Episode 35
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翌日ーーーー
この日のポアロも安定に凛とのシフトに改ざんした安室は、隣に立つ彼女を心配げに見つめる。
いつもの穏やかな彼女とは違い、今日の凛は苛立っているのかどこか不機嫌のようだった。
もちろん客相手にそんな態度は出していないが、時折フッとその感情が凛の顔に出ている。
今のところ麗美の視線は感じないが、いつ彼女がまた凛を襲うかわからない。
安室はいつも以上に周りに気を張っていた。
「透、今の内に外掃除してくるね。」
「!?」
ほうきとチリトリ片手に店外に出て行こうとする凛を素早く引き止める。
「僕が行きます。」
「え、でも透は今仕込み中でしょ?」
「いいえ。」
「いや、その左手に持ってるの何?」
そう、安室の右手は凛の腕を掴み、左手にはフルーツが持たれていた。
ちょうど日替わりスイーツの在庫が少なくなっていた為、その仕込みをしていたところだったのだ。
安室はフルーツを待っていた左手をサッと背中に回して隠すと、ニコリと微笑んだ。
「僕が行きますね?」
有無言わさぬ圧を含ませた声に、凛は渋々頷いた。
そしてこの日、麗美が接触してくる事なくポアロを終えた。
RX-7の助手席に座っていた凛はやはりどこか苛立っているようで、安室は首を傾げる。
「今日は随分と機嫌が悪そうだな?」
凛はムスッとした顔を安室に向けた。
「昨日ね、帰ってから色々調べたのよ。」
「二階堂 麗美についてか?」
「えぇ。」
凛はスマホを操作しながら頷いた。
RX-7が赤信号で止まったのを確認すると、スマホ画面を安室に見せる。
「見てよ、これ。」
向けられたスマホ画面に、あるSNSの投稿画面のスクリーンショットされた画像が写されていた。
【今日も私の彼氏が尊い♡】
その言葉と共に載っていた写真。
ベッドの上で撮った写真だろうか。
麗美とその隣にもう1人居るようだが、画面から見切れていてその人物の全体像は写っていない。
ただ、その人物は色黒の肌と金髪の持ち主である事は間違いない。
写真を見る限りわかる事は、色黒の肌をした人物に腕枕された麗美がベッドの上に居るという事だけだ。
「これがどうした?」
「これ絶対匂わせってやつ!」
「そうか?」
安室が首を傾げながら聞くと、凛は再びスマホを操作しながら口を開いた。
「この前にも何回か安室 透を匂わせる投稿があったのよ。
例えば・・・ほら、これとか。
零もこのジャケット持ってたでしょ?」
再び見せられたスマホ画面には、確かに安室が持っているジャケットと同じ銘柄、色のジャケットが部屋の片隅に少しだけ写り込んだ写真が表示されていた。
「まぁ何着も売られているジャケットだからな。
偶然だろ。」
「これだけじゃないの!」
凛はスマホをさらに操作して、安室に見せた。
そこにはポアロの外から撮ったであろう写真が載せられていた。
僅かに見える窓に赤文字で書かれたポアロの"ロ"の文字と思われる一部分と、見覚えのあるレンガ造りの植え込みが写った写真。
そして"ダーリンお仕事頑張ってるかしら?"の文字。
「これらの投稿見た人たちが、さっきのベッドの上の投稿見て騒いじゃってるのよ。
"この金髪ってあむぴじゃない?"とか、"絶対安室さんじゃん!"とか、"前々からあむぴの私物と同じ物写り込んでたからもしかしてって思ってたけど・・・"とか!
それはもうお祭り騒ぎよ。
言っておくけど、零の金髪はこんなギラギラした下品な金髪じゃないし、肌の色だってこんな日焼け丸わかりの残念な褐色じゃないわよ!!
出直して来なさいよ!」
スマホ画面を見ながらプンスコ激怒している凛に、安室は思わず笑う。
その安室を凛は訝しげに見やる。
「・・・何がおかしいのさ。」
「いや・・・
君が怒るのはそこなのかと思ってな。」
「当たり前よ!
零の美しさを模倣出来ない小娘が匂わせなど片腹痛い。
そして何よりこんなのを投稿する事で零に迷惑かけるって事を微塵にも理解してない阿呆さ加減に反吐が出ます。」
ピシャリと言い放った挙句盛大な舌打ちをかました凛に、安室は破顔させて笑った。
一頻り笑った安室は、ジロリと睨むようにして見る凛の頭に優しく左手を乗せて撫でる。
「・・・何?」
「改めて俺の彼女は可愛いなと思ってな。」
ブワッと顔を赤らめた凛に、安室は目尻を下げて微笑んだ。
「それで?
そのSNSを見付けてどうするつもりなんだ?」
「あぁ・・・
まぁありとあらゆる手を使って調べた結果、彼女がしてるSNSはここだけだったのよ。
だから見付けた時に透を匂わせた投稿は全部消してあげたわ。
この画像を保存した他の人間も同罪よ。
保存した端末を徹底的に調べ上げて端末ごと破壊してあげたの。
でも彼女の端末も一気に消しちゃったら楽しくないでしょう?
だから彼女が次にこのアカウントを開いた時に、アカウント自体を強制的にデリートされるようにシステム変更してやったの。
それと同時に彼女の端末も破壊するウイルスを仕込んでやったわ。」
ニヤリと黒い笑みを浮かべながら話す凛に、安室は苦笑いした。
「まったく君は・・・
どこでそんな技術を身に付けたんだ?」
「え?
零が私に教えてくれたんだよ。」
「記憶する限り俺が教えたのはサイバーセキュリティと爆発物解体、あと銃のメンテナンスだけだが?」
「サイバーセキュリティを学んだ時に、ついでに色々視野広げて追求してたら出来るようになっただけだよ。
ハッキングとかもはや余裕。」
安室はそんな馬鹿なと言いそうになったが、凛相手にもはや何も言うまいと諦めた。
