Episode 45
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(あー、私は一体どこに連れて行かれるんだろ。)
ジンの懐に入っている黒猫凛は、走り続けるポルシェ356Aに小さく溜息を漏らした。
せめて場所を探る為に窓の外を見る為、ジンの懐から出ようとした。
「おい、危ねぇだろ。
ちゃんと中に入ってろ。」
ジンの懐から出ようとした瞬間、彼の左手で優しく頭を押されて再び懐の中に戻された。
(・・・はぁ、仕方がない。
もしかしたら私が知らない組織の拠点に向かってるかもしれないし・・・
なんなら陣さんと他のメンバーからの会話を堂々と盗み聞き出来るチャンス・・・
しばらく大人しくしとくか。)
黒猫凛はジンの懐の中で、早く車が目的地に着く事を祈った。
しばらく走り続けていたポルシェ356Aは、とある建物の駐車場に止まった。
ジンが車から降りて、慣れた足取りで建物の中へと入っていく。
(ここは・・・どこだろ。
私が知ってる組織の拠点とはまた違った場所だな。
ラッキー♪ ここの拠点に隠されてるデータも奪えるじゃん!)
すると向こうの方から、ジンの姿を見付けたウォッカが走り寄って来た。
「兄貴!お疲れ様でした!」
「あぁ。」
「無事にネズミは見付かりましたかィ?」
「あぁ。」
ジンは淡々と返事だけすると、ウォッカの横を通り過ぎようとした。
しかし、ウォッカがジンの懐に入っている黒猫凛に気付いて声を掛ける。
「あ、兄貴・・・それ何ですかィ?」
ウォッカはジンの懐から顔を出している黒猫凛を指差しながら言った。
そのウォッカの表情には、当然戸惑いが含まれている。
「・・・拾った。」
「兄貴が・・・ですかィ?」
「あぁ。」
するとウォッカは顔をパッと明るくさせた。
「へぇ・・・黒猫ですかィ。
ちょっと見せてくだせェ。」
ジンは懐に左手を突っ込むと、黒猫凛の首筋を乱暴気味に鷲掴んだ。
ズル~リ・・・と懐から出された黒猫凛は、ウォッカに向かって胸や腹部分が丸見え状態である。
「にゃにゃ!?にゃーっっっにゃにゃにゃ!!(ちょっと!?いやーっっっ見るな変態!!)」
ジンによって首筋を鷲掴まれた状態では為す術がなく、黒猫凛は必死に手足をバタつかせながら鳴いた。
「あっ兄貴!!
そんな持ち方しちゃいけやせんって!!」
その黒猫凛の持ち方を見たウォッカは、慌ててジンの左手によって首筋を鷲掴まれていた黒猫凛の両脇に片手を入れて、もう片方の手で尻を支えながら抱き上げた。
そしてそのまま自分の身体にそっと密着させるようにして引き寄せた。
「猫の抱き方ってのは、こーするんですぜ!」
ウォッカは嬉々としてジンに猫の抱き方をレクチャーした。
「ほーら、大丈夫だからなー・・・よしよし。
おっ、兄貴・・・こいつァメスですぜ。」
ウォッカが黒猫凛の腹回りを見て言った。
その言葉にジンも黒猫凛の腹回りをジッと覗き見る。
「にゃにゃ!にゃっにゃーっっ!(ちょっと!へっ変態ーっっ!)」
黒猫凛は思わずウォッカの顔面に猫パンチを繰り出した。
顔面に猫パンチを受けたウォッカは何故か嬉しそうだ。
そしてこれもまた何故かウォッカとジンの交互に抱っこされている黒猫凛は、再び遠い目をした。
すると、その場にジンとウォッカの声とは別の声が聞こえてきた。
「ちょっと、ジン!
今日はアタイらが出るんじゃなかったかぃ!?」
「・・・俺も、撃ちたかった。」
黒猫凛がその声の主に視線を移すと、そこには左目周りにアゲハ蝶のタトゥーをあしらった女と、帽子をかぶりサングラスを掛けた男が居た。
「キャンティ、コルン・・・
そう拗ねんなって・・・
どうせお前らは明日撃てるじゃねぇか。」
ウォッカはその2人に向かって諭すように言った。
しかしキャンティはウォッカの言葉より、ジンの腕に抱かれている黒猫凛に目を輝かせた。
「黒猫じゃないか!
ちょっとアタイにも抱かせてくれよ!」
キャンティが黒猫凛に向かって手を伸ばそうとすると、ジンがスッとその手を避けた。
そのジンの行動に、もちろんキャンティの眉根に深い皺が刻まれる。
「何で避けるんだい!?」
「テメェは乱暴者だろぉが・・・
猫1匹まともに抱けず、潰しちまいそうじゃねぇか。」
「はぁ!?
アタイを何だと思ってんだい!?
アタイだって猫くらいちゃんと抱けるんだよ!」
キャンティはそう言うと、ジンの腕の中から黒猫凛を抱き上げた。
確かにキャンティの抱き方も、ウォッカと同じ正しい猫の抱き方だ。
「随分と大人しいじゃないか!
可愛い黒猫だねぇ!
ほら、コルン!アンタも見てみなよ!」
「黒猫・・・可愛い。」
コルンはキャンティの腕の中に居る黒猫凛を見ながら、頬を僅かに染めて言った。
「ジン!
この黒猫をここで飼うってのはどうだい?」
「俺、賛成。」
キャンティとコルンがキャイキャイと騒いでいると、そのキャンティの腕の中からジンが無言で黒猫凛を抱き上げた。
「ちょっと、何すんだい!?」
キャンティが不満の声をあげるが、ジンは黒猫凛を正しい猫の抱き方で抱きながら廊下を歩いて行った。
その後ろ姿をウォッカが慌てたように着いて行く。
「ウォッカ・・・」
ジンは自分の後ろを着いて来るウォッカに、振り返る事も視線を移す事もせずに口を開いた。
「兄貴、何ですかィ?」
「・・・コイツが食えそうなもん買ってこい。」
「へい!
すぐに手に入れて来やす!」
ウォッカは返事をすると、すぐに身体を翻して駆け足で元の道を戻って行った。
ジンがとある部屋に入ると、抱いていた黒猫凛をゆっくりと床に降ろした。
黒猫凛はプルプルと身体を振るってからその部屋を見回した。
(んー?
ここは会議室・・・みたいだな。
何か盗めそうな情報とかないかなぁ。
パソコン関係とか・・・残念、置いてないか。)
部屋の中をキョロキョロと見回していると、椅子に腰掛けたジンがポケットから煙草の箱とマッチ箱を出していた。
彼が煙草の箱の底をトントンと軽く叩いて1本取り出し、口に咥える。
その時、ジンは黒猫凛の方を見た。
「?」
黒猫凛が首を傾げていると、無言のままこちらを見ていたジンは咥えていた煙草を箱の中に戻した。
「にゃー?(吸わないの?)」
黒猫凛は抱いた疑問を思わず口に出していた。
すると、ジンはフッと口の端を持ち上げた。
「・・・確かテメェも煙草が苦手だったか。」
(テメェ・・・"も"?)
黒猫凛は、ジンのその言葉にさらに首を傾げた。
(誰か組織の中にも煙草が苦手な人が居るのかな。)
特に気にする事なく、引き続き部屋の中を物色する。
その時、この部屋のドアが勢いよく開けられた。
「兄貴!
いいブツが手に入りやしたぜ!
高級猫缶各種に、国産本マグロの刺身、鹿児島県産の本枯節に徳島県産の煮干し!!」
部屋に入ってくるや否、弾丸の如くツラツラと戦利品をジンに見せては袋の中に戻していくウォッカ。
そのウォッカにジンは よくやったと褒めている。
(・・・この人ら仲いいなぁ。)
目の前で繰り広げられるやり取りに、黒猫凛は新たな組織の一面を知った。
ウォッカは買ってきた餌入れに高級猫缶を開けて入れた。
そして黒猫凛の前に跪き、床の上に高級猫缶が入った餌入れを置いた。
「ほら、食え。」
目の前にある すんごいキツイ匂いを醸し出す高級猫缶に、黒猫凛は眉根を寄せた。
本来、猫であればこの匂いに食欲がうなぎ登りで跳ね上がり、すぐにでも食い付く代物なのだろう。
だがしかし、黒猫凛は人間であり、猫ではない。
「にゃあ・・・(Oh・・・)」
チラッとウォッカを見やれば、微笑みながら黒猫凛が食べるのを今か今かと待ち侘びて見守っている。
(わざわざお高い物買ってきてくれて有難いんだけど・・・
私、さすがに猫缶は食べないんだよなぁ・・・)
黒猫凛はどうしたものかと途方に暮れた。
いつまで経っても食べない黒猫凛に、ウォッカとジンが首を傾げる。
「・・・食べやせんね。」
「テメェが開けたその猫缶の味が気に食わねぇんじゃねぇのか。」
「えっ!?」
ウォッカは慌てて別の高級猫缶を開けると、再び床に餌入れを置いた。
(・・・いや、すみません。
2缶も開けさせといて申し訳ないんですが、猫缶はちょっと・・・)
黒猫凛は前足で餌入れをウォッカの方へ少しだけ押した。
「ーーーーチッ。
おい、ウォッカ・・・どういう事だ。
テメェが買ってきた猫缶は全滅じゃねぇか。」
「しっしかし・・・
この高級猫缶はどの猫であってもがっつくって有名で・・・」
「この猫をその辺に居る猫共と一緒にするんじゃねぇよ。」
「あっ兄貴・・・!?」
ジンのまさかの発言に、ウォッカは目を丸くした。
