Episode 46
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ポアロの店内に戻った安室は、不安げな顔で近付いてきた凛の頭を優しく撫でた。
「・・・大丈夫でしたか?」
「うん・・・」
「彼に何をされたんですか?」
「さっき陣さんが言ってたように・・・
本当に私が風邪をひかないようにしてくれたみたい。
そんな薄着で出て来るなって言ってたし・・・」
凛の言葉を聞いた安室は、指を顎に添えながら考えた。
「・・・君の忘却呪文というものは、かけられた相手はどのような手を使っても抜き取られた記憶を思い出す事はないのですか?」
「うん。
術者がもう一度魔法をかけない限り、抜き取られた記憶は永遠に戻らない。
だから何故、陣さんがここに来たのかがわからなくて・・・」
魔法の腕が鈍っちゃってるのかな・・・と不安げに呟く凛を安心させるように、安室は彼女の背中をゆっくりと撫でた。
「君の腕は変わらず凄いままですよ。
まぁ、彼もたまたま来ただけかもしれませんから・・・
気にしなくていいでしょう。」
「うん、そうだね・・・
ありがとう。」
凛はニコリと微笑むと、カウンター内へと向かった。
安室はジンの動きをより注意深く監視しなければと思った。
翌日の31日のシフトは、午前中は昨日と同じ4人だが、午後は凛と安室の2人でのシフトだ。
本日のポアロもハロウィン当日とあってか、店内は賑わいを見せている。
なんとわざわざ大阪から服部と和葉が来てくれた事に、凛は心底驚いた。
さらに昼間近になれば佐藤と高木が来店した。
「凛!ポアロでハロウィンイベントしてるって聞いたから来たわよ!
可愛い格好してるじゃない!」
「わぁっ美和子ちゃん!
それに高木刑事まで!」
「暇そうにしてたから、ついでに連れてきちゃった!
あとで由美と三池も来るって言ってたわよ。」
「本当!?
ここに警視庁の美女たちが来てくれるなんて、眼福すぎるっ!」
「そ れ よ り!」
ズズイと凛に顔を近付けた佐藤は、ニンマリと笑みを浮かべた。
「蘭ちゃんに聞いたわよ~。
安室さんと婚約なんだって?♡」
「ここここ婚約!?」
佐藤の言葉を聞いていた高木が、思わず声を上げた。
その高木を佐藤が訝しげに見やる。
「・・・どうして高木くんが焦ってるのよ。
まさか・・・高木くんも凛の可愛さに惚れて?」
「ちちちち違いますよ!
あの安室さんが婚約したんだなぁと思っただけですって!」
佐藤は まぁ、そう言われてみれば・・・と言いながら、チラッとカウンター内に居た安室へ視線を移した。
佐藤と目が合った安室は軽く会釈する。
「確かにあのポアロの人気店員が婚約だなんて、想像出来ないものねぇ。
その彼が余程凛にゾッコンって事なんでしょ。」
凛の肩に腕を回して抱き寄せながら、頬をツンツンと突いてくる佐藤に、凛は照れくさそうに微笑んだ。
そしてその後、来店した由美と苗子にまで何故か婚約した事が知れ渡っていた。
さらに佐藤たちが帰る時には、式には必ず呼んでね~と言われた。
(零は大々的に挙式とか挙げられないから、難しい・・・というより、挙式も挙げないと思うけどなぁ。)
安室の本職を知っている凛は、佐藤たちに手を振りながら眉を下げて笑った。
すると佐藤たちと入れ違いで、プラチナブロンドを持つ女性が店内に入ってきた。
サングラスを掛けたその女性は、凛の姿を見るなり口の端を持ち上げた。
「あら、凛・・・
随分と可愛らしい格好をしているじゃない。」
その声に、凛はパァッと顔を輝かせた。
そして同じくその声に反応した安室は、眉根を寄せて鋭い目付きで睨み付ける。
女性がサングラスを取って胸元に引っ掛けた。
そう、その女性は軽く変装したベルモットだったのだ。
「シャロン!
来てくれたんだ!」
凛はベルモットの手を握ってテーブル席へと案内する。
「ふふ、この私が凛からのお誘いを蹴るハズがないでしょう?
ジンも誘ったのだけれど・・・彼は興味なさそうだったから放ってきたわ。」
ベルモットの言葉に、凛は気まずそうに そっかぁと笑った。
ベルモットがテーブル席に腰掛けた時、少し乱雑に水の入ったコップが置かれた。
もちろん、そのコップを置いたのは安室だ。
ベルモットはコップから離されていった褐色の手の持ち主を、眉根を寄せて見た。
その瞬間、彼女の目は僅かに大きく開かれた。
「・・・貴方、随分と面白い格好してるじゃない。」
ジンに続いてベルモットにまで言われた安室は、コメカミに青筋を2本浮かべた。
そんな安室を気にする事なく、ベルモットは あーははは!と盛大に笑いながらテーブルの上をバンバン!と叩き、右手に持ったスマホで安室の姿を連写している。
一頻り大笑いしたかと思えば、何やらスマホ画面の上を素早く指を動かしていた。
「・・・何しに来たんですか。」
「凛のこの可愛い格好を見に来たのと、凛の考案したハロウィンプレートを食べに来たのよ。」
安室の怒りを含んだ言葉に対して、ベルモットはシレッと答えた。
ベルモットはスマホの操作を終えると、凛に微笑みかけながら彼女にスマホを向けた。
その瞬間、カシャッとスマホから音が鳴った。
「あぁ、凛・・・なんて可愛いのかしら。
さすが私のエンジェル・・・」
「・・・どちらかというと、今はデビルだよ?」
「デビル姿の凛もエンジェルよ。」
ベルモットは今しがたスマホで撮った凛の画像を見つめながら、うっとりとした表情で頬に手を添えた。
そんなベルモットに安室が文句言ってやろうとした時、ポケットに入れていたスマホが震えた。
ポケットから少しだけスマホを覗かせて見れば、組織用のスマホにメールが届いていた。
その安室を見ていたベルモットは、ニヤリと口元に弧を描きながら スマホを見るように促した。
安室が訝しげにベルモットを見やりながら、メールを確認する。
受信ボックスには組織のメンバーである、キャンティ、コルン、ウォッカ、キールからメールが届いていた。
【From : キャンティ
ギャハハハハ! バーボン!アンタ何やってんだぃ!?】
【From : コルン
バーボン、面白い格好。似合ってる。】
【From : ウォッカ
おい、バーボン!最高に似合ってるぜ!やっぱお前は何着ても似合うな!】
【From : キール
wwwwwwwwwwww】
(・・・このアマ、コロス。)
一通りのメールを見た安室は、先程ベルモットがスマホを操作していたのは連写した安室の写真を組織のメンバーに送信していたからだと知った。
その事実に認知した瞬間、一気にドス黒いオーラを纏いながら、鋭い眼光でベルモットを睨み付けた。
そんな彼の顔面は青筋が浮かびすぎて、ビキビキに変形している。
そのジンの凍て付くような鋭い眼光よりも恐ろしい眼光でベルモットを睨み付けている安室を隣で見ていた凛は戦慄し、ベルモットは再びテーブルの上をバンバン!と叩きながら大笑いをしていた。
