宝石の国
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「ガーネット…ちょっといいですか」
『ルチル…どうした?』
フォスがいなくなった部屋で俯いていると、ルチルが呼びに来た。
どうしたのだろう。
「フォスに月に来ないかと誘われたんですけど…」
『ああ…やっぱり。私もその話されたよ』
私が座っているベッドに近づいてきたルチルは、またもや私の膝の上に乗り抱きついてきた。
今日は甘えたい日なのか。
「やはり…私の一存で月へ行くことはできません。しかもパパラチアを連れて…私がいなくなったら誰が皆の治療を…貴方に任せていくのも申し訳ないですし…」
『ん?私は別に気にしないよ。元々やりたい事なんてないんだ。治療は私に任せてお行きよ』
「……もう…素直に言います。私が貴方と一緒にいたいんです。だから、月に行くならついてくし、ここに残るなら私も残ります。貴方は私にとってパパラチアよりも大切なんです……この前も言いましたが、私はパパラチアを動かしたい。彼の価値を取り戻したい、私の手で」
ルチルのデレにきゅんとしながらも、冷静を装ってルチルを抱え上げた。
私の弟達、口説くのうまいなぁ。
「きゃっ」
『お前と私だけじゃ判断しかねる話だ。先生に話に行こう』
「は、はい…」
意外にもルチルは黙って私の腕に抱かれていた。
今日は甘えたい日なのか!
腕なんかは私の首にがっしりと回っているし。
今日は甘えたい日なのか!!
『…せんせ』
「先生!!フォスがいません!ダイヤとイエロー!他にも数名!!」
先生の部屋について声をかけ終わる前に、ジェードが私の声を遮った。
もう行ってしまったのか。
ジェードの言葉を聞いたルチルは私の腕から降りると、ジェードとユークの間をすり抜けて走っていってしまった。
医務室だろうな。
パパラチアも月に連れていかれたかもしれない。
やだなぁ、大好きなお兄ちゃんなのに。
彼は私がフォスを止めなかったことを知ったら、私の事を嫌いになるだろうか。
「ジェード!僕ルチルを追いかけるから先生をお願い!」
「あ、ああ」
慌ただしくルチルを追いかけて行ったユーク。本当にいいお兄ちゃんだ。
私とは大違い。
「…ガーネット、その…お前は大丈夫か?」
『……うん、平気。私、虚の岬行ってくる。イエローは、いないかもしれないけど…』
「ま、まってガーネット!」
ジェードの声を無視して、学校の外へと走る。
どこかで、イエローは私を置いて行ったりしないという、根拠のない自信があったのかもしれない。
初めてイエローと会った緒の浜も、共に見回りに行った黄の森も、どこを探しても誰1人いはしなかった。
パキパキと顔にヒビが入って広がっていくのがわかる。
だめだ。割れるな。
もっと…もっともっと探さないと。
きっとどこかに…
「セミさん、外って見れるかしら」
セミにくっついていたダイヤがそう問うと、セミは頷いて隙間を開けて見えるようにしてくれた。
開いたそこをダイヤの後ろから覗き見ると、何名もの宝石が忙しなく走り回っているのが見えた。
「ダイヤ、今なら…」
「大丈夫。遠くても目立つわね、あのこ」
なんとなく、彼が探してくれているか見てみたくてダイヤの後ろに立って外を見た。
…あ、いた。
「…はは、やっぱり…綺麗だなぁ…ガーネット……」
暗闇でも、赤黒い宝石がキラキラと光っているのがわかる。
やっぱり君にも来てほしかった。
でも、まだ何があるかわからない月へ連れていくより、地上で暮らした方があの子の身の安全はまだ保証される気がした。
だから、無理にでも連れていこうとしたけど、やめた。
僕の判断は正しかったのかな…ラピスラズリ。
僕の言葉に反応したイエローが、僕の肩越しから外を見る。
「…やっぱり間違ってたかな。あいつを置いていくのは……月には俺もパパラチアもいるのに、1人地上に残してしまって……ごめんなガーネット…すぐ戻るから」
そう言ったイエローの顔は、しわくちゃに歪んでいて見ていて苦しくなった。
ごめん、ごめんなさいガーネット…
もっと探さなくてはと、深い沖の方へと行くとボルツと鉢合わせた。
ふむ、ダイヤを探しに来たんだな。
「…お前は残ってたんだな。よかった……っお前、そのヒビ…」
『流石に可愛い弟達を置いて行けやしないよ…私もお前が残っててよかった。…これ、情けないでしょ。気にしないで』
ぽんぽんと頭を撫でてやると、ボルツは泣きそうな顔で私に抱きついた。
フォスを止められなくてごめんね。
抱き返して頭を撫でていると、モルガやネプチーを抱えた先生が迎えに来た。
宝石捜索から戻ってきた私達は、学校の前で治療を受けていた。
周りを見ると、バキバキに割れた宝石達が転がっていた。
まさかこんな事になるとは…
「全員いるな。誰も反省の必要はない」
みんな仲間がいなくなってしまった事を、酷く嘆いていた。
ルチルなんかは、顔をあげれないでいる。
「シンシャ、来てくれたか。もう少しこちらへ…もう少し」
岩陰に隠れていたシンシャはなかなか近づいてこなかったので、迎えに行って腕をひっぱってみんなの輪に入れた。
酷く焦っているのがちょっとおもしろかったです。
「ありがとうガーネット。皆に話せないことがある。私自身についてのことだ…」
先生は自分がどういう存在なのかをすべて話してくれた。
みんな驚きのあまり、ただただ黙ってその話を聞いていた。
「本当にすまない。ここから先は、私を置いていきなさい。美しい宝石の生命体よ。君らの仲間であるかつてのフォスフォフィライトについて行くというのも、ひとつの道だ」
先生の言葉に胸が苦しくなる。
先生の存在のせいで、私達宝石が狙われているというのはフォスから聞いていた。だけど…
こんなにたくさんの愛をくれた先生を、私は置いていくことができない。
「俺は」
「フォスフォフィライトは仲間ではありません」
シンシャがようやっと声を絞り出した時、ボルツがその声を遮って発言した。
ボルツも本当はこんな事言いたくないはずなのに。
「彼は正しい。月に向かいなさい、どうか………」
風が強く吹いて、シーツが大きく飛ばされていく。
悲しいな。もう戻れないのかな。
俯いていると、先生へと向かう誰かの足が視界の端に見えた。
ハッとして顔をあげると、先生の大きな手を両手で握るユークの姿があった。
「はじめまして金剛。とても長く生きてきたのね、大変だったでしょう。僕はユークレース、今日からやり直しを提案します!」
ユークの言葉に誰もが呆気にとられた。
お、お兄ちゃん、思い切ったね。
ユークの案を呑んだ先生が手袋を外し、握られていない方の手をユークの頭へ伸ばした。
「『ユーク!』」
先生は何もしないとわかっているのに、思わず声をあげてしまった。
先生ごめんなさい。
結果的に、先生はいつものように頭を撫でただけだった。
素手で撫でても割れないことを、身をもってみんなに知らせたかっただけみたいだ。
まぎらわしいぞおい。
「パパラチアはどうなるんです!?」
「今から考えましょう」
「私は月へ行きます!!」
我に返って暴れだしたルチルを宥める。
あ、懐かしいぞこの感じ。
多分そろそろ…
「えっでも実際、月きつそうじゃん」
「月いやん、僕せんせ〜とやり直す」
「若くて失うものがない奴らは黙っとれ!!バカヤローイチャイチャしてんじゃねーよ!」
でた、元ヤン。
白粉を蹴っ飛ばしてヘミモルとメロンに絡みだしたので、足払いで倒して頭を撫で回してやって落ち着かせる。
そう、まるでムツ○ロウのように。
「離せガーネット!あいつらの腐った根性叩き直さにゃ気がすまん!」
『んも〜!口悪い!めっ』
「めっ、だって」
「あの叱り方も懐かしいな〜」
「ルチル、そろそろそのポジション私に譲れ」
「はい、議長アウト〜」
なんだかんだで上手くやれそうでよかった。
フォス達が早く帰ってきたら、もっといいんだけど。
フォス達が月に行って30日、月人が来た回数は5回。
いつもの月人のパターンとなんら変わりなく、私は1人ぼーっと見回りしながら、皆が帰ってきてくれるのを待っていた。
「…ガーネット、あいつが来た。いけるか」
『…そ、う。うん、いける』
彼らが来たのは夜だった。
フォスとイエローとパパラチアの3人。
もっとも思い入れがある3人が、遂に夜襲をしかけてきたみたいだ。
いやいやながら剣を腰に付けて外へ出た。
そして、パパラチアがルチルを割ったところを目撃してしまった。
すごい、起きてる。
しかもあれ、本調子の動きだ。
ていうか、なんでルチルをそんな、躊躇なく…
ジルコンやスフェンらが、イエローを囲んだのを見て、私も加勢しに行く。
パパラチアはまずいだろ。
ああっ、ほら!全員割れちゃった。
「!ガーネット…」
「え!ガ、ガーネット…!?」
『久しぶり、お兄ちゃん』
私が腰の剣を取り鞘を抜くのを見て、パパラチアが構えた。
それを見たイエローがパパラチアを止めにかかるが、突き飛ばされて尻もちをついてしまう。
すぐ側では、ボルツ達が戦闘を始めたのが見えた。
「なっ!やめろパパラチア!!ガーネット逃げろ!」
『くっ!』
イエローの悲痛な声を聞き流しながら、パパラチアの剣を避ける。
くそ、剣が長いぶんやっかいだな。
『ちょっ!あ…』
「ガーネット!!」
バキィッ
くそ、油断した。
上半身と下半身が綺麗に真っ二つになった私は、そのまま地へ落ちた。
だめ、やっぱ強い。
お兄様には勝てない。
呆気なさすぎ。
「…ガーネット、お前俺と一緒に月に来ないか」
「そうだよ、俺達全員で月に行こう」
『みんなそればっかり…ダメだよ。コッチには手のかかるのがいっぱいいるんだから』
本当は、2人と一緒に行きたい気持ちを抑え込んで拒否する。
もう、私の事は放っておいて。
お兄ちゃんにそう言われたら、月に行きたくなっちゃうじゃん…
チカっと何かが光ったのが見えて、そちらに目をやると隣で戦っていたシンシャの水銀が目の前に迫っていた。
飛び火かあ。
遂にこの世界からもおさらばだと思って、目を瞑ると、何かが覆いかぶさったのがわかった。
慌てて目を開けると、唇が当たりそうな距離にパパラチアの顔がある事がわかった。
『な、んで』
「…ふふっ、お前が俺を忘れないためだ。月に行けばこれくらい何とかなるさ…またな、ガーネット」
パパラチアの長い髪のおかげで全く被害がなかった私は、目の前で彼が回収されていくのをただ見ているだけしかできなかった。
『パパ、ラチア』
私が伸ばした手は彼に届くことはなかった。
9/9ページ