鬼滅の刃
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「○○、俺は明日ここを出ようと思うんだ」
縁側に座る○○に炭治郎は言った。
○○も怪我の具合がすっかりよくなった為、そろそろ頃合だと思っていたところだった。
『うん。私もそろそろと思ってたんだ。まだ任務ではないけど、出ようと思う』
目線を膝に乗せた手に下ろし、静かに言う○○のただならない空気に炭治郎は焦った。
儚げな○○が今にも消えてしまいそうに見えたのだ。
「もっもちろん一人で行かないよな!?俺達と行くんだよな!?」
焦りまくる炭治郎に、○○は目をぱちりと瞬くと柔らかに微笑んだ。
『……うん、皆で』
「その間は何だ!一人で行こうとしてたんだろ!!絶対駄目だぞ切ないぞ!」
『ふふ、冗談だよ。ごめんね』
「許す!」
むんっと鼻を鳴らす炭治郎が可愛らしくて仕方ない○○はその頭を撫でた。
炭治郎は驚き一瞬固まるが、やがて嬉しそうに笑った。
「今からしのぶさんに伝えてくるから○○は善逸達に伝えてくれないか?」
『うん、じゃあ言ってくるね』
炭治郎はしのぶのもとに、○○は裏山に行ったであろう二人のもとへとそれぞれ足を運んだのだった。
善逸達に伝え終わった○○が戻ってくると、縁側にカナヲが座っている事に気づいた。
『カナヲ』
「! ○○、明日出てしまうのね…師範から聞いたわ」
『うん、もう怪我も治ったし、長くいるのも迷惑だから』
「……そう…」
カナヲはなんとか返事をすると黙り込んだ。
悲しそうな雰囲気に、○○は小さく息をついて笑うとカナヲの隣に腰掛けた。
カナヲは○○と離れるのが寂しくなっていた事に驚いた。
初めて短期間で仲良くなった友達だった。
寂しく思うのは当然だった。
「… ○○、死なないでね。絶対…また話をしたいの」
俯けていた顔を上げカナヲは○○と目を合わせた。
○○はカナヲからそんな言葉が出てくるとは思わず目を丸めた。
やがて○○は微笑んで頷いた。
『うん、約束するよ。そうだカナヲ、指切りをしようか』
「指切り?」
『そう、指切り。絶体絶命になったとしても、カナヲとした指切りを思い出したら、絶対死ぬもんかって思えるから』
「す、するわ!指切りっ」
食い気味に返事をするカナヲに○○は優しく笑って小指を立てた。
カナヲは戸惑いながらも、○○の細い指と自分の指を緩く絡ませた。
歌う○○の声をカナヲは穏やかな気持ちで聞いていた。
カナヲは自分が○○の生きる意味になったようで嬉しかった。
自分との約束を糧に死なぬと言うのだ。
○○にそんな気がない事をカナヲは分かっていたが、それでもよかった。
次の日、なほすみきよと涙の別れを果たした炭治郎達は町を歩いていた。
「えーーっ!!?まだ指令来てなかったのかよ!!居てよかったじゃんしのぶさんちに!!」
「いや…治療終わったし一箇所に固まっているより」
「あんな悲しい別れ方をしなくてよかっただろ!!!」
「いや…指令が来た時動きやすいように…あと炎柱の…」
「バカバカバカァ!!!」
善逸は炭治郎の話を無視してすべて遮り泣き叫んだ。
おまけにボカボカと炭治郎の頭を叩きだす始末に、炭治郎はもう何も言えなかった。
『善逸やめなよ…』
背中に伊之助が引っ付いている○○が止めに入るが、伊之助にグイグイと服を引っ張られ振り向かざるをえなくなった。
「オイ○○!!オイ!オイ!!」
『はいはい、どうしたんだい伊之助?』
伊之助は○○の羽織を握る力を強めると、震えながらある物を指さした。
「なんだあの生き物はーー!!!」
叫ぶ伊之助に、炭治郎と善逸も静かになり指の先にあるものを見た。
伊之助が怯えていたものは"無限"と書いてある汽車の事だった。
伊之助は山で育ったため汽車を知らなかった。
「こいつはアレだぜ、この土地の主…この土地を統べる者。この長さ、威圧感、間違いねぇ…!今は眠ってるようだが油断するな!!」
「いや汽車だよ知らねえのかよ」
都会育ちの善逸が思わずツッコむが、伊之助は止まらなかった。
周りが白けた目で見ている事に善逸以外は気がつかない。
「シッ!!落ち着け!!」
「いやお前が落ち着けよ」
「まず俺が一番に攻め込む!!」
伊之助は○○の羽織から手を離すと守るように前に出た。
その様子に○○と炭治郎は真剣な顔をして口を開いた。
「この土地の守り神かもしれないだろう!」
『そうだよ。それから急に攻撃するのはよくない、まずは話し合わなければ』
○○と炭治郎もまた汽車を知らなかった。
善逸は思わず真顔になった。
「いや汽車だって言ってるじゃんか、列車わかる?乗り物なの、人を運ぶ。この田舎者共が」
善逸の言葉に炭治郎は目を丸くした。
「ん?列車?じゃあ鴉が言ってたのがこれか?」
「鴉が?」
炭治郎の目的がよく分からない善逸と○○は首を傾げた。
すると、少しの間静かだった伊之助が突然汽車に頭突きをした。
「猪突猛進!!」
「やめろ恥ずかしい!!!」
どよめく周りに常識人の善逸が叫んだ。
この場で今一番頼れるのは間違いなく彼であった。
そこに騒ぎを聞きつけた駅員が笛を吹きながら現れた。
「何してる貴様ら!!」
「げっ!!」
急に怒鳴られた事に善逸を除く三人はハテナを浮かべる。
「あっ!刀持ってるぞ…!!警官だ!警官を呼べ!!」
「やばっ!やばいやばいやばい!!逃げろ!!」
焦って逃げる善逸に、三人は訳が分からないという顔で後ろをついて走るのだった。
世間知らずにも程がありすぎである。
「政府公認の組織じゃないからな俺たち鬼殺隊、堂々と刀持って歩けないんだよホントは。鬼がどうのこうの言ってもなかなか信じてもらえんし混乱するだろ」
善逸の冷めた物言いに炭治郎は眉を下げた。
「一生懸命頑張ってるのに…」
『鬼を見たことがない方もいるからね…こればかりは仕方ない。とりあえず刀は背中に隠していようか』
○○の言葉に三人がそれぞれ背中に刀を隠した。
「丸見えだよ服着ろばか」
伊之助が得意気に背中の刀を見せてきたため善逸は呆れた。
「無限列車っていうのに乗れば煉獄さんと会えるはずなんだけど、既に煉獄さん乗り込んでいるらしい」
炭治郎が何かの紙を見ながら言うと善逸が動いた。
「その人に会うのかよ。じゃあ切符買ってくるから静かにしてるんだぞ」
「わかった!ありがとう」
『ありがとう善逸』
箱を背負い直しながら笑う炭治郎と、伊之助の首にマントのように風呂敷を結び微笑む○○に善逸はデレっとだらしなく笑った。
「うおおおお!!腹の中だ!!主の腹の中だうぉおお!!戦いの始まりだ!!」
「うるせーよ!!」
『伊之助、静かにね』
騒ぐ伊之助に善逸が注意したのを見て○○は苦笑した。
こうなると伊之助は止められない。
「柱だっけ?その煉獄さん。顔とかちゃんとわかるのか?」
伊之助の面倒を○○に任せた善逸は、炭治郎に問いかけた。
「うん、派手な髪の人だったし匂いも覚えているから。だいぶ近づいて…」
「うまい!」
「「『!?』」」
突如聞こえた大声に四人は驚いた。
怯えた伊之助は○○にしがみついた。
彼はたまに小心者である。
声がした方へと歩みを進めると、そこには不言色の髪に毛先が赤く染まった、吊り上がった眉毛が凛々しい青年が座っていたのだった。
「うまい!」
一口食べるたびに叫ぶ煉獄に、四人は呆気にとられた。
『あの方が煉獄さん…?』
「うん…」
「ただの食いしん坊じゃなくて?」
「うん…」
迷惑なくらいうまいを連呼する煉獄に、炭治郎達は少し引いた。
炭治郎は微妙な顔をしながら煉獄に近づく。
「あの…すみません」
「うまい!」
「れっ煉獄さん!」
やっと呼びかける声に気づいたのか、煉獄は炭治郎へと顔を向けると深く頷いた。
「うまい!」
「あ、もう、それは、すごくわかりました」
変わっている煉獄に炭治郎は完全に引いた。
これには○○も苦笑するしかなかった。
そんな○○が目に入ったのか、煉獄は○○の顔に焦点を合わせる。
途端、彼の大きな目がカッと見開き笑顔のまま固まった。
「れ、煉獄さん…?」
『大丈夫ですか?』
心配そうな顔で煉獄を覗く○○に、彼は汗が噴き出し頬を染める。
「愛い!!!!」
「『えっ』」
意味のわからない言葉を叫んだ煉獄に、唯一わかった善逸の顔が引き攣る。
(はは、この人もかよ…ご愁傷さま)
炭治郎、煉獄が二人で座り、通路を挟んだ隣の席には善逸、伊之助。
その向かいに○○が座った。
「うむ!そういうことか!だが知らん!ヒノカミ神楽という言葉も初耳だ!君の父がやっていた神楽が戦いに応用できたのは実にめでたいがこれの話はこれでお終いだな!!」
期待していた分、炭治郎は煉獄の言葉にショックを受けた。
「えっ!?ちょっともう少し…」
「俺の継子になるといい!面倒を見てやろう!」
「待ってください!そしてどこ見てるんですか!」
「炎の呼吸は歴史が古い!」
(変な人だな)
聞こえてくる二人の会話に善逸は汗を浮かべた。
『わあっ!すごいね伊之助、目線が高いね!』
「○○!ここは主の腹の中だ!油断するなよ!」
『うんっ』
(はしゃいでるなぁ)
窓の外を見てはしゃぐ二人に、善逸の心はホッコリした。
今日だけは善逸が保護者である。
突然ガタンと揺れた汽車に、伊之助と○○は驚いた。
「おっ動きだした」
どんどん速くなる列車に伊之助は目を輝かせ、窓を開け外に身を乗り出した。
「うおおおお!!すげぇすげぇ!速えええ!!」
「危ない馬鹿この!!」
『伊之助!落ちてしまうよ!!』
善逸が猪頭をひっぱたき、○○は伊之助が落ちないように腰に腕を巻きつけた。
「俺外に出て走るから!!どっちが速いか競走する!!」
「馬鹿にも程があるだろ!!」
『もう伊之助!落ちちゃうってば!』
騒がしい三人に煉獄が顔を向けた。
それと同時に、○○が伊之助を窓から列車内に戻すことに成功した。
「危険だぞ!いつ鬼が出てくるかわからないんだ!」
「『え?』」
煉獄の言葉に、驚いた善逸と○○の声が重なった。
善逸の顔が恐怖に染まる。
「嘘でしょ!?鬼出るんですかこの汽車!!」
「出る!」
「出んのかい嫌ァーーーッ!!!鬼の所に移動してるんじゃなくここに出るの嫌ァーーーッ!!俺降りる!!」
相変わらずな善逸に○○は苦笑した。
もはや毎回恒例である。
「短期間のうちにこの汽車で四十人以上の人が行方不明となっている!数名の剣士を送り込んだが全員消息を絶った!だから柱である俺が来た!」
「はァーーーッなるほどね!!降ります!!」
煉獄の説明についに泣き出した善逸の頭を、○○は優しく撫でたのだった。
瞬間、善逸は○○へと強く抱き着き顔を埋めて泣いた。
そして伊之助は怒った。
すると奥の通路から俯いた男が歩いてくるのが見えた。
この汽車の車掌である。
「切符…拝見…致します…」
「??何ですか?」
車掌の行動にハテナを浮かべる炭治郎に、煉獄は丁寧に答えた。
「車掌さんが切符を確認して切り込みを入れてくれるんだ!」
「おりるううう!!!」
泣き叫ぶ善逸を宥めていた○○は、嫌な気配を感じ取り目を閉じた。
予知である。
手の鬼の前で土下座をする車掌。数人の子供達。
眠る炭治郎達の姿。
最後は、誰かが首を刎ねる姿。
流れ込んできた情景に○○は目を見開いた。
すぐに椅子から立ち上がろうとしたが、それは叶わなかった。
気づくのが遅すぎたのである。
言うことを聞かず勝手に閉じていく瞼に、○○は悔しさから歯を食いしばった。