Episode 8
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MAISON MOKUBAの近くにある立体駐車場に着いた降谷は、風見からふんだくった紙袋の中身を見ていた。
(バノフィーパイ、糖蜜タルト、スコーン、トライフルにレモンドリズルケーキ・・・
フッ、さすがだな。
イギリス発祥の菓子ばかりだ。)
降谷は、スコーンの入ったラッピン袋を手に取り、丁寧に焼き上げられた菓子を指先でするりと撫でた。
(・・・俺はここ最近、公安と組織の仕事が忙しくて、ポアロに出勤出来ていない・・・
だから、凛さんにまったく逢えていない。
凛さんの手作りのものなんて、もらえた事もない・・・
それなのに、風見は彼女に逢えただけでなく、こうして手作りの菓子ももらえた。
俺は、その事に何故か苛立ちを覚えた・・・)
降谷は小さく溜息を漏らすと、手に持っていたスコーンのラッピン袋を紙袋の中へ入れた。
「・・・どうかしてる。」
降谷はRX-7から降りると、マンションまでの道のりを歩いた。
部屋の前に着くと、ハロを起こさないように静かに玄関ドアを開けて玄関へ入り、リビングを抜けて奥の和室へと向かった。
ローテーブルの上にノートパソコンを置いて起動させ、持ち帰った仕事に取り掛かる。
数時間後ーーーー
仕事の一段落した降谷は、目を閉じて右手の親指と人差し指で目頭を抑えた。
スマホを手に取って画面を点けると、時刻は夜中の1時を回っている事に気付いた。
「1時、か・・・」
電話帳を開いて指をスイッと動かし、神崎 凛が表示された所で指を止めた。
「・・・何をやっているんだ、俺は・・・
こんな時間に、寝ているであろう彼女にとって迷惑でしかない。」
降谷は自分自身に静止の声を掛けるが、右手の親指は、凛の電話番号へと動いていた。
トゥルルル・・・
(・・・3コールだけ・・・
3コールだけ鳴らしてみて、出なければ諦めよう・・・)
トゥルルル・・・
(やはり、寝てるよな・・・)
トゥル・・・
「もしもし?」
まさか凛が電話に出るとは思っていなかった降谷は、受話口から聞こえた凛の声に、驚いて声が出せなかった。
「安室さん?
もしもーし、聞こえてまーすか、あーむろ とーるさーん?」
通話先の相手から何も反応がないからだろう、間延びした凛の自分の名前を呼ぶ声に、降谷はフッと微笑んだ。
「・・・こんばんは、凛さん。」
「こんばんは、安室さん。」
「こんな夜中に起きていたのか?」
「今日はちょっとお散歩に行ってたから、帰って来るのが遅かったの。」
「こんな遅くまで散歩?
それは感心しないな。」
「んー大丈夫だよ。
私、こう見えて強いもの。」
「例え凛さんが強くても、君は女性。
危ない事はしないで欲しいかな。」
「安室さんは過保護だなぁ。」
「どうしても夜に散歩をしたいなら、次からは俺も誘ってくれ。」
「ん?どうして?」
「そうすれば、君に万が一何か遇った時に護れるだろ?」
「もー・・・
安室さんはさ、特に多忙者なんだから、私とお散歩する暇があるなら少しでも休んでよ。」
「いいから。
とにかく、次からは絶対俺に声を掛けて。」
「・・・はぁい。」
降谷は抱え込んだ膝に額を置きながら、ポツリと呟いた。
「なぁ、凛さん・・・」
「どうしたの?」
「名前、呼んで。」
「安室さん?」
「そうじゃなくて・・・
本名の方。」
「降谷さん?」
「下の方。」
「零さん?」
「もう1度。」
「零さん。」
「もう1度・・・」
耳元で自分の名前を呼ぶ凛の声に、降谷は心にじわりと暖かいものが広がった気がした。
それが心地好くて、何度も名前を呼ぶよう催促した。
「・・・零さん。
私たちが初めて出逢った河川敷って、零さんのマンションから近い?」
「え?
まぁ、割と近いが・・・」
「なら、今から少しだけでいいから来れないかな?
10分後に私も行きまーす。
今日はね、星がとても綺麗なんだよ。」
「あ、ちょっーーーーもう切れてる。」
降谷はスマホをポケットに入れると、家の鍵を持ってすぐに玄関ドアを開けて出た。