Episode 35
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安室が片手に凛を抱えてリビングドアを開けると、ソファに腰掛けていた赤井が2人に視線を移した。
いつの間にか沖矢の変装を解いていた赤井は、凛が身に付けているワイシャツに残念がる。
「残念だ。
俺のワイシャツを着ている凛を見てみたかったんだが・・・」
その赤井にすかさず安室が牙を剥く。
「ハッ!
誰がいつまでもFBI臭いワイシャツを着せるヤツが居るんですか。」
ソファの上に凛を優しく降ろした安室は、その隣に腰掛けた。
「そして凛は安室くんから逃げる事は出来なかったようだな。」
フッと口の端を持ち上げながら話す赤井に、凛は頷いた。
「まぁ、今回の件に関しては俺も色々凛に聞きたい事があったからな・・・丁度いい。」
赤井は安室に視線を向けた。
「君は二階堂 麗美という女を知っているか?」
赤井の口から出た言葉に、安室は腕を組んだまま眉根を寄せて答えた。
「誰だ、その女性は。」
安室の言葉に、凛は目を大きくした。
「え、知らないの?」
「聞いた事もない名前だ。」
凛が呆然としていると、赤井が ふむ・・・とスマホを操作した。
そして麗美の画像を安室に向けた。
「ならば、この女の顔に見覚えはないか?」
安室は向けられたスマホ画面を見た。
凛も覗き込むようにしてその画面を見る。
そこには先程の公園で撮られたであろう写真が写っており、肉を踏んでいる麗美の姿が写っていた。
「!?
この女性ーーーー」
「あっ私のシャトーブリアン!!」
思わず口から出た言葉に安室と赤井が凛に視線を向けるが、慌てて口元を右手で塞いだ凛は首を左右に振った。
安室は再びスマホ画面に視線を移しながら、口を開いた。
「・・・この女性は見覚えがある。
2週間程前にポアロの買い出しに出掛けた帰り道でひったくりがあったんだ。
その時に被害にあったのがこの女性だった。」
「なるほど・・・
安室くんがそのひったくり犯を押さえ込んだのか。
その時にこの女から何か言われなかったか?」
「そういえば、一目惚れしたから付き合ってくれとか言われたな。」
シレッと答えた安室に、凛はショックを受けた表情で放心した。
その様子に気付いた安室は、凛の顔を覗き込みながら続けた。
「何にショックを受けているのかは知らないが・・・
俺はその場でちゃんと断っているからな?」
その言葉に明らかホッと安堵の息を漏らした凛に、安室は優しく微笑んだ。
ゴホンッと咳払いした赤井がスマホをポケットに入れながら続けて口を開く。
「城南大学に通う二階堂 麗美は、昨日の17時頃にポアロに来店。
そこで凛と接触した。」
赤井の口から出てくる情報に、思わず凛が前のめりになりながら制止の声を掛ける。
「ちょっ、待ってよ秀一!」
「凛は少し黙っていろ。」
赤井から珍しく厳しく制された凛は、うぐっと言葉を詰まらせる。
「二階堂 麗美は安室くんの事を自分の彼氏だと言い張り、凛に対しては君との関係は遊びだと主張したようだ。」
「はぁ!?」
あまりにもぶっ飛んだ話に、安室は素っ頓狂な声を上げた。
「さらに凛に向かって"珍味" 、"芋臭い"、"色気も何もない"、"貧乳のお子ちゃま"などと言った暴言まで吐いた挙句、凛の頬を平手打ちにし、その衝撃で凛が棚にぶつかり額と膝に怪我を負う事態となった。」
「なーーーーっ!?」
眉根を寄せ、目に怒りの色を宿した安室の隣で、凛が再び制止の声を投げる。
「ストップストップ!
どうしてその場に居なかった秀一が知ってるのよ!?」
「すべてボウヤから報告は受けている。」
(コナンくんの裏切り者おおおおおっ!)
悲観に打ちひしがれてる凛を放置した赤井は、続けて安室に話し掛ける。
「凛はポアロから消えろとまで言われた。」
「それで凛は今日突然あんな事を・・・」
「そこに加えて、さっき話した今回の件だ。」
奥歯を強く噛み締め、爪が手のひらに食い込む程握り締める。
凛が慌てて安室の手を取って拳を開けさせると、彼の手のひらには爪の形の傷が出来ていた。
「・・・凛の事だ。
どうせ俺に話せば俺に迷惑をかけると思って何も言わなかったんだろ?」
「うん。
それに彼女が組織に関する人なのか、探偵業に関する人なのかまだわからなかったのよ。」
安室の手のひらに杖先を向けて治療しながら、凛は渋々といった感じで口を開いた。
「万が一にでもそんな事があれば、俺は事前に凛に話すに決まってるじゃないか。」
「・・・返す言葉もありません。」
安室は視線を落とした。
「・・・確かにここ数日、視線を感じる事が多かった。
後をつけらる事はなかったが、ポアロに居ると視線を感じていた。
まさかその正体がこの女だったとは・・・」
安室はクッと奥歯を噛む。
「凛、すまない・・・
俺のせいで君を傷付けた。」
「え!?
零は何も悪くないよ!
この子がちょっと勘違いして行き過ぎた行動してるだけだよね?」
凛の言葉に、安室と赤井からなんとも言えない視線を向けられた。
やがて2人から溜息を零される。
「凛・・・
君はそこまで危機感がなかったとはな・・・」
「悔しいが赤井の言う通りだ。
いつも言ってるだろ?
君はもっと危機管理能力を持つべきだ。」
頭の上にクエスチョンマークを大量に浮かべている凛に赤井は言った。
「昨日の件といい、今回の件といい・・・
少しの勘違いで行き過ぎた行動をしてるだけでは済まされんだろう。」
「あぁ。
脅迫罪、暴行傷害罪、強制性行等未遂罪・・・」
安室の口からツラツラと出てくる余罪に、凛は慌てて止める。
「・・・え、逮捕するの?」
誰に向かって言っているんだ、当たり前だろ?と言うような目を向けてきた2人は、公安警察とFBI捜査官だ。
「我が公安の力をフルに使って捕まえてやる。
それの何か問題があるか?」
「FBIもそれに加担しよう。
例えあの女が国外逃亡を図ろうとも追いかけ回してやろう。」
その様子の2人に、凛は苦笑いしか出なかった。
しかし凛は今回の事でどうしても譲れない事があった。
「あのさ・・・
確かに彼女は人としてやっちゃ行けない事をしたと思う。
でも・・・今回は私に任せてくれないかな?」
「それは何故だ?」
凛は眉を下げて泣きそうな表情になると、次第にその目からポロリと涙が流れ落ちた。
彼女のその姿に安室と赤井は目を見開いて動揺すると同時に、麗美に対して腸が煮えくり返る程の憎悪を抱く。
凛が泣いてしまう程の事を麗美にされたのだ。
それも我々が知らぬ間に。
安室と赤井はギリィッと奥歯を噛み締め、抱いた憎悪はさらに激しく膨らみ上がっていった。
「だって・・・」
ポロポロと涙を流しながら、凛は小さい声で言った。
安室と赤井は今すぐにでも麗美を見つけ出し、凛が受けた苦しみを味わわせてやりたい衝動を必死に押さえ込みながら言葉の続きを待つ。
「だって・・・
その子、私のシャトーブリアンを踏み潰したんだよ!!」
安室と赤井は一瞬時が止まったような錯覚に陥った。
「「・・・シャトー・・・ブリアン?」」
2人の言葉は見事にハモった。
「そう!
今日たまたま特売で1パック3000円のシャトーブリアンが1300円で買えたの!
キュラソーと贅沢に1パックずつ食べようと思ってルンルンで帰ってたのに、あの子に1パックぐっちゃぐちゃに踏み潰されちゃって!
私、シャトーブリアンって初めてだったからっ・・・
希少部位でとっても美味しいって聞いたから、とっても楽しみにしてたのに!!」
えぐっえぐっと泣きじゃくりながら肉について語る凛に、安室と赤井はすぐさまスマホ画面を操作し、シャトーブリアンを購入するマークを連打する。
「・・・だから、ね?
食べ物を粗末にする悪い子は、私がお仕置するの。
2人は手を出さないで。」
目元に涙を溜めながらも凄まじい圧を放つ凛に、安室と赤井は頷く事しか出来なかった。
