Episode 35
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ある日のポアロの閉店作業中、安室が申し訳なさそうに眉を下げて凛に言った。
「凛、すみませんが1つお願いがあります。」
洗い物をしていた手を止めて安室を見た凛は首を傾げた。
「どうかしたの?」
「実は・・・明日、ハロの予防接種の予約をしているんですが、どうしても外せない用事が出来てしまって・・・
別日も考えたのですが、その用事がしばらく続くので中々難しく・・・」
安室はシュン・・・と目を伏せて俯きがちに話した。
今の彼に犬のような耳と尻尾が生えていたとすれば、間違いなく耳はぺそりと垂れ、尻尾も垂れ下がっているだろう。
(わざわざ風見さんじゃなく、私に頼むって事は・・・
風見さんと一緒にお仕事か。)
安室が任務と重なった時にハロの事を風見に任せている事をもちろん知っていた凛は、なるほど・・・と頷いた。
「いいよ。
私が代わりにハロちゃんを病院に連れてくよ。
お世話も必要だよね?」
「!
ありがとうございます!
明日の病院以外は他の方に頼んであるので大丈夫です!」
安室はパッと表情を明るくした。
その表情からハロを本当に大切にしている事が伝わる。
(ふふ、可愛い。)
背伸びをして、自分の頭より遥かに上の方にある安室の頭の上にポンと手のひらを置いてゆっくりと撫でた。
サラサラで柔らかい安室の髪が気持ちよくて、撫でる手が止まらない。
「・・・あの、凛?」
ハッと我に返って安室の顔を見やれば、困ったように微笑みながら頬を染めていた。
「あ、ごめん。
さっきの透の顔が可愛すぎて、つい・・・」
安室の頭からパッと手を離すと、安室にその手を捕らえられた。
捕らえられた手をそのまま彼の口元へと誘導される。
そして指先に軽くキスを落とした安室に、次は凛が頬を染める番だった。
「可愛いのは、いつだって凛ですよ。」
柔らかく微笑む安室の顔に見惚れていると、そうだと言いながら凛の指から手を離した。
ポケットの中に手を入れ、ゴソゴソと何やら漁っている。
そしてポケットから取り出したものを凛に差し出した。
「これ、渡しておきますね。」
安室の手のひらの上に置かれていたのは鍵だった。
「鍵?」
「えぇ、鍵です。」
凛は手のひらの上にちょこんと乗っている鍵を見続けながら首を傾げた。
「何の?」
次は安室が首を傾げる番だった。
「え、僕のマンションの鍵です。
明日のハロの病院連れて行ってもらうのに必要ですよね?」
「え?
その頃には透、もう居ないの?」
「えぇ、明日は早くて・・・
なのでこれを使ってください。」
「なら今日シフト終わったらハロちゃん迎えに行くよ。
ハロちゃんにはそのままお泊まりしてもらって、それで明日病院に連れてくし。」
安室は首を左右に振りながら凛の右手を手に取ると、その手のひらの上に鍵を乗せて優しく握らせた。
「実はこの鍵、僕のマンションのスペアキーなんです。」
「それって・・・」
「凛であれば、いつでも大歓迎ですよ。
まぁこの鍵を渡していなかった時も、凛ならいつでも大歓迎でしたけどね。」
「ーーーーっ」
つまりこの鍵は堂々と安室のマンションへ出入りする事を許された証と言っても過言ではない。
その意味がわかった凛は、大きい目をさらに大きくした。
その様子の凛の耳元に顔を寄せた安室は、小さな声で話した。
「もちろん俺のセーフティマンションの方も渡すから。
今日シフトを終わったら、凛の指紋とか登録する為に俺のセーフティマンションへ行くぞ。」
さらに安室のセーフティマンションの鍵まで渡される事を知った凛は、あまりにも嬉しすぎて目に涙を浮かべた。
その喜びを表す為にも安室に勢いよく抱きついた。
安室の腰周りに腕を巻き付けて胸元に顔を埋めた瞬間、より安室の香りが鼻腔をくすぐる。
安室が凛の背中に腕を回した事で香りがより強くなり、愛しい人の香りに包まれた安心感と幸福感に無意識の内にふにゃりと口元を緩ませる。
「すごく嬉しい・・・ありがとう。
透、だいすき。」
「ふふ、僕も大好きですよ。
さぁ早く店を終わらせて、僕のマンションに行きましょう。」
元々無駄な動きがなくテキパキと動く安室ではあるが、その彼がより機敏に仕事に取り掛かるようになった事に首を傾げて尋ねた。
「いきなりそんなにも急いでどうしたの?」
凄まじいスピードでレジ締め作業を終わらせた安室が振り返った。
「先程の可愛い君でスイッチが入りました。」
満面の笑みを顔に浮かべ、頗る爽やかに言い放った言葉に、凛は一瞬の間を置いてその言葉の意味を理解した。
その後も普段の安室よりさらに早いスピードでポアロの閉店作業を終わらせた事によって、凛は即座に彼のセーフティマンションへと連行された。
そしてあれよそれよと言う間に、凛の指紋認証、網膜認証、その他諸々の登録がされた。
さらに安室から これが俺のセーフティマンションのカードキーなと言って1枚のカードを渡された。
凛が着いていけずにただ呆然としている間に安室によって横抱きにされ、そのまま寝室へと連行されていった。
