宝石の国
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「ガーネット、すみませんが緒の浜へ行ってくるのでその間パパラチアの事お願いします」
『はーいよ、いってら〜』
前回の月人事件から10日。
いっこうに月人が来ません。
嵐の前の静けさってやつかな。
こういうのって、なんか怖いよね。
今日も朝からルチルの手伝いで医務室の管理をしている。
パパラチアのパズルもいい加減飽きた。
こんなの毎日できるルチルは、ある意味頭おかしい。
レッドベリルにもらった月人(犬)のレプリカをもふもふしていると、ルチルがフォスと共に帰ってきた。お早いご帰還で。
「ただいま戻りました。ガーネットお待たせしました。パズルを再開しましょう」
『はぁい…あれ、それって…』
「ルビーだよ。冬に見つけて埋めといた」
『流石フォス〜!いい子いい子』
合金の分少し背が高くなったフォスを撫でてやると、照れながらも嬉しそうにしてくれた。
やっぱり可愛いな末っ子。
「ガーネット、それ取ってください」
『ほい』
ルチルが指示するルビーを取っては削り、渡す作業を繰り返し1時間。
この一つを埋めれば完成だ。
今回は起きるかな。
ルチルが最後の一つを埋めたのを見て、3人で身構える。緊張。
「ふあ〜…おやおや。今回はずいぶん派手だなあ」
『起きた…』
今回も駄目だと諦めかけていると、彼はその切れ長の美しい瞳を開いて起き上がった。
「体調は…?」
「いいね!どのくらい経った」
「231年11ヵ月1日です。」
「大幅な記録更新だ」
「施術は30万30回目…」
「なんと」
ぽんぽんと進む会話に、フォスと目を見合わせて呆気にとられる。
フォスはパパラチアに少し緊張していた。
そっか、憧れだもんね。
「ん?新入り?あ!いつも先生にひっついてる1番下のチビか!雰囲気変わったな」
「色々あって」
「この腕、合金か。俺みたいだかわいそうに。苦労したな」
フォスを撫で、視線をさ迷わせたパパラチアと目が合った。
あ、びっくりしてる。
「ガーネット!おはよう!また美人になったか??」
『うんうん、おはよう。何も変わってなくて安心したよ』
箱から出て、私にひっつくパパラチアを退かしてフォスに押し付ける。
「パ、パパラチア。訊きたいことが」
「ルチル、外出ても…」
『あ。死んでる……ま、いいよ。外出を許可する』
過労で寝てしまったルチルの代わりに許可を出すと、パパラチアはにっこり笑って私の腕を組んだ。
おいコラ、その許可は出してない。
「いい季節だ」
「うん」
「ちゃんと寝てるか?ガーネットも」
「あんまり」
『同じく』
「先生の言うこと聞いてるか?」
「あまり……」
「悪い子だな」
「たぶん」
何気ない会話をする次男と末っ子に心が和む。いいな、この慣れてない感じ。
「ははは」
「月人と話してみたい。そして自分で本当のことを見極めたいと思ってる。それもやっぱり悪いことかな」
フォスの思いがけない質問に足が止まった。
そんな事考えてたのか。
「…たとえば。俺はルチルに俺のパズルを諦めてほしいと思ってる。ラクさせてやりたいんだ。でも、あいつはどう受けとるだろうな」
『…清く正しい本当が、辺り一面を傷つけ、全く予想外に変貌させるかもしれない。だから』
「慎重に、冷静にな」
「うん」
いつかパパラチアが言っていた言葉を思い出して口に出すと、パパラチアは満足そうな顔をした。
ふふん、お兄ちゃんの言ったことはだいたい覚えてるのよ。
「ぁ、ガーネット。俺と」
パパラチアが何か言いかけ、こちらに歩んできたかと思うと、私に覆い被さる形で眠りについてしまった。
活動時間、また短くなってる…
『…おやすみ』
パパラチアを割らないようゆっくりしゃがみ、草の上に寝かせる。
見飽きた寝顔にため息が出た。
「訊きたいことは訊けましたか」
「…天気の話しかできなかった」
「…そうですか」
ルチルが持ってきたシーツにパパラチアを包んでやって連れて帰る。
相変わらず髪の分重いな。今度削ってやろう。
「ガーネット、それも持ってきてくれる?」
『おっけー』
イエローと共にアレキの手伝いに来た私は、ただいま月人の資料の整理に回っていた。
「お、ジルコン」
『あ、ほんとだ。なんか疲れてる?』
イエローの視線を追うと、池の前で四つん這いになっているジルコンがいた。
何してんだろう。
こちらに気づいたジルコンは、私達が見てるのに気づいて猫のバランスポーズをした。
いやほんとに何してんの。
「いいのアレ。妙よ」
「あんまり過保護なのもなあ…」
『そだね、まずは様子見から』
「そうかなあ」
「『どっちよ』」
イエローは少しその場に留まったものの、フォスが近づいて行ったのを見て歩き出した。
心配性ねお兄ちゃん。気持ちはわかる。
次の日の朝、パパラチアの様子を見に来たイエローと私は、パパラチアの眠っている箱の淵に腰かけていた。
「ボルツとジルコンが組むよう先生に推してみる。ボルツなら、安心だろ?俺みたく何度もヘマして相手を失うこともない。悪くない選択だと言ってくれよ…長い事考えすぎて疲れてんだ。…お前の隣で寝ていい?なんちゃって」
『…イエローは立派だよ、今までしっかり私達を守って支えてきてくれたじゃない。お兄ちゃんまで寝たら、私寂しくて死んじゃうよ』
柄にもなく病んでいるイエローの手を握って、目を見て本音を口に出す。
1番面倒を見てくれた大好きなお兄ちゃん。
大切な子がいなくなるのは、もう御免だ。
「そ、うかな…ごめんな。ありがとうガーネット」
『ううん。ね、アレキの手伝い行こ』
「ああ」
手は握ったまま、2人でアレキの部屋までゆっくり歩く。
イエローはさっきより少しだけ顔色がよくなっていた。
「アレキ!忙しい?」
「ちょっとね、図書室の資料の虫干し。いそぎ?」
「月人について勉強し直したいんだ。できるだけ詳しく、教えてくれるかな」
フォスの言葉に少し考えたアレキは、手に持っていたたくさんの資料を宙にバラ撒いた。
あー!!
「なにから知りたい!?ねぇなにから知りたい!?」
「バカっアレキっ!大事な教科書の原本が!」
『とりあえず拾おう!もうアレキはだめだ!』
アレキとイエローは1度手元にある資料を部屋に直しに行った。
私とフォスは資料集めだ。
あいつすごいバラ撒いたじゃん…
「…どうして知りたいのか、聞かないの?」
『んー、まあ、なんとなくわかってるからかな。正直、あまり聞かれたくないんでしょ』
「そっか。まあ、うん……ごめん」
『うん、私はフォスの教育係兼お兄ちゃんだからね。あまり深い事は聞かずに、影から支えてあげるの』
「あははっ、何だよそれ……ありがとうガーネット…君が僕のお兄ちゃんでよかった」
『…よしよし』
下を向いて喋らなくなったフォスを撫でてやると、合金が頬を伝って流れていく。
ずっと我慢してたんだなぁ。
「アレキ、全部集めたよ」
フォスと共にアレキの部屋へ入ると、懐かしの先生と同じ袈裟を来たアレキが迎えてくれた。
「第1問!」
熱くなったアレキとフォスのクイズ大会を見守りながら、アレキの後ろにいるイエローの横に寝転がる。
「アレキも大概だよなあ」
『いいじゃん。フォスに対してお兄ちゃんしてるの久しぶりだし』
「たしかに。こりゃ長くなるな」
『だね』
気づいたら寝ていた私は、ハッとして起き上がると外が明るくなっているのに気づいた。
もう朝だ。
『……ふぉす…?』
フォスがいなくなっているのに気づいて、外を探したが見つからなかった。
二度寝する気もないし、そのまま図書室に直行した。
今日は本の整理だ。
『ゴースト、おはよう』
「あら、ガーネット!おはよう」
「あ、おはよう。急にいなくなってごめん」
『フォス!よかったあ。どこ行ったのかと思って探したのよ…』
話しながら仕事を始めると、フォスは関心したように私を見た。
なんだよ。
「先生!!黒点がでました!3器です!」
『3器…!』
外から聞こえたベニトの声は確かにそう言った。
これまで3人が連れ去られた、厄介な罠の。
「ガーネット、今日だけ僕と組んでくれる?」
『…いいよ、行こう』
フォスの言葉に頷き、走って出て行った背中を追いかける。
その後ろをゴーストがついてくる。
カオスか。
「休んでなさい」
「いえ、お側に」
「…きなさい」
先生の許可を得てフォスの後ろをついていく。そしてゴーストもついてくる。
これフォス気づいてないな。
「先生ねむくなさそう。またあ、大げさ」
突然聞こえたゴーストの声に仰け反り、地面に伏したフォス。
またって、さっきもあったのか。
「いつから…」
「え?図書室からずっと」
「ああ……そう……」
2人の会話に苦笑しつつ、フォスの側に駆け寄る。
フォスに手を差し出そうとした時、ゴーストの言葉でその手が止まった。
「今日はラピスが帰ってきそうな気がします」
「……ガーネット?」
『ぁ、ごめん。ほら、手』
「ありがとう」
心配そうな顔で見てくるフォスに、手を貸し起こしてやると礼を言われた。
まだ少し心配そう。ごめん何でもないよ。
「あ……失敗…?でも残りの2器、逃げないのね。小さく丸まってる。上のは何かしら……」
「ふむ」
「先生!斬りますか」
先生とフォスの話に集中していると、隣にゴーストがいないことに気づく。あれ?
『っ馬鹿!』
「先生。中はどろどろで誰もいなそうです」
「ゴースト!離れなさい!」
「え?」
丸くなった雲の上に乗っているゴーストの後ろの空間から、無数の月人の手が伸びた。
そのまま服を掴んで後ろに引っ張る。
月に連れていくつもりだ。
「ゴ!」
合金の手を伸ばそうとしたフォスは、先生が動いたのを見て動きを止めた。
先生が自分の身を削って攻撃していることを知らないフォスは先生の動きに集中している。
このままじゃ、ゴーストまで……!
腰の剣を抜き雲へと飛び乗る。
ゴーストは連れていかせない。
私が空いた空間に剣を差し込むのと、先生が自身の宝石を投げつけたのは同時だった。
バラバラと割れて落ちてくるゴーストをかき集める。
ああ、よかった。全部ある。
「ゴースト以外の破片?いえ、回収した中にはありませんよ」
「そっか……話変わるけど、先生の治療ってした事ある?」
「あるわけないじゃないですか。先生が欠けたなんて聞いたことありません。興味はあります…超ある…!」
『はあい、落ち着こうか』
ルチルの手伝いでゴーストを治していく。
治し終わった頃にはすっかり日が暮れ、真っ暗になっていた。夜だ。
「よろしいですよ」
「ありがと」
「ガーネット、ルチル。お疲れ」
「ガーネットとフォスに言ったの」
ゴーストは律儀にこちらを振り向くと、深々とお辞儀をした。
まったく礼儀正しい兄である。
「僕は何もしてないよ」
「ううん。フォスが腕伸ばしてるとこ、見えたよ。最後はガーネットと先生かもしれないけど、助けようとしてくれて嬉しかった。ありがと」
ルチルとゴーストが先生のもとに行くのを見送って、フォスに挨拶をしてから部屋に戻った。
確かに最初は助けようとしてた。
でもフォスは、先生がどうするのか見たくて助けるのをやめた。
アンタークを失ってから必死に頑張って強くなったのに、あの子はまた同じことを繰り返そうとした。
フォスの味方でありたいとは常に思っているけど、今日のは間違いだと思った。
だからと言って、フォスを責めることも叱ることもできないのだけど。
『駄目だなぁ…』
情けないお兄ちゃん。