仕事
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まだまだ日は高い所にあり、時間だって有り余るくらいあるので、戦闘の訓練はすぐに再開された。
「だいたい助走をつけて高く跳び上がるから、その場で跳んでもあまり意味ないかもな…」
顎に手を当てて、少し考えたパパラチアはまた走り出した。
パパラチアは私についてくるよう言う。
「…お出ましだ。ガーネット、残念だけど本番が先だな」
『え!?せ、先生に伝えなきゃ…』
「先生はまた瞑想中だから多分起きないぞ。俺達で片付けた方が早い。」
パパラチアは私を背後に庇いながら黒点を警戒する。
やがて、ただの黒い点は上に突き出ると、少しずつ姿を現し始めた。
この間は焦りすぎてよく見てなかったけど、月人ってこんな感じなんだ。
確かに天女や仏像に似てる…
「…来る!ガーネット、俺の動きをよく見て覚えろ。少しは参考になるさ」
それだけ言うとパパラチアは走り出した。
さっきの追いかけっこよりもずっとずっと速く。
月人に近づき足を踏み込むと、一気に高く跳び上がった。
『すっ…ごい…』
パパラチアは月人の群れに踏み込み、あの長い剣の鞘を抜いて私に向かって投げ捨てた。
『わっわっ!よっと!』
なんとかキャッチして上を向くと、パパラチアは周りの邪魔な月人を一振りで薙ぎ払った所だった。
すっげぇ、どうなってんだ。
大きな月人までの道ができると、猛スピードで走り出し高く跳び上がる。
「ふっ!」
バシュッ
と大きな音が鳴ると、月人達は一気に霧散を始めた。
パパラチアはそれを見届けると、雲を強く蹴り私の隣に下りてきた。
「よっ、と。相変わらず面倒な奴らだ…」
『すっっごーい!!すごいよパパラチア!強い!めっちゃかっこいい!』
「ははっ、ありがとな!…にしてもここ2、3日でスラスラ話すようになったもんだ」
『へへっ』
よしよしと撫でてもらい、だらしない笑みがこぼれる。
持っていた鞘を返すと、パパラチアはお礼を言って剣を収めた。
「パパラチア!大丈夫だったか!」
「ああ、イエロー大丈夫…て、おい!逃げろ!」
「へっ…」
パパラチアの声に、私もイエローもその視線を追って振り返る。
『な、なんで…』
そこには、さっき倒したはずの月人が現れる予兆が出ていた。
やがてそれは広がり、またもや雲に乗った月人が姿を現した。
「さっき倒したはずじゃあ…」
「イエロー!!」
月人は驚いて動けないイエローに照準を合わすと、続々と矢を放ち出した。
咄嗟にパパラチアは走り出し、イエローの前に飛び出す。
キイィッ
パンッ
『パパラチア!!』
軽い音が鳴ってパパラチアが割れた。
イエローの上に落ちたパパラチアは起き上がれない。
イエローも矢に当たってしまったようで片足が割れている。
それでもイエローは、パパラチアが攫われないよう、必死に周りに飛び散った欠片を集めている。
「ガーネット!逃げろ!!」
『ぁ…』
イエローの声にようやく固まっていた体が動く。
どうしよう…このままじゃあイエローもパパラチアも、私も月に連れて行かれる。
パパラチアは動けない。
イエローだって片足がないんじゃいつものようには戦えないだろう。
私しか、動けない。
こわい。
すごく怖い。
でも、しない後悔より、きっとやって後悔した方がいい。
ごめんねパパラチア、イエロー。
できるだけ頑張るから、3人で月に行くことになっても怒らないでね。
『…イエロー、ごめん。これ借りるね』
「ガーネット!やめろ!!お前だけでも逃げろって!」
ここは学校から結構離れた場所。
他に見回りをしている宝石からも、ここは離れている。
きっと助けを待っていたら月行き確定だ。
イエローの腰から勝手に拝借した剣を、グッと両手で握りしめる。
覚悟を決めろ私。
攫われるとしても、2人は逃がすように説得しよう。
話せるか分かんないけど。
『私だけなんて逃げれないよ…大丈夫だよお兄ちゃん達、私が守るから』
情けなく声も体も震えるが、しっかりとイエローに伝える。
「ガーネットやめろ…やめてくれよ、兄ちゃんの言うこと聞いてくれ…!」
『大丈夫』
イエローは必死に私に手を伸ばしてくれるけど、私はそれを無視して走り出す。
大丈夫、さっき見てたのを真似ればいいだけ。
私は、優秀なんだから。
落ち着いて、しっかりと踏み込めば…
『!跳べたっ!!』
そのまま問題なく雲の上に着地。
よっっし!いんじゃない!
ぱっと前を向くと、そこには月人の群れ。
『ぁ、あっ、ど〜も〜』
にっこりと愛想笑いをすると一斉に矢を構えられる。
げええ!!死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!
『っどーにでもなれぇえ!!!』
野球の要領で剣をバットに見立てて振りかぶる。
すると、私の周りを囲んでいた月人が倒れた。
え、弱い…
い、いけるぞ!
パパラチアのように大きな月人までの道はできていないが、剣をブンブン振り回しながら走って道を作る。
え、月人脆くない?これ多分いけるな。
大きな月人の前で踏み込み跳び上がる。
『っら!!』
上から剣を振りかぶり、思いっ切り振り下ろす。
月人の頭が吹っ飛んだ。
それと同時に、周りの小さな月人達と共に霧散を始めた。
はー何事も上手くいくもんだなぁ…
私前世より全然こっちのが生きやすい。
いいストレス発散。
月人が霧散し、雲もじわじわと消えていく。
完全に消える前にイエローの前に跳び下りた。
『よっと!』
体勢を立て直して立ち上がると、ぽっかりと目と口を開いたイエローと視線が合った。
『た、ただいま…勝手してごめん』
「うっ、うぅう〜」
あ、あれっ泣かしちゃった!?ごめんね?!!
あ、でも宝石だから涙出ないんだっけ。
「ばかやろ〜!無事だったからよかったもののっ!俺は心配で心配で自壊してパパラチア諸共割れるかと思ったぞ!?」
『うっ!ごめん、ごめんね…』
怒りながら手招きをされたので、近づくと強く抱きしめられた。
あっ、お腹割れた…
「これで許す…多分みんな向かってきてくれてるから、暫くここで待ってよう」
『うん…』
私は割れたお腹を庇いながらしゃがみこむ。
欠片落とさないように服押さえとこ。
戦えたのはパパラチアのおかげだ。
直前まで教えてもらえなかったら、きっと連れてかれてた。
上半身と下半身がバラバラになったパパラチアは目を覚まさない。
その綺麗な顔を撫でながら空を見上げる。
もう夕暮れだ。
「綺麗だな…」
『うん…』
明かりがなかったら綺麗に見える、というのはやはり嘘ではないらしい。
にしても、そんなに奮闘してたんだろうか。
ついさっきまで昼だったのに。
「おーい!大丈夫かー!!」
「スフェンだ…大丈夫だけど割れてて動けなーい!助けて〜!」
「わかったー!!ペリドット!風呂敷3枚!」
「はいはい」
スフェン、ペリドットを筆頭にぞろぞろとカラフルな頭が見えてきた。
「やっと帰れるな〜、帰ったらみんなにガーネットの勇姿を話さないとな」
『あ、あはは』
スフェンとペリドットはパパラチア。
ユークとアレキはイエロー。
ラピスとゴーストは私を包んでくれる。
『私、自力で帰れるよ…』
「駄目だよガーネット、お腹が割れているんだろう。そのまま帰ったら途中で上半身と下半身がバラバラになる」
「僕達に任せてくれていいのよ。頼ってって言ったじゃない」
『…ありがとう』
「…なんだか随分と疲れているね。まあ理由は後で聞くよ。今はゆっくり休んで」
「おやすみガーネット」
『うん、えへ、おやすみ』
私の返事を聞くと、ラピスとゴーストは優しく笑い私の視界を布で遮った。
目の前が暗くなるとなんだか瞼が下がってきた。
今はお言葉に甘えて休ませてもらおう。