Episode 34
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黒煙を夜空へ立ち昇らせ、メラメラと燃え盛る真っ赤な炎に包み込まれた哀れなRX-7に、凛は遠い目をした。
隣に立つ降谷に至っては、無惨な姿の自分の愛車に目も当てられないのか、顔ごと横に向けている。
「・・・とりあえず消火からだね。」
『アグアメンティ(水よ)』
凛が杖を振ると、何処からともなく現れた大量の水がRX-7の上から降り注いだ。
一瞬にして炎が消え去り、黒い塊と化したRX-7に再び杖を振る。
『レパロ(直れ)』
呪文を唱えた瞬間、目の前にあった真っ黒なRX-7は元の真っ白な色になり、先程まで炎に包まれていたのが嘘のようにピカピカの車に戻った。
元に戻ったRX-7の周りをくるりと回りながらチェックすると、うんと頷いた。
「ボディも車内も元通りだね。」
「まさか元に戻るとは思っていなかったよ。
さすがに今回は廃車になると諦めていたんだ。」
「私の魔力のすごさを思い知った?」
凛はニシシッと悪戯っぽく笑いながら言った。
「そうだ。
ガソリンタンクも元に戻ったはずだから大丈夫だと思うけど・・・
一応エンジンかけてみてくれる?
大丈夫、爆発は絶対に起こらないから。」
「今更君を疑ったりはしないさ。」
降谷はそう言いながら運転席のドアを開けて乗り込むと、イグニッションキーシリンダーに差し込まれたままの鍵を回した。
独特の低いエンジン音が鳴り響き、大丈夫そうである事がわかる。
「まるで新車のような気分だな。」
どことなく嬉しそうに言った降谷に、凛は自慢気に鼻を摩った。
「そりゃあね!
RX-7さんには愛をたっくさん込めてレパロしたもの。」
「・・・ふーん。」
降谷は運転席から降りると、凛の身体に両腕を回し、腰辺りで両手を祈るようにして組んだ。
そして小首を傾げながら凛を見つめる。
「妬ける、な。」
降谷の言葉に、意味がわからないと言いたげな凛は首を傾げる。
「妬ける?
どうして?」
「んー・・・俺が車を壊したからなのは承知の上なんだが・・・
凛が愛を込める相手は俺だけがいいと思って。」
凛の額にコツンと降谷の額を寄せる。
目の前に感じられる降谷の表情に、凛は一瞬にして顔に熱が籠った。
彼女のその表情を満足気に見つめながら、降谷は続けて口を開いた。
「自分の車にまで嫉妬する俺は・・・嫌?」
「!?
いえ!嫌だなんて・・・っ
滅相もございません!!
なんなら私の愛は零一筋でございます!
ええ、もう、はい!
零にしか愛は溢れ出ておりません!
だって私は零命なんで!
ご所望であれば右腕に"我降谷零命"、左腕には"我降谷零一生愛す"と彫らせて頂きます!」
「墨を入れたら一緒に温泉もプールにも行けなくなるな・・・」
「油性マジックで書きます!!!」
その言葉に降谷は声に出して笑った。
「本当・・・君はいつも俺の想像を超えた事を・・・
今回も助けてくれてありがとう。」
降谷は触れるだけのキスを凛の唇に落として離れると、眉を落とした。
「それと・・・
今日みたいな無理はもうしないでくれ。」
腰辺りで祈るようにして組んでいた手を解いて壊れ物を扱うように背中を包み込んで抱きしめた。
「・・・痛くないか?」
「うん。」
「あの時の君を見て・・・
本当に心臓が止まるかと思った・・・」
「・・・ごめん、なさい。」
降谷は首を緩く左右に振ると離れ、凛の手を引いて助手席へ誘導した。
「帰ろうか。」
「あ、ちょっと待って・・・
兵ちゃんに連絡しなきゃ。」
凛はポケットからスマホを取り出すと、電源を入れた。
メールが届いているのがわかり、宛先人を見ると灰原からだった。
凛はメールを開くより先に黒田の番号を打ち込んで耳に当てた。
すると、黒田は数コールで出た。
「もう知ってると思うけど・・・
カプセルは無事に衝突を避けれたよ。」
「あぁ。
よくやった。」
「まぁ避けれたのは、コナンくんと零のお陰だけどね。
私は何もしてないよ。」
「今回のすべてに対しての"よくやった"だ。」
受話口から黒田がフッと微笑むのが聞こえた。
「また何かあった時はよろしく頼む。
あと、次の茶会も楽しみにしているぞ。」
「りょーかい。」
凛は口の端を持ち上げると、通話を切った。
次いでメール画面を開き、灰原から届いていたメールを開く。
【凛さん、あの安室って人と付き合ってるんでしょ?】
たった一文だけだった。
凛はその一文に対して目を細める。
そして返信画面に文字を打ち込んでいく。
【正解。
よくわかったね。】
送信すると、すぐに返事が届いた。
【あの時の凛さん、彼が心配で仕方がないって表情していたもの。
あの人は苦手だけど、凛さんとの仲は仕方がないから応援してあげる。】
灰原らしい内容に、凛は思わず破顔させる。
その彼女を見ていた降谷は首を傾げた。
「随分と楽しそうだな。」
「ふふ・・・
友達がね、私と零の関係に気付いたみたい。」
「へぇ?
それで?君は何て答えたんだ?」
「正解って。
勝手にバラしちゃってごめんね。
でも絶対に他言しない子だから心配しないで。」
「気にしてないさ。
それに、間違ってないだろ?」
降谷は口の端を持ちながら助手席のドアを開けた。
凛が礼を述べながら乗り込む。
運転席へ乗り込んだ降谷へ視線を向けながら、シートベルトを締める。
「では、次は安全運転でお願いします!」
「ふっ、了解。」
降谷は左手で包み込んだシフトレバーを動かし、アクセルを緩やかに踏み込んだ。
独特のエンジン音を鳴らしたRX-7のテールランプが闇に浮かび上がり、そして消えて行った。
翌日、ポアロには小五郎、蘭、コナンの姿があった。
特製のサンドイッチが乗った皿を両手いっぱいに持った凛と降谷は、小五郎に大サービスと称して提供した。
蘭に勢いよく抱きつかれた凛は、至極嬉しそうに蘭を抱きしめ返す。
コナンに視線で背中の傷について尋ねられ、凛は小さく頷いて微笑んだ。
小五郎にサンドイッチとは別に持ってきていた大量の缶ビールを降谷が渡せば、目を輝かせて受け取った。
朝食もまだで空腹だった小五郎は、早速サンドイッチが乗った皿に手を付けて豪快に食べ始めた小五郎を蘭が窘める。
いつもの日常だなぁと凛は幸せそうに微笑んだ。
カラン・・・
店内に来客を知らせる音にそちらを見やれば、園子と世良が入ってきた。
2人は蘭が呼んでいたようだ。
無事小五郎の無実が証明された事を改めて喜ぶ園子に、蘭も嬉しそうにしている。
テーブル席に着いた世良に凛は注文を聞き、カウンター内へと戻って注文を受けたメニューを作る。
世良のテーブルに提供へ向かうと、ジッと見つめてくる世良に凛は首を傾げた。
「真純ちゃんどうかしたの?」
「ん?
今日も凛ちゃんは可愛いなと思ってさ!」
ストレートな言葉に凛は頬を染めた。
そのやり取りを見ていた降谷は、世良のテーブルへやって来た。
「すみませんが、凛はもう僕の彼女なので。
前回みたいに君の兄を紹介しようとする行為は、今後一生やめてくださいね?」
それだけ言うと、降谷はカウンター内へと戻って行った。
牽制する言葉に世良は眉根を寄せ、蘭と園子は頬を染めて見守り、小五郎とコナンは目を見張っていた。
「いっ今のって!?」
詰め寄る園子に凛は少し間を開けた後、照れながら頷いた。
「あー・・・うん、そう。
実は付き合ってます。」
凛からの言葉にさらに熱を上げる園子と蘭。
小五郎に至っては、俺の可愛い娘のような凛ちゃんが・・・と放心している。
コナンはカウンター内で仕込み作業をしている降谷の元へ行くと、カウンター席に膝立ちで乗った。
「ねぇ、安室さん。」
視線を向けた降谷に、探るような目付きで尋ねる。
「今の言葉って、安室さんとして?
それとも・・・"ゼロ"として?」
降谷は目を瞬かせた後、フッと口の端を持ち上げた。
「ゼロとしても安室としてもだよ。
そこに裏は何もない。
・・・君には昨日、ハッキリと言ったハズなんだけどな。」
正直言葉を濁されると思っていたコナンは、改めてハッキリと言われた言葉にそれが降谷の本心であると納得した。
安心したコナンは、フッと笑った。
「・・・なら良かった。
凛さんを泣かせないでね?」
「フッ・・・当然。」
蘭たちのテーブルへ戻っていくコナンの背中を追った視線の先に居た凛と目が合い、降谷は目尻を下げて愛おしげに微笑んだ。
ーーーーーーーー
その日の夜。
凛のスマホに赤井から着信が入った。
通話ボタンをタップし、スマホを耳に当てる。
「もしもし。
秀一、どうしたの?」
「先程近所のスーパーで安室くんに逢ったんだが・・・
その時、安室くんが俺に指を差しながら"凛はもう俺の彼女だから、お前は金輪際近寄るな、喋りかけるな、気安く彼女の名前を呼ぶな、ついでに俺の日本から出ていけFBI"と言われてな。」
「・・・ん?ちょっと待って。
まず確認したいんだけど・・・秀一の姿で買い物に行ってたの?」
「いや、沖矢の姿で行っていた。」
「!?
それって昴が秀一って零にバレてるじゃない!」
「その事はどうでもいい。」
「いやいやいや!
どうでもよくないでしょ!?」
「そんな事より、凛・・・君は安室くんと付き合っているのか?」
「うん、そうだよ?」
凛が答えたその時、受話口からガタンと大きな音が聞こえた。
「大丈夫?」
「あぁ、すまない。
スマホを床に落としてしまった。」
「そう。」
「・・・それは安室くんとの関係か?
それとも降谷くんとしての関係なのか?」
「んー・・・初めは零と付き合ったって感じなのかな。
その後に透とも付き合ってるって事なのかなぁ。
私との関係を特に本人はどっちの時でも隠してなさそうだし。」
凛の言葉に、受話口からガシャンッと何かが割れる音がした。
「大丈夫?」
「あぁ。
グラスが手から落ちてしまった。」
「さっきから秀一が珍しいね。」
「その・・・凛は本気なのか?」
「何が?」
「彼に対して・・・
気持ちは本当なのか?」
「あぁ・・・
そうだよ、零の事愛してるよ。
告白してくれたのは零からだけど・・・
そもそも零が好きすぎて、零が告白する前に私が零に好き好きっていっぱい言ってた気がする・・・
あれ、これ私から告白したって事なのかな?
とりあえずさ、もうね、零のすべてが愛おしくてとっても大好き!」
その瞬間受話口からバキィッと激しい音が聞こえ、ツー・・・ツー・・・と通話が途切れてしまった。
赤井の身に何か遭ったのだろうかと思った凛はすぐに掛け直したが、"おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていない為かかりません"という無機質なアナウンスが流れるだけだった。
「・・・何だったんだろ。」
凛は首を傾げるが、特に気にする事なく眠りについた。
翌日の夕方ーーーー
凛のスマホにショートメッセージを受信する通知がついた。
確認すると、それは赤井からのメッセージだった。
【昨日の夜は突然悪かった。
スマホを少々壊してしまってな。
急遽新しいスマホを買いに行っていた。
これが俺の新しい番号だから登録しておいてくれ。
ー赤井 秀一 ー】
「・・・通話中に何してたらスマホが壊れるんだろ。」
凛は疑問に思いながらもスマホをポケットに入れた。
