Episode 35
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エントランスをくぐり抜けた安室は、隣で自身の腕に絡めて歩く凛に不満気な目を向けた。
「・・・何?」
「彼女をあのまま野放しにしていていいのですか?」
「あぁ・・・」
凛はいまだ駐車場の地面に座り込んで項垂れている麗美の方をチラリと見やる。
そしてフッと微笑んだ。
「あの子はもう大丈夫だよ。」
「君は甘すぎます。」
「透には特別甘いからね。」
その言葉に安室は目を瞬かせた。
「さっきも言ったでしょ?
透に惚れてる子だもの・・・悪い子になって欲しくないわ。
だって彼女が悪い子になってしまったら、世間が透を放っておかないでしょ?」
安室に惚れた女が殺人未遂容疑などで逮捕されてしまえば、少なからず安室が好奇な目に晒さられる。
あの事件の女が言っていた噂の男だ、と。
人間という生き物は、時に話題の中心の人間よりもその話題に関わった人間に群がり、そこからありもしない噂を平気で流す。
公安の力でそこはもみ消される事であろうが、例え短時間でさえもそんな事実をこの世に残したくない。
安室を大切に思えば思う程、その思いは大きくなる。
安室に関する事ならば、どんな些細な悪い噂も好奇な目に晒される事も許さない。
凛の言葉の意味を理解した安室は、目尻を下げてフッと微笑んだ。
「・・・本当に君は・・・
俺には勿体なさすぎる程の恋人だ。」
「えー、そこは是非とも最高の恋人って言って欲しかったなぁ。」
「あぁ、確かに・・・
凛は俺の最高の恋人だ。」
安室は凛の唇に触れるだけのキスを落とした。
翌日ーーーー
ポアロには蘭、園子、コナンが来ていた。
蘭たちはいつも通り会話に花を咲かせている。
そこに凛と安室も加わって楽しげに談笑していた。
カラン・・・と店内に来客を知らせるベルの音に凛たちが視線を向けると、麗美が店内に入ってきた。
安室は麗美の姿を見た途端、鋭い目付きになる。
蘭とコナンも眉を寄せて麗美を見やる。
園子が勢いよく席から立ち上がり、麗美に向かって指を差した。
「あっあの時の!
アンタどの面下げて、この店に来てんのよ!」
麗美は園子を一瞥すると、凛の方へ歩を進めた。
すぐに安室が凛の前に出て、凛を後ろ手に隠す。
その安室を宥めながら彼の背後から前に出ると、麗美に尋ねた。
「いらっしゃいませ。」
「・・・店に用があったワケじゃないのよ。」
「そう。
なら、どうしましたか?」
麗美は視線を下に向けながら、口を開いたり閉じたりを繰り返す。
そして1つ息を着くと、腕を組んで眉を吊り上げて凛に鋭い視線を向けた。
しかしその視線は以前のような敵対心を含んだ瞳ではない。
「・・・その、悪かったわ。」
麗美の謝罪に、安室と園子は それが人に謝る態度かと胡乱の目で見やる。
凛は自身を指差して首を傾げる。
「私?」
「アンタ以外に居ないでしょ!」
謝りに来た癖に高圧的でどこまでも上から目線の麗美に、安室と園子はますます不満気だ。
その2人を他所に、凛は解せぬとでも言いたげに目を瞬かせる。
「んー・・・謝る相手を間違えていませんか?
私は何も貴女に謝られるような事はされていませんよ。」
凛の言葉に、麗美は素っ頓狂な声を出す。
「はぁ!?
アンタ馬鹿なの!?
鶏みたいに3歩歩いたら忘れるワケ!?」
「アイツ・・・さっきから謝る気があるのかないのかどっちなのよ・・・」
呟く園子に安室も大きく頷いて 同感ですと言っている。
「鶏は犬やイルカ並の知能持っていますし、3歩以上歩いても忘れませんよ。」
「話が逸れてんのよ!
今はそんな話してないでしょ!」
相変わらずの自分勝手な発言にコナンも呆れ顔だ。
「・・・アンタに怪我、させたし・・・
昨日も殺そうと・・・」
口篭りながら話した麗美の言葉に、コナンと蘭、そして園子は目の色を変えた。
園子は麗美に突っかかろうとしたが、凛が彼女の手を取って制した。
「さぁ、私は怪我をした覚えもありませんね。
昨夜のは私にプレゼントを届けに来てくれたんでしょう?
あれ、切れ味良くて使い心地いいですよ。」
麗美はグッと唇を噛んだ。
「ですから、私が貴女に謝られるような事は1つもありません。
貴女が謝るべき人は誰か・・・わかりますよね?」
麗美はおずおずと安室に目を向けると、深々と頭を下げた。
「・・・迷惑を掛けて、本当にごめんなさい・・・」
「二度とこんな事しないでください。」
「・・・はい。」
眉を下げて泣きそうな顔で店内から出て行こうとした麗美を、凛が呼び止めた。
「麗美さん。」
ドアノブに手を掛けていた麗美は、振り返らず視線だけを凛に向けた。
「透の事が今も本気で好きなら、私から奪ってみな。」
フッと口の端を持ち上げた凛は続けた。
「・・・この私から奪えるものなら、ね。」
その言葉に、蘭と園子は これが本妻の余裕ってやつよ!と盛り上がり、安室は右手で口元を覆い隠して呆然としていた。
しかしコナンの座る位置から安室の隠された口元が見えていた。
彼の口元は至極嬉しそうに持ち上がり緩みきっている。
(・・・オイオイ、この人公安だよな?
大丈夫かよ・・・)
その安室の表情に、コナンは口元を引き攣らせていた。
何も言わずに店外へと出た麗美は、店のドアが閉まるベルの音を背中で聞きながら歩き出した。
両腕を天高く上げて一呼吸してから元の位置に戻す。
「・・・バッカみたい。
あんな人から奪えるワケないじゃん。」
麗美の瞳から静かに流れた涙は誰にも気付かれる事なく、頬から横に流れて風に乗って消えた。
ーーーーーー
後日、凛のマンションに安室と赤井から大量のシャトーブリアンが送られてきたのであった。
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