Episode 46
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半日の梓とマスターがシフトを終えた後、店内は忙しいながらも比較的緩やかな時間が流れていた。
安室がハロウィンプレートに使う為のフルーツをバックヤードへ取りに行っている時、来店を知らせるベルが鳴った。
凛が店内の出入口ドアへ視線を向けると、そこにはジョディとキャメルが立っていた。
「Hi、凛!
久しぶりね!」
「ジョディさん!キャメルさん!
来てくれたんですか!?」
凛は目を輝かせてジョディたちの元へ早足で向かった。
自身の元へ早足で向かって来た凛の頭を、ジョディが微笑みながら撫でる。
「シュ・・・沖矢さんから、ポアロでハロウィンイベントしてるって聞いてね。
なんでも凛の衣装が可愛いって言っていたから、これは何がなんでも逢いに行かなきゃってなったのよ。」
「えぇーっ嬉しすぎる!
美しいジョディさんが私に逢いに来てくれるなんて・・・っ!」
凛はジョディの手を握りながらテーブル席に案内した。
「キャメルさんもお久しぶりです!」
「ーーーーっ!
あ・・・っそのっ・・・はいっ!」
キャメルは目を左右に泳がせながら頬を染めた。
その様子を見ていたジョディは、ニヤリと笑みを浮かべる。
椅子に腰掛けて、凛を見上げながら口を開く。
「ねぇ、凛。
お願いがあるんだけど・・・」
「ジョディさんのお願いとあれば、喜んで!」
「ふふ、ありがと。
1度でいいから、このキャメルとデートしてあげてくれないかしら?」
「ちょっっっ!
ジョディさん!何言ってるんですか!?」
ジョディの言葉に顔を真っ赤にしながら、キャメルが静止の声を投げ掛ける。
凛はジョディの言葉に目を瞬かせた。
「デート・・・ですか?」
ジョディはテーブルの上に両肘を着いて指を絡ませるようにして組んだ。
「えぇ!
ショッピングでもなんでも・・・
キャメルの事は、ただの荷物持ちだと思ってくれていいわよ。」
「ジョディさん!!」
顔を真っ赤にしたキャメルが席を立ってジョディを止めようとした、その時ーーーー
「いらっしゃいませ、ご注文は?」
突然聞こえてきた声に、ジョディとキャメルがそちらに視線を移すと、2人に胡乱の目を向けた安室が無愛想に立っていた。
「・・・ご注文は?」
「ちょ・・・ちょっと待って・・・」
再び投げ掛けられた言葉に、ジョディとキャメルは慌ててメニュー表を手に取ってパラパラと捲った。
その2人の様子を見ていた安室は、キャメルの方に腰を屈めて僅かに顔を近付けた。
「ご注文がないようでしたら、とっとと出て行ってくれませんかねぇ・・・このポアロから!」
凄まじい剣幕で詰め寄られたキャメルは、焦りが募る一方だ。
「こら、透!
せっかく来てくれたのに、そんな事言っちゃダメだよ!」
凛が安室の背中を優しく押しながらカウンター内へと誘導した。
その凛に視線を移した安室は、眉根を寄せながら口を開いた。
「あの男とデートなんて、僕は許しませんよ。」
「わかってるし、そもそもキャメルさんとデートもしないよ。」
「あの男・・・確実に凛狙いなのが見え見えです。」
「そう?
透の勘違いじゃない?」
「いいえ、絶対勘違いなどではありません。
凛はあの男に気を付けるべきです。」
「またまたぁ・・・」
その時、ジョディに呼ばれて凛は注文を聞く為に安室から離れて行った。
「さっきは透がごめんなさい。」
「私の方こそごめんなさいね?
このハロウィンプレートとアメリカンを2つお願い。
ドリンクは先で・・・」
「かしこまりました。
しばらくお待ちください。」
「それにしても・・・」
ジョディの言葉に、凛が首を傾げる。
「彼もあんな格好するのね。」
ジョディはカウンター内で作業している安室に視線を移しながら言った。
安室はジョディたちが頼んだオーダーが聞こえていたであろう、コーヒーの準備をしていた。
そのジョディの視線を辿った凛は、ふふ・・・と微笑んだ。
「彼の格好、すごく似合ってるでしょ?
とてもカッコよくて素敵で、透が本当のヴァンパイアなら喜んで私の血をあげちゃう。」
頬を染めて話す凛に、ジョディはピンと来た。
「凛・・・貴女、もしかして・・・」
その時、安室がジョディとキャメルの前に無言でオーダーのコーヒーカップを置いた。
2人はとりあえずそのコーヒーを手に取り、一口飲んでみる。
その瞬間、ジョディとキャメルの目は僅かに大きく開かれた。
「美味いコーヒーだ!
コクと酸味が効いている!」
「本当に美味しいわね、このコーヒー。」
「それはどうも・・・」
素直に褒めるジョディとキャメルに対して、安室はなんて事ない顔で答えた。
「浅煎りの所謂レギュラーコーヒーを日本では独自にアメリカンと呼ぶ事に、こちらに来て少し驚いたよ・・・
我々アメリカ人の飲み方を真似して名付けられたものだとか・・・」
そのキャメルの言葉に、安室は鼻を鳴らした。
「フンッ・・・
よく勉強していらっしゃるようですね・・・FBI・・・」
安室の嫌味に、ジョディとキャメルの眉間に僅かに皺が寄る。
安室はそのままカウンター内へと戻って行った。
「・・・前々から思っていたけれど・・・
彼、露骨よね。」
「何故こうも我々FBIを目の敵にするんでしょうね・・・」
2人の言葉に、凛は困ったように微笑んだ。
すると、両手にハロウィンプレートを持った安室が再びテーブルにやって来た。
そしてやはり無言でテーブルの上に置く。
その安室の様子に、ジョディとキャメルは眉根を寄せながらも、フォークに手を伸ばしてプレートの料理に手を付け始めた。
「これも実に美味い!」
「ホント!
このハンバーグもとてもジューシーね!」
「・・・今日は何しに来たんです?」
安室の突き刺すような質問に、再び眉根を寄せたキャメルが答えた。
「さぁね・・・
我々が何の用があってポアロに来ようが、君には関係ない。」
キャメルがそう言った瞬間、バン!と大きな音が鳴った。
その音に肩を揺らしたジョディと凛は、テーブルの上に勢いよく手を着いた安室に視線を向けた。
「いいご身分ですねぇ・・・
観光だか何だか知りませんが、こんな時間にコーヒーブレイクとは・・・
まったく欧米人は呑気で羨ましい・・・
人生の半分がティータイムのようだ。」
突然、キャメルに詰め寄りながらネチネチと嫌味を言い始めた安室の腕を凛が慌てて引いた。
そしてジョディも慌てたように安室に向かって謝罪した。
「凛がここで働いているのを知ってて、偶然ハロウィンイベントをしてるって聞いたから・・・
それで久しぶりに凛に逢う為に来たのよ。
突然来て悪かったわね。
私たちはお邪魔のようだし、これを食べたらすぐに帰るわ。」
安室はジョディに視線を向けると、フッと口の端を持ち上げた。
それは挑発的な笑みだった。
「・・・女性のFBIは随分と物分りがいいですね。
そして察しもいい・・・
こちらのFBIも彼女を見習うべきでは?」
再びキャメルに向けられた嫌味に、キャメルの顔は険しくなる。
「何が言いたい?」
「そのままの意味ですよ。
こちらの彼女は先程の凛の言葉で、僕たちの関係に気付いたというのに・・・
貴方は未だにわかっていない。」
安室は馬鹿にしたように鼻で笑った。
そして凛の腰に手を回すと、2人してカウンター内へと戻って行った。
凛は安室を困ったように眉を下げながら窘めているようだ。
その安室の姿を見ていたキャメルは首を傾げた。
「あの男・・・何が言いたかったんでしょうか。」
キャメルの言葉に対してジョディが答えた。
「つまり、凛は彼の恋人だからキャメルに手を出すな・・・と言いたいのよ。」
ジョディのその言葉に、キャメルは心底驚き、そして一瞬にして風化した。
そのキャメルを見ていたジョディは、ポンッと彼の肩に手を乗せて哀れみの目を送った。
