Episode 45
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ウォッカは一口も付けられていない餌入れを見ていると、ハッとした。
「兄貴!
もしかしたら、この猫は何かしらの病気を持ってるかもしれませんぜ!?」
「・・・何?」
ジンが黒猫凛からウォッカに視線を移した、その時ーーーー
「ジン、少しいいですか?」
この部屋のドアをノックした後、よく聞き知った声が聞こえてきた。
その声に黒猫凛は、思わず耳をピクリと反応させた。
「・・・なんだ。」
ジンが短く答えると、安室がドアを開けて室内に入ってきた。
「明日の任務についてですが・・・」
室内に入ってきた安室は、床にちょこんと座っている黒猫凛に視線を移した。
ジッと見つめてくる安室に、黒猫凛はドキリと胸を打つ。
(生バーボンさんだ!!)
黒猫凛は目を輝かせて安室の姿を見上げていると、勝手に尻尾がくねりと揺れ動いた。
「早く言え。」
ジンの言葉に、安室は黒猫凛からジンへ視線を移した。
「あぁ・・・
明日の任務ですが、先程先方から取引時間を21時に変更するよう連絡がありましたので、間違わないようお願いします。」
「フン・・・」
安室はジンから再び黒猫凛に視線を移した。
続けて口の付けられた形跡のない餌入れに目を向けた。
「この猫は食欲がないのですか?」
「・・・だったらなんだ。
用件が済んだなら、とっととこの部屋から出て行け。」
安室はジンの言葉を無視して床に片膝を着くと、姿勢を低くして黒猫凛の鼻先に右手の指先を寄せた。
猫が警戒しないようにされたその安室の優しい行動に、黒猫凛はキュンと胸をときめかせる。
安室の行動を見ていたウォッカは口を開いた。
「・・・バーボンは猫の事がわかるのか?」
黒猫凛は鼻先に差し出された安室の指先に擦り寄った。
猫の姿になっている今、嗅覚が鋭く発達している。
指先から香る安室の香りに酔いしれ、黒猫凛の喉が自然とゴロゴロと鳴る。
「詳しくはわかりませんが・・・
ちょっとごめんね?」
安室は黒猫凛を正しい猫の抱き方で腕の中に抱き上げると、膝の上に黒猫凛を仰向けに寝かせた。
そして優しく黒猫凛の腹部分を触る。
這わせていた人差し指と中指にほんの僅かな力が込められ、腹部分をグッと押された。
「にゃぁんっ・・・にゃにゃっ・・・(んあっ・・・そんな優しい手付きでっ・・・)」
安室のその手付きに、思わず黒猫凛の口から喘ぎ声が漏れる。
安室は単に触診しているだけなのだが、あまりにも彼に優しくグリグリと腹部を触られ続けた黒猫凛は、一際大きな鳴き声を上げて身体をビクンッと跳ねさせた。
それもそうだろう。
凛は安室の手によって、腹を押し撫でられただけで感じてイけるように調教されているのだから。
その黒猫凛の反応に、腹部を撫でていた安室の指がピタリと止まる。
続けて、自身の膝の上でくったりとしている黒猫凛の顔をじっと見た。
しばらく彼女の顔を見続けていたが、腹部から指を離して首を傾げた。
「んー・・・特に腹部に空気が溜まっているワケでも、しこりがあるワケでもありませんね・・・」
安室が再び正しい猫の抱き方で抱き上げた。
黒猫凛はたまらず、安室の胸元に前足を掛けて彼の首筋に擦り寄る。
「にゃにゃーんっ!にゃにゃ!にゃぁーん!(バーボンさーんっ!すき!だいすきー!)」
「ふふ、こらこら・・・
くすぐったいですよ。」
「にゃーっっ!にゃぁんっ、にゃにゃにゃっ、にゃあっ!(うはーっっ!いい香りっ、愛してるっ、ちゅっ!)」
尻尾をクネクネと揺れ動かしながら、甘ったるい鳴き声をしきりに上げて安室に擦り寄り、彼の顎元にキスをしている黒猫凛。
「・・・バーボンは人間の女だけじゃなくて、メス猫にもモテるんだな・・・」
「ーーーーチッ!」
その光景を見ていたウォッカがポツリと呟き、ジンは盛大な舌打ちをした。
安室はテーブルの上に置かれたスーパーの袋に視線を移した。
そしてテーブルに近付いて袋の中を見る。
「これは猫の為に買ってきたものですか?」
「あぁ。」
ウォッカが答えると、安室は うーん・・・と言いながら袋の中身を物色する。
そしてマグロの刺身と煮干し、それと本枯節を手に取った。
「この仔はこういった猫缶は受け付けない仔かもしれませんね。
少し違った食事を用意してみましょう。」
安室は片腕に黒猫凛を抱いたまま、食材を持って部屋を出ようとした。
「・・・おい。」
その安室の背中に、ジンの鋭い声が投げ掛けられる。
「その猫はここに置いていけ。」
(兄貴っっっっっ!!)
ここまで猫好きだったのかとウォッカは目に涙を浮かべた。
数十分後ーーーー
再び部屋に戻ってきた安室は、黒猫凛の目の前にゆっくりと餌入れを置いた。
「さぁ、どうぞ・・・
食べてごらん?」
「それは何なんだ?」
ウォッカが興味深そうにしながら、床の上に置かれた餌入れを覗き込んだ。
「これは先程の煮干しと本枯節をよく煮込んで出汁を取って・・・
そこに湯掻いたマグロの身を解して、さらに塩を少々加えて煮込んだこの仔専用スープです。」
黒猫凛の目の前に置かれた餌入れには、黄金色のスープに程よく解されたマグロの身が入っていた。
出汁のいい香りに黒猫凛の腹がぐぅ・・・と鳴る。
ペロリと1口舐めてみると、温度は程よく冷まされており、煮干しと本枯節の出汁が濃厚でとても美味しかった。
(美味しーっっっ!
さすが零っ! たった3品でこんなにも美味しいご飯作るなんてっ!!)
黒猫凛は周りに飛び散らないよう気を付けながらも、夢中で餌入れの中身を食べた。
「へぇっ!綺麗に食べるじゃないか!!」
「黒猫、可愛い。」
「あら、本当にお上品な黒猫ちゃんね。」
「さすがバーボンだな!」
「・・・フンッ。」
そしてその食事風景を目尻を下げて見守るキャンティ、コルン、ベルモット、ウォッカ、ジン。
黒猫凛はカオスなこの状況に、この組織が本当に悪者なのか疑問を抱かざるを得なかった。
