短編
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パパラチア、ラピスラズリ
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「あ、なあ○○、ルチル見てないか?」
『え、ルチル?さあ、知らないよ』
この世界に生まれて580年。
僕は絵を描く仕事をしている。
正確に言うと、この島の全体図を描いたり、生物、植物など、ありとあらゆるものを書いて図鑑を作る仕事かな。
その最中、1年ぶりに起きてきたパパラチアが声をかけてきたのだ。
彼から紡がれた言葉に、ズキリと胸が痛んだ気がした。
理由は知ってる。
「そうか。参ったなぁ…」
『どうかしたの?』
そう聞くと、僕が座り込んで絵を書いている隣に、彼はどかりと腰を下ろした。
え、え、なんで座るの。
鉛筆を握る手に力が籠る。
駄目だ、悟られる。平常心平常心…
「ん〜。久しぶりにあいつと組んで、戦争出たかったなって」
『っああ、そういうこと…名コンビだったもんね。2人とも強くてかっこよかった』
だんだんと尻すぼみになっしまったが、彼は気にしてない様子で僕の手から画板を奪った。
「はは、そうか?ありがとな。まあ、いないならいいや……おお、1年ぶりに見たけど、相変わらずうまいなあ…俺には到底無理だな」
『あ、ありがと。パパラチアもやろうと思えばすぐできるさ…何やってもうまくこなしちゃうんだから』
褒めてくれたパパラチアに嬉しさがこみ上げる。
だめだめ、浮かれたら。
彼は誰に対してもこうなんだから。
「うーん、それでもやっぱり俺は○○の絵の方が好きだな。生物なんて、まるで本当に生きてるみたいで綺麗だ」
『う…褒めすぎ……』
「なーに照れてんだよ…あ、ルチルだ」
僕に構ってくれていたパパラチアは、ルチルの姿を見つけると画板を僕に返して彼のもとへと行ってしまった。
ほら、まただ。
返してもらった画板をギュッと抱きしめて、息苦しいこれを我慢する。
ほんと、厄介な感情を覚えちゃったな。
彼が向かった方向に視線をやると、ルチルの腰に手を回している姿が目に映った。
彼はとても優しい目をしてルチルを見つめている。
ああ、いいなあ。
僕だってあんなふうに、見てほしいのに……
『僕のバカ……こんなこと考えたって、しかたないじゃない…』
「何が仕方ないんだい?」
『ぴっ!!』
忌々しい感情と戦っていると、僕の独り言が聞こえたのか、突然誰かが後ろから話しかけてきた。
この声って
『ラピス…』
「はは、そんなに驚かなくったっていいじゃない。隣いい?」
『ごめん。どーぞ』
僕の了承を得たラピスは、いつも通り綺麗な笑みをたずさえたまま静かに隣に座った。
ああ、彼とは何もかもがちがうな。
髪の色に雰囲気、仕草だってすべてラピスの方が美しく模範的なのに。
他にもたくさんいい人がいるのに。
どうして彼が好きなのだろう。
「何か悩んでいるのかい○○。そういう時は、誰かに話してスッキリするのもいいと思うのだけど」
『それはつまり』
「話、聞かせてほしいな」
僕の目を見て、またまたにっこりと笑ったラピスに絆され、ゆっくりと息をついた。
「ふむ、○○はパパラチアの事が大好きなんだね。でも彼は、同じくらいルチルの事が好きだと」
『ぐっ…胸に刺さるから、あまり最後の方は言ってほしくなかった……』
「ああ、ごめんね」
私の悩みをすべて聞き終えたラピスは、少し考えると唐突に私に近づいた。
『え、え、なに?』
「…○○は、自分の恋は叶わないものだと思っているかい?」
『……そりゃ、おもってるよ…』
直球に聞かれた言葉に胸が苦しくなるも、しっかりと本音を告げた。
ラピスは本当に、僕の悩みを解決できるのだろうか。
「そうか。じゃあ新しい恋を探したらいいんだよ。僕とかおすすめだと思うなあ」
『は、あ、え?』
「頭はいいし、顔は美形だし、硬度もそれなり。優良物件だと思うんだけど」
『な、なんかそんな話じゃなかったくない?パパラチアの事諦めて、ラピスの方に行くって話になってるんだけど』
ラピスは僕の目を見ると、ぱちんと華麗にウインクを決めてこう告げた。
「ずっとずっと苦しい思いをするよりいいと思ったんだよ。僕も君を想って胸を痛め続けるのに、いい加減飽きてしまったからね」
『……ぇ、え、えっ!?そ、それって…』
「うん。僕はパパラチアに恋してる君に、ずっと恋焦がれていたんだよ○○」
まさかの爆弾発言に思考が停止した。
そんな素振りなかったくせに!!
あ、待って。
思い返すと、割れた時に運んでくれたのもラピス。
僕の教育係に立候補したのもラピス。
いつも気にかけてくれるのもラピス。
あ、あれ僕鈍すぎない??
そんなにパパラチアばっかり見てて気づかなかったってこと??
「で、どうだい?お試しで僕の方に靡いてみない?」
『……ち、ちょっとお時間を…』
この事は1度持ち帰ることにさせていただいて、画板を持って撤収した。
部屋でじっくり考えよう。
「おはよう○○!見回り行くぞ〜」
『おはよう…行こうか』
朝。
結局色々考えすぎて、一睡もできなかった僕は既に死にかけていた。
いや死なないけどさ。気持ち的に、ね。
「なんか元気ないな?大丈夫か?」
『平気』
イエローの言葉に返事を返しながら巡回をする。
イエローっていつもこうやって構ってくれるよな…さすが最年長。
すばらしい自慢のお兄様だなあ。
「○○、黒点だ。行くぞ!あそこの区域はたしかパパラチアとルチルが見回りしてたはずだ!本調子じゃないあいつと徹夜続きのルチルは絶対にやばい!」
『っ急ごう!』
遠くの空に浮かんだ黒点を見て走り出す。
パパラチアもルチルも、無事でいてくれたらいいんだけど。
「パパラチア!ルチル!」
「ああ、イエローに○○か。来てくれてよかった…先生を呼んできてくれ!○○はルチルを頼む!」
飛んでくる矢を弾き返していたパパラチアは僕達に指示を出すと、割れてしまったルチルを僕に任せて月人に向かっていった。
今日も彼のお手柄かな…
閃光の如く走っていくイエローの背を見送ってルチルの様子を見る。
気絶しちゃってるな、大丈夫かな…
「あ、やば」
『へ』
聞こえてきたパパラチアの声に、ルチルから彼へと視線を移すと、そこには眠りについたパパラチアが器に入れられる最中だった。
ばっ、ばかばかばか!!
『パパラチア!!』
急いで腰の剣を抜き月人に斬りかかった。
素早く霧散させた僕は、パパラチアを割らないよう抱きしめて地上へと戻る。
「○○!大丈夫かー!?」
『イエロー…先生も…とりあえず平気』
パパラチアを先生に預けて、ルチルの破片回収にまわる。
今回も彼とは全然話せなかったな…
残念だ。
「彼、また眠ってしまったんだってね」
『ラピス…』
夜。池の前で座っていると、またもやラピスが声をかけてきて隣に腰かけた。
「寂しいかい?」
『…ちょっと』
「はは、素直だね…この前のこと考えてくれた?」
『考えたよ…いっぱい。逆に馬鹿になっちゃうくらいたくさん考えた…でも、やっぱり僕、パパラチアが好きなの。たしかにずっと苦しくて痛いままだけど…自分の気持ちに嘘をつけるほど、僕はまだ大人じゃなかったみたい……』
話しながら体育座りになり、膝をぐっと抱えると隣でラピスが微笑んだ。
「ああ、いいね。君は本当に純粋で、美しくて愚かだ…だから興味が湧いて目が離せない」
『え』
「ふふ、今はまだそのままの君で十分いいと思うよ。でもそれだと、僕もその気持ちをずっと持ち続けなくちゃいけないんだけどさ」
髪をかきあげながらラピスは微笑む。
綺麗に笑んで僕を見つめるその瞳は、いつも情熱的だ。
こんなにわかりやすいのに気づかなかったなんて…僕は本当に愚かかもしれない。
『ご、ごめんなさい』
「君が謝る必要ないさ。僕が勝手に君を想ってるんだから。ああ、そうだ○○、明日僕と散歩に行こう。気分転換は大事だ」
『ありがとう。そうだね、行こう…なんだか今から楽しみ』
「あは、本当に素直だなぁ。じゃあまた明日ね、おやすみ」
『おやすみなさい』
ラピスに別れを告げてから立ち上がり、僕も自室へと戻った。
ラピスと散歩するのは大きくなってから初めてだなあ、楽しみだ。
「おはよう。行こうか」
『おはよう、うん』
朝になり、僕の部屋まで迎えに来てくれたラピスと手を繋いで外へ出た。
昔みたいに手を差し伸べてくれたから、なんとなく繋いでしまった。
久しぶりでなんだか緊張する。
「こうやって君と散歩するのは何100年ぶりだろうね。散歩にはふさわしい、いい天気だ。」
『そうだね、懐かしいなぁ』
みんなが生まれた緒の浜、切の湿原、黄の森、色んなとこを2人で歩いていると、空に黒点が浮かび上がった。
『ラピス、あれって…』
「出現頻度が日に日に高くなるな…おもしろい。なにか法則性がないか今度探ってみよう」
『こんなときに何言ってるのもう!先生に報告を────』
ラピスと繋いだ手を引っ張った時、彼は少し目を見開いて呟いた。
「パパラチアだ…1日で起きるなんて…」
『ぇ』
ラピスの言葉に、遠くに出た黒点を見る。
その下にパパラチアとルチルがいるのが見えた。
そんな、2人とも本調子じゃないはずなのに…
『行こうラピス!あの2人じゃ駄目だ!』
ラピスの腕を引っ張って彼らのもとへ走る。
「お。○○、にラピスか。本調子じゃないときに月人とでくわしてしまった。ルチルを助けてやってくれないか」
『…わかった』
割れてしまって動けないパパラチアの言葉を聞いて、ラピスの腕を離してルチルの援護へ回る。
腰に剣下げといてよかったあ…
「○○、ありがとうございます」
『いーよ、それより集中して!』
ルチルの隣で矢や槍を打ち返して、ルチルに道を作ってやる。
よし、いけるはず…
キイインッ
高い音が響き、月人に向かったルチルを見ると、彼は大きな月人に腹を貫かれていた。
そんな!!あの大きな月人が攻撃してくるなんて初めて…!
慌ててルチルの回収に行くと、周りを月人に囲まれて矢を放たれる。
くそっ腕も足もなくなった
「ルチル!!」
聞こえてきた彼の言葉に胸が一際痛んだ。
僕のことなんか目に見えていないのか、彼は必死にルチルの名前を呼ぶ。
やめて、やめてよやだ。ルチルを呼ばないで、見ないで。
僕を見て…
「○○!」
月人が僕を持ち上げた時、ラピスの呼ぶ声がして顔を上げた。
ラピスは顔を顰めると、僕の目の前に飛んできてルチルを破片ごと地上に落とした。
と、同時にラピスに矢の雨が降りかかった。
彼の腕が、足が砕けていく。
『ラピス…』
「はは、君がいなくなるなら、僕だって一緒に行くよ。君がいないと、生きていてもつまらない事だらけだからね」
器に入れられた僕の上に、ラピスの破片が乗せられる。
「これでずっと一緒だ…」
ラピスが言い終わる前に、どこからか剣が飛んできてラピスの頭を吹っ飛ばした。
『…ぁ、えっ?え??ラピス!?どうして!!』
よく見ると、飛んできた剣はパパラチアのものだった。
息を飲み、ゆっくりと彼の方向を振り返る。
ばっちりと目が合って、彼は嬉しそうに笑って口を開いた。
「ああ、よかった。これで誰の物にもならないな、○○。わざと素っ気ないフリをして俺への気持ちを強くさせてたのに…お兄様をさしおいて抜けがけは良くないよなぁ。なあ、○○。俺が月に行くまで、待っててくれよ」
パパラチアは割れて散らばっていた自身の足を、月人に向かって投げた。
そして僕の上にパパラチアの足が乗せられた。
わからない。
なにを言ってるの、なにをしてるの。
「おやすみ○○、すぐに行く」
それだけ言うと、パパラチアは深い眠りについてしまった。
月人は僕らを乗せて雲を閉じ始めた。
遠くからたくさんの輝きが走ってくるのが見える。
怖い…
月で彼を待ってるのも。
地上で彼を待ってるのも。
『は、はは。あははっもうわかんない』
完全に雲が閉じて真っ暗になった空間で、気が狂ったように笑う僕の声が響く。
ぱきぱき、ぴき、ばきっ
『…おやすみ、ラピス』
僕は自壊した音を最後に目を閉じた。
僕は本当は誰を愛して、誰に愛されていたんだろう。
長々と考えていたけど、やがてどうでもよくなって考えるのをやめた。
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