鬼滅の刃
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煉獄は夢を見ていた。
列車内に現れた鬼に、煉獄は燃えたぎる炎のような赫色の刀身をゆっくりと覗かせた。
「その巨躯を!!隠していたのは血鬼術か!気配も探りづらかった。しかし!罪なき人に牙を剥こうものならば!この煉獄の赫き炎刀がお前を骨まで焼き尽くす!!」
低く唸る鬼に煉獄は刀を構えた。
炎の呼吸 壱ノ型 不知火
煉獄に斬られ、頸を失い倒れる鬼を見た炭治郎達はワッと立ち上がった。
「すげえや兄貴!見事な剣術だぜ!!おいらを弟子にしてくだせえ!!」
「いいとも!!立派な剣士にしてやろう!」
「おいらも!!」
「おいどんも!!」
『私も!』
次々と飛んでくる声に、煉獄は満足そうに頷き口を開いた。
「皆まとめて面倒みてやる!!氷鉋少年!君は嫁に来い!!」
可愛らしく笑う○○の肩に手を回した、逞しい煉獄の周りを炭治郎達は小躍りした。
「煉獄の兄貴ィ!!」
「兄貴ィ!!」
『杏寿郎さん!』
「よし!まずは親御さんにご挨拶に行こう!!絶対に幸せにするぞ○○!」
『はいっ』
それは、愛する者と結ばれ、三人の剣士に慕われる夢。
善逸は夢を見ていた。
「こっちこっち!!こっちの桃が美味しいから!白詰草もたくさん咲いてる!白詰草で花の輪っか作ってあげるよ禰豆子ちゃん!俺本当に上手いのできるんだ!」
「うん、たくさん作ってね!」
可愛らしい禰豆子に善逸はだらしなく笑った。
『善逸…?』
「はっ!! ○○!?」
突然現れた○○の姿に善逸は驚いた。
禰豆子と繋がった善逸の手を見て、○○は静かに目を伏せる。
長い睫毛が白い肌に影を作り、善逸は思わず見惚れた。
『私には作ってくれないのに、禰豆子には作ってあげるんだね…』
○○がそう小さくつぶやくと、悲しそうに歪められた大きな目から涙がこぼれた。
『善逸は、禰豆子が好きだもんね』
ついに顔を覆った○○に、善逸は髪を掻き乱し叫んだ。
「…っアァァーーーッ!!!俺は禰豆子ちゃんも○○も同じくらい好きだ!!大好きなんだ!!最低なのは分かってるよ!それに男に惚れてるなんて認めたくなかった!!…でもそんな事言われたら認めるしかないだろくそ!!!花の輪っかでも何でも作ってやるよ!!」
善逸は一息に叫んだ為、息を乱しながら○○に近づいた。
○○がぽかんとしていると、善逸はその手をぎゅっと握った。
「禰豆子ちゃんごめんね!!途中に川があるけど浅いし大丈夫だよね?」
「う、うん。川?善逸さんどうしよう。私泳げないの」
困ったように言う禰豆子に善逸は顔を真っ赤に染めた。
興奮からたんぽぽ頭がブワッと広がる。
「俺がおんぶしてひとっ飛びですよ川なんて!!禰豆子ちゃんの爪先も濡らさないよ!おまかせくださいな!おい○○!お前は自分で渡れるだろうけど禰豆子ちゃんの後にすぐ迎えに来るからここで待ってろよ!!」
『!うんっ』
やけくそで告げた善逸に、○○は涙を引っ込めて嬉しそうに笑った。
それは、想い人と過ごす夢。
伊之助は夢を見ていた。
「探検隊!探検隊!俺たち洞窟探検隊!!」
伊之助は狐の○○の手を握り、後ろには兎の禰豆子を連れて洞窟の中を歩いていた。
「親分親分!!」
「どうした子分その一!その二!!」
走ってきた狸の炭治郎と鼠の善逸に、伊之助は返事を返した。
「あっちからこの洞窟の主のニオイがしますポンポコ!」
「寝息も聞こえてきますぜチュー」
「よし行くぞ!!勝負だ!!」
意気揚々と歩きだした伊之助の後ろを、禰豆子がついてこない。
「ついて来い子分その三!!おいコラ!!」
伊之助は座り込む禰豆子にドングリを差し出した。
彼にとっての宝物である。
「こっち来いホラ!!ツヤツヤのドングリやるからホラ!!」
禰豆子はドングリに目を輝かせそれを受け取った。
ようやく立ち上がった禰豆子を見て、伊之助は○○へと振り返った。
「ホラ○○!お前には特別に大きなツヤツヤのドングリだ!!」
『いいのコン?』
「当たり前だ! ○○は俺の番だからな!!俺もお前も雄だけど!よし、お前ら行くぞ!!」
「ヘイ!!」
それは、仲間と探検をする夢。
炭治郎は夢を見ていた。
それは、今は亡き家族と幸せに過ごす夢。
○○は夢を見ていた。
気がつくと、○○は主人の屋敷の縁側に座っていた。
服は隊服から使用人時代のものになっている。
「○○、お茶にしようか」
後ろから聞こえてきた穏やかな声は、○○が世界で一番好きだった人のものだった。
首が錆びついたようになり、ゆっくりと声の主を振り返る。
姿を認識した途端、涙がこぼれた。
『主様…』
主人は団子と茶を乗せたお盆を傍に置くと、○○の隣に腰掛けゆるりと笑った。
「どうしたんだ、そんなに泣いて。嫌な事があったのかな」
暖かな手が頬を滑り、○○は更に涙が溢れる。
主人の温度は、生前となんら変わりがなかった。
『いいえ、なにも、なにもないのです…』
○○は夢に縋るつもりはなかった。
大好きな主の死は、自分の中で随分と前に割り切っていたから。
溢れる涙を乱暴に拭うと、○○は縁側から庭に下りた。
いつの間にか服は隊服に戻り、日輪刀もしっかりと腰に下がっている。
○○は予知で見えた首を刎ねる姿は、己であった事に気づいた。
そしてそれがきっと、夢から覚める方法。
刀を抜いて首に当てると、主人は慌て、履物も履かずに庭に下りた。
「やめろ○○!!」
○○は手を伸ばす主人を見つめて、にこりと笑った。
『すみませんが、私が会いたい主様は、もうどこにもいないんですよ』
それだけ言うと、○○は途端に表情を失い、刀を一気に引いた。
『さようなら』
血飛沫があがったのを見届け、○○の視界は闇に飲まれた。
○○は夢から覚めると、すぐさま刀に手をかけ眠っている乗客に巻き付く肉塊を斬った。
○○は罪のない人の命を奪い、しょうもない夢を見させた鬼にブチ切れていた。
怒りが収まらないまま肉塊を全て斬り終えると、○○は別の車両に急いだ。
(皆の声が聞こえる…起きたのか、よかった…)
「おお!ここにいたのか氷鉋少年!」
『煉獄さん!』
突然目の前に現れた煉獄に○○は驚いた。
険しい顔から一転して、目を丸める○○に煉獄は密かに胸を高鳴らせ、にっと笑って口を開いた。
「一人でここまで立ち回れるとは大したものだ!!君はもっともっと立派な剣士になるな!よもやよもやだ!」
『あ、ありがとうございますっ』
「うむ!氷鉋少年、ここは俺に任せてくれ!!竈門少年と猪頭少年に鬼の頚を探しに行かせた。君にはあの二人の補助をしてもらいたい。できるな!」
煉獄の焦点の合っていなかった目が、やっと○○の目を捉えた。
初めて、燃えさかる炎のような真っ赤な目と、空を思い起こさせる澄んだ薄水色がかち合う。
全てが絵画のように美しい○○に、甘い痺れと目眩を覚えた。
『はいっもちろんです!』
○○の返事を聞いた煉獄はにっこり笑うと刀に手をかけた。
「よし!いい子だな!任せたぞ!!」
『はい!』
煉獄の声を背に受け○○は走りだした。
目を閉じ集中する。
ずきずきと頭が痛むが無視をした。
(使いすぎたか…見えない…少しでいい…何か一つだけでも…!)
一度足を止め、額に浮かぶ汗を拭い集中し続ける。
○○の予知は無限ではない。
それなりに副作用があるのだ。
集中を続ける事でうっすら見えたのは車掌の姿であった。
○○はパッと目を開いて、止まっていた足を動かした。
○○は血走った目と浮き出る血管をそのままに、列車の前方へと急ぐ。
鬼の気配がする。近い。
何個目だか分からない扉を開けると、そこには車掌以外に伊之助と炭治郎の姿があった。
「○○!!手伝え!」
「○○!!この下に鬼の頚があるんだ!!再生が速い!三人で呼吸を合わせて連撃だ!!この三人の誰かが肉を斬り、すかさず誰かが骨を断とう!」
必死に叫ぶ伊之助と炭治郎に、○○は頷いた。
『わかった!!』
「なるほどな!!いい考えだ!!褒めてやる!!」
「ありがとう!いくぞ…」
二人の了承を得た炭治郎が合図をし、斬りかかろうとした時だった。
鬼の血鬼術が発動した。
《強制昏倒睡眠・眼》
炭治郎と○○は、夢と書いてある鬼の目と視線がかち合った。
意識が夢へと落ちる。
二人はすぐさま夢の中で首を斬り現実に戻った。
○○は視線が合わないよう目を閉じたまま鬼の気配を探り、確実に肉塊を斬っていく。
だが、炭治郎はなかなか目を閉じたまま覚醒する事ができず、夢と現実を行き来していた。
「夢じゃねぇ!!現実だ!!!」
ガキィッと嫌な音がし伊之助の怒鳴り声が響く。
突然の事に○○は思わず目を開いた。
気づけば、○○の目の前の鬼の血鬼術は消えていた。
「罠にかかるんじゃねぇよ!!つまらねぇ死に方すんな!!グワハハハ!!俺は山の主の皮を被ってるからな!恐ろしくて目ェ合わせらんねぇだろ!!雑魚目玉共!!」
伊之助は楽しそうに刀を振り回して、どんどん鬼の肉塊を斬っていく。
伊之助は視線をどこに向けているか分かりづらいため、術にかからなかったようだ。
『っ伊之助!!後ろ!』
呆気にとられて伊之助を見つめていた○○は、伊之助の背後に動いた影に気づき叫んだ。
影の正体は車掌だった。
車掌が千枚通しを手に伊之助へと迫る。
○○は伊之助を守るように飛び出し、背中に抱きついた。
「夢の邪魔をするな!!」
悲痛な顔をして叫ぶ車掌に、炭治郎は顔を顰めた。
そして○○に千枚通しが刺ささる前に、炭治郎は前に飛び出した。
千枚通しは、炭治郎の腹に深く刺さった。
「!!…」
『炭治郎っ!!!』
自分ではなく、炭治郎が刺された事実に○○は目を見開いた。
伊之助もショックを受けたのだろう。
○○は巻きついている腕から、伊之助の体が震えたのが分かった。
じわりと隊服に血が滲む。
炭治郎は脂汗を流し顔を歪めたが、痛みを無視して車掌に手刀を入れた。
「大丈夫だ!!早く鬼の頚を斬らないと善逸達がもたない!早く!!」
○○は動揺しながらも伊之助から離れ、刀を構えた。
それを見た伊之助が動く。
獣の呼吸 肆ノ牙 切細裂き!!
伊之助が床に穴を開けると、鬼の頚の骨が現れた。
巨大なそれに、○○は目を細めた。
「よし! ○○!!援護を頼む!」
『はいっ!』
ヒノカミ神楽 碧羅の天
雪の呼吸 伍ノ型 雪崩
二人の追撃に、ゴガァッと音を立てて頚の骨ごと列車が斬れた。
「ギャアアアア!!!」
瞬間、すさまじい断末魔を上げて鬼が暴れる。
三人は耳を塞ぎ激しい揺れに耐えた。
だが鬼は暴れ続け、次第に列車が宙に浮いて傾き始めた。
「頚を斬られてのたうち回ってやがる!!やべぇぞ!」
『このままじゃ横転する!早く列車から降りるんだ!!』
「伊之助! ○○…!!」
二人の名前を叫んだ炭治郎は腹の傷が痛み、冷や汗を流して顔を歪めた。
「おい!お前腹大丈夫か!」
『伊之助!私じゃなくて炭治郎を守ってあげて!!』
聞く耳を持たず○○を腕に閉じ込めた伊之助は、炭治郎へと声をかける。
どう考えても守るべき優先順位は炭治郎である。
『炭治郎!!』
「乗客を!守」
一際大きな音と揺れがして、炭治郎の言葉は掻き消された。
○○が伸ばした手は炭治郎には届かず、三人は横転した衝撃で列車から投げ出された。
「っうが!」
『わあっ!?伊之助ごめんよぉ!』
○○を抱きしめたまま背中から落ちた伊之助は小さく呻く。
鬼の肉の上に落ちたのがせめてもの救いであった。
○○は慌てて伊之助の手を引っ張り起き上がらせる。
伊之助はそのまま手を握ると、○○を引っ張りながら炭治郎の下へと走った。
「大丈夫か!!三太郎!」
『炭治郎だよ…』
二人は繋いでいた手を離し、倒れたままの炭治郎の前にしゃがんだ。
伊之助は強く炭治郎の服を掴み抱き起こし、○○は力の入ってない手を緩く握った。
「しっかりしろ!鬼の肉でばいんばいんして助かったぜ!逆にな!」
『傷が痛むよね…!!ごめんね炭治郎…!』
悲痛な○○の声に、炭治郎は薄く目を開き○○の手を握り返した。
「大…大丈夫だ、二人は…」
「元気いっぱいだ!風邪も引いてねぇ!」
『うん!!私も元気いっぱいだよ!私達は平気だから、炭治郎は休んでて』
頓珍漢な返事をした二人に炭治郎は微笑んだ。
だが、状況が状況なだけにすぐに表情を引き締めた。
「ありがとう○○…すぐ動けそうにない…他の人を助けてくれ…怪我人はいないか…頚の近くにいた運転手は…」
炭治郎の言葉に伊之助は一瞬固まると口を開く。
「アイツ死んでいいと思う!!」
「『よくないよ…』」
強く言いきった伊之助に炭治郎と○○は力なくツッコんだ。
「お前の腹刺した奴だろうが!!アイツ足が挟まって動けなくなってるぜ!足が潰れてもう歩けねぇ!!放っとけば死ぬ!!」
伊之助の言い分に、○○は口を開閉させるだけで言葉にならなかった。
伊之助の言う事も分からなくはないからだった。
葛藤している○○を見た炭治郎は、目を伏せた。
「だったらもう十分罰は受けてる。助けてやってくれ、頼む。な、○○」
『炭治郎…うん、助けるよ』
炭治郎の優しげな目を見てしっかりと頷いた○○は、繋いでいた手を離し立ち上がった。
伊之助はジッと○○を見上げてから、自分も立ち上がる。
「……ふん。行ってやるよ親分だからな。子分の頼みだからな!!助けた後アイツの髪の毛全部毟っといてやる!!」
「『そんなことしなくていいよ…』」
歩みを進めようとした時、○○は違和感を感じて口を押えた。
喉までせり上がってきた物に、ついに膝をつく。
「○○…?」
「おい、どうした?」
炭治郎が不思議そうに名前を呼び、伊之助が振り向いた瞬間、○○の口から血が溢れた。
手で押さえているにも関わらず、隙間からボタボタと血が落ちる。
思っていたよりも血の量が多く驚いた。
突然大量の血を吐く○○に、炭治郎と伊之助は固まった。
『ゲホッ!』
「「○○!!!」」
伊之助がすぐさま駆け寄り○○の背を乱暴に撫でる。
炭治郎は自分が何もしてやれないもどかしさに歯を食いしばった。
○○の副作用は吐血。
予知を一日で酷使したためだった。
「やっぱ刺されたのか!?あの野郎…絶対ェ許さねぇ!!!ぶっ殺す!!!」
「伊之助…!!」
ものすごい殺気を放ち、今にも走り出しそうな伊之助の腕を○○が掴んだ。
掴まれた腕にぬるりと○○の血の感触がし、伊之助はあまりの怒りに鳥肌が立った。
『あの人じゃ、ないっ!だから駄目だ…!助けてあげて…お願いだからっ』
口から血を吐きながらも懸命に喋る○○を見て、伊之助は渋々頷いた。
「…………わかった」
小さく返事をした伊之助に、○○は脂汗を浮かべながら微笑んだ。
伊之助の腕から○○の手が離れていく。
○○の血が付いた腕をしばらく見つめると、伊之助は目にも留まらぬ速さでその場を去った。
「○○…大丈夫か」
『うん…ごめんね。私の事は、いいから、呼吸で止血して…』
○○は炭治郎の下へと這うと、伸ばした手を炭治郎と繋いだ。
炭治郎はその温もりに安心し、呼吸を整え始めた。
二人の呼吸の音が、静かな空間に響いた。