鬼滅の刃
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ボロボロの煉獄に、さすがに炭治郎は見ていられなくなり、刺された腹を押さえながら刀を持って立ち上がった。
○○も力を振り絞り、刀を支えに立ち上がる。
伊之助も煉獄の傍に寄るが、入る隙がなく立ち尽くすばかりだった。
「オォォオオオオ!!!」
鬼の絶叫に、炭治郎と○○は思わず耳を塞いだ。
もの凄い剣幕に、伊之助の体も震える。
「オオオオオオアアアアア!!」
己の手から逃れようとする鬼を、煉獄は許さない。
「オオオオオオオ!!!」
「ああああああああ!!!」
お互いが譲らず二人の絶叫が響く。
「退けえええ!!」
「あああああ!!!」
煉獄の刀が鬼の頸の半分まで通った。
炭治郎はそれを見逃さず叫んだ。
「伊之助動けーーーっ!!!煉獄さんのために動けーーーっ!!!」
その声に、伊之助は弾かれたように走り出す。
獣の呼吸 壱ノ牙 穿ち抜き…
迫ってくる伊之助に気づいた鬼は足に力を入れ、思い切り地面を踏んで飛び上がった。
鬼の両腕はもげ、頸には半分まで通った煉獄の刃。
すぐに腕を再生させると、鬼は森の中へと逃げようとした。
煉獄は支えを失い、その場に座り込んだ。
その姿に○○は息を飲む。
きっともう、助からない。
炭治郎は深く呼吸をすると、鬼に向かって刀を力一杯投げた。
その刀は勢いを失う事なく、真っ直ぐに鬼の胸へと突き刺さる。
「…っ!!」
「逃げるな卑怯者!!逃げるなァ!!!」
炭治郎の怒号に鬼は訳が分からず青筋を立てた。
自分は鬼殺隊から逃げるのではなく、太陽から逃げているのだ。
「いつだって鬼殺隊はお前らに有利な夜の闇の中で戦ってるんだ!!生身の人間がだ!!傷だって簡単には塞がらない!!失った手足が戻ることもない!!逃げるな馬鹿野郎!!馬鹿野郎!!卑怯者!!」
目を見開きながら必死に叫ぶ炭治郎の姿を、○○は涙を流しながら呆然と見つめた。
そして、小さく震える伊之助の傍まで歩み寄ると、○○はその背中を優しく撫でる。
伊之助の震えが伝わってきて、○○は小さくしゃくりあげた。
「お前なんかより煉獄さんの方がずっと凄いんだ!!強いんだ!!煉獄さんは負けてない!!誰も死なせなかった!!戦い抜いた!!守り抜いた!!お前の負けだ!!煉獄さんの勝ちだ!!」
ゼイゼイと息を切らす炭治郎は悔しさから涙を流した。
「うあああああああああ!!!あああああ!!あああわあああ!うっううっ」
大粒の涙を流し、子供のように泣く炭治郎を見て伊之助の体は更に大きく震えた。
伊之助から手を離した○○は、今度は蹲る炭治郎の隣に座り、涙を流しながら伊之助同様背中をゆっくりと撫でる。
「もうそんなに叫ぶんじゃない。腹の傷が開く、氷鉋少年もあまり動くな。君達も軽傷じゃないんだ。竈門少年と氷鉋少年が死んでしまったら俺の負けになってしまうぞ」
穏やかな煉獄の言葉に、炭治郎と○○は振り返った。
涙でぐちゃぐちゃの顔を見て、煉獄は優しく微笑む。
「こっちにおいで、最後に少し話をしよう」
炭治郎と○○は支え合いながら煉獄の前へとたどり着くと、その場に正座をした。
「思い出したことがあるんだ。昔の夢を見た時に。」
○○は火の呼吸の話だとわかり、少し後ろに下がった。
「俺の生家、煉獄家に行ってみるといい。歴代の炎柱が残した手記があるはずだ。父はよくそれを読んでいたが……俺は読まなかったから内容がわからない。君が言っていたヒノカミ神楽について何か……記されているかもしれない」
煉獄が言い終わると同時に、腹に刺さったままだった鬼の腕が太陽の光でボロボロと崩れはじめた。
鬼の腕が消えたことで、傷口から血が溢れ出す。
『煉獄さんっ…』
「煉、煉獄さんっもういいですから。呼吸で止血してください…傷を塞ぐ方法はないですか?」
○○と炭治郎が声をかけるが、煉獄は少し視線を下げただけで止血する様子はなかった。
「無い。俺はもうすぐに死ぬ、喋れるうちに喋ってしまうから聞いてくれ。弟の千寿郎には自分の心のまま正しいと思う道を進むよう伝えて欲しい」
煉獄はどこまでも人の事ばかり気にかける、慈悲深い男だった。
煉獄の遺言に、炭治郎と○○は涙が止まらなかった。
離れて聞いている伊之助の体も震え続けており、同様に泣いている事がわかった。
「父には、体を大切にして欲しいと。それから竈門少年、俺は君の妹を信じる。鬼殺隊の一員として認める。汽車の中であの少女が血を流しながら人間を守るのを見た。命をかけて鬼と戦い人を守る者は誰が何と言おうと鬼殺隊の一員だ。」
柱の一人に禰豆子を認めてもらえたことで、炭治郎は涙がどんどん溢れる。
○○は嘔吐く炭治郎の背を後ろから摩った。
「胸を張って生きろ。己の弱さや不甲斐なさにどれだけ打ちのめされようと心を燃やせ。歯を食いしばって前を向け。君が足を止めて蹲っても時間の流れは止まってくれない。共に寄り添って悲しんではくれない」
煉獄の口から話すたびに血が溢れ、顔から血の気が抜けていく。
炭治郎も伊之助も○○も、それを黙って見ていることしかできなかった。
「俺がここで死ぬことは気にするな。柱ならば、後輩の盾となるのは当然だ。柱ならば誰であっても同じことをする。若い芽は摘ませない。」
「竈門少年。氷鉋少年。猪頭少年。黄色い少年。もっともっと成長しろ」
煉獄は名前を呼ぶたびに、一人一人の顔を確認して微笑んだ。
血の似合わない、柔らかな笑みだった。
「そして今度は君たちが鬼殺隊を支える柱となるのだ。俺は信じる。君たちを信じる。」
力強い言葉に堪らなくなって、炭治郎は目を押さえた。
○○も顔を覆って小さく蹲る。
煉獄は、そんな○○の柔い髪に指を通した。
指通りのいい髪に、感触を確かめるように何度も指を往復させる。
「氷鉋少年…いや、○○…もっと早く、出会えていたら良かったのにな…」
『ぅ…れ、煉獄さん…っ』
「…最後に…名前、呼んでくれないか…」
煉獄はぐしゃぐしゃの顔を上げた○○の頬に手を滑らせ撫でる。
血の気のない震えた指に、○○は何度も頷いて何とか笑顔を作った。
『っ杏寿郎、さん……杏寿郎さん…』
名前を呼ぶと、煉獄は最期に子供のような無邪気な笑みを浮かべて、静かに息を引き取った。
とうとう頬から力なく落ちた手を、○○は歯を食いしばり強く握り締めたのだった。
「汽車が断線する時…煉獄さんがいっぱい技を出しててさ、車両の被害を最小限にとどめてくれたんだよな」
禰豆子の入った箱を背負って合流した善逸が口を開いた。
煉獄が亡くなった事を信じられず、その目は一点を見つめ、見開かれたままだ。
「そうだろうな」
炭治郎はそう答えるのが精一杯だった。
「死んじゃうなんてそんな…ほんとに上弦の鬼来たのか?」
「うん」
「なんで来んだよ上弦なんか…そんな強いの?そんなさぁ…」
「うん…」
炭治郎は一度乾いた頬にまた涙をこぼした。
○○は煉獄の冷たくなった手を握ったまま俯いて動かない。
「悔しいなぁ、何か一つできるようになっても、またすぐ目の前に分厚い壁があるんだ。凄い人はもっとずっと先の所で戦っているのに、俺はまだそこに行けない。こんな所でつまずいてるような俺は、俺は…」
涙声が強くなる炭治郎に、全員が黙り込んだ。
○○はようやく顔を上げて炭治郎を見た。
「煉獄さんみたいになれるのかなぁ…」
『炭治郎…』
炭治郎の言葉に、善逸は涙を流した。
善逸の嘔吐く声が静かな空間に響く。
「弱気なこと言ってんじゃねぇ!!!」
沈んだ空気を破るように突然叫んだ伊之助に、三人は目を見開いて伊之助を振り返る。
「なれるかなれねぇかなんてくだらねぇこと言うんじゃねぇ!!信じると言われたならそれに応えること以外考えんじゃねぇ!!死んだ生き物は土に還るだけなんだよ!べそべそしたって戻ってきやしねぇんだよ!!悔しくても泣くんじゃねえ!!!」
今まで我慢していたのか、最後の言葉を叫んだと同時に、猪頭の目からわっと涙がこぼれた。
「どんなに惨めでも恥ずかしくても生きてかなきゃならねえんだぞ!!!」
「お前も泣いてるじゃん…かぶり物からあふれるくらい涙出てるし」
「俺は泣いてねぇ!!!」
善逸の言葉を認めたくない伊之助は、善逸に向かってまっすぐ頭突きをした。
ゴツンといい音がして善逸が倒れる。
『いの、いのすけ、泣かないで』
弱々しく声をかける○○に向かって伊之助はガバッと泣きついた。
「わああぁぁん!!」
伊之助を難なく受け止めた○○は、その背を優しく撫でる事しかできない。
「こっち来い修行だ!!」
○○にしがみついたまま、伊之助は傍に座る炭治郎の頭をポカポカと殴る。
炭治郎は泣きながらも、その拳から逃げることはなかった。
子供のように泣く四人は、駆けつけた隠によって蝶屋敷に保護されたのだった。