Episode 34
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帰宅した凛は、キュラソーにコナンから聞き出せた情報を話していた。
「なるほどね。
なら、私はその3つの裁判を洗ってみるわ。」
キュラソーはすぐさまノートパソコンを開き、電源を入れて起動させた。
「ありがとう。
私はとりあえず接触してみるよ。」
「どっちの方に?」
「んー・・・橘 境子先生に。
公安ってさ、協力者が居るじゃん?」
「その協力者って・・・
公安の捜査に協力する民間人の事よね。
もしかしたらその弁護士が公安の協力者かもしれないって?」
凛が頷いたその時、テーブルの上に置かれていたスマホが震えた。
画面を見ると、コナンの名前と電話番号が表示されていた。
「もしもし、どうかしたの?」
「凛さん・・・
おっちゃんの起訴が決まっちまった・・・」
「そう・・・
蘭ちゃんは大丈夫?」
「ひどく落ち込んでる・・・」
「だよね。
大丈夫だよ、小五郎さんは必ず助けるから。」
「当たりめぇだ。」
「ねぇ、コナンくん。
起訴が決まったって事は、公判前整理手続きがあるよね?」
「あぁ、それがどうかしたのか?」
「その日、私も一緒に行ってもいい?」
「わかった。
おばさんと蘭にはオレから伝えとくよ。
公判前整理手続きの日が決まったら、すぐ連絡すっから。」
「ありがとう。」
凛は通話終えると、こちらを見ていたキュラソーに微笑んだ。
「こっそり逢いに行く手間が省けたよ。」
「そのようね。
それにしても・・・何故バーボンはここまでして事件にこだわるのかしら。」
キュラソーはパソコンのキーボードを叩きながら疑問をぶつけた。
凛は紅茶を淹れる準備をする為、キッチンへと向かいながら考える。
「んー・・・」
ポットに水を入れて火にかけ、戸棚から紅茶の茶葉が入った缶を手に取る。
「多分だけど・・・
今回の国際会議場の爆破が事故として処理されちゃったらさ・・・
もしその爆破が誰かの手によって意図的にされたものだとしたら、令状1つ取れなくなっちゃうから・・・とか?」
「でも公安であれば、令状なしの違法捜査も出来るハズよね?」
その質問に対して、ティーポットに沸いたお湯を入れ、蓋をして蒸らしながら答える。
「そうだよねぇ。
どうせ零の事だから・・・合法的な手段も残しておかないと、自分の首を締める事になる。
自ら行った違法な作業は、自らカタをつける。
それが公安だからな・・・とか言ってそう。」
「そうだとすれば、合法的に事件を公表するのかも違法に隠蔽するのかも決めるのは公安よね。」
凛は紅茶の入ったカップ両手に持ってキッチンからソファへ戻り、右手に持っていたカップをキュラソーの前に置いた。
そしてキュラソーの隣に腰掛けると、左手に持っていたカップに息を吹き掛けながらゆっくりと口にした。
「その二択の内、どっちが日本を最も護る事に繋がるか・・・
今、よーく考えてるんじゃない?」
キュラソーは礼を述べると、カップを手に取って口を付けた。
「・・・なるほどね。
バーボンなら言いそうな事ね。」
「でしょ?」
この会話の内容が、まさに今現在大型スーパーの中にある小麦粉の棚を挟んで、降谷と風見が同じ内容で会話していた事など凛とキュラソーは知らない。
小五郎が逮捕されて4日目。
この日、東京地方裁判所の一室で公判前整理手続きが始まった。
凛は蘭や英理、コナンと一緒に東京地方裁判所の廊下で公判前整理手続きが終わるのを待っていた。
(んー・・・橘 境子先生って想像してた感じと違ったなぁ。
なーんか都合よく現れた感じがしたから、もしかしたら協力者かなぁって思ってたんだけど・・・)
橘 境子という人物は、少しはねたショートカットの髪に丸メガネを掛けている。
地味なパンツスーツを身に付けた彼女は、どことなく野暮ったい印象を受ける。
凛が考え込んでいると、隣に腰掛けていた英理が話し掛けてきた。
「凛ちゃんも来てくれてありがとう。」
「いえ・・・
私なんか来たところで何も役に立たないですけど・・・」
「そんな事ないわ。
コナンくんから聞いたわ。
凛ちゃんも、あの人が無実である証拠を探してくれてるって・・・
ほら蘭、落ち着いて。」
英理はベンチの前をウロウロと歩き回る蘭に声を掛けた。
「でも・・・」
「今日はまだ裁判じゃないんだよね?」
英理の隣に座っていたコナンが尋ねた。
「そう、公判前整理手続き。
争点や証拠を絞り込んで、日取りを決めるだけ。」
その時、部屋から検事の日下部と境子が出てきた。
蘭が境子に駆け寄って行き、凛たちも後に続く。
境子の先を歩いて来た日下部は、鞄からスマホを取り出した。
凛とコナンが日下部とすれ違った時、ピッポッパッ・・・と音がして、2人は振り返った。
どうやらその音は、スマホのロックを解除する為に暗証番号を入力した音だったようだ。
コナンはすぐに顔を前に向けて境子たちの元へ向かった。
凛はしばらくの間、電話をしながら去って行く日下部の背中を見つめていた。
(橘 境子さんが違うとすれば・・・
日下部 誠さん・・・あの人が?
んー・・・そもそも今回の件に協力者なんて居るのかなぁ。)
凛はいくら考えてもわからない答えに、思わず溜息を漏らした。
その時、凛の隣をコナンが駆けて行った。
「・・・え。
ちょ、コナンくん!?」
そのコナンの背中を慌てて追い掛けると、コナンは廊下の角を曲がって2階の踊り場に出た。
「コナンくん!
一体どうしたの!?」
「凛さん!
さっき仕掛けた盗聴器から風見刑事の声がーーーーっ」
「風見さん?」
吹き抜けになった一階ホールには大勢の人が居る。
コナンがホールを見回していると、盗聴器から着信メロディが聞こえてきた。
「これは境子先生の着メロ!?
なんで風見刑事の盗聴器から境子先生の声が!?」
驚いてメガネを外したコナンの言葉に、凛は眉を寄せた。
(・・・決まりだ。
彼女が公安の協力者だ。)
凛とコナンは場所を移動して、警視庁の傍にある公園に来ていた。
橋の近くにある休憩所の柱に寄り掛かり、犯人追跡メガネに搭載された盗聴器で、警視庁の大会議室で行われている刑事部と公安部の合同捜査会議を聞いていた。
「凛さん、新しい情報を手に入れたよ。
今回の爆破現場への不正アクセスに"Nor"が使われていたらしいぜ。」
「ノーア?」
コナンの隣で、同じように柱に寄り掛かっていた凛は聞き返した。
「あぁ。
IPアドレスを暗号化し、複数のパソコンを経由する事で辿れなくするブラウザソフトだってよ。」
「ふーん・・・」
「クソッ!
何が何でもおっちゃんを犯人にしようとするのかよっ!
・・・ん?招集?」
「どうかした?」
「今、風見刑事に招集が掛かったみたいなんだけど・・・」
コナンが首を傾げていると、突然背後から声が聞こえた。
「捜査会議の盗聴かな?」
聞き覚えのある声に凛とコナンが振り向くと、柱の向こうから歩いて来る降谷の姿が見えた。
「な、なんでここが・・・」
「毛利 小五郎の事となると、君は一生懸命だね。
それとも、蘭姉ちゃんの為かな?」
ズボンのポケットに両手を突っ込んだ降谷は挑発的な笑みを浮かべ、コナンはクッと歯噛みしながら睨み付けた。
その時、植え込みの方からガサッと音がした。
「構わない、出て来い。」
降谷が声を掛けると、植え込みから風見が出て来た。
「何故、私を呼んだんです?降谷さん・・・」
風見に無言で近付いた降谷は、いきなり風見の腕を掴んで捻り上げた。
風見が思わずその場に膝を着く。
すると、降谷は風見の袖裏から盗聴発信機を外して見せた。
コナンが仕掛けた盗聴発信機がバレていたのだ。
「これでよく公安が務まるな。」
「す、すみません・・・」
降谷は風見の目の前で、盗聴発信機を指で押し潰した。
そして風見の手を離すと、凛の方へ顔を向けた。
「凛は僕と来るんだ。」
「へ?」
まさかここで自分が呼ばれると毛頭思っていなかった凛は、場にそぐわない間抜けな声が出た。
凛はチラッとコナンに視線を移し、どちらの元へ行くべきか悩む。
その凛に向かって、降谷は右手を差し出した。
「・・・おいで。」
有無言わさぬ圧が含まれた声色に、凛は返事をして降谷の元へ歩み寄り、大人しくその手に自身の手を重ねた。
やり取りを呆然と見ていたコナンがハッと我に返る。
「待って!
なんで凛さんまで連れて行くんだ!?」
降谷はその問い掛けに答える事なく、凛と手を繋いでその場から離れて行った。
コナンは柱に立て掛けていたスケボーを取り、降谷と凛を追い掛けた。
風見がその後を追う。
橋の真ん中で立ち止まって周囲を見回すが、降谷と凛の姿はどこにもなかった。
(ーーーーっ
凛さんが姿くらましを使ったのか!?)
「盗聴器は君が仕掛けたのか?」
橋を渡りかけた風見はコナンに尋ねたものの、すぐに自嘲気味に首を左右に振った。
「いや、まさか・・・
こんな子どもが・・・有り得ない。」
「安室さんは、全国の公安警察を操る警察庁の"ゼロ"・・・」
「!?」
「そんな安室さんに接触出来るのは、公安警察の中でも限られた刑事だけ。
それが風見さんたちだったんだね。」
風が吹き、2人の間を幾つもの葉が舞った。
目を見開いた風見は、緊張気味に一歩退いた。
「・・・君は一体、何者なんだ。」
「江戸川 コナン、探偵さ。」
コナンは大人びた瞳を風見に向けた。
