お粗末!
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『ねえ、おそ松兄さん』
「ん、何?」
『何じゃないよ、なんで漫画読んでるの?平日の昼間なんだけど』
「読みたいから読んでる、ただそれだけだ!」
『いや理由になってないし…もういいや』
ハタ坊の会社に出勤したはいいものの、今日は忙しくなるから○○ちゃんは帰って休むといいジョ〜なんて言ってくれたから、それに甘えて帰ってきたら案の定これだよ。
おそ松兄さん達の年齢くらいの男性なら、殆どの人は就職をし安定した収入を得て、結婚していてもおかしくないというのに。
どうしてこうも兄達はマダオなんだろう。
『ほんっとダメ兄貴ね…』
「ねー!○○今日もう終わったんでしょ!?野球やろ野球!!」
『もちろんいいよ!!さあやろうか!』
「お前も大概だよなぁ」
デレデレしながら私は野球盤をやる十四松兄さんとトド松兄さんの傍に腰を下ろした。
その時、玄関から「ただいまー」とチョロ松兄さんの声が。
一応六つ子の中では割とまともに仕事探しをしているようで、朝から外出していたようだ。
そして、スラッと障子を開けたチョロ松兄さんは絶句していた。
「平日の昼間なんだけど………」
「あ、おかえりチョロ松」
「おかえんなさーい」
「皆仕事探しは?もう完全に諦めてるよね」
チョロ松兄さんも私と同じことを思ったのか、眉間にシワを寄せながら言う。
「あれ?またイライラしてる?」
「やだねぇ、欲が強い人は」
「どういう意味」
「就職就職言うけどさぁ俺達これ以上何を望むって言うんだよ。家もある、食べ物も着る服もあるんだよ?その上仕事に就こうなんて贅沢すぎ、ねっ赤塚先生。これで、いいのだ!」
「よくないよ!!」
『流石にクズすぎでしょ兄さん』
おそ松兄さんのクズ発言にチョロ松兄さんが声を荒げ否定する。
何先生を盾に正当化しているんだ、六つ子揃って無職は洒落にならないと言うと、トド松兄さんがもし将来なにか困ったことがあれば六人、そして私で助け合えばいいと言いだした。
「妹に養ってもらうとか兄としても人間としてもダメだろ!こんだけ兄弟居てまともなのが○○しかいないのが問題なの!!」
「フッ…まともじゃない、か……褒め言葉だ。バーン」
「ね!?」
「食えてるからいいじゃん」
「親と○○の金でしょ!?こんなこと続けてたらいつか――……」
ガシャン!と大きな物音が上の階から聞こえ、その直後に「離婚だ!!」と両親の声が家中に響き渡った。
「………え?」
*
「いや、ちょっと待って、どういうことこれ」
机の上には既に双方の名前が書かれた離婚届が置かれていた。
見た通りだと父はそっぽを向きながら言う。
つまり、この紙の通り離婚をするのだろう。
『2人とも、なんで急に離婚なんて…』
「原因は方向性の違いだ」
「そんなバンドの解散みたいな理由で!?」
「この人とは相性がダメね」
「六つ子ともう一人作っといて何言ってんの母さん」
バンッと勢いよく父が机を叩き、とにかく解散だと叫ぶ。
そしてこの家も売り払うことにしたと告げた。
「えええーーー!?」
我が両親ながら思い切りがいい。
流石六つ子と娘を育ててきただけはある。
「皆もういい大人なんだから後は自由に生きなさい」
「ちょ…ちょっと待ったあああ!!考え直してよぉ!」
「別れるなんて言わないで!」
「話し合おうよ!」
「わかりあえるよ」
「だって僕達は」
「大切な………家族じゃないか!」
兄さん達が肩を組み、そう宣言する。
それに続くように私も立ち上がり、別れてほしくないと両親に懇願した。
そんな子供達の姿を見てか、父さんは目に涙を浮かべていたのだが、私はともかくとし、このクソニート達が純粋な気持ちで言っているわけがなかった。
――いいか!?離婚だけは絶対阻止しろ!もしも今この家がなくなったら俺達はおしまいだ…!
私にまで伝えなくていいよそんな事。
「はぁ、わかったわ。あんたら六つ子達は収入が無いから私達が別れて、この家が無くなるのが困るのね」
母さんがそう言うと、兄さん達は完全にバレていることに体を強ばらせた。
やっぱ親ハンパねぇと心の中を完全に読んでいることに驚愕していた。
「父さんと母さんはもう年なの、皆と暮らしたくても流石に七人全員引き取るなんて無理…!」
「え……」
「かといって、誰かを引き取り誰かをおいていくこともできない…だって、七人の事を平等に愛しているからぁああああーーっ!!」
おいおいと泣く母さんだったが、良いこと言っているようで酷いこと宣言されてない?とチョロ松兄さんは顔を引きつらせた。
「父さんは○○なら引き取るぞ、可愛い娘だからな」
『わーい!ありがとう父さん!』
「じゃあ母さん俺連れて行ってよー!」
「ズルい!僕を連れて行って?」
「母さん僕を!」
「お願い僕を!」
「ん……!」
それぞれの主張を聞いた母さんは、皆に平等にチャンスをあげないとと言い、面接しましょうと言った。
は?め、面接…??
『松野家扶養家族選抜面接会場』と書かれた看板が部屋の障子の前に置かれる。
そして母さんが看板に書かれている通り、今から面接を行いますと言った。
「この面接に合格した人は晴れて母さんの扶養に入れます。皆さん、存分に良い息子アピールしてください。そして今回は特別に、既に父さんの扶養家族として決定している○○さんにも面接官として参加してもらいます」
『はーい』
「それでは皆さんよろしくお願いします」
「よろしくお願いしまーーす!!」
パイプ椅子に座った兄さん達が頭を下げる。
ただ、チョロ松兄さんだけは何なんだこの狂った空間はと困惑しているみたいだ。
まあ普通はそうだろう。
でも松野家に普通を求めてはいけない。
「じゃあアピールしたい人」
母さんがそう言うと、チョロ松兄さん以外が「ハイハイ!」と大きく手を挙げアピールをする。
あの何を考えているかわからない一松兄さんですらも勢いよく手を挙げていた。
血を分けた兄弟のプライドなき戦い…!!
「すいません!!面接を始める前に一言だけいいですか?」
「えーっと…末っ子のトド松さん?」
資料のような物を見ながら母さんが言うが、息子なんだからそんな物見なくてもわかるじゃん
。
母さんほんと面白いんだから。
名前を呼ばれ、立ち上がったトド松兄さんは「僕は、この面接を辞退します」と言った。
『おお?』
「どういうこと?」
「やっぱりこんなのおかしいと思うんです。兄弟で争って母さんにまだ養ってもらおうなんて…離婚はすごく悲しいことだけど…でも僕達が自立するチャンスだし!母さん、今までありがとう!僕一人で生きてみるよ!それじゃ…」
「――……待って、合格よ」
『おおおお!』
「イエーーーーイ!!やったあああ!!一抜けフォオオオオオーーー!!!」
やられた、とトド松兄さん以外の六つ子達が頭を抱えた。
トド松兄さんはこの狂った前提を否定することで、ワンランク上の息子を一人演じ上げたのだ。
さすが人心掌握術の達人末っ子、手口がエグい。
ドライモンスターの名は伊達じゃない。
トド松兄さんに続いて、愛しの十四松兄さんが勢いよく手を挙げた。
「ハイハイハイハハイハーイ!いいっすか!?いいっすか!?」
「えーっと…」
『もちろん良いですよ!十四松さん!!』
「あいあい!十四松でーーす!!あざーっす!!」
元気に答える十四松兄さんの愛らしさときたらもう!!
「俺のセールスポイントはチャンスに強いところ!あと年間ホームラン20本は堅いよ~」
「何のアピールしてんだ!!完全に趣旨間違ってるよ!」
「肩は強いの?」
『当たり前だよ母さん!』
「遠投80mはイケる!」
じゃあ試しに投げてみてくれと言う母さんの言葉に頷いた十四松兄さんは、何故かユニフォームに着替え、おりゃーと言いながらボールを投げた。
だが惜しくも78mという結果になり、それを聞いた母さんは天を仰ぎながら「保留ね…」と言った。
そんな…!!
『「チクショーーー!!」』
「何のテストだあああ!!!肩が強いとどうなんだよ!!しかも○○まで一緒にへこんでるし!」
十四松兄さんが母さんの扶養に入れなかったら、無理を言ってでも父さんの扶養に入れてもらおう。
それも無理だったら私が養う!!
そう誓いを立てた時、次に手を挙げたのは長男、おそ松兄さんだった。
おそ松兄さんか。
どんな手口で来るんだ?
「俺は母さんと暮らしたいちゃんとした被扶養動機があります」
『んぶっ!!』
被扶養動機!?
扶養してもらう為の動機って酷くない!?
もう長男面白すぎ!!!
「俺は今まで育ててくれた母さんにいつか恩返しがしたい、ちゃんと働いて楽な暮らしをさせてあげたい…その為にもずっと暮らしていたいです!へへっ」
「………あざといかな」
「あざといとかあるの!?」
「ちょっとベタすぎ?母さん側に寄せてこられても気持ちよくない」
『んぶふっ!どんな理由…!!』
うちの家ほんと可笑しすぎる…!
「チェッ、なんだよ寄せたのに。あー思ってませんよそんな事。本当はずっとスネかじって生きていたいだけだよ~」
おお〜ぶっちゃけた!
まあクズだけど、これだけはっきり言われたら気持ちいいよね。
クズだけど。
扶養に入れてもらえないと認識した瞬間、おそ松兄さんが床に寝そべり子供のように駄々をこね始めた。
「あ~!まだ甘えていたい!勝手にご飯出てきて勝手に洗濯されてる日々を過ごしたい~~!!あ~~何もやりたくない!強いて言うなら○○に一生世話されていたい~~~!!○○~~○○~~!!」
『うーん……おそ松兄さんはいらないかな!』
「なんでだよ〜!!あ〜○○〜〜!」
可愛いし甘やかしたいけど、これは甘やかしたら更につけあがるよなぁ。
我慢我慢。
ちらりと母さんを見ると、彼女は頬を染めながら「可愛い!合格!」と言った。
この言葉を聞いて、私はやっぱり母さんの娘だなと再認識した。
一般家庭だったらこんな考えにはなんないもんね。
だってクズすぎるもん。
「えええ!?」
『まあそうなるよねぇ』
「母性本能に刺さったわ、やっぱり息子ってちょっとワガママなくらいがいいのよねぇ」
「ひゃっほ~~い!!」
「やったねおそ松兄さん!」
やっぱり松野家の血が流れていたと、改めて実感している間にも手は次々と挙がる。
次に立ち上がったのはカラ松兄さんだった。
「母さん!俺もだよ、俺も一生働かずに勝手に飯が出てくる人生を送りたい…!」
『「違う」』
「へっ!?」
「うん、全然違うよカラ松。それただのクズだからね」
『うーん、一回死んだら?』
母さんに否定され、更には私にまで失望され落ち込むカラ松兄さん。
それを他所に、一松兄さんがスッと手を挙げる。
「俺、別に一緒に暮らしたいとかはないけど…でも、誰かといないと何するかわからないっていうか…いいの?野放しにして息子の中から犯罪者が出ても」
「う…う………合格です」
『流石一松兄さん!!自分のことよく分かってる〜!』
「いや、○○!それもどうなの!?」
一松兄さんから漂う、何とも言えぬ黒い闇のオーラに押された母さんは、渋々合格と言い共に暮らしましょうと宣言した。
カラ松兄さんもしめたと思ったのか、俺も狂っているから一人にしては危険だと言うものの母さんは完全無視を決め込んでいた。
「もう黙ってろカラ松!最悪俺が養ってやるよ!」
3人合格したため面接を終了しようとしたところ、チョロ松兄さんはもう終わりなのかと言う。
母さんはもう三人もとったのだから後は父さんに相談しなさいと突き放した。
「○○もいるし、なんとかなるでしょう?」
「うん!俺は○○がいたらそれでいいかな!!」
『はあ〜ん!私も十四松兄さんがいたらそれでいいよ!!』
チョロ松兄さんとカラ松兄さんはとりあえず置いとくとして、十四松兄さんと一緒に暮らせるなんて夢のようだ!!
トド松兄さんいなくなったら私に構ってくれるよね!ね!!
「ちょっと待って母さん!冷静に考えて欲しいんだ、誰と暮らせば本当に幸せかを!」
「え…?」
「おい!面接はもう終わりだよ」
「見苦しいぞ!」
「六つ子の中で一番の安牌は僕だよ、就職する可能性も高いし結婚もするだろう」
チョロ松兄さんの言葉を聞き、おそ松兄さんやトド松兄さんが結婚とか関係ないし、話をそらすなと野次を飛ばす。
だが関係あるんだとチョロ松兄さんは首を振る。
だって結婚したら孫の顔を見せることが出来るのだから、と母さんに詰め寄りそう言った。
くっ、孫は強い。
「きたねーぞ、アイツ反則だ!!」
「孫はずるいぞ腐れ外道!!」
母さんは孫と言うワードに騙され、チョロ松兄さんを扶養メンバーにしようとしているとおそ松兄さんが孫なんて僕達にもできるから、と言う。
それを聞いた母さんは冷静に「この中で一番性欲は誰が強いんだ」と言い出し、完全に正気を失っていた。
いやあ、それはやっぱカラ松兄さんとか十四松兄さんなのでは…
いや、チョロ松兄さんかな……
「ハハハハ!!やはり親にとって孫は魅惑のステータスだったようだなぁ!!」
「畜生、あと少しだったのに…!ノーマークだったぜ」
「まさか孫とはねっ…」
「扶養の座は渡さん!」
兄さん達は養ってもらい、食わせてもらうのは自分だとそれぞれが意見し出し、遂に喧嘩をし始めた。
そんな兄さん達を母さんはおろおろと困った様子で見ていると、遂に母さんは「やめなさいニート達!」と叫んだ。
兄さん達はピタリとおとなしくなる。
さすが母、強い。
「もうおしまい、母さん兄弟で争う姿なんて見たくない…それは父さんも同じはずよ、ね?」
『あれ、父さん…』
「まさかこんな事になっているとはな…」
「面接なんて馬鹿な真似させてごめんね、○○まで巻き込んで…本当にごめんなさい。父さんも母さんも違う解決の道を考えるから」
「そうだな…」
『父さん、母さん。それ本当…?』
口から出た言葉は情けなく震えていて、平気だと思っていてもやはり離婚はしてほしくなかったのだとやっと気づいた。
それを聞き安心したのか、兄さん達も涙を流しながら良かった良かったと私を強く抱きしめた。
抱きしめたのだが────
「えー只今より。松野家扶養家族ドラフト会議を始めます。お父さんベアーズ第一回選択希望息子はは松野チョロ松、三男孫保証。お母さんファイターズ第一回選択希望息子は松野チョロ松、三男孫保証――…さあ注目の抽選の結果は!」
「……自立しよう」
『…うん』