鬼滅の刃
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時は流れ、気づけば煉獄の死から四ヶ月が過ぎようとしていた。
炭治郎達は毎日鍛錬をしながら、合間に入る鴉からの指令に従い、それぞれ鬼を倒しに行った。
一人で行く任務の時も、善逸は駄々をこねなくなった。
「禰豆子ちゃんの髪を一房くれ頑張るから。○○の熱い抱擁をくれ頑張るから」
伊之助は以前より尚更猪突猛進に。
「骨が砕けるまで走り込みだ!!来いお前ら!!」
○○は特に目に見える変化はなかったが、瞳に煉獄を思わせる、熱い思いを灯すようになっていた。
一人じゃないことは、幸せなことだと思う。
「もうちょっとだ頑張れ!」
『善逸、ゆっくりでいいから』
ヘロヘロと走る善逸に声をかける炭治郎を見て、並走していた○○は善逸の隣に下がると、その背を支えながら優しく声をかけた。
「ねずこちゃんねずこちゃん… ○○、○○…」
涙を流す善逸に炭治郎は苦笑した。
伊之助は一人先頭を爆走した。
○○は単独任務が終わり蝶屋敷に近づくと、何やら騒々しいことに気づく。
急いで玄関をくぐると、なほを抱えた炭治郎が青筋を浮かべて上に向かって怒鳴っていた。
『炭治郎?』
「あっ! ○○おかえり!!お疲れ様!!」
「おかえりなさい○○っ」
『うん、ただいま』
青筋を消してにっこり笑顔に変わった炭治郎に、○○も微笑む。
カナヲが嬉しそうに声をかけてきて○○はまた微笑んだ。
そして炭治郎が視線を向けていた方から視線を感じ、顔を上げる。
「お前…」
随分改造した鬼殺隊服を着こんだ逞しい大男が、アオイを抱えて玄関の門の上に座っていた。
一気に表情を険しくした○○とは対照的にに、その男はぱっと顔を輝かせると○○の前へと飛び降りた。
「お前!!ド派手に美人な顔だなおい!!俺は宇髄天元だ!お前は!!」
至近距離で話す宇髄に、気圧された○○は少し仰け反りながらなんとか答える。
『氷鉋、○○です…』
「そうか!!よし○○!!俺について来い!!」
○○が答える前に、宇髄は○○の小さな体をアオイと反対の腕に抱えると、再び門に飛び乗った。
「「○○!!!」」
突然の事に、焦った炭治郎とカナヲの声が重なる。
「とりあえずコイツらは任務に連れて行く。こっちの女は役に立ちそうもねぇがこんなのでも一応隊員だしな」
顔色が悪く汗を浮かべるアオイに、○○は顔を歪ませた。
無理矢理なんて酷い話だ。
○○は安心させるようにアオイに声をかける。
『アオイさん、大丈夫ですよ。貴方の代わりに私が行きますから。』
「そ、そんなの駄目よっ○○さんみたいな綺麗な人には尚更そんな事させられない!!」
必死な顔で言うアオイに、○○は何も言えなくなる。
褒め言葉だが、綺麗という言葉に少し複雑な気持ちを抱いた。
○○も年頃の少年である。
「人には人の事情があるんだから無神経に色々つつき回さないでいただきたい!!アオイさんを返せ!!」
「ぬるい。ぬるいねぇ、このようなザマで地味にぐだぐだしてるから鬼殺隊は弱くなってゆくんだろうな」
宇髄の厳しい言葉も気にせず炭治郎は叫んだ。
「アオイさんの代わりに俺たちが行く!!」
炭治郎の宣言と同時に、門を挟んだ両方の柵に、任務を終えた善逸と伊之助がそれぞれ姿を現した。
「今帰った所だが俺は力が有り余ってる、行ってやってもいいぜ! ○○だけじゃ不安だからな!!」
「アアアアアオイちゃんを放してもらおうか。たとえアンタが筋肉の化け物でも俺は一歩もひひひ引かないぜ」
対称的な二人の様子を見て、宇髄はスゥっと殺気を漂わせた。
ビリビリと肌が痛み、○○は汗を浮かべる。
「……あっそォ。じゃあ一緒に来ていただこうかね。ただし絶対俺に逆らうなよお前ら」
宇髄は○○を解放し隣に立たせると、空いた手でアオイの尻をパンと叩いた。
「キャアッ!」
○○は宇髄を軽蔑の眼差しで見つめた。
その後、アオイを放した宇髄の後を四人は着いていく。
誰も話さない中で伊之助が口を開いた。
「で?どこ行くんだオッさん」
『こら伊之助』
無礼な物言いに、○○は軽く伊之助の頭を叩いた。
伊之助はホワホワした。
「日本一色と欲に塗れたド派手な場所」
背を向けたまま放たれた言葉に炭治郎、伊之助、○○は首を傾げた。
善逸は何かに気づいたのかパッと顔を上げる。
「鬼の棲む遊郭だよ」
振り返りニヤリと微笑む宇髄に、善逸を除いた三人は益々訳が分からなくなった。
「いいか?俺は神だ!お前らは塵だ!まず最初はそれをしっかりと頭に叩き込め!!ねじ込め!!俺が犬になれと言ったら犬になり猿になれと言ったら猿になれ!!猫背でも揉み手をしながら俺の機嫌を常に伺い全身全霊でへつらうのだ!」
宇髄は一旦言葉を切ると、ビシッとポーズを変えて叫んだ。
「そしてもう一度言う!俺は神だ!!」
力強く言いきった宇髄に善逸は引いた。
隣の善逸を気にすることなくバビっと勢いよく手を上げた炭治郎と、小さく手を上げた○○が口を開いた。
「具体的には何を司る神ですか?」
『宇髄さんの風貌からすると賑やかそうな神様ですね』
真面目に質問する二人に善逸は更に引いた。
そうだった…この二人はとんでもないくらい抜けてたんだった。
「いい質問だ。お前は見込みがある!そして○○!!その通りだ!派手を司る神…祭りの神だ!」
宇髄の答えに、○○はわあっと小さく拍手をした。
それを見た伊之助が張り合うように胸を張り口を開く。
「俺は山の王だ。よろしくな祭りの神」
伊之助の言葉に一同は黙り込むと、宇髄が気味悪そうに伊之助を見つめて言葉を放った。
「何言ってんだお前…気持ち悪い奴だな」
宇髄の一言に善逸は衝撃を受けた。
同類に対しては嫌悪感を抱く宇髄に引いたのだ。
まともな者はこの場に善逸しか存在しなかった。
『こら伊之助』
腹を立て宇髄に突っかかる伊之助の鼻先を、○○はチョンとつついた。
伊之助はホワホワした。
「花街までの道のりの途中に藤の家があるからそこで準備を整える。付いて来い」
くるりと踵を返し、シャラっと頭の飾りを揺らした宇髄は、一瞬でその場から姿を消した。
突然の事に四人は驚き、目を見開いた。
「えっ?消えた!!…あっ!はや!!もうあの距離胡麻粒みたいになっとる!!」
善逸の言う通り、宇髄は物凄い速さで走っており、見えるか見えないかの距離にいることが分かった。
「これが祭りの神の力…!!」
『さすが神様…!』
「いや、あの人は宇髄天元さんだよ」
「追わないと追わないと!!」
列車の時同様、馬鹿な三人を引っ張り、善逸は宇髄の後を追いかけた。
「遊郭に潜入したらまず俺の嫁を探せ。俺も鬼の情報を探るから」
宇髄になんとか追いつき、藤の家に上がった四人は各々寛ぎながら、口を開いた宇髄に視線を向けた。
「とんでもねぇ話だ!!」
宇髄の言葉に一瞬固まった善逸が復活し、目を吊り上げて怒鳴った。
「あ"あ?」
青筋を立てる宇髄に怯むことなく身を乗り出した善逸は、バンっと強く畳を叩いた。
「ふざけないでいただきたい!!自分の個人的な嫁探しに部下を使うとは!!」
「はあ?何勘違いしてやがる!」
「いいや言わせてもらおう!!」
宇髄が次に物を言う前に善逸は遮り、勢いよく宇髄に人差し指を向けた。
「アンタみたいな奇妙奇天烈な奴はモテないでしょうとも!!だがしかし!!鬼殺隊員である俺たちをアンタ嫁が欲しいからって!!」
「馬ァ鹿テメェ!!俺の嫁が遊郭に潜入して鬼の情報収集に励んでたんだよ!!定期連絡が途絶えたから俺も行くんだっての!!」
宇髄の言葉に黙り込んだ善逸を座らせようと炭治郎が袖を引っ張るが、善逸は構うことなくそのまま口を開いた。
「そういう妄想をしてらっしゃるんでしょ?」
「クソガキが!!!これが鴉経由で届いた手紙だ!!」
「ギャーーーッ!!」
埒が明かないと思った宇髄は、大量の手紙を善逸に向かって投げつける。
手紙が頬に強く当たった善逸はその場に倒れた。
『美味しいね伊之助。手紙、随分多いですね』
「かなり長い期間潜入されてるんですか?」
猪頭を脱ぎ、幼子のようにもりもりと茶菓子を頬張る伊之助の頭を優しく撫でながら、○○は手元にある手紙の束を見た。
同じ疑問を持った炭治郎が宇髄に問いかける。
「三人いるからな、嫁
「三人!?嫁…さ…三!?テメッ…テメェ!!なんで嫁三人もいんだよざっけんなよ!!!おごぇっ!」
さらりと言い放った宇髄に善逸は再び突っかかるが、腹に重い一撃を受けて畳に逆戻りした。
「何か文句あるか?」
強い殺気を放つ宇髄から、顔を青ざめさせた三人は顔を背けた。
菓子を食べていた伊之助も冷や汗を流し、流石に菓子から手を離して猪頭を被り直した。
「あの…手紙で、来る時は目立たぬようにと何度も念押ししてあるんですが…具体的にどうするんですか」
控えめに尋ねる炭治郎に、宇髄は視線をやった。
「そりゃまあ変装よ。不本意だが地味にな。お前らにはあることをして潜入してもらう」
真剣な話に、炭治郎と○○は居住まいを正した。
伊之助もなんとなく正座をして宇髄を見つめる。
「俺の嫁は三人共優秀な女忍者くの一だ。花街は鬼が潜む絶好の場所だと俺は思ってたが、俺が客として潜入した時鬼の尻尾は掴めなかった。だから客よりももっと内側に入ってもらったわけだ、すでに怪しい店は三つに絞っているからお前らはそこで俺の嫁を捜して情報を得る」
宇髄は指を三本立てて、真剣な顔で炭治郎達を見つめる。
「ときと屋の須磨、荻本屋のまきを、京極屋の雛鶴だ」
宇髄の言葉に、伊之助は小指で鼻を掻きながら口を開く。
「嫁もう死んでんじゃねぇの?」
あまりにも無礼な言葉に、炭治郎と○○は全身に冷や汗が浮かぶ。
もちろん怒り狂った宇髄に強い一撃をもらい、伊之助は気絶している善逸の上に倒れた。
炭治郎と○○は身を寄せあい、震えるしかなかった。
あれから宇髄に化粧を施された炭治郎達は花街に連れてこられると、まず最初にときと屋を訪れていた。
「いやぁ、こりゃまた…不細工な子たちだね……」
四人揃って無茶苦茶に塗ったくられた顔は、お世辞にも美しいとは言えなかった。
「ちょっとうちでは…先日も新しい子入ったばかりだし悪いけど…」
「…まぁ一人くらいならいいけど」
旦那の言葉にしばし女将は黙ったが、宇髄を見つめてポっと頬を染めると了承の言葉を口にした。
「じゃあ一人頼むわ、悪ィな奥さん」
「じゃあ真ん中の子を貰おうかね。素直そうだし」
小さく笑んだ宇髄に、女将は気を良くすると炭治郎を買った。
「一生懸命働きます!」
こうして炭治郎こと炭子は、ときと屋に就職が決定したのだった。
「ほんとにダメだなお前らは。二束三文でしか売れねぇじゃねぇか」
ときと屋から出た四人は花街の通りを歩いていた。
ふと、宇髄の口から出たのは失望の言葉だった。
「俺アナタとは口利かないんで…」
顔を顰め深くため息をつく善逸に、宇髄は青筋を立てた。
「女装させたからキレてんのか?何でも言うこと聞くって言っただろうが」
『すみません宇髄さん。善逸、目上の方には敬意を持たないと。神様なんだから』
「お前ほんと幸せな頭してるよな」
善逸の言葉の意味が分からず、首を傾げる○○に善逸はまたため息をついた。
「○○はほんとに出来た奴だなー、どっかのたんぽぽ頭とは違うな」
宇髄はよしよしと○○の頭を撫で、善逸に向かって馬鹿にしたような笑みを向けるのだった。
善逸は腹が立ったが、なんとか顔に出すだけでとどめた。
「オイ!なんかあの辺人間がウジャコラ集まってんぞ!」
三人は伊之助が指をさした方へと顔を向ける。
「あー、ありゃ花魁道中だな。ときと屋の鯉夏花魁だ」
柔らかな微笑みを浮かべる鯉夏に、○○は視線が釘付けになった。
あんなにも美しい少女を○○は見たことがなかったのだ。
いやいや、何を言う。
お前の方が美少女だ。
「一番位の高い遊女が客を迎えに行ってんだよ。それにしても派手だぜ、いくらかかってんだ」
宇髄の説明を聞いた善逸が悔し涙を流しながら、宇髄の目の前に飛び出した。
「嫁!?もしや嫁ですか!?あの美女が嫁なの!?あんまりだよ!!三人もいるのに皆あんな美女すか!!!」
「嫁じゃねぇよ!!こういう番付に名前が載るからわかるんだよ!!」
距離の近い善逸に青筋を立てた宇髄は、その頬をボンッと殴った。
善逸は軽く吐血しながら地面に倒れた。
「歩くの遅っ。山の中にいたらすぐ殺されるぜ」
伊之助の隣に避難した○○が苦笑しながらふと視線を感じてそちらを見ると、目を血走らせて己と伊之助を見つめる女将の姿を発見し笑顔が引きつった。
「ちょいと旦那、この子等うちで引き取らせて貰うよ。いいかい?荻本屋の遣手…アタシの目に狂いはないのさ」
ククッと笑う女将に宇髄は笑顔を向けると、両手を合わせて感謝した。
「荻本屋さん!そりゃありがたい!達者でな猪子ー○○ー」
『はい宇髄さん!善子もまたね!』
手を振る宇髄に○○も振り返して、伊之助と共に荻本屋へと向かうのだった。
「どうよこれ!!」
「きゃーーっすごい!」
荻本屋についた○○と伊之助は、女将に顔を拭かれめちゃくちゃな化粧を落とされていた。
すっぴんの方が美しい彼らに女将は興奮する。
「変な風に顔を塗ったくられていたけど落としたらこうよ!!すごい得したわこんな美形の子たち安く買えて!!」
はてなを浮かべる二人を気にすることなく、女将は上機嫌に立ち上がると声を張った。
「仕込むわよォ仕込むわよォ!京極屋の蕨姫やときと屋の鯉夏よりも売れっ子にするわよォ!!」
「でもなんか妙にこの子ガッチリしてない?」
「ふっくらと肉づきが良い子の方がいいでしょ!」
「ふっくらっていうかガッチリしてるんだけど…」
二人は女将達に連れられてドタドタと別の部屋に移動する。
顔を無にしてされるがままの伊之助を見て、○○は苦笑するのだった。
「○○は琴が上手だねぇ。この調子なら若くして花魁に上がれるかもね」
『本当ですか?ありがとうございます』
伊之助と分かれて琴を習っていた○○は、にっこりと可愛らしい笑みを浮かべて礼を言った。
○○に琴を教えていた遊女はその笑みに頬を染める。
紅を引いただけでも○○の顔はとても美しく、直視するのが難しい。
「今日はこの辺にしようかね。後で猪子にも仕込まなくちゃねぇ」
『ふふ、そうですね。じゃあ失礼致します。』
「ああ、また明日ね」
『はい』
○○は廊下に出て襖をゆっくり閉めると、足早に廊下を進む。
天井に鬼の気配を感じたからだった。
○○は早足で気配を追っていると、廊下の角でばったりと伊之助と遭遇した。
「○○!!!鬼だ!!」
『うん!上にいる!』
偶然にも出会った二人はそのまま鬼を追いかける。
「可愛いなあ君!」
『ぅわっ!』
「○○っ!!」
すると部屋から突然顔を出した客の男に、運悪く捕まった○○は小さく悲鳴を上げた。
両手が腰に回されており、逃げ出すには手荒になってしまうため○○は叫ぶ。
『伊之助!行って!』
男の肩から顔を出す○○を見て、伊之助は心底腹が立った。
伊之助は回し蹴りで男の顔を蹴り上げると、倒れたのをいい事に○○を抱えて鬼を追う。
『わああああ!ごめんなさいっ!!』
時間がない事を悟り、○○は男に謝罪すると振り落とされないよう伊之助の首に手を回した。
『伊之助!そこの壁!』
「おう!!」
伊之助が片手で○○を抱え、もう片方の拳を振りかぶった瞬間。
また別の客の男が目の前に現われ、○○は青ざめた。
「おおっ可愛いのがいるじゃないか!」
○○の予感は的中し、伊之助は男の顔面に思いきり拳を振り下ろしてしまった。
「キャーーーっ!!」
「殴っちゃった…!!」
男と共にいたであろう遊女も顔を真っ青にして叫んだ。
『すみませんすみません!ごめんなさい!!』
ついに○○は真っ青になり涙を浮かべた。
完全にやらかしたためクビになる気しかしなかったからだ。
鬼の薄くなった気配をなんとか辿って追いかけるが、見失ってしまったようだった。
「見失ったァァクソッタレぇぇ!!邪魔が入ったせいだ…!!」
ギリギリと歯をくいしばる伊之助の頭を、○○は軽く叩いた。
『伊之助…怒られに行こうか…』
数時間後、しゅんと沈んだ二人の姿が見られるのだった。
伊之助と○○は定期連絡のために、炭治郎が待っている遊郭の屋根の上に来ていた。
「だーかーら!俺らんとこに鬼がいんだよ!!こういう奴がいるんだってこういうのが!!」
グワッと両手を大きく広げ、身振り手振りで説明する伊之助に炭治郎は戸惑っていた。
「いや…うんそれはあの…ちょっと待ってくれ」
「こうか!?これならわかるか!?」
「えーっと…」
炭治郎が困ったように○○に視線をやると、気づいた○○は苦笑して口を開いた。
『ごめんね炭治郎。伊之助はすごく強い鬼の気配を感じたって言いたいんだと思うんだけど…多分』
「そうそれだぁ!そういう事だ!!」
炭治郎に向かって満足気に言う伊之助に、炭治郎と○○は苦笑するしかなかった。
「そろそろ宇髄さんと善逸が定期連絡に来る頃かな」
『そうだね』
炭治郎と○○が和やかに話していると
話題に出ていた宇髄が音もなく現われ、少し離れた所に背を向けて座っていた。
「善逸は来ない」
「善逸が来ないってどういうことですか?」
『宇髄さん?』
「お前たちには悪いことをしたと思ってる」
炭治郎と○○が呼びかけるが、宇髄は背を向けたまま話し始める。
「俺は嫁を助けたいが為にいくつもの判断を間違えた。善逸は今行方知れずだ。昨夜から連絡が途絶えてる。お前らはもうここから出ろ、階級が低すぎる。ここにいる鬼が上弦だった場合対処できない。消息を絶った者は死んだと見做す、後は俺一人で動く」
淡々と話す宇髄に炭治郎は堪らず口を開いた。
「いいえ宇髄さん!俺たちは…!!」
「恥じるな、生きてる奴が勝ちなんだ。機会を見誤るんじゃない」
『そんな…!待ってください!!』
「待てよオッサン!!」
伊之助と○○の声も無視をして、宇髄はその場から一瞬で消えた。
「…俺たちが一番下の階級だから信用して貰えなかったのかな…」
『うん…え、炭治郎何言ってるんだい?』
炭治郎の言葉に、伊之助と○○が首を傾げたのを見て、今度は炭治郎が首を傾げる番だった。
「えっ?」
「俺たちの階級は庚だぞ、もう上がってる。下から四番目」
「『階級を示せ』」
伊之助と○○が同時に言葉を発し、右の手に力を込めるとその甲に庚の文字が浮き上がった。
言葉と筋肉の膨張によって浮き出る此れは藤花彫りという特殊な技術。
鬼殺隊の印である。
炭治郎が訳が分からず顔を顰めるのを見て、伊之助と○○もはてなを浮かべた。
「藤の山で手ェこちょこちょされただろ?」
『覚えてない?』
「こちょこちょされた覚えはあるけど疲れてたし……こういうことって知らなかった…」
「元気出せよ!」
『落ち込むことはないよ』
しゅんと落ち込む炭治郎の背を二人は両側から叩いた。
ぱっと顔を上げた炭治郎は、顔を引きしめると口を開く。
「そうだ、こんな場合じゃないんだゴメン!夜になったらすぐに伊之助と○○がいる荻本屋へ行く!それまで待っててくれ!二人でも危ない!!今日で俺のいる店も調べ終わるから」
「何でだよ!俺らのトコに鬼がいるって言ってんだから今から来いっつーの!!頭悪ィなテメーはホントに!!」
炭治郎に腹を立てた伊之助がその頬を思いっきり抓りあげ、炭治郎は小さく悲鳴を上げた。
『こら伊之助!放しなさい!』
○○がポコっと伊之助の頭を叩くと、ぶすっとしながらも渋々手を放した。
「ありがとう○○…夜の間、店の外は宇髄さんが見張っていただろ?でも善逸は消えたし、伊之助達の店の鬼も今は姿を隠してる」
『…もしかして、建物の中に通路があるって事かい?』
「通路?」
○○の言葉に訳が分からず、伊之助は顔を顰める。
「うん、そうだ。しかも店に出入りしてないということは鬼は中で働いてる者の可能性が高い」
『鬼が店で働いていたり、巧妙に人間のふりをしていればいるほど、バレないように人を殺すのは慎重になる。』
二人の言葉にようやく意味が分かった伊之助は、顎に手を当てて考える。
「そうか…殺人の後始末には手間が掛かる。血痕は簡単に消せねぇしな」
『うん、ここは夜の街だ。鬼に都合がいいことも多いけど都合の悪いことも多い、夜は仕事をしなければならない。いないと不審に思われるさ』
○○の言葉に炭治郎は頷き、伊之助に目を合わせた。
「俺は善逸も宇髄さんの奥さんたちも皆生きてると思う。そのつもりで行動する。必ず助け出す」
炭治郎は言葉を切って、伊之助と○○の顔を見渡すと再び口を開いた。
「二人にもそのつもりで行動してほしい。そして絶対に死なないで欲しい。それでいいか?」
『もちろん』
深く頷いた○○に炭治郎は微笑み、二人は喋らない伊之助へと視線を向けた。
「……お前が言ったことは全部な、今俺が言おうとしてたことだぜ!!」
にやりと笑った伊之助に、炭治郎も○○も笑顔で頷いた。