Episode 46
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無事に開店したポアロは、事前にハロウィンイベントの告知をしていたからか、いつも以上に忙しかった。
店内には見知った客で溢れ返り、安室とマスターはカウンター内のキッチンでひたすらにメニューを作り続ける。
そして凛と梓はフロアで接客をしていた。
カラン・・・と来客を知らせるベルに、凛が店内の出入口の方へ視線を移した。
「いらっしゃいませ!
あ、快斗くんだー!」
「よ!凛さん、久しぶりだな!
ハロウィンイベントしてるって言ってたから来たぜ!」
「わー、ありがと~。」
その時、凛は快斗の背に隠れるようにして立っていた可愛らしい女の子を見付けた。
その大きな青色の瞳を持つ、肩より下程の少し癖のある黒髪を持った女の子と目が合った。
「・・・おや?快斗くんよ・・・」
凛はニンマリとした笑みを貼り付けて快斗を見た。
「これはデートですな。」
「はぁ!?バッ・・・デートじゃねぇよ!」
「まぁまぁ、そんな照れなくてもいいじゃないか。」
凛はテーブル席に快斗と女の子を案内しながらクスクスと微笑んだ。
そして2人がテーブル席に腰掛けると、それぞれの前に水の入ったグラスを置いた。
その時、来店してからずっと凛を見つめていた女の子がおずおずと口を開いた。
「あ、あの・・・っ」
凛が女の子に視線を移して、微笑みながら首を傾げた。
「はじめましてっ・・・中森 青子って言います!
快斗から凛さんの話は聞いてて・・・一度逢ってみたかったんです!」
両手を自身の胸元でギュッと握りながら一生懸命話す青子に、凛は秒でノックアウトした。
すかさず握られていた青子の手を包み込むようにして握った。
「初めまして、青子ちゃん。
私は神崎 凛よ。
青子ちゃんみたいな可愛い子が、私に逢いに来てくれて嬉しい。」
ふんわりと目尻を下げて微笑んだ凛に、青子の頬は一気に赤くなる。
「はわわわわっっっ!
すっごく可愛いっっっっ!」
「ん?
可愛いのは・・・青子ちゃんだよ?」
腰を屈めて青子の頭を優しく撫でる凛に、青子は瞬きも忘れて釘付けになる。
完全に2人の世界に入っている状態に、快斗は水の入ったコップを口に付けながら言った。
「凛さーん、オレらハロウィンプレートな。」
「ん、了解。
しばらくお待ちくださいね。」
屈めていた腰を戻してオーダーを伝える為にカウンターの方へ行った凛の姿を、青子が目で追う。
「ふわぁ・・・凛さん、とってもいい香りがする。」
青子がカウンター内に居る安室にオーダー内容を伝えている凛から視線を外さないまま、ポツリと呟いた。
「な!オレの言った通りだったろ?
絶対 青子なら凛さんみたいな人が好きだと思ったんだ。」
快斗の言葉に、視線を凛から彼に移した青子は目を輝かやかせて大きく頷いた。
「うん!
青子、凛さんの事すっごく好きになっちゃった!
またここに来てもいいかな?」
「いいじゃねぇか。
あの様子なら、凛さんも青子の事気に入ったっぽいしさ。」
なっ?と言いながら微笑む快斗に、青子は嬉しそうに笑った。
「ねぇねぇ、透!
あそこのカップル尊いねぇ♡
目の保養だぁ、かぁわい~♡」
「・・・そうですか?」
(あの少年、以前凛の限定スイーツ食べに来ていた子だよな。
やはり誰かに似ている気がする・・・)
その後、変装したキュラソー、沖矢が来店し、蘭や園子や世良、コナンや少年探偵団の子どもたちと阿笠博士も来てくれた。
小百合や秋人、わざわざ京都からやってきた翼、さらに小五郎と英理まで来てくれた。
ポアロで初めて開催したハロウィンイベントの初日は、思っていたよりも大盛況だった。
店内は常に忙しく、時間が一瞬で過ぎたかのように思える程だ。
ようやく店内が落ち着いたのは14時を回ったところだった。
今日のシフトの15時以降は、梓とマスターだけになる。
その為、今現在2人はバックヤードで休憩していた。
「今のうちにお店の外の掃除してくるね。」
「外は寒いですし、僕が行きますよ。」
「ううん。
ずっと動いてて暑いから、少し涼んでくる~。」
「ふふ、ありがとうございます。
よろしくお願いしますね。」
午後の分のハロウィンプレートの仕込みをしていた安室は、にこやかに微笑みながら答えた。
凛がポアロから出て、店先に溜まっていた落ち葉をホウキで掻き集めていると、背後でコツッと足音がした。
近くで立ち止まっているのだろうか。
先程聞こえた足音は、聞こえなくなっていた。
不思議に思った凛が振り返ると、そこに長い銀髪を後ろで1つに束ね、黒のニットに黒の細身のパンツを身に付け、ベージュのロングトレンチコートを羽織ったジンが立っていた。
(ーーーー陣さん!?)
ジンの登場に、凛は思わず身構えた。
しかし、目の前に立っているジンは何も言わずに、ただ凛を静かに見ていた。
彼がいつも口に咥えている煙草は、今はない。
コツ・・・コツ・・・と足音が、ジンの足元から聞こえた。
ジンがこちらに向かって歩を進めている。
凛はジリッと僅かに後退った。
その時、ビュウッと強い風が吹いた。
その強い風に思わず凛はギュッと目を閉じた。
掻き集めた落ち葉が、カサカサと音を立てて飛んで行く音が聞こえる。
「・・・そんな薄着で出てくんじゃねぇよ。」
近くで聞こえた声に目を開けると、視界に黒のブーツの先端が映った。
続けて視線を上に向けると、風で靡いた凛の髪の視界の中にジンの姿が見えた。
彼の長い銀髪も風に揺られて、サラサラと空を舞っている。
「・・・え?」
「・・・風邪、ひきてぇのか。」
ジンはそう言うと、着ていたロングトレンチコートを脱いだ。
そしてそのロングトレンチコートを凛の肩に掛けて羽織らせた。
ジンの表情は、凍てつくような目でも殺気溢れた目でも狂気じみた笑みも浮かべられてなかった。
ただ無表情でジッと凛の瞳から視線を外さずに見つめてくる。
(・・・え、どうして・・・)
凛が戸惑いながら目の前に居るジンの顔を見つめていると、ジンの左手がソッと彼女の頬に伸ばされた。
その時、後ろから勢いよく腕を引かれた。
腕を引いた主を振り返って見やれば、そこには鋭い目付きをジンに向けた安室が立っていた。
「・・・彼女に何の用ですか?」
ジンは先程凛の頬に触れていた左手を、ぼんやりとした表情で見つめていた。
そのジンの様子に、安室はさらに眉間に皺を寄せた。
「聞いていますか?」
安室にしては珍しく語気を強めた言い方に、ジンはようやく視線を自身の左手から安室に移した。
そして安室の姿を上から下へと見る。
「・・・テメェ・・・何おもしれぇ格好してやがる。」
ジンの言葉に、安室のコメカミに青筋が浮かんだ。
「店のイベントで仕方がなくです。
それより・・・彼女に何の用ですか?」
再び鋭く投げ掛けられた問に対して、ジンはポツリと呟いた。
「・・・わからねぇ。」
「は?
彼女に何か用があった訳じゃないんですか?」
「・・・わからねぇ。」
安室の背に隠された凛を、ジンはチラリと見た。
「・・・何故か、ここに来ていた。
薄着で店から出て来たお前を見て・・・
風邪をひくと思った。」
安室はジンの言葉に舌打ちをすると、凛の肩に羽織らされていたロングトレンチコートを手に取った。
そして凛の背中を優しく押して店内へと誘導する。
凛が店内に入った事を確認すると、安室はジンに向かってロングトレンチコートを押し付けた。
「これはお返しします。」
ジンは押し付けられたままのロングトレンチコートをぼんやりと見つめていた。
その様子のジンに、安室はさらに力を込めて押し付けた。
「用がないのでしたら・・・
二度とここには来ないでください。」
安室はロングトレンチコートから手を離して身を翻し、店内へと戻って行った。
ジンはバサリと歩道の上に落ちたロングトレンチコートからポアロに視線を移した。
視線の先には、安室に笑顔を向けている凛が居た。
しばらくその凛を見ていたジンだったが、ロングトレンチコートを拾い上げるとその場を後にした。
