短編
名前
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フォスフォフィライト
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『フォス…?』
冬眠から目覚めて、光の方を見ると、薄荷色の彼がいた
でも、なんだか雰囲気が違う
「えっと…おはよう」
『…おはよう』
皆よりひと足早く起きて彼に近寄る
髪が短い
背も高い
腕も変わってる
声だって少し低い
『変わったね』
「…まぁ、いろいろあって」
『そっか…冬の仕事をしていたの?』
「うん、彼がいなくなってしまったから」
『、そっか…』
しょんぼりしてしまった彼の頭を撫でる
あ、やっぱり背越されてる
フォスは驚いた顔をしたけど、すぐ前みたいに笑ってくれた
「まだ冬が終わるまで1週間くらいあるけど大丈夫なの?」
『平気。手伝う』
冬眠服から冬服に着替えて外に出る
『…寒いね』
「うん」
フォスはなんだかぼぅっとしてて
じっと流氷を眺めていた
アンタークの事を思い出しているのだろうか
よし、なんとか話題作らなきゃ
『前は皆で雪合戦したりして、楽しかったね』
「ゆき、合戦……?」
『え…もしかして覚えてない?』
「ごめん…」
足の次には腕までなくなったんだもんね
ほとんどの記憶がないってことか
『じゃあ、博物誌のことは』
「わからない」
『王のことも?』
「うん」
『海でのことも』
「ごめん…」
力が抜けてしまった
つい最近のことまで忘れてしまうなんて
そういえばジェードの名前も覚えてなかったな
もしかして
『わたしの、ことも…』
思わず声が震えてしまった
でも
目だけは一切そらさなかった
フォスの瞳が揺れる
しばらく口を開閉させて
ようやく声を絞り出した
「ごめんなさい…君のことは何ひとつ覚えてなくて」
『存在もってこと?』
「……ごめん」
今度こそ崩れ落ちた
そんな
そんな
そんな
『…なんで』
「あの、」
『ごめんなさい。取り乱してしまって』
『私は○○、あなたとは一番仲が良かった。改めてよろしく』
「ごめん○○…ありがとう、よろしくね」
手袋をつけた手で彼と握手する
そっか
もう手はフォスじゃないから
割れないんだった
足だってそうだ
君はいつも無茶をして
全部新しくなって
記憶すらなくしてしまうんだ
生まれた時からずっと一緒だったのに
忘れられるなんて思わなかった
『シンシャには、会った…?』
「シンシャ…そうだ、シンシャとなにか約束をしたはずなんだ」
絶望した
フォスは彼のことは覚えてるのに
他の皆を覚えてるのに
私のことは、忘れちゃうの?
息が苦しくなって自壊していく私を、君は驚いた目で見つめていた
ひどい
ひどいなぁ
君ってほんと、悪魔みたい