鬼滅の刃
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「特別な訓練が始まりました。その名も柱稽古。
柱より下の階級の者が柱を順番に巡り稽古をつけてもらえるという。
基本的に柱は継子以外に稽古をつけなかった。理由は単純、忙しいから。
柱は警備担当地区が広大な上に鬼の情報収集や自身のさらなる剣技向上の為訓練、その他にもやることが多かった。
しかし禰豆子の太陽克服以来、鬼の出没がピタリと止んだ現在、嵐の前の静けさとも言える状況であったがそのお陰で柱は夜の警備と日中の訓練にのみ焦点を絞ることができた…。らしいよ…」
「『そうなんだ!凄いな/ね』」
伊之助と入れ替わるように後日やってきた善逸によって、炭治郎と○○は詳しく強化訓練の事を理解することができた。
強化訓練が嫌な善逸は、能天気な二人の言葉を聞いてピキリと青筋を立てる。
「何も凄くねぇわ。最悪だよ地獄じゃん。誰なんだよ考えた奴。死んでくれよ」
「『こらっ!』」
どこまでも後ろ向きな考えをする善逸に、炭治郎と○○は鼻息を荒くして口を開いた。
『自分よりも格上の方と手合わせしてもらえるって上達への近道なんだよ善逸!』
「そうだぞ!自分よりも強い人と対峙するとそれをグングン吸収して強くなれるんだから!!」
何かの信者のように熱弁をする二人に、善逸がついに動いた。
椅子から立ち上がり炭治郎の頭を両手で固定するように掴むと、その広い額に思い切り歯を立てた。
○○は驚きのあまりポカリと口が開いた。
「そんな前向きなこと言うんであれば俺とお前の仲も今日これまでだな!!」
「いたたた! ○○だって前向きなことっ」
「○○はいいんだよ!!可愛いから許したわ!!!でもお前はダメ!可愛くない!男らしすぎる!!」
「そんなぁ!!」
○○は二人の会話にハテナを浮かべながらも、何とか手を伸ばし善逸の羽織を引っ張る。
が、善逸は止まらない。
「お前はいいだろうよまだ骨折治ってねぇからぬくぬくぬくぬく寝とけばいいんだからよ!!俺はもう今から行かなきゃならねぇんだぞわかるかこの気持ち!!!」
「いでででっごめんごめん!!」
『ぜ、善逸っ!炭治郎病み上がりだから!』
○○の言葉にようやく炭治郎を解放し踵を返す善逸に、炭治郎は待ったをかける。
「あっ善逸!言い忘れてたけどありがとう」
「俺に話しかけるんじゃねぇ…!!」
『善逸ありがとう』
「いやいや礼を言われることなんて俺は!!」
あきらかに違う態度に炭治郎と○○は困惑したが、気にせず話を続ける。
「上弦の肆との戦いで片足が殆ど使えなくなった時、前に善逸が教えてくれてた雷の呼吸のコツを使って鬼の頚が斬れたんだ」
善逸はその言葉で炭治郎を振り返った。
「勿論善逸みたいな速さではできなかったけど本当にありがとう。こんなふうに人と人との繋がりが窮地を救ってくれることもあるから、柱稽古で学んだことは全部きっと良い未来に繋がっていくと思うよ」
ふわふわと笑う炭治郎に○○も頷く。
善逸はその空気と感謝された事に気を良くし、にっこりと笑った。
単純である。
「馬鹿野郎お前っ…!そんなことで俺の機嫌が直ると思うなよ!!」
嬉しそうに笑ってそう言うと、善逸は軽やかな足取りで部屋を去った。
機嫌取りは成功である。
「カアアアアッ!!」
見送っていると、突然飛んできた炭治郎の鎹鴉が、炭治郎の額へと勢いよく突っ込んだ。
嘴が突き刺さったのを見て○○は青ざめる。
「ギャアアッ!!?うわぁ血が出た!急に何するんだよ酷いな!」
『駄目だよ鴉くん!!』
○○は慌ててベッドから身を乗り出し、手拭いで額を押さえた。
鴉は気にしてないのか大きく口を開く。
「オ館様カラノ手紙ダ!!至急読ムノダ!!」
「手紙?俺に?わざわざ?えーー、何だろう?」
炭治郎は手紙を開くと、ある事に気づいた。
「これ、俺と○○宛だ…」
『…え?私も?』
驚く○○に、炭治郎も不思議そうな顔をして文を読み上げる。
「炭治郎、○○。怪我の具合はどうだい?情けないことに私は動けなくなってしまってね。
義勇と話がしたいんだけれど、もう、できそうにない…
今はとても大事な時だからみんなで一丸となって頑張りたいと思っているんだ。義勇と話をしてやってくれないだろうか。
どうしても独りで後ろを向いてしまう義勇が前を向けるよう、根気強く話をしてやってくれないか…」
『ううん…炭治郎は分かるけど、どうして私にも…』
内容を聞いた○○は益々分からず、ハテナが増えるばかりであった。
「あれ、もう一枚… ○○、義勇が那田蜘蛛山で君と出会った時、君に羽織を貸したみたいだね。しのぶから聞いたんだ。
あれは義勇にとってとても大事な物だから、○○にはあの一瞬で義勇の心を動かす何かがあったんだと僕は思う。
だから、君にもぜひ、義勇と話をしてやってほしいんだ。」
『…そうだったんだ。冨岡さん、そんな大切なものを…』
炭治郎はぽつりと呟いた○○の顔を覗き込み、目を合わせる。
炭治郎と○○は顔を見合わせると深く頷きあった。
答えは一つであった。
「ごめんくださーい、冨岡さーん」
『こんにちはーすみませーん』
「義勇さーん俺ですー竈門炭治郎ですー」
『氷鉋○○ですー』
文を読んだ二人はすぐに支度をして義勇の家を訪れていた。
そして、声をかけても出てこない義勇に、炭治郎はしびれを切らした。
「こんにちはーじゃあ入りまーす」
戸を開け義勇に見えるよう顔を覗かせる炭治郎に、流石に○○も入るとは思わず止めるのが遅れた。
『えっと、すみません。お邪魔します…』
ほぼ無理矢理義勇の家に上がった炭治郎の後ろから、申し訳なさそうに○○が言う。
片手片足が使えない○○を床に座らせるのが可哀想に思い、義勇は立ち上がると○○を抱き上げた。
『わっ!冨岡さんどうしたんですか?』
「…骨折してるだろ」
「っ…?やっぱり義勇さんは優しいですね!よかったな○○!」
楽なように○○をあぐらの上に乗せ抱く義勇に、炭治郎は胸が痛んだ気がしたが、気にせず話を進めた。
「…ていう感じでみんなで稽古してるんですけど」
「知ってる」
「あ!知ってたんですね、良かった!」
冷めた視線で炭治郎を見る義勇に、にこやかに話す異様に距離が近い炭治郎を見て、○○は少し引いていた。
そんな事には気づかず、無意識なのか義勇の腕に収まる○○をチラチラと見ながら話を続ける。
挟まれる形で話され、○○はとても居心地が悪い。
「俺たちあと七日で復帰許可が出るから稽古つけてもらっていいですか?」
「つけない」
淡々とした義勇の答えに、炭治郎はハテナを浮かべた。
「どうしてですか?じんわり怒っている匂いがするんですけど何に怒ってるんですか?」
『こら、炭治郎…!』
流石に失礼だと咎める声を上げるが、炭治郎は首を傾げるばかりであった。
腕の中で○○が一人焦っているのを見て、義勇は静かに話し始めた。
「お前が水の呼吸を極めなかったことを怒ってる。お前は水柱にならなければならなかった」
「それは申し訳なかったです。でも鱗滝さんとも話したんですけど、使っている呼吸を変えたり新しい呼吸を派生させるのは珍しいことじゃないそうなので…特に水の呼吸は技が基礎に沿ったものだから派生した呼吸も多いって…」
炭治郎が困ったように答えると義勇は口を開いた。
「そんな事を言ってるんじゃない。水柱が不在の今、一刻も早く誰かが水柱にならなければならない」
『水柱が、不在…?』
予想もしない言葉に、○○は思わず声がこぼれた。
「??義勇さんがいるじゃないですか?」
炭治郎も訳が分からずハテナが増える。
「俺は水柱じゃない」
炭治郎と○○は悲しそうな顔で義勇を見つめるが、義勇はそれを気にする事なく、○○を炭治郎の膝に下ろし立ち上がった。
「帰れ」
出ていこうとする義勇を、炭治郎と○○は目で追ったがお館様の文を思い出し、慌てて後を追いかけた。
「義勇さん!どうしましたか義勇さん!どうしましたか!!」
『こんにちは義勇さん!今日は天気がいいですね。義勇さん?あれ?義勇さーん?』
お館様の言葉を額面通りに受け取った炭治郎と○○は、昼夜問わず義勇につきまとい話しかけまくる。
ひたすら話しかけまくる。
戸惑う義勇。
これは一生続くのだろうか?
話したらつきまとうのをやめてくれるのだろうか。
厠の前にまで居座ろうとする炭治郎を、流石に○○は止めたが炭治郎は訳が分からないようだった。
やはりズレている。
「……。」
四日後、義勇根負け。
「はーー…」
初めてため息をついた義勇に、炭治郎と○○は失礼ながらも目を輝かせた。
やっと反応が見られた事が嬉しかった。
「俺は最終選別を突破してない」
「えっ最終選別って藤の花の山のですか?」
またもや予想もしなかった言葉に、炭治郎と○○はキョトンとした顔で義勇を見つめる。
「そうだ。あの年に俺は、俺と同じく鬼に身内を殺された少年…錆兎という宍色の髪の少年と共に選別を受けた」
目を見開いた炭治郎を○○は不思議そうに見やるが、すぐに義勇へと視線を戻した。
「十三歳だった。同じ年で天涯孤独。すぐに仲良くなった。錆兎は正義感が強く心の優しい少年だった。あの年の選別で死んだのは、錆兎一人だけだ。」
「彼があの山の鬼を殆ど一人で倒してしまったんだ。錆兎以外の全員が選別に受かった。
俺は最初に襲いかかって来た鬼に怪我を負わされて朦朧としていた。
その時も錆兎が助けてくれた。
錆兎は俺を別の少年に預けて助けを呼ぶ声の方へ行ってしまった。」
「気がついた時には選別が終わっていた。
俺は確かに七日間生き延びて選別に受かったが、一体の鬼も倒さず助けられただけの人間が果たして選別に通ったと言えるのだろうか。
俺は水柱になっていい人間じゃない。
そもそも柱たちと対等に肩を並べていい人間ですらない。
俺は彼らとは違う、本来なら鬼殺隊に俺の居場所は無い」
長年の義勇の思いを聞いた炭治郎と○○の目に涙が浮かんだ。
どうして一人で抱え込んでしまっていたのか。
人に言えない事が、どれほど辛かっただろうか。
それでも、柱として立派にやってきた義勇こそ、本当の水柱にふさわしいと思ったのだ。
「柱に稽古をつけてもらえ。それが一番いい。俺には痣も出ない……錆兎なら出たかもしれないが。もう俺に構うな、時間の無駄だ。」
全てを淡々と話し、独り歩きだす義勇の背中を○○は潤んだ目で見る事しかできない。
すると、炭治郎は声を発しようとして一度戸惑った。
○○は葛藤する炭治郎の手を握る。
勇気をもらい、今度こそ声を上げた。
「ぎ、義勇さん!」
勇気をふりしぼり発した声を、義勇は無視して歩き続ける。
「義勇さんは…義勇さんは錆兎から託されたものを、繋いでいかないんですか?」
『…失礼だとはわかってるんですけど…錆兎さんが繋いでくれた命を、義勇さんも繋がなくていいんですか?』
炭治郎と○○の言葉に、義勇は足を止めた。
義勇が手を左頬にゆっくり伸ばしたのを、炭治郎と○○は静かに見つめていた。
「…まずい、ピクリともしなくなったぞ」
『やっぱり失礼な事言っちゃったよね…!どうしよう謝らなきゃ…』
焦った二人はひそひそと話をするが、義勇が動く気配はない。
「そうだ!早食い勝負をするのはどうだろう」
『えっ』
「勝負で俺たちが勝ったら元気出して稽古しませんか?みたいな…義勇さん寡黙だけど、早食いなら喋る必要ないし名案だろ?」
『うーん…うーーん……そうだね、やろう!』
特に異議がなかった○○は見事に炭治郎に流された。
そんなことは知らず、もの悲しそうな顔をした義勇が静かに振り返り口を開いた。
「炭治郎、○○。遅れてしまったが俺も稽古に」
「『義勇さんざるそば早食い勝負しませんか?』」
(なんで?)
義勇は訳が分からなかった。
当たり前である。
だが、義勇も純粋だった。
特に断る事をせず、飯所に入った三人は早食い勝負を始めたのだった。
結果、ざるそば早食い勝負は○○の一人勝ちで終わった。
恋柱と同じくらい食べれ、同じくらい筋肉が付いているのが氷鉋○○という男である。