短編
名前
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ラピスラズリ
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数十本もの矢を休む暇なく放ってくる月人に矢を弾き返すが、数が多いせいか一向に勝機が見えてこない。
(さて、どうする…先生は瞑想中、ほかの見回り組は場所が離れすぎてるし…ゴーストもボロボロで助けを呼ぶ暇もなし…絶体絶命だな)
真正面に向かってきた矢を思いきり弾き返して、なんとか数体を倒せた
でも、まだまだ数が多すぎる
目を凝らして月人の次の行動を観察していると、喉に小さな穴が開いているのに気づいた
おや、今まであんなものあっただろうか
「っラピス!上!!」
あまりに集中しすぎていたせいか、ゴーストの声に反応が遅れ、体が動いたときにはもう遅かった
まずはお腹、それから足、腕
体が次々となくなっていく
わあ、まいったなぁ。
遂に僕も月行きになってしまうらしい
自分の散っていく藍の破片を見ながら、ぼうっとそんな事を思った。
ボロボロのゴーストが僕に手を伸ばしているのが見えた
ごめんね。君も、君の中の子も置いていくことになってしまいそうだ
絶体絶命だというのに、妙に頭は冴えていて、ここにはいない愛しい彼の事が頭に浮かんだ
ゴースト達の面倒を見る前にお世話していた子
名前は○○
(○○…うん、僕は今すごく、○○に会いたい…)
結局ゴースト達の教育係になってから、彼とは随分疎遠になってしまったから。
(ろくに話もできなくて…構ってもあげられなかったなぁ)
愚かな僕が手放してしまったから、君は月へ行ってしまった
目を閉じると、彼との思い出は鮮明に蘇った
君は読み書きが嫌いで
よく読ませていた本を僕の顔にぐずりながら投げつけてきたり
僕の名前を書きたいと言って教えていたのに、それに飽きて紙をびりびりに破いて、ペリドットに2人揃って怒られたり、
そのくせして、好きなことにはとことん没頭して
それに、笑った顔がすごく可愛くて
幼げな声はいつも元気で大きくて
大胆な行動ばかりとって
僕を困らせた愛しい愛しい子
どうしよう
僕もそれなりに未練が残ってるんだなあ
今更、君に会いたいなんて
話したいなんて
触れたいなんて
名前を呼んでほしいなんて
笑いかけてほしいなんて
本当にどうして今更なんだろう
もう、いないのに
会えないのに
君はきっと1人で、ずっとずうっと、寂しい思いをしていたのに
僕は君をほったらかして、嫉妬してほしいからって話しかけることもしなくて
それで君は僕から離れていったのに
どれもこれも全部全部僕が悪いことなのに───
だからきっと
神様は、僕に罰を与えたのだろう
今ここで裁かれるべきなのだ。
○○、ごめんなさい。ごめん、ごめんね○○、大好きだよ。
結局君に愛してるよなんて言ってあげられなかった
一番伝えたかった言葉を
それに、一番君を必要としていたのは僕で
依存していたのも僕の方なのに
突き放したりなんかして
本当に
僕は愚かだ。
ピキッと顔にヒビが入る
自壊なんて初めてだ
月に行く前に体験できて、なんだが感動してしまった
僕にも、それらしい感情があったんだな
視界の端にチカッと何かが光ったのが見え、焦点を合わせると、そこには1本の矢が迫っていた。
その矢の先には、僕の大好きで愛しい愛しい君が太陽の光に反射して、キラキラと輝いていて
これが本当の罰なのか
顔を
仕草を
言葉を
思い出を
ずっと覚えていたいのに───
「○○…」
愛しい愛しい君の名を紡いだのと同時に、迫ってきていた矢が首に刺さって割れる感覚がした。
最後は愛しい愛しい君にトドメをさしてもらえるんだ。
僕はこの世界で一番の幸せ者なのかもしれない、なんて
ああ。でも嫌だ
知っているんだ。
これは君じゃないって
ニセモノだって
ねえ、○○
君を
○○を
最後まで
忘れたく────
バキイィッ
(……なにを、忘れたくないんだっけ…?)
ついに首が貫かれて胴体と離れたのがわかった
目の前では銀の宝石が手を伸ばしていて、
遠くからは色とりどりの美しい宝石達が走ってくるのが見えた
でも、なんだろう
何故だかわからないが、そこには僕の愛しい゛何か゛が足りないような気がした。
でもその何かがわからない
うーん、きっと気のせいだ
なんだかいろいろ考えて疲れた。
ごめんよ。おやすみなさい
ゆっくりと目を閉じると、なんだか懐かしい気配を感じた気がした。
『ラピス』
確かに小さくか細い彼の声が聞こえて、意識を浮上させ目を開けようとしたが、もう動かない
待って。
待ってよ。
そこにいるの
ねえ、○○
ぼく、伝えたい言葉が────
「ぁい…て…」
そこで僕の思考は完全に止まった。
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