Episode 34
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夕日が店内に差し込み、鮮やかな橙色が窓から店内を染める。
時刻は間もなく17時になろうとしている。
店内は客足もなくなり、今は誰も居なかった。
凛は手に紙ナプキンを持って、テーブルを回って補充をして行く。
すると、窓の向こうの路肩に1台の車が停まった。
何気なくその車を見ていると、車の中から見知った顔の男たちが降りて来た。
何度も見た事がある公安部の大谷、松原そして風見だった。
車から降りた風見たちは、毛利探偵事務所に続く階段を上っていく。
(・・・風見さんたち?
何故彼らが小五郎さんの所へ?)
彼らのその行動に嫌な気がした凛は、すぐさま降谷へ視線を移した。
降谷はカウンターの中で、コチラを見向きもせずに仕込み作業をしている。
風見たちが動いているという事は、降谷の指示である事に間違いない。
降谷の行動の意味が理解出来ない凛は、直接本人に尋ねるべくカウンターへと向かった。
その時ーーーー
「おい!離せよ!
俺はやっちゃいねェよ!!」
大声で聞こえてきた小五郎の声に、凛はすぐさま窓の外へ顔を向けた。
そこには、大谷と松原に両脇を掴まれて車に乗せられようとしている小五郎の姿があった。
「暴れれば容疑が増えるだけですよ。」
その小五郎に対して淡々と冷たい言葉を投げ掛けながら、車へ乗せようとする風見。
「なっどうして!?」
思わず窓ガラスに勢いよく手を着いてその光景を見ていた凛は、すぐさま振り向いて降谷の名前を呼んだ。
「透!」
「凛・・・」
降谷は両手にチリトリと箒を持っていた。
その降谷を凛は睨み付ける。
「どうして小五郎さんを連行するの!?
一体何が理由でーーーー」
「・・・凛。」
先程よりも強めに呼ばれた名前。
そこに込められた意味合い。
"我々に踏み込むな"
その事に気付いた凛は、思わず口を噤んだ。
「今の内に外の掃除をしてきますね?」
降谷は凛の横を通り抜けて店外へと続くドアに手を掛けた。
(どうして!?
どうしてこんな事をするのよ!)
珍しく有無言わさぬ勢いの降谷に、奥歯を噛み締めた凛は、さらに問い詰めようと振り返った。
店外には降谷の他に、コナンの姿があった。
コナンは降谷に向かってスマホ画面を見せながら何かを話している。
そのコナンの表情から必死さが滲み出ていた。
その時、店外の掃除を終えた降谷がドアに手を掛けた。
少し開いたドアから、さらに血相を変えたコナンの声が聞こえた。
「なんでこんな事をするんだ!」
「・・・僕には、命に代えても護らなくてはならないものがあるからさ。」
降谷のその言葉を最後にカラン・・・と音を立ててドアは閉まった。
そこで降谷はドアの目の前に立っていた凛に気付いた。
彼女は降谷の事をジト目で睨んでおり、その表情からすべてを察したようだ。
その彼女に降谷は困ったように微笑んだ。
「こんな所で盗み聞きですか?」
「・・・そういう事なのね。」
先程のコナンと降谷のやり取りを聞いていた凛は、何故降谷が小五郎を連行したのか、その理由が何となくわかってしまったのだ。
くるりと身体の向きを変えてカウンター内へと入っていく凛の姿を、降谷が早足で追い掛ける。
「凛、怒っていますか?」
「・・・私の大切な蘭ちゃんを泣かせた罪は重い。」
「すみません・・・」
「私に謝る必要はないよ。
透のやってる事に気付いて止めなかった私も共犯だもの。
すべて片付いたら、小五郎さんたちに一緒にお詫びしに行こ。」
「えぇ、もちろんです。」
眉を下げて微笑む降谷に、凛は溜息を漏らした。
(はぁ・・・
そんなに私よりコナンくんの方が頼りになるって言いたいワケ?)
降谷の行動にムッとして、隣に立つ彼の脇腹に軽くパンチをお見舞いした。
いたっと言いながらキョトンと首を傾げる降谷に、さらに溜息が零れ落ちた。
小五郎が逮捕された翌日ーーーー
凛はスマホを耳に当てながら、受話口から聞こえてくる蘭の暗い声に眉を下げた。
「そう・・・
小五郎さんが送検・・・」
「はい・・・
お母さんにお父さんの弁護を頼んでみたんですけど・・・」
「客観性がないと裁判官と判断されやすくなる。
だから、弁護士は身内の弁護が出来ない・・・」
「そうなんです・・・
すぐにいい弁護士を見付けてくれるって言ってたんですけど・・・
"眠りの小五郎"っていう有名人だからか、どの弁護士も尻込みしちゃって中々・・・」
「そう・・・」
その時、玄関の方からガチャッと音がした。
その後すぐにリビングのドアが開かれた。
そこに立っていたのは、鑑識官の格好をした男だった、
その男の肩には、凛が飼っているフクロウのライが居た。
凛はその男に向かって、口元に人差し指を添えて静かにするよう伝えた。
男は頷き、じっとその場で息を潜める。
「私も小五郎さんが送検されるなんておかしいと思ってる。
私なりにちょっと動いてみるよ。」
「凛さん・・・っ」
「だから安心して、蘭ちゃん。
小五郎さんは必ず無実だから。」
「はい!
ありがとうございます!」
通話を切った凛は、リビングドアの所で待っていた男に話し掛けた。
「おかえり。」
「ただいま、凛。」
男の口から出た声はキュラソーのものだった。
凛が男に向かって杖を振ると、鑑識官だった男はキュラソーの姿へと戻った。
「この仔、すごいわね。
小さな破片1つ見逃す事なくすべて見付けてくれたわ。」
キュラソーの肩に止まっていたライは、凛の元へ飛んできた。
そのライを腕に止まらせ、下げた頭を指の背で優しく撫でる。
「ふふ・・・すごいでしょ、ウチのライは。
彼には特殊な訓練させてるからね。
闇祓いで働いてた時も、彼の能力にはたくさん助けられたの。
それより・・・ちゃんと手に入った?」
キュラソーは口の端を持ち上げながら頷き、小さめの鞄を凛に差し出した。
その小さめな鞄は、凛が空間魔法を掛けてある鞄だった。
その鞄の中からいくつものジップロックを取り出し、テーブルの上に並べた。
「これで全部よ。
ちゃんと他の鑑識官の目を盗んで、凛から預かってた複製魔法薬をかけた方を持ち帰ってきたわ。」
テーブルの上に並べられたジップロックの数々を見て、凛は頷いた。
「さすがキュラソー!
助かったわ、ありがとう。」
キュラソーは凛の隣に腰掛けると、テーブルの上にジップロックの中から鉄製の破片を出している凛と一緒に、他のジップロックの中身を取り出す作業に取り掛かる。
すべて取り出し終えると、凛は袖口から杖を取り出した。
「さぁて・・・
この鉄製の物体の正体を暴きましょうか。
どんな爆弾なのかしらね。」
口の端を持ち上げた凛は、テーブルの上に置かれた鉄製の破片に向かって呪文を唱えながら杖を振った。
