Episode 34
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凛は自宅に姿現しをすると、その帰りを待っていたかのようにキュラソーが彼女の名前を呼んだ。
呼ばれた凛はすぐにリビングへと向かう。
「おかえり。
帰って早々に悪いわね。」
「んーん、それで何かわかったの?」
「凛が接触した橘 境子なんだけど・・・」
キュラソーはタッチパッドの上を人差し指で撫でながらカーソルを動かして資料をいくつかパソコンの画面上へ出した。
「去年にこの橘 境子の事務員が事件を起こしたみたい。」
「ん?
コナンくんから聞いたんだけど・・・彼女は事務所を持たないケー弁らしいよ?」
「えぇ、今はね。
去年に事務所を閉じたようね。」
キュラソーは調べた資料の中から、該当する箇所を指で指し示した。
「当時、事務員だった羽場 二三一がゲーム会社に侵入し、携帯ゲーム機を盗んで逮捕された。
そして羽場は送検された後、拘置所内で自殺した。」
「自殺?」
凛もパソコンの画面上にある資料を見ながら聞き返した。
画面上の資料には、羽場 二三一の顔写真と年齢、窃盗事件の詳細と、拘置所で自殺した日付などが書かれていた。
彼が自殺した日付けは今日と同日だった。
「えぇ。
問題は彼が拘置所の中で公安警察に取り調べされた後すぐに自殺した、という事。」
キュラソーの言葉に、凛はパソコンの画面からキュラソーに視線を移して目を瞬いた。
「そんなハズないよね?」
「さぁ、私も事実はわからないけど・・・」
「なら彼女は公安警察を憎んでるわよね。」
キュラソーはタッチパッドの上を人差し指で撫でで次の資料を画面上に映し出した。
「それで彼女の取扱事件記録の中で、"NAZU不正アクセス事件"ってあったでしょ?」
「うん。
去年、日本人がNAZUのコンピューターに不正アクセスした事件らしいね。」
「えぇ、そうよ。
その事件がきっかけで、ノーアユーザーを追跡するシステムがNAZUで完成したんだけど・・・
この事件の担当していた検事が、日下部 誠よ。」
「ノーアって・・・
IPアドレスを暗号化し、複数のパソコンを経由する事で辿れなくするブラウザソフトの事よね?
今回の国際会議場の爆破への不正アクセスも、そのノーアが使われていたって・・・」
凛はそこまで言って、言葉が出なくなった。
話の途中で区切った凛に、キュラソーは首を傾げる。
「ねぇ・・・
NAZUって確か今日、太平洋にはくちょうを着水させるんじゃなかった?」
「はくちょう・・・無人探査機の事よね?」
凛は嫌な汗が頬を伝うのを感じた。
確か、国際会議場が爆破された時の点検担当は公安部ーーーー
公安警察には多くの民間人の協力者を持っているーーーー
羽場さんが拘置所で取り調べをしたのは公安警察ーーーー
その羽場さんが拘置所で自殺したのは今日と同じ日付ーーーー
NAZU不正アクセス事件を担当していた検事は日下部さんーーーー
ネットにアクセス出来る電化製品を無差別に暴走させるIoTテローーーー
爆破にはノーアが使われていたーーーー
ノーアはNAZUで完成したーーーー
日下部検事がスマホの暗証番号を入力した時の5桁の音ーーーー
凛はハッとした。
(あの時のスマホの音は、そういう事なのね!
という事は、やっぱりーーーー)
急いでテレビを点けてニュース番組のチャンネルに変える。
「凛、どうしたの?」
「そのはくちょうって、今日のいつ頃地球に帰って来るんだろ・・・」
凛は無人探査機 はくちょうの緊急生中継番組に釘付けになりながら、やけに早くなっていく鼓動の音が耳障りに感じた。
「長野県の国立天文台です。
たった今、地球から約5万キロ先の"はくちょう"を観測したとの・・・」
テレビのアナウンサーが告げる中、壁に掛けてある時計へと視線を移す。
時計の針は19時を過ぎたところを指し示していた。
「それなら確か・・・大気圏突入まで1時間弱じゃないかしら?」
彼女の問い掛けに対してキュラソーが答えると、凛の顔はサッと青くした。
「キュラソー・・・今回の犯人がわかった。」
「え?」
「犯人は日下部 誠さんだよ。
そして日下部さんはNAZUに不正アクセスして、はくちょうを落とすつもりだ。」
「ちょっと待って・・・
落とすってどこに?」
「それは・・・多分警視庁。」
凛の言葉にキュラソーは目を大きくした。
「どうして警視庁に落とす必要があるの?」
「彼も公安警察を憎んでる1人なんだよ。
彼は自分が担当した事件の手口を使って、サイバーテロを働いた・・・」
「ノーアを使った、という事?
でもノーアユーザーを追跡するシステムは完成しているのよ?」
「そう、だから彼はバグを作ったノーアでアクセスしたんだ。
国際会議場を爆破して、アメリカの探査機が東京に落ちれば、公安警察の威信は完全に失墜出来る・・・」
キュラソーはなるほど・・・と頷く。
「そこまで公安を憎む理由は何なの?」
「それは・・・」
凛はパソコンの画面に映る羽場を見た。
その視線にキュラソーは気付き、同じようにパソコンの画面へと視線を移す。
「恐らく羽場さんは日下部さんの協力者だから。
だから彼を自殺に追い込んだ公安警察が憎いんだ。」
「え!?
確かに日下部 誠は公安検事だけど、公安検事には協力者は抱えないんじゃないの?」
「んー・・・
その辺は私にもよくわからないけど・・・
日下部さんとすれ違った時に、スマホのロックを解除する時に聞こえた5桁の音がね、確かに"88231"だったのよ。」
凛は黒いローブに袖を通しながら答えた。
羽織った際にローブがバサッと大きく靡く。
その姿はまるで夜闇に飛び交うコウモリのようだ。
「いってくるね。」
キュラソーが頷いたのを確認すると、凛は姿くらましを使って消えた。
