宝石の国
名前
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「ルチル、可能性は?」
「は、はい!これまでの医術から考えると可能性は全くないと言っても指し支えないですが……フォスの場合。そうとも言いきれません」
ルチルと先生の話に集中できない…。
ラピスの頭を抱えた私の手は、やはり震えていた。
フォスに、こいつをやるのは……
「例えばガーネット、カンゴーム。お前たちはどうだ。ラピスの破片がすべて帰ってきたときに…」
「帰ってこないと思います。俺は、俺達は誰も帰ってこないと思っています。長期休養所管理の前任者。その前のすべての担当者の記録を見る限り…長期休養所から出られたやつはいません」
「すまない…」
「……わかりました。わかりましたよ。もっとなじみがあって単純な素材を探しますよ…あ、それって」
「俺の頭だ」
ギッと嫌な音がして隣を見ると、自身の首を割ろうとしているカンゴームが目に映った。
『カンゴーム!!』
完璧に割れる前に、先生が走ってきてカンゴームの腕を割った。
「フォスをまもれって、ゴーストが…」
「…フォスフォフィライトに、ラピスラズリの頭部接合を許可する」
『…!』
「…すまない、ガーネット」
ラピスの頭を離さない私を、先生は撫で、一言謝ってからラピスの頭を取りあげた。
「…すみませんガーネット…すみません」
『……ううん。いいの…もう決めた』
謝るルチルに近づき、フォスの頭部接合を手伝う。
ごめんラピス…お前の頭、私の弟にもらうね。
「フォスフォフィライトにはラピスラズリの頭部を接合した。結果はまだ得られてないが初めての試みゆえ慎重に経過を見守ることにする。しばらく安静にさせる為、午後フォスを彼の部屋に運ぶ。皆、捜索で疲れているだろうが…余力のある者は手伝ってほしい」
「すごく、ふしぎだなあ……フォスって髪切ったろ?それ合わせても半分以下?」
『冬の間に、自分の修復に使っちゃったの…』
「日常的に伸縮させる度少しずつ擦り切れこぼれていたようです。なにせ彼自身脆いので……それが割合にかなり響いていますね」
「そっか」
イエローは悲しそうな顔をすると、私の頭を撫でて私の頭を自身の肩に引き寄せた。
「ごめんな」
『…うん』
「頑張ったな」
『お疲れ様』
「まあ少しなら、休んでよし」
「少しだけよ」
フォスにしっかりと挨拶をしたみんなは仕事に戻っていった。
私はルチルとジェードについて行き、フォスを寝かせ布をかぶせる手伝いをした。
なんだか葬式みたいだ……おやすみフォス。
「31対8〜〜」
「ベニトー!」
「くそ〜〜ボルツの着地を狙え!やれ!」
冬眠準備ですっかり浮かれている私達は枕げをして遊んでいた。
ボルツが強いこと強いこと。
飛んできた枕をすべて投げ返したボルツは華麗に着地を決めた。
おービューテフォー!
「コラー!巻き込むな!俺だけこれから働くんだぞ!まったく…」
フォスがいなくなってから、冬の担当はカンゴームになった。
私も立候補したが、働きすぎだと怒られ強制的に寝間着を着せられたのだ。解せぬ。
「春ですねえ……」
「春だなあ……」
2人のジジくさい話を聞きながら糊を作っていると、レッドベリルが走ってきた。
「おまたせ〜〜!ザンッ!カンゴーム用特製新夏眠衣装!ぜいたく〜〜!さあ着替えて調整よ!さあさあさあ!」
相変わらずうるさいなこのお兄ちゃん。
医務室ではお静かに。
「あのぉ、すごく疲れてるんだけど…なんでかなあ…はあ……とにかく頭が重くてさあ…へんなかんじ……こんな目覚めが悪いのはじめてだよ〜」
「はじめて、でしょうねえ。私も初めて診ます」
「えっ珍しい症状?あら!カンゴーム!その白い制服どうしたの。冬用?僕にもあるのかしら」
「フォス…………………の分?」
「ないのお?」
『はい、どうぞ』
突然起きてきたラピフォスに驚きながらも、水を張った器を用意してやり目の前に置いてやる。
うん、ラピスじゃない…完璧にフォスだ……
「白粉落とせってこと?はいはい、頭診るのね…ん、なんか水青く……」
やっと自身の顔がはっきり見えたのか、フォスは目を見開くと何度も何度も私達の顔を見ては器を見てを繰り返す。
い、いやだった?
「び、美形〜〜!悪くないわぁ〜こういう顔好き〜」
「……万が一起きてもフォスかどうかわからないとかいう話は………100パーこいつじゃないか……」
「本当に破綻した性格になると思ったんですよ」
「『変顔やめろ!!』」
「後悔してる?」
カンゴームと共に体育座りで黙り込んでいると、先生の声が聞こえた。
「目覚めたか」
「はい」
「フォスだな、似合っている」
うん、似合ってる…んだけど、駄目だ。
顔よく見れないや。
「フォスフォフィライトの頭部接合は成果を得た。施術から102年経ったわけだが」
「え!?僕は102年寝てたんですか」
「おまえは102年寝てたんだ。改めてみんなに挨拶なさい」
「フォスフォフィライトでーす。102年ぶりの僕ですが文字通りニューフェイスとして頑張りますのでよろしくぅ…笑うとこでーす」
フォスのくだらない駄洒落にぽかんとしていると、みんなは安心した顔をした。
「うわー」
「起きたなあ」
「正直もうダメかと思ってたよ」
みんながわいわいとフォスを囲む中、私はカンゴームの隣に座ってその様子を眺めていた。
あ、フォスこっち来た。気まずい。
「ラピスの代わりもできるように頑張るよ。大事なラピスの頭を貸してくれて本当にありがとう」
『……フォス…』
「…もういい、お前にやったんだ。好きにしろ」
フォスの言葉を聞いて、今まで見れなかった顔を見ると、そこには昔となんら変わりのないラピスがそこで笑っていた。
涙は出ないのに、目頭が熱くなった気がした。
「僕が、ラピスラズリだよ。…いいかい。先生と月人の本当の関係を知る、シンシャの協力を得られる材料を掴む、アンタークとゴーストを取り戻す…このくらいなら今の君で1度に解決可能な道が、ひとつだけ見えるなあ。わかるかい?」
「わかったらこんなことになってない!ことしかわからない!」
「ふーむ、たしかに。考え方にセンスはあるね、あとは持続、深度、閃きだ…時間だね。ほら、僕の天才も分けてあげるから…おはよう。起きたら新しい日だ……それと、ガーネットの事を、頼んだよ…あの子は僕の────」
「つ、疲れる夢………なんか、ちがう。なんていうか細かいところまで気持ち悪いほど、よく、見えるなあ………あとなんか、すごく、ガーネットに会いたい……」
結局ガーネットには会えなかったなあ。
明日は会えるかな。
「……またこの夢か。でもよかった、ラピスに訊きたいことがたくさんあるんだ。ラピス!いるう?…アンターク、ゴースト、モルガ、ゴーシェ……あっ。届かない」
「ガーネット、月人です。行きましょう」
『おっけー』
今回の戦闘は海だったみたいで、欠片を探すのがすごく厄介だった。
くそう月人め、こっちの気も知らないで。
「ガーネット!やっと会えた!」
『んぶっ!な、なになにどうしたフォス』
髪が短くなったフォスは、私を見るなり駆け寄って抱きついてきた。
勢いいいねお前。
というか、短髪ラピスも好きかも。
『……ラピス?』
「なんだい、ガーネット?」
フォスを剥がし顔を見ると、昔の私を見るとき特有のラピスそっくりの笑みで私を見下ろしていた。
口調もラピスそのままで、目を見開く。
気の、せい…じゃない……
「…ガーネット、ありがとうございました。今日はもうゆっくり休んでください」
『え、でも』
「いいからいいから」
結局ルチルにぐいぐい押され、折れてしまった私は自室へと戻ってきていた。
フォス?ラピス?
……駄目だ、なにもわからん。
「ガーネット…今回も月人です。初めてのケースみたいですけど行きましょう」
『初めてのケース?…わかった、行こう』
次の日、またまた医務室に入り浸っていた私は、ルチルと共に月人が現れた場所まで向かった。
すると、何やらフォスが怒鳴っているのが聞こえる。
どうしたどうした。
「うそだー!!もう限界です!その雑な躱し方!今の僕には通用しませんあのモフモフのときだってそうです!なんかほら!親しげに名前を呼んだでしょう!おぼろげにちゃんと確かに覚えてるんです!」
「それらはかつてこの地上にいた私の知っている物とよく似ている。しかし確証がなく明らかにそれらそのものとは認められない。月人が作ったのかどこからか連れてきたのか。私にもわからない、故に知らないとしか答えることができないのだ」
「…ではそのかつていた博士とはなんなんです」
「それについて私は答えることができない。おまえの疑いは尤もだ。疑念を抱かない方が難しいだろう、すべてわかっている。だが、答えることはできない。すまない、それでも、おまえたちを愛しているよ」
先生はそれだけ言うと、さっさと学校に戻ってしまった。
みんなは戸惑いながらも、自分の仕事に戻っていく。
愛している…か。
「ガーネット、白粉お願いできますか?」
『ああ、いいよ』
「ねえガーネット!ここの膨らみってもう少し抑えた方がいいのかしら!」
『うるさいなあ。あとで見るから待って…』
「ガーネット!レッドベリル!ルチル!フォスが!フォスが月人に!」
ジェードの言葉に、持っていた白粉を落とした。
なんで…あの子は……
大切なみんなは、私を置いていってしまうの。