お粗末!
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『ただいま〜』
ガラガラと立て付けの悪い戸を開いて家に入ると、玄関には一つ赤い靴が脱ぎ捨ててあった。
あれ、おそ松兄さんだけなんだ。
「○○!おかえり〜!」
私が帰ってきたことに気づいたおそ松兄さんは、部屋の障子を乱暴に開けるとすごい勢いで抱きついてきた。
『うおっ!?あっぶな…どしたの兄さん』
しっかり踏ん張って抱きとめてやると、兄さんはポッと頬を染めて胸に顔をうずめ甘える
「兄ちゃん1人ですっごい寂しいし暇だったんだよ〜どこ行ってたんだよ〜」
『どこって、仕事だけど』
「あ〜…ハタ坊んとこ行ってたの。お前そこ辞めれば?」
兄さんは私の胸から顔を離すと、そのまま肩に顎を乗っけだした。
顎が刺さって地味に痛い。
『なんで?』
「ハタ坊昔っからお前のこと好きじゃん?お前のために会社建ち上げるとか普通じゃねえしさぁ。それにお前は出勤するだけで金もらえてんじゃん?帰る時間も自由みたいだし??俺はお前がハタ坊の嫁になるのも、ハタ坊が俺らの弟になるのも嫌なわけよ」
『ええ?自分のために建ち上げたんでしょ?確かに好意的だけど…早く帰してもらえるのは私にまで回す仕事がないんだよ。社員さん多いしね。でもそれで給料貰うのも悪いから、確かに辞めようかな…』
兄さんの言い分に納得できなくてそう返すと、兄さんは大げさにため息をついて私から離れた。
「うっわぁ…ここまでくるとハタ坊可哀想だな…まあそれでいいんだけど。うんうん、辞めちまえよ」
『??うん、今度ハタ坊に言ってくるね』
とりあえず、ずっと玄関で話してるのもあれなので、離れてもらい1度部屋へと着替えに行く
「なあなあ、お兄ちゃんとどっか行こうよ〜」
『おわっ、びっくりした…ノックくらいしてよぉ』
「なはは、ごめん」
ちょうど着替え終わったと同時に、スラッと障子を開けるもんだからびっくりした。
別に兄妹だから着替え見られるのは構わないけど、兄さんが鼻血吹くから毎回そこだけが心配なんだよね。
「もう準備できた?早く行こ〜?」
『はいはい行こうね』
おそ松兄さんは私の返事に気を良くしてニコニコしながら腕を組んできた。
何歳になってもこういうとこ可愛いんだよなあ、妙に似合うし。
クソニートだけど。
高校の友達によると、私が兄さんとお揃いのオレンジ色のパーカーを着ていると、どうやら周りからは兄弟ではなく、カップルのペアルックに見えているらしい。
なんせ顔が違いすぎるからなあ。
私って拾われっ子なのってくらい似てないし、小学生の頃はこれでよくいじられた。
あの時はすごく悲しかったけど、大人になればどうという事は無い。
「○○と2人で出かけるのほんと久々だよな〜…ん?」
『どうかした?』
おそ松兄さんが急に立ち止まって、組まれたままの腕が引っ張られ私もつられて止まる。
視線を辿ってみるとそこには小さなライブ会場。
入口の側には「橋本にゃーライブ」の看板。
この人って…
「おもしろそうじゃん!行ってみようぜ!」
『はいはい』
「にゃんにゃんにゃんにゃーーーーーん!!」
「よっしゃいくぞーー!」
「アメショ!ペルシャ!ミケ!マンチカン!スコ!シャム!ロシアンブルー!!にゃーちゃん!超絶可愛いよ!にゃーちゃーーーん!!」
ライブ会場に入るとにゃーちゃん?の熱狂的ファン達がものすごく盛り上がっていた。
おお、おお、楽しそう
「ひゃー、すっげーね!熱狂的〜あっ、この後握手会だって。それも行こーぜ!」
『いいとも〜』
数分後、ライブは終わりファン達は熱が収まらないまま、握手会の列に次々と並んでいく。
『おお〜!あ。あれ、チョロ松兄さんじゃない?』
「おーほんとだ。何やってんの」
おそ松兄さんはチョロ松兄さんを認識すると、私と組んだ腕をそのままに、チョロ松兄さんへと向かい話しかけた。
「アクシデンツッ!!」
え、なに今のおもしろい。
顔を真っ青にして叫んだチョロ松兄さんは、何でいるんだよという視線を寄越してくる。
「へぇー、こういう趣味あんだね」
「なななな、何やってんだよおそ松兄さん!それに○○まで!!」
「んー…顔は結構普通じゃない?クラスに居るレベル?つーか○○の方が可愛い」
「そりゃ確かに○○の方が……ってコラァァァ!!」
「チェキ千円!?たっか!」
『稼ぐね〜』
「言うなそういう事!」
「愛してるぞ!○○!!」
『ええ〜?ありがとー!』
「こんな所で妹の名前叫ぶな!!○○も喜ぶな!!」
3人でわちゃわちゃと茶番を繰り広げていると、ついにチョロ松兄さんの番が回ってきた。
チョロ松兄さんはデレデレと寄っていき、ゆっくり手を伸ばすが
「ごめんなさい、何か変な人に絡まれちゃって」
「初めまして松野おそ松でーす。いつも弟がお世話になってます」
なんと、おそ松兄さんがチョロ松兄さんよりも先ににゃーちゃんと握手をしてしまった。
私と組んでいた腕を素早く解いて、わざわざ弟の邪魔をしに行ったのである。
まじもんのドクズニートである。
「どおおおおおい!?なんでお前が握手してんだよ!!」
「あの、ホント良い奴なんで良かったら一回だけでもセックスさせてやってください」
「に゛ゃあぁ…!?」
「バカバカバカ!セックスとか言ってんじゃねーよ!!すいませんね、にゃーちゃん…!」
『そうだよ!こんな可愛い女の子にそんな事言っちゃダメでしょ!?』
叱りつけてもおそ松兄さんのバカな口は止まらず、更にド下ネタはエスカレートしていった。
「えー好きな人の前でセックスとかマズくない?」
「いやお前がセックスって言ったんだろ!」
「えっ、今俺セックスって言った?セックスって言った!?」
「お前セックスって言いたいだけだろ!!」
『ねえ、やめなよこんな所で』
「セックス」
「普通に言うな!!」
『だからやめろって言ってんでしょ』
おそ松兄さんは次々と「アレしてやってやコレしてやって」とにゃーちゃんに言い、もういい加減にしろと私が拳骨をして気絶させた。
チョロ松兄さんがわざわざ礼を言って、やっと握手をしようとしたその時、時間だと剥がしの人に引き剥がされてしまった。
うわあこれは怒られちゃうなあ。
私がもっと早く、あの馬鹿を沈めておけばこんな事には…
落ち込んでいるチョロ松兄さんと、私の拳骨から復活しおとなしくなった馬鹿松を外に連れ出す。
するとすぐさまチョロ松兄さんは馬鹿松に無言でアッパーを繰り出した。
おお、ナイスナイス!
「え…ええーー!手ェ出したよこの人!」
「失せろ、貴様は今日限り赤の他人だ……!」
流石にチョロ松兄さんがガチ切れしていることに気づいたのか、またもや私と腕を組んでしょんぼりしながらその場を離れた。
「んっだよ、良かれと思ってやったのに」
『あれは兄さんが悪い』
「そうかなぁー?ダメかなぁー?」
チョロ松兄さんに縁を切られたおそ松兄さんは、悪びれた様子もなく殴られた頬を摩りながら不貞腐れていた。
自業自得という言葉を知らないのだろうか。
「あ!あれカラ松じゃね!なぁ、驚かしてやろうぜ!」
池の橋でカッコをつけているカラ松兄さんを発見したおそ松兄さんは、ルンルンとスキップをしながら彼の元へ行ってしまった。
私はこの後起きるであろう事を想定して胃が痛くなった。
カラ松兄さんの肩を叩くおそ松兄さん。
振り返ったカラ松兄さんはおもむろにサングラスを取り彼はキメ顔で、こう言った。
「やっと来たかい、カラ松ガールズ……」
「んばあああ!」
「おうふぁああああああ!!?」
変顔をしたおそ松兄さんにビックリしたカラ松兄さんは、そのまま真っ逆さまに池へ落ちていった。
勿論その後どうなったかと言うと殴られ、頭のてっぺんに大きなたんこぶを作っていた。
「ちょっと驚かそうとしただけじゃん、サービス精神じゃん!殴らなくても良くない!?」
『そろそろウザ絡みやめなよ小学生かよ』
「んええー?」
場所を変え商店街を歩いていると、前方から末っ子トド松兄さんが可愛い女の子二人を連れ歩いているのが目に入った。
「あ、あれトド松じゃん行こうぜ○○!おーい!トド松ーー!」
『邪魔しちゃうのかあ』
「何?デート中?丁度良かった俺達も混ぜてよ今日暇なんだよ、チョロ松もカラ松もひどいんだぜ?全然相手にしてくれなくて――…」
そういうおそ松兄さんだったが、トド松兄さんの目はずっと私の方を向いている。
「あ、○○!仕事終わったんだね、お疲れ様〜!今から買い物?いつもありがとうね!今日は早めに帰るから、それじゃまた!」
『え?う、うん。また』
やはりトド松兄さんは意図的に長男を無視していたようで、その後も一切おそ松兄さんの方を見ることなく去って行ってしまった。
「だれー?あの可愛い子」
「妹。でしょ?ありがとう!」
「うんうん超可愛かったー!!じゃあもう一人の方は?」
「え、誰それ?」
「妹さんの横に居た男の人だよ~」
「ええ~知らなぁ~い」
そんな冷たい言葉を聞いたおそ松兄さんは膝から崩れ落ち、ガタガタと震えて肩を抱きしめた。
「さ…寒い…!寒いよ……!!」
『嫌われたねえ』
私が差し出した手に掴まると、さっきよりも更にきつく腕を組んで歩き出す。
「クソが!!もう誰も信用しねぇ!!あ、○○はするけど」
『ありがと〜もう帰る?』
「うーん……あ、一松…?」
『え!!どこどこ?』
おそ松兄さんの視線の先を見つめると、細い裏路地に入っていく一松兄さんの姿があった。
また猫に餌あげてるのかな?
「にゃあーん」
裏路地の奥で一松兄さんはしゃがみ込み、やはり野良猫をなでていた。
その猫は随分懐いているようで、一松兄さんの手に顔を摺り寄せていた。
あまりの推しの萌えっぷりに、おそ松兄さんの腕をぐっと抱き寄せると苦しそうな声がした。あ、ごめん。
一松兄さんへと向き直ると、突然兄さんは猫を抱え上げ激しい爆風と共に輝き始めたのである。
『え、なに…』
爆風が晴れると、そこには先ほどの猫と合体した一松兄さんが鋭い目で此方を見ていた。
「えええええ!?」
そして猫一松兄さんはぴょんぴょんと壁伝いに上へと上へと上がり「にゃーん」と一声鳴き、姿をくらませた。
「あ…あああ……し、知らなかったぁ……!」
共に生まれて二十数年、兄弟の知らない一面ってまだあるんだ…
おそ松兄さんはトボトボと歩き出した。
すると、すぐ側の川から急に謎の叫び声が聞こえ、覗き込むと物凄いスピードで十四松兄さんが泳いでいた。
「うおーーーん!!おおおーーーーーーーん!!」
「し、知らない一面って…まだ、あるんだ…」
『はあ〜、十四松兄さんかっこいい…』
「俺たまにお前がわかんない」
*
「ビール!」
「ビールじゃねえ!てやんでぇバーロー!」
おそ松兄さんと私はその後、チビ太の経営するハイブリットおでんへと訪れていた。
「今までのツケ、全部払ってもらうまで一杯も飲ませねぇぞコンチクショー」
『兄さんったらまたツケたの?ごめんねチビ太、いま払うよ〜いくら??』
「えっ、あ、ああっいや!別に○○ちゃんが払う必要ねえよ!財布しまって!」
「まーまー、○○。財布しまえよ〜。そう言うなよチビ太…今日は色々参っちゃってんだ…」
机に突っ伏したおそ松兄さんがボソボソ最近弟達と上手くいっていないんだ、もしかしたら俺は嫌われているのかもしれない、そう言った。
そんな兄さんの前に一升瓶が置かれた。
チビ太が一杯だけサービスしてくれたようだ。相変わらず優しいなあ。
その酒をありがたく頂きながら、おそ松兄さんは今日あった話をぽつりぽつりと話し始めた。
「てやんでぇバーローチクショー!!そりゃ嫌われるよ!テメェが悪いんじゃねーか!」
『んはは!だよねえ』
「なんで俺が!?○○までなんでぇ~?」
「お前が茶々入れて話をややこしくしてるだけじゃねーか、兄弟なんだからもっと大事にしてやれバーロー」
チビ太の言葉におそ松兄さんがぴくりと反応する。
こんなの言うのは初めてだけど、子供の頃チビ太は六つ子が大嫌いだったそうだ。
でもそれは反面、羨ましかったから。
喧嘩…できるだけいいじゃないか、チビ太はずっと喧嘩できる相手すらいなかったんだぞ、そう私達に話した。
ああ、その気持ちわかるなあ。
私も昔はよく疎外感を感じていたし。
羨ましかった。
「ほら、水飲んで帰りやがれ。長男が弟心配させてんじゃねーやい」
これでおそ松兄さんも納得して家に帰るだろう。
そう思ったが、このバカがそう簡単に納得するわけがなかったのであった。
「で?」
「え?い、いやだから、兄弟を大事に――…」
「関係なくない!?お前が兄弟欲しかった事と俺があいつらにムカついてる事と今関係なくない!?何感動させようとしてんの?無理なんだけど!そんなん言ったら俺だって一人っ子がよかったわ!ある!?ダースで服買われた事!地獄だよ!?アイデンティティー崩壊するよ!?何処行っても指さされるし幾つになっても比べられるし、六つ子って五人の仲間が居ることじゃないからね!五人の敵だからね!!帰る!!」
長々と不満を言ったおそ松兄さんは机を叩き立ち上がり、たった八円だけ机の上に残し帰っていった。
『ほんっとガキだなあ…チビ太、はいこれ』
「え…っでええ!?」
私はチビ太に一万円札を差し出した。
今までツケた分、今日の分、迷惑をかけた分だと渡したのである。
「いやアイツこんなにツケてねーぞバーロー!こんなもらえねーよ!」
『そんな事言わないでよぉ、これからも兄さん達と仲良くしてねって気持ちも込めてある分だから。じゃあまたね。ごちそうさま!』
「おっ、おい○○ちゃん!」
それだけ言って、私は先に帰ってしまったおそ松兄さんの後を走って追いかけた。
(あいつらの妹なのに、何であんなに可愛くて気遣いもできる素晴らしい女の子に育ったんだろう……ホント好きだぜ○○ちゃん…)
*
「兄弟大事にしろ!?うっせえよ!!遊んでくれなかったのあいつらだし!!」
『ほら静かに。近所迷惑でしょ?』
「なんだよ!だって俺悪くねーし!!」
『静かにって言ったでしょ?』
「ゴメンナサイ…」
家の戸を静かに開け、おそ松兄さんを先に通すと彼はまたもや不機嫌に言う。
さっきより静かだし良しとしよう。
「長男だからって何!?アレが一番ムカつく!いや六つ子だから!皆同い年だから!」
ドタドタと歩きながら、茶の間の障子に手をかけたおそ松兄さんの動きが止まる。
『兄さん?』
「けど…一応、俺…長男だしな…」
『……兄さん』
俺、謝るよ。そう言ったおそ松兄さんは障子を開け、今日はごめん!と中に居る五人の兄弟に謝罪の言葉を述べた。
「……ん?」
「どっわー!ロイヤルストレートフラッシュかよ!ニューおそ松兄さん!」
「ホント強いね!ニューおそ松兄さん!」
「イカサマじゃね?」
「おい一松!先代じゃないんだから」
「確かに」
部屋に入ると、ポーカーをしている五人の兄弟、そして――…見知らぬおじさんが一人。
何故か彼は"ニューおそ松兄さん"と呼ばれていた。
『あ、あはは』
「あ!遅いよ○○~!○○もニューおそ松兄さんと一緒にポーカーやろうよ~」
「――…なぁ、チビ太…こいつらこういう奴らだから…わかんだよなぁ…俺…長男だから……!!」
おそ松兄さんは般若のように顔を歪めると、ニューおそ松兄さんを掴み上げ、ぶっ飛ばし叫んだ。
「だぁれだテメェェェェ!!!!」
『ご愁傷様でーす』