Episode 34
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バシッ!
凛が玄関先に姿現しをすると、居間に続くドアの隙間からひょっこりとハロが顔を覗かせた。
「アン!」
凛の存在を認知したハロは、嬉しそうに尻尾を振って駆け寄ってくる。
そのハロを抱き上げて、頭をゆるりと撫でながら居間へと向かう。
さらに寝室となっている和室に続く襖に手を掛けて開けた。
襖を開けると、ベッドに背を預けて左手に包帯の束を持ち、口に包帯の端を咥えている降谷の姿があった。
グレーのジャケットはベッドの上に置かれており、右腕側のワイシャツは肩近くまで捲り上げられていた。
彼が包帯を巻こうとしていた右腕には、痛々しい傷が出来ており、その傷口からは血が滲んでいる。
また、降谷の右頬にも痛々しい傷が出来ていた。
そんな降谷の姿に、凛の胸が軋む。
開け放たれた襖の向こうに立つ凛の姿に、降谷は少し驚きを含んだ瞳で見ていた。
「・・・凛。」
名前を呼ばれる。
どうしてここに居るのかという意味が含まれているのはわかっていたが、凛は何も言わず降谷の隣へ座り込んだ。
そして無言のまま、降谷の口元から落ちた包帯の端と、左手に持っていた包帯の束を手に取った。
途中まで巻きかけていた包帯を一度取り去り、血が滲んだガーゼをゆっくりと取り外す。
一瞬、痛みに顔を歪めた降谷だったが、それを納得する程の傷が顔を出した。
凛はその傷口に向かって杖を振った。
暖かなものに包まれた傷口は、ジワリジワリと傷が治り始めた。
さらに右頬に出来た傷にも杖を振って、傷を治す。
「・・・ありがとう。」
傷口が完全に治ると、降谷は礼の言葉を言った。
見た目の傷は完治したように見えるが、念の為包帯を巻きながら凛は頷いた。
右頬にもガーゼを貼り付けて、他に傷がないかペタペタと触って確認する。
「・・・ふっ、くすぐったい。」
「笑い事じゃない。」
「悪い悪い。
もう大きな傷はないよ。」
「本当に?」
ジト目で見てくる凛に、降谷は微笑みながら頷く。
「あぁ。
凛が今朝強めの護りの魔法を掛けてくれたお陰で、な。」
「他の人たちは?」
「部下たちも軽い怪我をした者は居るものの、死者や命に関わる程の怪我をした者は居ない。
それも皆、君のお陰だ。」
降谷の言葉を聞いて心から安堵の息を漏らした。
「良かった・・・」
降谷は凛の腕を優しく掴むと、自身の方へ引き寄せた。
その優しい力に身を任せて降谷の胸に納まった凛は、彼の胸から聞こえる規則正しい心臓の鼓動に生きてる実感を味わう。
「本当にありがとう。
助かった・・・」
「うん・・・
零やみんなが生きててくれて、本当に良かった。」
降谷に少し身体を離されたかと思うと、彼の顔がゆっくりと近付いてきた。
それが何を意味するのかわかっている凛は、目を閉じて感じる熱を待った。
唇に触れた熱に、不安と恐怖で押し潰されそうになっていた心が緩和していくのがわかった。
唇から離れて行く熱と同時に目を開けると、添えていた降谷の肩近くのワイシャツを軽く引っ張る。
「どうした?」
「今から本庁でしょ?
他の部下さんたちの傷を治しに行きたいから、一緒に連れてって。」
「ん、了解。」
降谷はベッドの上に置いていたジャケットを手に取って羽織った。
そしてローテーブルの上に置かれていたRX-7の鍵を手に取り、居間で待っていたハロの頭を一撫でして玄関から出た。
凛が降谷と共に警察庁へ行くと、降谷はすぐに何処かへ行ってしまった。
凛は傷だらけになっていた風見が降谷の後ろ姿を追い掛けて行こうとしたのを見付け、引き止めた。
驚いて顔をこちらに向けた風見に、謝りながらすぐに杖を振る。
「お急ぎの所すみません・・・
すぐに治療は終わりますので・・・」
「あ、ありがとうございます。」
「いえ・・・
見た目は治ってますけど、念の為傷が深かった所にはガーゼなどで保護しといてください。」
「了解しました。」
風見は頭を下げると、すぐに降谷の後を追い掛けた。
その時、ポケットに入れていた凛のスマホが震えた。
ポケットから取り出して画面を確認すると、それは黒田からの着信だった。
「もしもし?」
「今回の国際会議場の爆破について捜査し、これがテロによるものであれば犯人を捕獲せよ。」
「・・・了解。」
凛は通話を切ると、他の傷だらけとなった公安部の部下たちの傷の治療に取り掛かった。
すべての部下たちの傷の治療を終え、深かった傷の場所には包帯を巻き終えた時、いつの間にか戻って来ていた降谷が近くに立っていた。
そこに風見の姿はない。
「おかえり。」
「あぁ。
部下たちの傷を治してくれてありがとう。」
「これくらいお易い御用だよ。」
降谷はフッと微笑んだ。
「凛も俺と同じ15時からポアロのシフトだよな?」
「うん。」
「なら行こうか。」
その言葉に時計を見ると、時刻は間もなく14時30分になる所だった。
凛はコチラを向いて待っている降谷の元へ駆け足で向かった。
