鬼滅の刃
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「そうなんですね、もう拠点を移して…」
聞き慣れた仲間の声に、○○は目を開く。
2ヶ月休んで、復帰した単独任務でまたもやボロボロになった○○は、隠によって蝶屋敷に運ばれた所だった。
下弦ほど強くもない鬼だったが、一定時、間時を止めるという血鬼術が強く、一人で多くの村人を守りながらの戦いはあまりにも過酷だった。
生きて帰れたのは奇跡かもしれない。
後藤と話していた炭治郎は、隣に運ばれた患者を認識するとちらりと目をやる。
その人物を見て、目を見開いた。
「っ○○!!?どうしたんだその怪我!!!大丈夫か!?」
頭に巻かれた包帯、添え木で固定された左手と右足、恐らく折れているのだろう。
悲惨な姿に炭治郎の顔が歪む。
開けたばかりの目は霞んでよく見えず、焦点が合わない○○は声のした方に手を伸ばした。
『たん、じろう?』
舌っ足らずに呼ばれた己の名前に、炭治郎は涙腺が刺激され涙がこぼれた。
頬が腫れているため、喋りづらいのだろう。
宙をさまよう震える手を握ってやり、炭治郎は声をかける。
「おかえり!!おかえり○○っ!頑張ったんだなぁ…もう大丈夫だぞ、もう鬼はいないからっ」
炭治郎と話していた隠の後藤は、炭治郎の言葉でピリピリと肌が痛むのは○○が殺気を放っているからだとようやく分かった。
『…ああ、そっかぁごめんね…』
炭治郎の言葉と手から伝わる体温に安心したのか、○○は殺気を収めるとゆっくり目を閉じて眠りについた。
村人を守る為、無意識に気を張って殺気を放っていたのだろう。
動かなくなった○○に、炭治郎の顔が青ざめる。
「… ○○? ○○っ!!」
「おい落ち着け!眠っただけだから!!」
○○と繋がった手を揺すり、涙を流す炭治郎に後藤が止めに入った。
炭治郎が動揺したのは、○○がつい最近の堕姫との戦いと同じような怪我をしていた為であった。
自分と同じく2ヶ月目を覚まさなかった○○のボロボロな姿が、いつの間にかトラウマになっていたらしい。
「す、すいません」
「いや…お前も病み上がりなんだからベッドに戻れ、身を乗り出すな」
「はい…」
後藤は炭治郎に注意しながらも、チラチラと○○に視線をやっていた。
なんせ後藤は以前、○○に初めて会った時に一目惚れをしていたからである。
男であってもこんなに可愛らしく誠実な子なのだ。
好きになるのは当たり前。
もはや性別など関係ない。
想い人がボロボロになっているのを見て、後藤も気が気じゃなかった。
「…ほら、切り替えろ。じゃ、話戻るけど。空里っていうのをいくつか作ってんのよ、何かあったらすぐ移れるように。つーかお前また七日も意識なかったのにそんな食って大丈夫?」
ベッドに戻った炭治郎は、用意されていた握り飯をバクバクと食べており後藤は少し心配になった。
さっきまでのしおらしい感じはどうした。
「はい!甘露寺さんもいっぱい食べるって言ってたんで!」
「あの人はちょっと原理の外側にいる感じだけどな。恋さんと霞さん二日眠ってその後三日でほぼ全快だったって?」
「はい!尊敬します!!」
はもはもと食べる手を止めない炭治郎に、後藤は冷や汗を流す。
炭治郎が柱の変な部分に段々と近づいている事に、少し引いていたからだった。
「…まぁ早く元気になるならいいけどよ。みんな生きてて良かったな……あっ!!これ一番聞きたかったんだわ!妹がえらいことになってるらしいけど大丈夫なのか?」
「あっはい!太陽の下トコトコ歩いてますね」
「やばくね?それマジでやばくねぇか?」
後藤の問いに、炭治郎は握り飯に手を伸ばしながら笑顔で答える。
「今後どうなるんだよ、どういう状態なんだ妹はよ」
心配そうに尋ねる後藤に、炭治郎も深刻な顔で返した。
「今調べてもらってるんですけどわからなくて、人間に戻りかけてるのか鬼として進化してるのか…」
「胡蝶様が調べてくれてんの?」
「いや珠世さんが」
にっこりと笑った炭治郎の返答に、後藤は首を傾げた。
「たまよさんて誰だ?」
炭治郎は言ってはいけなかった事に気づき、咀嚼していた握り飯を咳と共に吐き出した。
後藤は真っ青になった。
「おいおい!!やっぱ食いすぎだろうが!!病み上がりなんだから控えろよ!!」
咳を続ける炭治郎の背をさすって、思わず立ち上がっていた後藤は椅子に腰を下ろした。
「ていうかチビ三人組と妹はどこにいんだよ、アオイちゃんもいねえしよ」
「今は重体の隊士もいないらしいので… ○○はしっかりと処置されて寝ていますし…ずっと禰豆子と遊んでくれてるんですよ、そのおかげで少しずつ喋れるようになってきて」
ズビッとお茶を啜って落ち着く炭治郎に、後藤はなんとなくに善逸が頭に浮かんだ。
「ああそうなのか、平和だな。ただあの黄色い頭の奴が来たらえらいことになるんじゃねえの」
「えっ?」
炭治郎が後藤に尋ねた瞬間。
善逸の高い叫び声が聞こえてきて、二人は顔を見合わせて苦笑したのだった。
近所迷惑である。
蝶屋敷に運ばれて数日、○○はようやく目を覚ました。
体を動かそうとすると激痛が走り、声にならない悲鳴を上げた。
『っ~~!!』
だがそれは一瞬で。
次にはズキズキと痛む程度に変わり、なんとか上体を起こして息を吐いた。
怪我の状況を確認すると、○○はまた額が割れ、左手と右足を脱臼、肋三本を骨折。
予知を無理して使った為、十二指腸もやられていた。
おまけに少しの火傷もあり、それなりに重症であった。
だが、呼吸でしっかりと止血をした為か、出血多量にはならなかったようだ。
『…いのすけ、たんじろう、ぜんいつ…』
○○は無意識に三人の名前を呟いていた。
つい最近会った気がするのに、もう会いたいと思った。
久しぶりに呼んだ仲間の名前に、○○はようやく生きている事を実感した。
しばらく声を出していなかった為か喉は痛み、声は掠れていた。
眠っている間に髪や体を洗ってくれたのか、ベタベタせずとても気持ちがよかった。
ふと、隣で誰かが身じろいだのが分かり、視線を向けると炭治郎とバッチリ目が合う。
二人の目が見開かれた。
『たんじろうっ…久しぶり』
○○がふにゃりと笑顔を向けると、一瞬固まった炭治郎は突然滝のような涙を流し、すぐさま○○へと身を乗り出して細い腰に抱きついた。
肋が痛んだが○○は顔には出さなかった。
背中は脂汗でびっしょりであるが。
「○○ーーっ!!!よかった!よかったあ!!うわあああぁぁああ」
『ごめんね炭治郎』
炭治郎の普段は見せない子供のような泣き顔に、○○は優しく微笑んで右手で頭を撫でた。
この際、痛む肋は無視した。
しばらくして落ち着いたのか、顔を赤くして照れだした炭治郎に○○はにっこりと笑う。
『炭治郎、ベッドに戻って。炭治郎もまだ病み上がりなんでしょう?』
「あ、ああ…」
素直に隣のベッドに入った炭治郎は、○○に任務で何があったのか尋ね、二人は鬼狩りの話に花を咲かせたのだった。
話し始めて数十分経った時。
新たな足音が聞こえて、二人は会話を止めて足音の正体を見た。
「あーー!!鋼鐵塚さん!!怪我は大丈夫ですか!良かった!!」
足音の正体は鋼鐵塚だった。
たった今炭治郎から何があったか聞いた○○は、鋼鐵塚を心配そうに見つめる。
「ハア、ハフッハア、ハフ、ハアッハァ」
体が痛すぎて最愛の○○がいる事にも気づかず、鋼鐵塚は必死に息を吸い込んでいる。
「ハアーーッハーーッハアーーッハーーッハアァーーッ」
「大丈夫じゃない感じですか!?」
火男面にまで汗が滲み出だしたところで、炭治郎はようやく鋼鐵塚が痛みを我慢していることに気づいた。
「あっ刀…ありがとうございます」
スッと刀を差し出す鋼鐵塚から丁寧に刀を受け取ると、炭治郎は鍔を見て歓喜の声を上げた。
「煉獄さんの鍔だ!!小鉄君を守ってくれてありがとうございます…」
涙を浮かべて感謝を述べる炭治郎に、○○は優しく微笑んだ。
目を引く煉獄の鍔を見て、○○は唇を噛み締める。
彼とすごしたのはたった一日と短かったが、○○の胸には今でも煉獄の炎が残り続けていた。
『杏寿郎さん…』
呟いた言葉は誰にも拾われず消えた。
「座ってください。大丈夫スか?」
鋼鐵塚に気を遣った後藤が椅子を差し出すと、彼は素直にストンと座り必死に言葉を紡いだ。
「ハア、刃…ハフ、刃…ハァ、刃を」
「刃かな!?刀身も見ますね!」
なんとか理解した炭治郎が鞘から刀を抜くと、その刀身を見て感嘆の声を上げた。
「はぁ……凄い…漆黒の深さが違う…」
「鉄も質がいいし、前の持ち主が相当強い剣士だったんだろう」
「滅の文字……」
「これを打った刀鍛冶が全ての鬼を滅する為に作った刀だ。作者名も何も刻まずただこの文字だけを刻んだ。この刀の後から階級制度が始まり柱だけが悪鬼滅殺の文字を刻むようになったそうだ」
「そうなんですね、すごい刀だ…」
鋼鐵塚の説明に炭治郎は身を震わすと、刀身を見て首を傾げた。
「でも前の戦いでこれを使った時は文字が無かったような…」
炭治郎の言葉に鋼鐵塚は一瞬黙り込むとら強い殺気を放った。
それに後藤が怯える。
「だからそれは第一段階までしか研ぎ終えてないのにお前らが持ってって使ったからだろうが…錆が落としきれてなかったんだよブチ殺すぞ」
「すみません!!」
炭治郎はようやく失言だった事に気づき謝った。
状況が状況だった為、しかたないと言えばしかたないのだが。
「今もまだ傷が治りきってなくてずっと涙が出てるんだよ…痛くて痛くてたまらないんだよ!!研ぎの途中で邪魔されまくったせいで最初から研ぎ直しになったんだからな」
「すみません!」
怒りが収まらない鋼鐵塚は炭治郎の頬を抓ってびよーんと伸ばした。
引きちぎる勢いである。大人げない。
「でも怪我の酷さならコイツの方も負けてないっスよ、体中の骨折れまくってるしコイツ。そっちの○○くんも重症みたいだし」
「…○○?」
鋼鐵塚は後藤の言葉にゆっくりと返し、その視線を追った。
振り向くと、最愛の○○が苦笑して見ているのを認識し、鋼鐵塚は火男面からブワッと涙を流した。
「うわああああああああ!?!? ○○!!! ○○お前その怪我どうした!?鬼か!?鬼だな!!!俺がブチ殺してきてやる」
『あわわわ!待ってください鋼鐵塚さん!!もうっ!もう倒しましたから!!』
大泣きして好き勝手騒いで落ち着いたあと、殺気を放ち立ち上がった鋼鐵塚の服を○○は右手で掴み、必死に引き止めた。
鋼鐵塚は一瞬ホワッと気が緩んだが、○○の頭に巻かれた包帯を見て再び殺気立った。
「だとしても気がすまん。死んでても探し出してもっかいブチ殺す」
『無理ですよぉ…鋼鐵塚さんだって怪我してるんですから座ってください』
半泣きで○○が服を引っ張ると、鋼鐵塚は渋々椅子に座り直した。
すると、痛みが戻ってきたのか小刻みに震えて悶絶したあと、彼は○○の膝に倒れた。
本能のままに動く鋼鐵塚に、炭治郎と後藤は引いた。
何せ彼は37歳なのである。
16歳の少年に甘える姿に、後藤は見てられず顔を背けた。
「痛い…」
『あたりまえですよ…汗がすごいですね、ちょっと失礼します』
○○は断りを入れると、鋼鐵塚の面に手を伸ばし顔の横に移動させた。
ちょうど炭治郎と後藤から顔が見えない場所の為か、鋼鐵塚は特に抵抗をしなかった。
『わあ』
ベッドの横に置かれていた自身の手拭いを取り、鋼鐵塚へと顔を向けると○○は思わず間の抜けた声が出た。
失礼ながら、思ったより人の顔をしていた事に○○は驚いていた。
てっきり火男面と同じ顔をしているのだとばかり思っていたのである。
初めて火男面無しで、間近で○○の顔を見た鋼鐵塚は顔を赤くして目を逸らした。
『顔も、怪我されてたんですか…』
鋼鐵塚の頬には刃が滑った痕があった。
瘡蓋はできているが傷は深く痛々しい。
驚いたのは左目だった。
ばつ印のように刃で斬られた痕があり、完璧に潰れていた。
優しくその傷を指で撫でる○○に、鋼鐵塚は真顔で答えた。
「ああ…もう慣れた。これでも何とかなってる。気にするな」
『…そうですね』
○○は力なく笑うと、手拭いで鋼鐵塚のもうほとんど引いている汗を優しく拭った。
以外にも、鋼鐵塚は目を閉じてされるがままだった。
炭治郎は鋼鐵塚の顔がどうなっているかよりも、凶暴な鋼鐵塚が大人しくしている事の方に関心がいっていた。
以前のように、急に○○に襲いかからないか心配だったのである。
前科があるとはいえ、なかなかに失礼である。
『はい。もう大丈夫ですよ、勝手にすみません』
○○はずらしていた面を鋼鐵塚に被せる。
鋼鐵塚は○○の膝からゆっくりと上体を起こすと、椅子から立ち上がった。
「悪かったな」
『いいえ』
鋼鐵塚のぶっきらぼうな物言いに、○○はにっこり微笑んだ。
それを確認して鋼鐵塚は炭治郎へと向き直る。
突然の事に炭治郎は身を縮こませた。
すると鋼鐵塚はガシッと炭治郎の髪の毛をわし掴んで、火男面の飛び出た口を炭治郎の頬へと刺した。
「いいか炭治郎、お前は今後死ぬまで俺にみたらし団子を持ってくるんだ。いいなわかったな」
「は…はい。持っていきます。イデデデくちが刺さってる!」
ぱっと手を放し炭治郎を解放した鋼鐵塚は、再び○○の傍に寄ると、面を押し上げ○○の頭の包帯に口付けた。
○○は突然の事に固まる。
炭治郎と後藤からは何をしているか見えず、固まった○○に二人は首を傾げた。
「また文を送る。お前がどんな体になっても、俺はお前と共になる事を諦めていないからな。死ぬなよ」
『は、い』
火男面を被り直した鋼鐵塚は、耳元で○○にそれだけ告げると出口へと足を運んだ。
「あっありがとうございました!お大事に!!」
炭治郎が急いで礼を言うが、鋼鐵塚はそれを気にする事なく蝶屋敷を去っていった。
「噂には聞いてたけどスゲェ人だな」
「今日はかなり穏やかでしたよ、相当つらいみたいです」
「マジかよ……」
炭治郎と後藤の言葉を聞き流しながら、痛む体に鞭を打って○○は布団に潜り込んだ。
まだまだ顔の熱は冷めやらない。
突然の猛アピールに、○○はどうするべきか困り果てた。
「さっきからうるせぇんだよ」
「あ、ごめん玄弥。もう済んだから、騒がしくて悪かっ…」
炭治郎の言葉の途中で窓が割れる音が響き、○○は驚いて布団から顔を出した。
突然の事態に顔の熱は消えてしまった。
「うおおお!!!」
『伊之助!?』
「ああーーー!!伊之助…!!何してるんだ窓割って…!!」
「お前バカかよ胡蝶様に殺されるぞ!!」
「ウリィィィィィ!!!」
「黙れっ!!」
伊之助は怒られても後藤に叩かれても、気にもせず声高らかに叫んだ。
「強化強化強化!!合同強化訓練が始まるぞ!!!強い奴らが集まって稽古つけて…何たらかんたら言ってたぜ!」
「?なんなんだそれ?」
炭治郎と○○は顔を見合わせ首を傾げた。
伊之助は炭治郎の問いに腕を組んでふんぞり返ると元気よく答える。
「わっかんねぇ!!!」
「なるほど…」
『あはは、元気だなぁ』
汗を浮かべる炭治郎とにこやかに笑う○○。
そこで、伊之助はようやく○○に気づいたのか、思いっきり飛びつくと体全体で抱き締めた。
○○は笑顔ではあるが、あまりの痛みに意識が一瞬飛んだ。
背中にはまた脂汗がびっしょりである。
「いっ、伊之助!!!○○は怪我してるんだから!!」
「お前やっと目ェ覚ましたのかよおせぇんだよ!! ○○のバカヤローーー!!!わああああああああん!!!」
『よしよし、ごめんね伊之助』
「許ずぅぅぅ」
炭治郎の言葉に聞く耳を持たない伊之助に、後藤は引いた。
猪頭から大量に涙が溢れ○○の服を濡らしていく。
○○はそれを気にする事なく、伊之助を抱き締め返し頭を撫でるのだった。
痛む体は根性で耐えた。なんとか。
「よかったなぁ伊之助」
炭治郎も同じく涙を流し、穏やかな顔で二人を見つめるのだった。