宝石の国
名前
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ジェードとユークと共に、先生を起こしに行く。
何度ジェードが殴っても先生は起きない。
どうして…どうしてどうしてどうして!!
『先生!起きて!起きてよ!!早くしないとフォスが!!』
腕が砕け、足や顔にヒビが入ったって、構わず私は先生を殴り続けた。
悪いとは思いつつも、先生はこんなのじゃヒビ一つ入らない。
「ガーネット…もう、フォスは……」
「ガーネット、もういい…すまない。私が先生を起こせないばかりに…」
『はあっ、はあっ、う、ううぅぅうう……!!』
腕も足も砕けた私は、ユークに抱えられ医務室に運ばれた。
弟を、守れなかった。
フォスが連れ去られて49日が経った。
ヘミモルとメロンと一緒に見回りをしていた私の目の前に落ちてきたこれは、フォスであっているのだろうか。
「フォスっぽ…」
白い服を着たフォスを、上から降りてきた月人が回収しようとする。
ばかばかばか。待って待って。
「ちょっ、ちょっ、ちょっ、ちょっ!待った!」
合流したベニト達と一斉に月人へと向かうと、目の前に昔見た大きな月人と同類のようなものが目の前に立ちふさがった。
こええ、デカ。
「し、新型……?」
「……………あいつ絶対強いだろ……」
『てか1度に色々起こりすぎ…』
「う〜ん、ちょっと僕ら若者には手に負えないかな〜安全第一!先生呼ぼ!」
『私はもう1000近い年寄りだけどね』
「あわっ!フォスっぽいのが!」
メロンの言葉で月人の後ろを覗くと、回収されそうになっているフォスの姿が見えた。
「ああー!もー!おーし!やったる!僕ら若者若さで行くぞ!!」
「「「オーーー!!」」」
『お兄ちゃん悲しいなあ』
一斉に剣を抜き飛びかかるが、薙ぎ払われて地面に激突する。
あ〜痺れる…
「…若者……いくぞ〜」
「「お〜〜…………」」
起き上がろうとした時、私達に影がかかった。
上を見上げると、すごいスピードで月人に襲いかかるボルツがいた。
「ボ、ボルツ〜〜!」
「ボルツ!ごめん!後ろの!フォスっぽい!」
「わかってる!ガーネット!援護を!」
『おっしゃあ!まかせろ!』
ボルツが月人の足の間を抜けたのに続いて、フォスに向かおうとすると、視界の端で手を伸ばしたボルツが月人に髪を掴まれているのがわかった。
『フォス!!』
同じくフォスに向かった私を、月人は足を掴んで止める。
どうして届かない!目の前にいるのに…!!
諦めかけていると、後ろから先生の宝石が飛んできて月人を霧散させた。
支えがなくなり、落ちてきたフォスを見た大きな月人が、私とボルツから手を離すとフォスへと手を伸ばしキャッチした。
は?なんで…
「せんせ!フォスっぽい!フォスっぽい!」
「先生!あれ!フォスですよね!?」
起き上がったフォスは、片目が違うものになっていた。
ああ、また身体の一部なくしてきて…
「戻ったのか」
「はい」
「そうか、よかった」
先生はフォスの前に膝をつくとそうこぼした。本当に、よかった。
「その服」
「この剣〜!」
「その眼球……!」
「月でなにがあったのお〜!?」
カンゴームの部屋に集まったみんなは、帰ってきたフォスを囲み喜んだ。
「何か覚えてることはないのか?」
「あー……月は、全てが白くて、ふしぎな場所だったような………なんとかなんとかっていうなんとかがあって…あれしてた……」
「『いっこもわからん』」
「誰か…仲間はいたか……?」
「誰か、いたような」
フォスの話に、ペアをなくした年長組が反応する。
フォスは本当に月でのことを覚えていないのだろうか。
「フォスは本当にすごいわ」
「うん!僕らの希望ね!」
その後はみんな自分の仕事に戻っていった。
私も気づいたらいつも通り医務室に戻ってきていた。
え、こわ。記憶ない。
「ふーむ、左目が閉じないねえ……この眼球はおそらく真珠でしょう。ちょっとえぐり出してみていいですか?」
「えぐ……いいけど…。月で、宝石の合成技術を見た。微小生物のない宝石を無数に作りだしていた。パパラチアのことを、思い出したんだ」
思わず白粉を作っていた手が止まる。
ルチルも呆気にとられているようだ。
だって、そんなの、パパラチアのパズルが成功するかもってことで……
「月なら彼を治療可能ということですか?」
『フォス、ほんとなの』
「あ、いやっそこまではまったくわからない。けど、月にはなんだかわからない道具と僕らの知らない技術があった。やっぱりこの目玉、もう少し様子みるよ」
とんだ爆弾発言をしてフォスは去っていった。
月なら…パパラチアを……
「ガーネット、私、どうしたらいいんでしょう」
『……おいでルチル』
誰もいなくなった静かな医務室のベッドに座ってルチルを呼ぶと、以外にも素直に私が広げた腕の中へと収まった。
『月の技術なら、確かにパパラチアを治せるかもしれない。でも、ルチルはそれでいいの?』
「……たぶん……きっと、いやです」
『なら、それが答えだ…今日はもう休もう。私の部屋においでルチル、久しぶりに本でも読もうか』
ルチルを離し、ぱぱっと医務室の整理をしてからルチルの手を引き部屋に連れて行く。
間違いない。
フォスはきっと、私達を月につれていくつもりだ。
「ガーネット、ちょっといいかしら」
『ユーク?…いいよ』
あれから3日後、フォスに言われた言葉をぼーっとしながら思い返していると、困ったように笑ったユークに声をかけられた。
たぶん、フォスのこと。
「このところ、アレキがおかしいの。ずっと部屋から出てこないから様子を見に行ったら髪の色を点滅させながらぼーっとしてたわ。声をかけても聞こえないみたい」
「『ああ』」
「スフェンもペリドットもレッドベリルもらしくないミスを連発してるようだ」
『素材がなくなったって報告があったもんね』
「こんなこと言いたくないのだけど…」
「やはり、フォスが帰ってきてから?」
「ええ、正確には、帰ってきたフォスの話を聞いてから……ね」
やっぱりさすがに賢い。
ユークにはお見通しだったみたいだ。
ユークは、私にこっちに残ってほしいのだろうか。
目が合うと、にっこり笑って手を握られた。
「ガーネットはおかしくなってないみたいね。よかった…ガーネットまで変になったら僕いやよ」
「そ、それは私も一緒だ。…頼むから、ガーネットは変わらないでくれ」
『…うん。かわいい弟と、大事なお兄ちゃんにそう言われちゃあね』
……うん、決めた、今ので決まった。
私はここに残る。
「ガーネット…今いい?」
『…おう』
ユークとジェードと別れて、自室に戻った私はフォスに声をかけられ部屋に入れた。
さあ、どう言いくるめる気?
「僕と一緒に月に行かないか」
『どうして?』
「君に……いや、僕には君が必要だ。この世で1番君が大事だ。先生よりもなによりも、君のことが好きだ。僕は君にはずっと隣にいて笑っていてもらいたいと思っている……これじゃ、理由にはならないかな」
『う、んんっ!……うーーーーーん……っ〜〜!!ごめんフォス…やっぱり私は残る…手のかかる心配な子がたくさんいるからね…もちろん月に行ってほしくないってのが本音だけど…お前は行ってしまうんだろ』
「……ふふ、随分悩んでくれたね。そっか、うん、ごめん。でも、このままだったら僕達はどのみち月にさらわれてしまう…仕方のないことなんだ」
『…正直キュンと来たし、だいぶ靡いた……いっておいでよフォス……私にはきっと、止めることもできない』
「……ごめんなさい…お兄ちゃん……」
目から合金を流しながら、フォスは部屋を出ていった。
しばらくの間はさよならだな。
『ごめんなさい…先生…』
私はやっぱり、立派な兄にはなれませんでした。
その日、地上から9体の宝石が姿を消した。