宝石の国
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「ガーネットー!急患です!ヘルプー!」
『はーい!』
久しぶりにクラゲをいじっていると、ルチルが呼びに来た。今度はどうした。
急いで医務室に行くと、バラバラになったアメちゃんズがベッドの上に寝かされていた。
これはまた…
アメちゃんを治すためにベッドに寄ると、フォスがいることに気づいた。
しょんぼりしてるってことは、フォスが動けなかったパターンかな。
やっと修復が終わってアメちゃん達が目を覚ますと、フォスが急に勢いよく土下座をした。
「怖くて、動けませんでした」
「「ごめん」」
「僕らに油断があった」
「フォスのお手本になろうとして張り切りすぎたよ。怖い思いさせたね」
アメちゃん達は優しいなあ。
ボルツみたいに叱ったっていいのに。
「ちょっとー!」
『アレキ』
「新しいタイプの月人出たんだって!?」
相変わらずやかましいな。
そんなとこも可愛いけど。
「「うん、アレキさん」」
「熱心ねー月人マニアのアレキさん」
「保健室では静かにアレキさん」
「アレキちゃん!!と呼べと何度言えばわかる!刃の表層がサファイアなのは聞いた!構造詳しく!」
「「うーん…」」
「思い出せ!」
戦いでボロボロになって帰ってきて、早々していい質問じゃないね。しかも無茶ぶり。
『はいはい、落ち着いて。いったん帰ろうねアレキさん』
「ガーネットまでそう呼ぶか!!もうわかったわよ!いったん帰るわよ!」
ぐいぐいと背中を押して医務室から追い出した。
まったく手のかかる年長組しかいないんだから。
時は流れてあっという間に冬。外は一面真っ白で雪もちらちらと降っている。
何度も思うが石でよかった。
人だったらこの極寒の地でしんでいる。
私達は毎年恒例の冬眠の準備で大変だ。
ま、私は今年はアンタークの手伝いなんだけどね。
ベリルと一緒にみんなのかわいい冬眠服を着付けして髪も結ってやる。
あらかわいい。
「それでは先生、ガーネット。おやすみなさい」
「『おやすみ』」
「よい夢を」
先生が明かりを消して出ていく。
その背中を追いかけて私も学校に戻った。
あ、ヒールの音。アンタークだ。
「おはようございます」
「おはよう、アンタークチサイト。体調はどうだ」
「はっ!例年通り万全であります」
「毎年ひとりで寂しいだろう。すまないな。だが、今年の冬はガーネットが手伝う。いつも一人な分、今年は存分に頼りなさい」
「はい先生。あの、例年の……よろしいでしょうか?」
「うむ」
先生の許可をいただいたアンタークは嬉しそうに先生に飛びついた。
ううううかわいい。
視線を感じたのか、アンタークは私を見た後に視線を泳がせる。
と、思うと1点に視線が集中して、目を見開いたのがわかった。
不思議に思って視線を追うと、柱の陰からフォスが除いているのが見えた。
え、なんでいるの。
「なぜ起きている!フォスフォフィライト!」
「いや〜〜…なんか全然ねむれなくて…起きてちゃダメですかね……」
「ふむ、では今年は3人で」
「お言葉ですがいやです!!!ガーネットは良しとしてもこんな役に立たないやつと!!」
必死に抗議するアンタークちんに、フォスがつつつと近寄った。
「例年のとはなにか…」
その言葉を聞いた途端、アンタークは振り返ってフォスの両肩をガッシリ掴んだ。
うける。
『どうして今年は眠れないの?』
「うーん、肝心な時怖くて走れなくて」
「怒られたか」
「いやっ」
アゲートをつけて速くなったフォスが走ってこっちに戻ってくると、すぐ手前で転けてしまった。
「ぬるい!これだから団体行動は」
「怒られなかったのが。くやしくてねむれない…それに冬は起きてるだけでつらいって言うからちょっと頑張ってみようかなと思って…」
『…偉いねフォスは。そうやって悩んで新しいことをしようとするのはいい事だと思うよ』
「…はあ、ならば仕事をひとつ分けてやろう」
「ホント!?」
ぱっと顔を上げたフォスはにっこり笑顔でかわいらしい。
うん、元気なフォスが一番だ。
「きついぞ」
「やだ。けどやる!」
そうしっかり目を見て答えたフォスを信用して、学校から出た。
しかし、フォスはすぐにバテてしまった。
「光が、薄い、全然、やばい」
「まだ半分だ。晴れれば月人が来るぞ。歩けなくても歩け」
『頑張るって決めたんでしょー?ほらほら頑張って』
声をかけると、項垂れながらもゆっくりゆっくり着いてくる。
「ここだ」
「つ、月人…!」
「いや」
『ただの流氷だ』
驚くフォスに説明をすると、流氷が傾き始めた。
そろそろだな。
「くるぞ」
「え」
ギイィィィ
ゴオンッ
キシッキュイィ
「うっわ…すんごい音……」
「これからだ」
「え?」
ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
あまりのことに、フォスの体にはヒビが入りその場にへたりこんでしまった。
「この大きな流氷同士が擦れる時に出す不快な轟音が皆の眠りを妨げる。ので、砕く」
アンタークはノコギリを出すと、勢いよく走り出して高く飛び上がった。
そのまま流氷のてっぺんにヒールを滑らせ、カツカツと走る度に穴を開けていく。
真っ直ぐ綺麗についた穴を目印に、一気にノコギリを振り下ろす。
ズオオオオオオオ
ゴポゴポゴポ
「やってみろ」
「できるか!!」
とりあえずここはアンタークに任せて、私は別に行こうか。
結局この日、私は図書室の整頓中に寝てしまい硬い地面で朝を迎えた。
「セット…ゴー!」
アンタークの合図で走り出したフォスは、昨日アンタークが流氷を割った時のようにヒールで印をつけていく。
「『よし!』」
思いっきり振り下ろして…あら……
硬度とやり方の問題で、足から顔にまでヒビが入ってしまっている。
「おしい」
『わー…じゃ、私雪かき行ってきます!』
「ああ、頼んだ」
2人から離れてしばらく作業を進めていると、アンタークがひどく傷ついた顔で私の所へと走ってきた。
「ガーネット!!」
『ど、どうしたのアンターク!』
「フ、フォスフォフィライトの、両腕を、紛失してしまった…」
『えぇ!?また…?とりあえず報告行こうか、大丈夫大丈夫。よしよし』
動揺するアンタークの頭を撫でて、手を引いてやりながらフォスのもとへと急ぐ。
フォスの馬鹿さにいい加減呆れてきたかもしれない。
「フォスフォフィライトの両腕を紛失しました。私のミスです。申し訳ありません」
「どぅお!?どっ、ど、どうみても僕の自業自得だから…」
「くまなく捜索したつもりですが…やはりもう一度捜します!」
走り出そうとしたアンタークを私の手が掴んだことと、先生がアンタークの目の前に腕を出して遮ったことで止めさせた。
「私の注意が足りなかったせいだ」
「いえ、私が団体行動に不慣れで迂闊だからです。こんな失態はじめてで…どうしたら……」
アンタークは先生の腕に身を預けて震えだしてしまった。
あ〜泣かせた…
ぱっとアンタークの手を離すと、先生がアンタークを抱き上げた。
「僕はこんな失態はじめてじゃないから気にすんなよ……」
「気にする!」
「まあほらあれだ。なんとかなるよ足みたく。」
フォスの言葉に睨みをきかすと、きゅっと口をつぐんだ。よし。
結局明日は緒の浜まで行って、フォスに合う腕の素材捜しに行くことになった。
それが一番だね。
「ガーネット。アンタークを頼んだ。おやすみ」
『おやすみなさい』
先生からアンタークを受け取ると、よしよしと私の頭を撫でて先生は行ってしまった。
フォスを撫でなかったってことは、結構ご立腹みたいだ。
「ガーネット…もう下ろせ」
『はいはい、ほらフォス。おいで』
「…うん」
こっちも目に見えてしょんぼりしてるのでよしよししてやってから2人の手を取った。
わーい、両手にかわいい弟〜
「わっ、何をする!」
『ふふーん!今日はみんな一緒に寝ようねー!』
「…うん!」
「古代生物は海で朽ち、無機物に変わり長くは数億年地中をさまよった後、うまれる」
「あ……」
アンタークが指をさした方向には、赤色の宝石が生まれようとしている姿があった。
が、結局人形になりきれず、そのまま雪に埋もれていった。
『私達みたいになるのはごく稀で、ほとんどがその子みたいになりそこなう』
「覚えているか?」
「うーん…うん」
『そっか…』
アンタークは武器を出すと、バットを振るように武器を振って周りの雪を退かした。
「金と白金ばかり…だめだな」
「だめ?」
「金も白金も非常に柔らかく変形しやすい。なにより、重すぎる…使えない」
「そっかぁ。せっかく生まれたのにね」
結局捜してもいいものはなに一つなくて、仕方なく合金をつけることになった。
「仮留めした。放すぞ」
「あもっ」
「『だろうな』」
「しかし拒絶反応はない。微小生物が気に入る可能性がある。問題は重さか…中を空洞にするとか……」
『…晴れ間だ』
「いったん外そう。戻る」
晴れ間からフォスに視線を戻すと、勝手に合金がフォスを覆いだした。
ありえない光景に、アンタークと共に固まってしまう。
「とれない…かも。な、なんか包んでない?包まれてない?ちょっと僕どうなってる?ガーネット!アンタークちん!なにこれどういういみ……!」
「お、おい…」
『っアンターク!避けて!』
私の声に反応したアンタークはその場から飛び退いた。
飛んできた槍はギリギリのところに刺さっていて冷や汗をかいた。やべえあぶねぇ。
「ごめん…」
「助かってから言え」
『行くよ!』
アンタークは雪で目くらましをして、月人の陣地に飛び込んだ。
目の前にいた月人を潰してから、その上をスノボの要領でノコギリで滑っていく。
そのまま月人のもとまで飛ぶと、逆さのまま月人の頭をカチ割った。
「むっ、霧散しない。アレキのレポートにあった新型か。……フォスは…月人には気づかれてないようだ、な」
アンタークの援護に回ろうとした時、学校の方から大きな轟音がした。
『なに…』
パンッ
軽い音が聞こえて振り返ると、アンタークの腕が月人に取られてしまっていた。
『アンター…』
「返せ…先生のこと忘れたらどうしてくれる!!」
腕を持っていかれて、記憶が無くなることに怒ったアンタークはがむしゃらに月人に向かった。
やばい。私も行かなきゃ。
助走をつけて飛び上がり雲の上に乗る。
『アンターク!頑張れ!すぐ行く!』
走ってアンタークのお腹を抱いて、一緒に引っ張る。
寒さで硬度が強くなってるから、アンタークが割れる心配はない。なら思いっきり!
「あああああああ!」
最後は意地で月人を引きちぎって、私達は遠い雪の敷かれた地上へと落ちた。
ああ、割れたなこれ。
衝撃がきて目を開けると、片腕と片足が割れていた。あちゃー
「…まあ、及第点。と言ったところか…新型を退けた、先生も褒めて下さる。あっでも、勝手に戦ったからガーネットもろともお仕置きされてしまうかも♡どうしよう♡」
相変わらず先生バカだなぁ。
恋する乙女でとてもかわいい。
「おーい」
「『うわあ…』」
「おまえ変わったな…」
「ちがうちがう中にいます」
フォスの声を聞いて駆けつけると謎の合金ボックスができていた。なんだこれ使○か?
「一体、微小生物は気に入ったのかいらなかったのか…」
「動けない〜〜出してくれ〜〜」
アンタークは残った足をボックスの隙間に入れてぐりぐりと抉り始めた。
わー辛辣。
「もう少し優しくして!」
「我慢しろ!こっちは2人ともヒビだらけでギリギリなんだ!」
「あーでも無事でなにより……」
ヒュッと風を切る音が聞こえて、咄嗟に残った腕でアンタークを庇った。
が、勢いがよかったのか、私の腕もろともアンタークの首は割れてしまった。
『アンターク!!』
アンタークは私に優しく微笑むと、フォスに向かって声を出さないよう指示を出した。
「先生が、さびしくないように…冬を。たのむ…」
両腕と片足を失った私は、地面に倒れ込み立つことができない。
アンタークに手を伸ばすことができない。
なんとか這いずってアンタークの前に出て庇う。
未来ある弟を連れて行かせるわけにはいかない。
月人が下りてきてぞろぞろと近づいてくる。
なんだよ800生きたババアのくせになに怖がってんだよ。
大丈夫だよ。月に行ったってきっと。きっと……
体が無数の手に持ち上げられる。気持ち悪い。私の腕が、足が、器に入れられていくのが見える。
私はある力をふりしぼって暴れるが、コイツらは離してくれそうもない。
アンタークを振り返ると、たくさん月人が群がっているのが見えた。
『やめろ…やめろよ!アンタークから手ェ離せよおい!!くそっ離せ!!!』
アンタークの入った器がどんどん雲の上に運ばれる。やめろ、かわいい弟を離せよ。
私を抱えている月人達も、ゆっくりと雲に歩みを進めだした。
『っアンターク!やだ、やだやだ!先生!!助けて…アンタークを…誰か…!』
「さっさとしろクズ!!」
聞こえた末っ子の声に視線をやると、フォスを包んでいた合金は花のように開き、フォスの欠けた部分を補いだした。
『フォス…』
フォスは私を抱えていた月人達を切って霧散させると、アンタークの乗った雲へと標的を変えた。
『いった…フォス!あんまり無茶しないで!お前までいなくなったら!!』
「ザコはいい!追う!!」
フォスは自分が欠けていくことも気にせず、ひたすらにアンタークを追いかける。
それでも間に合わない。
フォスは最後の力をふりしぼって武器を投げた。
しかし、結局届かずにアンタークは月に行ってしまった。
フォスは合金の足場をなくすと、地面に落下しはじめた。
ああ、駄目だ。フォス。
必死に這うが間に合わない。
このままじゃ粉々に…!
もうすぐで地面という時、ヒュッと横を大きな影が通り過ぎ落ちるフォスを受け止めた。
先生だった。
「アンタークは僕の身代わりになりました」
「ああ。私の所為だ…ガーネットはどこに…!そこにいたのか、すまない私の所為で…お前も両腕と足を持っていかれてしまったのか…かわいそうに」
ほんとに悲しそうな顔をする先生に、なんとか笑顔を見せて手を伸ばした。
まあ、肩から先なんてないんだけど。
『先生…フォス、すごく頑張ったの。褒めてあげて…フォスがいなかったら、きっと私だって月に行ってた……全部フォスのおかげです』
先生は目を見開くと、フォスを右手。
私を左手に抱きかかえて学校に帰った。
目を伏せた先生はとても悲しそうだった。
ごめんなさい、ごめんなさい先生。
もっと強くなる。きっと強くなるから。
「先生、ガーネット。月人です」
学校で糊を作っていると、髪を切って顔つきが変わり背も高くなったフォスが報告に来た。
変わってから少し経つのに、未だに見慣れない。
2人に着いていき、フォスの訓練のため戦闘を見守る。
「フォス…どちらに見える」
「……旧式に見えますが……確認します」
「ああ」
フォスは合金で作ったヒールをどんどん伸ばすと、月人よりも高い位置で止まり剣を横に引いた。
「先生、やはり旧式でした」
こちらを向いたフォスに、霧散する直前で意地を見せた月人が矢を放つ。
しかし、先生がヒュッと何かを飛ばしてその矢を弾いた。
「残ってる流氷を処理してきます」
「少し休みなさい。ガーネットも」
「金と白金の重みで以前のように動けません。急がないと…今日の仕事がこれだけではアンタークに報告できません……」
それだけ言うとフォスは流氷割りに行ってしまった。
この冬の間で、まるで別人のように変わってしまった。
『…私もフォスが休むまで働きます。弟だけに仕事はさせられない』
「…そうか。あまり無茶はしないように」
優しく頭を撫でて、先生は学校に戻っていった。
私も紙制作とか白粉作りとかしなくちゃ。
と、その前に
『アンターク、ただいま。これお前にプレゼント。いつか……いや、もう会えないなきっと。もう少しお前と話せばよかったって毎日後悔するんだ…ごめんアンターク。 ごめんね…』
アンタークの足首から先が入った器に、冬の花だけで花冠を作り乗せてやる。
『良く似合うね。…もっと早く作ってやればよかったな。よしよし…またね』
アンタークから離れて医務室に向かう。
今から白粉作りしなきゃ。
もうストックが少ない。
気づけば、あれだけ積もっていた雪は一片もなく、綺麗な緑色が広がっていた。
もう、春だ。