Episode 45
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ポアロのシフトを終えて帰宅していたある日の事、凛はいつも通りの帰り道で狭い路地に入った。
するとその時、先の角に闇夜の中で光る銀色の髪先が揺れ動いて消えたのが見えた。
(・・・陣さん?)
凛はその髪を持つ人物がジンであれば、彼が何か罪を犯す前に止める為、足音を立てないように気を付けながらその銀色の髪を持つ人物を追い掛けようとした。
しかし、もしその銀髪の持ち主がジンである場合、凛の顔は彼にバレている。
面倒事は避けたかった凛は、どうしたものかと考えた。
すると次の瞬間、凛の姿は消えた。
否、実際には消えていない。
凛が立っていた場所に佇んでいたのは1匹の猫だった。
その猫は全身真っ黒な毛並みに、瞳の色がヘーゼルカラーだった。
そう、凛はアニメーガスを使ったのだ。
彼女のアニメーガスは黒猫なのだ。
黒猫の姿となった凛は、4足歩行でテッテッテッと走りながら目の前の角まで向かった。
角に辿り着いた時、パシュッという音が静かな路地裏に鳴り響いた。
その音は聞いた事が何度もある。
拳銃にサイレンサーを付けて発砲した時の独特の発砲音だ。
黒猫凛が角の陰から顔を出してその先を見ると、そこには黒のハットに、黒のロングトレンチコートを身に付けた長い銀髪を持つジンが左手にサイレンサー付きのベレッタM1934を持っていた。
その銃口先からは青白い硝煙がユラユラとまるで踊っているかのように揺れており、この暗闇の中ではそれがよく見えた。
そしてその佇むジンの前には、既に頭を撃たれて息絶えた1人の男が倒れていた。
黒猫凛は、ジンの行いを止める事が出来ず、彼がさらに罪を重ねてしまった事に眉を下げた。
その瞬間、ジンが素早く振り返って銃口をコチラに向けた。
視線だけで人を殺せるのではと思う程に鋭く冷たい。
そのジンの目付きで射抜かれた凛は、思わずその場で身体を固まらせた。
「・・・猫、か・・・」
ジンが呟くように言った。
そして向けていた銃口を下に向け、そのまま拳銃は胸元へと戻された。
コツ・・・コツ・・・と革靴の音を鳴らしながら黒猫凛の方へ歩を進める。
(こっちに来ちゃう・・・
どうしよう、逃げなきゃ・・・)
そう思うのに、黒猫凛は目の前に居るジンの深緑の瞳から視線が外せないまま動けなかった。
ついに黒猫凛の鼻先に触れる程の距離にジンの足が来た。
しかし、ジンは黒猫凛の隣をすり抜けて角を曲がって行った。
ジンの視線から逃れられた事で身体が動くようになった黒猫凛は、すぐさま身体を翻してジンの姿を追い掛けようと角を曲がった。
その時ーーーー
「・・・何、俺を付けて来てやがる。」
「ーーーー!?」
その声に黒猫凛が身体を大きく揺らした。
仰ぎ見れば、角を曲がってすぐの所にジンが立っていた。
ジンは鋭い目付きで黒猫凛を見下ろしている。
「・・・にゃ、にゃあ。(は、Hello.)」
まさかジンが自分の尾行に気付いているとは思っていなかった黒猫凛は、とりあえず挨拶してみた。
挨拶と言っても、もちろんアニメーガスの時はその動物の鳴き声としてでしか声を発する事は出来ない。
その為、黒猫凛の口から出た言葉は、紛うことなき猫の鳴き声だ。
ジンはしばらく黒猫凛を鋭い目付きで見下ろしていた。
ジンと黒猫凛が無言のまま互いの目を見続けていると、ジンの口の端が持ち上げられた。
彼のその小さな笑みの意味がわからず、黒猫凛は首を傾げた。
すると、突然ジンの左手が黒猫凛に向かって伸ばされた。
そうかと思えば、前足も後ろ足も浮いて地面から離れ、身体がブランブランと揺れ動く。
「にゃっにゃあ!?(なっ何!?)」
突然の浮遊感に黒猫凛は目を大きくした。
この後、黒猫凛はさらに驚愕する羽目となる。
なんと黒猫凛の顔の間近くに、ジンの顔があった。
ここで黒猫凛は、ジンの左手によって首筋を掴まれて持ち上げられている事に気付いた。
「・・・にゃあ?(・・・何か?)」
「お前・・・アイツに似てんな。」
("アイツ"?)
黒猫凛はジンの言葉にますます首を傾げる。
ジンはフッと口の端を持ち上げると、まさかな・・・と言いながら黒猫凛を懐に入れた。
「ーーーー!?」
これにはさすがの黒猫凛も驚愕する。
何故自分がジンの懐に入れられなければいけないのだろうか。
ジンのロングトレンチコートの胸元から2本の前足と顔だけ出した状態で呆然とする。
いくら考えても答えが出ない謎に、黒猫凛は遠い目をした。
そんな間に、ジンは黒のポルシェ356Aが止めてある場所まで戻って来ていた。
運転席の鍵を開けて車内に入り、車のエンジンをかける。
独特のエンジン音をこの狭い路地に響かせながら、ポケットから煙草の箱を取り出した。
黒猫凛のすぐ目の前で、煙草の箱から取り出された1本の煙草がジンの口に咥えられ、シガーライターを煙草の先端に押し当てられる。
ジジ・・・と小さく音が鳴り、次第に煙草の先端からユラユラと白煙が立ち昇った。
「ケホッケフッ」
思いっきり目の前で煙草を吸われ、その煙を吸い込んだ黒猫凛は、前足で鼻元を抑えて目に涙を浮かばせながら咳き込んだ。
ジンは自身の懐の中で咳き込む黒猫凛を見下ろしたかと思うと、すぐに口に咥えていた煙草を車載灰皿の中に突っ込んだ。
その様子に黒猫凛がジンの顔に視線を移すと、彼の視線と混じり合った。
「・・・悪かったな。」
「にゃあ?(何が?)」
ジンはそれ以上何も言わず、ハンドルに指を絡めてその場から車を発進させた。
