Episode 47
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「え?
零も魔法薬を調合してみたいの?」
この日、凛は降谷からの突然なお願い事に目を瞬かせた。
降谷は右手でハンドルを握り、視線を前に向けたままで頷いた。
「あぁ・・・
この夏、赤井が魔法薬の調合をしたと言っていただろ?
それから俺もしてみたいと思っていたんだ。」
「いいよ。
この後時間あるなら調合しに来る?」
「いいのか?」
「もちろん。
零は手先が器用だし、フェリックスフェリシスやアモルテンシアみたいな上級魔法薬でも一発成功させそう!」
「フェリックスフェリシス・・・?
アモルテンシア?
フェリックスフェリシスという名前は、君の調合部屋にある魔法薬の棚で見た事あるが・・・」
「フェリックスフェリシスは幸運の液体とも呼ばれていて・・・
それを飲んだ本人が自然と最善の行動を選ぶような感覚になるんだ。
でもどんな危険も無効化する万能薬ってワケじゃなくて、運で左右される範囲を有利にする程度なんだけどね。
アモルテンシアは愛の妙薬って呼ばれていて・・・」
凛の口から出たその単語に、降谷はその名前が書かれた魔法薬の入った小瓶の蓋を開けて匂いを嗅いだ事を思い出した。
「この魔法薬を服用した人に、特定の相手への強烈な執着心や愛着を生じさせるの。
でも相手の本物の愛を作る事は出来ない。
あくまで不自然な執着を生む薬なんだよね。
この魔法薬の面白いところは、香りがね人によって違うのよ。
その人が最も惹かれるものの匂いに香るんだよ。」
凛の説明を静かに聞いていた降谷は、僅かに目を大きくした。
赤信号で車は停まり、助手席に座っている凛に視線を移した。
「あれは君の香水じゃなかったのか?」
降谷の言葉に、凛は首を傾げた。
「香水?
私、アロマが好きだからよく焚いてるけど香水は付けてないよ。」
その言葉に、降谷は目を大きくしたままで固まった。
(つまり・・・あの時、俺がその愛の妙薬の香りを嗅いだ時に香った凛の香りは・・・
俺が最も惹かれているものの香り、という事か。)
「?
どうかしたの?」
首を傾げている凛に目尻を下げて微笑んだ降谷は、首を左右に振った。
「いや・・・
俺はどこまでも君に惹かれているんだな、と思ってな。」
ゼロとして公安警察として体温・呼吸・心拍・皮膚電気活動など複数の生理反応を自分で操れるように様々な訓練を受けている降谷は、どんな高性能なポリグラフに掛けられたとしても嘘が露見する事がない。
そんな降谷であっても、凛の世界に実在する魔法薬相手に嘘は付けない。
いとも簡単に降谷の心の内をすべて暴かれてしまう。
否、魔法や魔法薬関係なく凛という存在だけで、もう降谷の心の内は容赦なく暴かれてしまうだろう。
「・・・凛は敵に回したくないな。」
彼女の頭を左手で優しく撫でながらどこか困ったように言った降谷に、凛はむぅと頬を膨らませた。
「私が零の敵になる訳ないじゃん。
何よりも零の味方ですけど?」
「ははっ、それは最高に頼もしい味方だ。」
信号が青に変わり、車を緩やかに発進させる。
「香りと言えばさ・・・
私が今愛の妙薬の香りを嗅いだら、なんの香りがすると思う?」
降谷は うーん・・・と考えた。
「なんだろうな・・・
君のご両親の香りとか?」
「んー惜しい。
両親が付けてた香水の香りがしてたのは以前の私だね。
今の私が香りを嗅ぐとね・・・」
シフトレバーをふんわりと包むようにして握っていた降谷の左手の上に、凛の右手が優しく乗せられた。
「零の香りがするんだよ。」
その言葉に再び降谷の目が大きく開かれた。
降谷の反応を楽しむようにして見ていた凛は、悪戯が成功した子どものようにニシシと笑った。
「・・・私が最も惹かれてるものの香り。
私が最も愛してる零の香り。
嘘偽りなく零を愛してる証拠。
ちなみに・・・私の守護霊もハロちゃんそっくりの仔犬に変わっちゃいました。
守護霊を出す時に零の事を思い浮かべないと、出せなくなっちゃったんだ。」
こんな言葉を凛以外の人間から言われたとしても、降谷であれば心拍も体温も変化させない事など容易く出来る。
彼女だから、すべては凛だからこそいとも簡単に降谷の強靱な精神や生理反応を崩させる。
急激に上がった体温で身体が熱い。
高鳴る鼓動が鼓膜にやけに大きく響く。
凛の気持ちを疑っていた訳じゃない。
しかし、いざ言葉だけでなく嘘が通じない魔法をもって改めて本気で降谷の事を好きだと言われた降谷は、嬉しさで緩んで赤くなった顔を凛に見られたくなくて顔を運転席側の窓に向けた。
「零?照れてるの?
ふふ、可愛い。」
凛には降谷の耳までほんのりと赤く染まっているのが見えていた。
その降谷により愛おしい気持ちが募っていく。
(・・・本当、君だけは俺の敵に回したくない。)
凛の言葉を聞いていた降谷は、困ったように微笑んだ。
