Episode 28
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風見に頼んだ捜査資料の到着があまりにも遅く、降谷はキーボードを叩く手を止めた。
そして小さく溜息を零しながら自身のデスクの椅子から腰を上げた。
(・・・まったく古い資料でもないのに、何をそんなに探す必要があるんだ。)
風見の帰りが遅いのは降谷が頼んだ捜査資料を探しているからだと思った降谷は、捜査資料が保管されている部屋へ自ら向かう事にした。
捜査資料が保管されている部屋に向かうには、道場の前を通る必要がある。
道場に近付くに連れて騒がしい事に気付いた降谷は、眉間に皺を寄せながら訝しげに騒ぎの方へ顔を向けた。
道場の近くにはギュウギュウに人集りが出来ており、よく聞けば騒ぎの声は声援である事に気付く。
(今日はキュラソーが稽古に来ている日だったな。
まったくアイツらは何をやってるんだ・・・)
呆れながら溜息を漏らしていると、人集りの中に居る風見の姿を見付けた。
風見は道場内を瞬きを忘れる程に食い入って見ていた。
降谷は人集りの中に無理矢理身体をねじ込ませて入って風見に近付くと、彼の肩を掴んだ。
突然勢いよく肩を掴まれた風見は驚き、慌てて振り向いて掴んだ主へ視線を移した。
降谷を視界に入れた瞬間、風見は慌てふためいた。
「ふっ降谷さん!?」
「何なんだ、この騒ぎは。
今の時間、道場の使用許可をしていないヤツらも多いようだがーーーー」
降谷が風見に問い詰めようとした瞬間、風見の手の中にあった杖に目が向いた。
見覚えのある杖に、降谷の目は見開かれる。
「おい、これは一体どういう事だ?
何故お前が凛の杖を持っている?」
手に持っていた杖を勢いよく奪われ、恐ろしい形相で降谷に詰め寄られた風見は、オドオドしながら必死に弁明する。
「こっこれは神崎さんが自分に預かってて欲しいと頼まれましてっ!」
「はぁ?
何故凛がお前に杖を預ける必要がある?
杖は彼女にとって命の次に大切なものなんだぞ?」
「そう言われましても・・・っ」
あまりにも恐ろしい降谷の形相に、風見の目に涙が滲んだその時ーーーー
「もーっっ
キュラソーったら強すぎー!
こーなったら・・・」
「!?
ちょ、凛!?」
「ふふ・・・まだまだこれからだよ。
さぁ、続けましょっ」
道場内から降谷が聞き間違えるはずのない声が聞こえ、風見から道場内へと素早く視線を移した。
すると視線の先には、背中から大きな翼を携えて白銀の髪を揺らしながらキュラソーと手合わせしている凛の姿があった。
「ちょっと待って!
万が一私の攻撃が翼にでも当たってしまったら・・・また翼を傷付けてしまうわ!」
「そんな優しさ、無用だよ!
これが実践なら誰もそんな事なんて気にしないんだから!」
キュラソーは凛の身を案じてか、凛からの攻撃を受け止める事しかしていない。
凛は目の前の手合わせが楽しすぎるせいか、もはや周りは見えていないようだ。
「ヒュウッ♪
あれが噂の神崎さんのもう1つの姿かー。」
「うわっ、すっごく綺麗じゃねぇか!」
「あの姿も幻想的な感じがしていいよなぁ!」
道場内から聞こえてくる凛を大絶賛する他の部下たちの声に、降谷は居ても立っても居られずに道場内へ上がり込んだ。
「あの容姿に魔法も使えて強くて優しくて料理も美味くてって最高の女性だよなぁ。
世界中どこ捜してもそんな女性は居ねぇよ。」
「あぁ、そうだな。」
「神崎さんってホント可愛いよなぁ。」
「あぁ、凛は最高に可愛いよな。」
「あーあ、奇跡が起こって神崎さんに告白とかされねぇかなぁ。」
「そんな奇跡なんて起こるワケないだろ?」
「ここだけの話、俺さぁ・・・
神崎さんの事本気で好きなんだよな。」
「ホー・・・その話を詳しく聞こうか。」
「あー、凛ちゃんの彼氏になりてぇ・・・」
「凛は俺の彼女だ。
お前らは早々に諦めるんだな。」
「「「「「!?!?!?」」」」」
頬を染めながらうっとりさせて凛を見ていた5人の部下たちは、ようやくよく知る声にハッと我に返り、慌てて振り向いて声が聞こえた背後に顔を向けた。
「ふふふふふ降谷さん!?」
「お前たち随分と楽しそうな話をしていたな?
確か・・・凛の事が好きだとかどうとか・・・」
降谷は凛に特に熱烈な想いを寄せている部下2人の肩にポンッと手を乗せると、ニッコリとドス黒い笑みを浮かべた。
「ーーーーいっ!?」
「いだだだだだだだ!?」
部下2人の肩からミシミシミシ・・・と骨が軋む音が聞こえ、部下2人は痛みにひどく悶絶した。
「ーーーーで?
俺の可愛い彼女がなんだって?」
口元には笑みを浮かべているが、完全に目が笑っていない降谷の眼光の恐ろしさに、部下たちは身体を大きく震わせた。
「あっいえ、その・・・っ」
「まさか神崎さんが降谷さんと付き合っているとは知らなくてですね・・・っ」
「「「すっすみませんでしたーーーー!」」」
部下たちは慌てて頭を下げて謝罪すると、道場から俊敏な速さで出て行った。
そんな部下たちの背中を溜息を吐きながら見送った降谷は、未だ自身の存在に気付く事なくキュラソーと手合わせをしている凛に近付いた。
「凛、ダメよ!」
「ダメじゃないよ!
そんな優しさ見せてると敵に弱味晒してるのと一緒だよ!」
「でもーーーー!?
バーボン!」
キュラソーが口にした名前に、ようやく凛の動きはピタリと止まった。
「へ、零?」
凛は振り向くと、そこには杖を手に持った降谷がにこやかに立っていた。
途端に表情をパッと明るくした凛は、降谷の元へ駆け寄った。
「わぁい、零だ~!
お疲れ~!」
凛は降谷のスーツの裾をキュッと握りながら花が咲いたように可愛らしく微笑んだ。
彼女の喜びが大きな翼にも反映されているのか、翼が小さくパタパタと揺れている。
その愛嬌のある凛の姿に、降谷は目尻を下げて微笑んだ。
持っていた杖を凛に差し出せば、それを降谷の手ごと嬉しそうに引き寄せて両手で包み込んだ。
「零が私の杖を預かっててくれたの?
ありがと~!」
「・・・それで?
どうして凛がここに居るんだ?
しかも姿まで変えてしまっている。」
「あー・・・
いつも通りキュラソーのお迎えに来たんだけど・・・
最近身体が鈍ってきたから、キュラソーに手合わせをお願いして・・・
楽しすぎて気が付けば・・・これ?」
気まずそうに小さく微笑みながら両手を左右に広げて首を傾げる凛に、降谷は困ったように微笑んだ。
そして凛の頭に手を乗せて優しく撫でる。
「まったく・・・仕方がないな。」
凛と降谷をハラハラと見守っていた他の部下たちだが、どうやら降谷が凛には激甘だという事を初めて知った者が多かったようだ。
もちろん降谷率いる公安部隊の部下たちは、降谷と凛が交際している事も、降谷が凛にだけ頗る甘いのも知り尽くしている。
しかし、他の部隊の部下たちはその事を知らなかった。
その為、この場に居た風見以外の部下たちは驚愕の表情で降谷を見ていたのだ。
「零の差し入れは特別なんだよ。
ほら、コーヒーのマーブルケーキ!
今、食べる?
あーん・・・」
「ん、すごく美味い。」
「零を想っていっぱい作ったんだよ。」
「それは嬉しいな。
大切に食べるよ。」
「うん!」
凛はふと先程の自販機を思い出した。
そして一応知らせといた方がいいのかと思い、降谷に言う事にする。
「そういえば、ここに来る前に警備企画課の近くにあった自販機で飲み物買ったんだけど・・・
ブラックコーヒーのボタンが潰れてたよ。」
「・・・」
ニコリとした笑顔のままで固まった降谷に気付かないまま凛は続けた。
降谷の近くでは風見がハッとしたような顔で、降谷の顔をチラッチラッと見ている。
「可哀想なくらいにボタンがめり込んでたから直しといたけど・・・」
「・・・手間を取らせてすまない。
ありがとう。」
「どうして零が謝るの?
零はミルクたっぷりのコーヒー派だから、潰したのは別の人だと思うんだけど。」
「・・・」
凛の言葉に気まずそうにしながら笑う降谷。
その降谷をアワアワとしながら見守る風見。
顔を横に背けてブフゥッと噴き出して笑っているキュラソー。
そしてブラックコーヒーのボタンをめり込ませた張本人が目の前に居るにも関わらず、すごく指圧の強い人が居るんだね!ゴリラみたいに力強い人なのかなってびっくりしちゃった!でもすごいね!そこまで強いのカッコイイね!と満面の笑みで出来事を話す凛。
降谷はその凛の頭の上に手のひらを置いて、ゆっくりと撫でた。
「とにかく・・・君はもう道場まで来るのはダメだ。」
「どうして?」
「んー?
だって俺の可愛い凛を他の男に見せたくないから。」
「!?
零、すき!大好き!」
「あぁ、俺もだ。」
周りに見せ付けるようにわざとイチャつく降谷に、他の部下たちは凛が誰と付き合っているのか嫌でも知る羽目となった。
それと同時に、いくら常々完璧で隙のない彼であっても好きな人には激甘になるという人間らしさに、彼も自分たちと同じ人の子なのだとよく知る事になった。
※降谷さんの存在って、公安警察の中でも極僅かな限られた刑事しか知らないハズなんだけどな笑
まぁ、そこは夢小説なので深く考えないでくださいm(_ _)m笑※
