鬼滅の刃
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三人で穏やかに過ごし始めてしばらく経った。
○○と伊之助が師匠に稽古をつけてもらっている時に、遠くから伊之助の鎹鴉が飛んできた。
「嘴平伊之助!日輪刀ガ出来上ガッタ!早急ニ山ニ帰ッテ受ケ取リニ行ケ!」
その言葉を聞いた伊之助は、雄叫びをあげるとそのまま山の中に走って行き消えてしまった。
鴉もそれを見届けて帰り、残された○○は早い展開に呆然とするしかなかった。
稽古を終えて家に入った○○は、師匠に呼ばれて囲炉裏を挟んで向かい合わせに座った。
「お前には伝えてなかったが、伊之助と同じく今からお前の担当の刀鍛冶が来る…お前の日輪刀を持ってな」
ニッと笑う師匠に胸の奥から熱いものがせり上げる。
こんなにも嬉しい気持ちなのはいつぶりだろうか。
初めての私の刀、どんな色に変わるのだろう。
ガラッ
○○の喜びをかき消すように、いきなり荒々しく開いた戸を驚いたように見つめる。
すると、風鈴がたくさん付いた笠を被り、火男面で顔を隠している背の高い男が、ずかずかと家の中へ入ってきたのだ。
○○は一瞬警戒するが、彼が刀を大事そうに持っていることに気づきふっと殺気をおさめた。
「来たか。鋼鐵塚」
「ああ」
面の男は師匠に軽く返事をして、○○の前にどかりと胡座をかいて座る。
座っても高い位置にある顔を○○は見上げた。
この人が、私の担当をしてくれる刀鍛冶さん…
袖から伸びる手には血管が浮き上がり、太く力強く、刀を握っている手は火傷や豆の潰れた跡があり硬くて分厚い。
ゴツゴツとした男らしいその手を見つめて○○は少し羨ましくなった。
なぜなら○○は見目が女子そのものだったからである。
傷が残りづらい日焼けを知らぬ白い肌。
大きな垂れ目を長い睫毛が囲み、瞳はまるで冬の空を閉じ込めたかの様な淡い薄水色。
左目の下にはちょこんと涙ボクロがあり、幼い顔立ちに色気を感じさせている。
鼻筋もすっと通っており血色が良いため、頬、唇、指先などは常に薄い橙色をしている。
体も男子にしては柔っこくほっそりとしている。
筋肉は十分に付いているが、体質なのか全くと言っていいほど見た目に出ない。
身長も低く、同い年の町の女子達にはあっという間に抜かされてしまっていた。
伊之助とは十ほど背の差があったくらいだ。
羨むのも無理はない。
(私もこんな逞しい体になれたなら…)
○○は人知れず面の男の手を見つめ胸をときめかせていた。
そう、彼は筋肉フェチであった。
「おい女、まじまじと俺の手を見つめて一体何だ?そんなに俺の手が汚いか?これは俺の誇りだぞ」
鋼鐵塚は怒ってなどいないが、気を悪くしてしまったと勘違いし、慌てた○○はしっかりと顔を見つめ否定した。
目が合っているかは定かではない。
『っ違います!誤解を招くような事をして申し訳ありません!!…私、女子の様な見目をしていますが男なのでございます。私はいくら鍛えても貴方のような逞しい体、刀を打つことで出来た男らしい勲章が羨ましかったのです…すみません』
面の男は初めてしっかりと○○の顔を見て、理由を聞いて、何故か顔が沸騰したように熱を持った。
「…っああそうかい!ならいい!!これがお前の刀だ!早く抜け!!」
早く早くと急かす面の男は刀を大事そうに握りしめた腕を乱暴に○○に突き出した。
それを見て、○○も壊れ物を扱うように大事に大事に握ると、そのまま鞘からゆっくりと刀身を覗かせた。
『っはぁ…』
○○は思わず感嘆のため息を吐き出した。
○○が握った刀がどんどん刃先から薄水色へと輝きだしたためだった。
主様と同じ色。
あの時の情景が思い浮かぶが、○○は不思議と悲しくは思わなかった。
師匠も鋼鐵塚もそれを見て満足そうに頷く。
「うむ、立派な雪の呼吸使いの刃の色だ。○○、これからも励めよ」
『はい!お師匠様!!』
今は亡き主人と同じ呼吸を極めた○○は、師匠にしっかりと返事をすると刀を鞘に収めて膝に大切そうに置いた。
「日輪刀は別名、色変わりの刀と言ってな。持ち主によって色が変わるんだ!美しい薄水色だな!これは素晴らしい!!」
『鋼鐵塚様、この度は私のような鬼狩り見習いのためにこんなに立派な刀を打ってくださり本当に感謝申し上げます。本当に本当にありがとうございます!』
体を鋼鐵塚の方へ向けそう感謝を述べると○○は深く額を畳に擦り付けた。
鋼鐵塚はその言葉を聞いて、美しい動作を見て、雷に撃たれ、胸を大きな何かに射られたような気分だった。
それほどの衝撃が彼を襲ったのだ。
鋼鐵塚は、刀以外でこんなに胸が震えたのは初めてだった。
急に俯いて小さく震えだした鋼鐵塚に、○○は師匠と顔を見合わせて目の前の鋼鐵塚の逞しい手へと自分の小さな手を伸ばした。
『あの、鋼鐵塚様…大丈夫で!?』
○○の言葉が途切れたのも無理はない。
○○の声に反応して、今まで俯いていた鋼鐵塚が勢いよく顔を上げ、○○の柔こい手を強く掴んだからだった。
思わずひゅっと息を飲んでしまい全集中常中が途切れた。
師匠の殺気を感じ、すぐに呼吸に集中して元に戻す。
「おい、名は…」
『ひ、がの、○○…と申します…』
この状況で思いもよらない問いかけに戸惑いつつも、なんとか答えた○○は頭の中がハテナでいっぱいだった。
鋼鐵塚は片手で握っていた○○の手を両手でしっかり包むと、師匠の事が目に入らないのか突然大声をあげる。
「おい!!氷鉋○○!!俺はお前が好きだ!!結婚してくれ!!!」
『ひええええええええ!?!?』
年頃の娘なら人生で一度言われたいだろう言葉も、○○は複雑な気持ちで聞くしかなかった。
理由は簡単。
鋼鐵塚も○○も男だからである。
『わ、私男ですよ!?この時代で男同士は珍しくはありませんが!!出会ったばかりでこんなっ』
「何ぃ!?!?その愛らしい顔で男だとぉ!?!?」
『さっき言いましたよう!!』
鋼鐵塚は話を聞かず、師匠はにんまりと笑い、この状況を楽しんでいた。
今この場に○○の味方はいなかった。
するとバサバサと羽根の音が聞こえたかと思うと、○○の鎹鴉が家の中に入ってきた。
○○は心から感謝した。
「氷鉋○○!指令ヲ伝エル!南南東ニ向カエ!ソコデハ隊士ガドンドン死ンデイル!ソノ原因ノ鬼ヲ討ツノダ!氷鉋○○!心シテカカレ!鬼狩リトシテノ最初ノ仕事デアル!!」
それだけ伝えると、鴉は早々に帰って行った。
○○は鴉からの伝令を受け、初任務に顔を引き締めて背筋をピンと伸ばす。
鴉が帰ったのを確認した鋼鐵塚はずいっと顔を近づけ、○○との距離は一気に縮まる。
○○はひそかに息を呑んだ。
飛び出た火男面の口が頬を掠る。
「俺は男だからと諦めんぞ!!お前であれば何でも構わん!!おい○○!!俺と結婚しろ!!結婚結婚結婚!!!」
『うぅ…結婚はちょっとぉ…お師匠様ぁ〜あ!そろそろ助けてください!』
本気で○○が貞操の危機を感じ始めた事に気づいた師匠は、腰を上げ鋼鐵塚の隣へとしゃがみこんだ。
「おい鋼鐵塚、求婚は今度にしろ。○○は今から任務に出る」
「うるせえ爺。○○が俺と結婚したら行かせる」
「言うことを聞けこの阿呆が!これからも○○の刀を任せるのはお前だけだ。○○をしっかりと守るための丈夫な刀を作れるよう努力するのが旦那になる者の務めだと思うが?」
何を言ってらっしゃるんですかお師匠様っ!!!
○○の心の悲鳴は呆気なく無視され、師匠の目は鋼鐵塚だけを見つめている。
「なるほど!!その通りだ!おい○○っ!俺は絶対お前を生かす刀を作る!!だからお前も死なぬように技を磨け!!いいな!」
普段話を聞かない鋼鐵塚でもこの言葉はストンと入ってきたのか、○○の手を放し、ビシィッと指を突き立てて鋼鐵塚は忙しなく家を出て言った。
しばらく時が止まったように静まり返る部屋だったが、師匠の一言で時が動き出した。
「おい○○。着替えなくていいのか?」
『えっ!!…はっ!すぐ支度します!!』
バタバタと隊服に着替え、握り飯と水筒を風呂敷に包んで体へと結び、鋼鐵塚の刀を腰に下げ急いで草履を履く。
『あっ忘れてた!』
○○は師匠がくれた風鈴の笠を被る。それを見た師匠が○○の前に立ち、その顎紐を結んだ。
『お師匠様ありがとうございます。では、行ってきます!』
「文を出せよ。伊之助にも言っとけ」
『もちろんです。伝えておきます!』
○○が戸を開けて外に出ると師匠も見送りのため後ろをついてくる。
「○○」
珍しく優しげな師匠の声に、○○は目を丸めて振り返った。
師匠は優しく笑って最終選別の時と同じく、笠越しに○○の頭を撫でた。
「任務が忙しくなったらそう簡単には帰れなくなる...お前は強い子だからすぐに階級も上がるだろう。すると任務はどんどん過酷になっていく。酷い怪我をして死にかける事も沢山ある。だが、どんなに辛い状況でも、生きる事を諦めるな。」
『…はい』
「本当にどうしていいかわからなくなった時は、伊之助と二人で帰ってきなさい。私はお前と伊之助の帰りをずっと待っているから。」
『はいっ…!』
○○は沸き上がる涙をぐっと堪えると師匠に強く抱きついた。
師匠は○○を抱きとめると、○○の温度を忘れないようにしっかりと背に腕を回して優しく抱きしめるのだった。