隊士の体に抱きつく。
次の瞬間には山の方へとものすごい早さで引っ張られたのだった。
「○○ッ!!!」
『伊之助っ!!』
伊之助が伸ばした手は○○に届くことはなかった。
「アアアア!繋がっていた…俺にも!!たすけてくれぇ!!!」
悲痛な隊士の言葉を最後に二人は山へと呑み込まれた。
伊之助はその光景を見つめて、○○に届かなかった手を下ろすとグッと強く握りしめた。
その手には、はち切れんばかりの血管が無数に浮かんでいる。
ぶわりと広がった殺気に善逸は縮こまった。
引っ張られた際、○○の笠は顎紐が解け、炭治郎の前に落ちた。
いつも涼しい音を奏でる風鈴は、割れてしまっていた。
炭治郎は風鈴が無くなった○○の笠を拾い、首に結び付ける。
「行くぞ善逸!伊之助!!」
炭治郎の言葉に善逸はこくこくと頷いたが、足は震えて動いてくれなかった。
「俺が先に行く!!!お前はガクガク震えながら後ろをついて来な!!腹が減るぜ!!」
「腕が鳴るだろ…」
善逸のツッコミをガン無視した伊之助は山へと爆走した。
同じくその後ろを炭治郎も爆走しながらついて行った。