Episode 27
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キュラソーの必要なものを買い終えた凛たちが帰宅すると、玄関先に革靴が綺麗に並べて置かれていた。
「あ、零の靴だ。」
凛はキュラソーに向かって杖を振りながらポツリと呟いた。
魔法の効果がなくなり、キュラソーは見知らぬ女の姿から元の姿へと戻った。
何気なく発した凛の言葉を聞いていたキュラソーは、ニヤニヤと笑みを浮かべて彼女を見やった。
「なっ何?」
「別に?
ただ、凛は革靴1つでバーボンのものだとわかる程、彼に心酔してるんだなと思って。」
一気に顔を赤らめた凛は、キュラソーの腕にしがみついた。
「零の革靴は特注品だから他の人のと違うのよ!
ほら、光って見えるでしょ!?」
「そうかしら?
私には他の公安のものもバーボンのものもよく似たものに見えるわ。」
「!?!?
そっそもそもキュラソーに教えてもらった組織の情報を零に話す約束してたし、だから彼が来る事がわかってたもん!」
「はいはい、ご馳走様。」
玄関先でギャイギャイと騒ぐ声に釣られてリビングから出て来た降谷は、床に膝を着いてキュラソーのスカートを掴みながら首を左右に振っている凛を見て首を傾げた。
「おかえり。
玄関先で何を騒いでるんだ?」
キュラソーはその降谷をチラッと見た後、買い物袋を両手に持ったまま調合部屋のドアを開けた。
「・・・凛は玄関に置かれた革靴1つで持ち主がわかる程、その持ち主の事を想ってるんだって話していただけよ。」
「キュラソー、それ一番言っちゃダメなやつ!」
微笑みながら手を軽くヒラリと振って、キュラソーは調合部屋の中へと消えて行った。
残された凛は気まずいといった感じで降谷の顔を見て、にへらと笑って見せた。
降谷は凛を愛おしげに見つめて微笑み、彼女の腕を掴むと自身の方へ引き寄せた。
「キュラソーが言ってた事は本当か?」
「う・・・っ
本当、です。
気持ち悪くてすみません・・・」
「何も気持ち悪くないさ。
むしろそこまで俺の事を想ってくれてるんだって知れて嬉しいけど?」
降谷の優しさに感動しつつ、でも恥ずかしさで顔を上げれずに、降谷の胸板へ顔を隠すように押し付けた。
愛しい人の規則正しく刻まれる鼓動と体温と香りに、心地よい安心感を得られる。
(零の香り・・・
あぁ、しあわせ・・・)
「・・・零、すきだなぁ。」
ポソッと小さな声で呟かれた凛の言葉は、もちろん降谷の耳に届いた。
目を閉じて嬉しそうに微笑み、まるで仔猫のように自身の胸元でスリスリと擦り寄っている凛に、降谷の脳内では緊急討論会が開かれていた。
「いつまで紳士気取りでいるつもりなんです?
片想いし続けてやっと手に入れた愛しい愛しい凛と深く繋がれるんですよ?
さぁ、今がチャンスです。
さっさと欲望のままに押し倒してしまいなさい。」
真っ黒の衣装に頭に2本の角と先が三角形の長いシッポを尻から生やした悪魔の降谷が甘く囁き掛ける。
「待ってください、早まってはいけません!
凛を大切にするんですよね!?
まだ付き合ってすぐじゃないですか!
そんなすぐに手を出せば、彼女が泣くだけですよ!
いいですか?女性は肉体関係を持つ事より、ただ触れ合ってる方が好きなんですよ!」
真っ白な衣装に頭のてっぺんに黄金の輪っかを浮かべ、背中からフワフワの翼を携えた天使の降谷が、悪魔降谷を手で押し退けながら反論する。
「はぁ?
貴方、この僕が一体どれ程我慢してきてると思ってるんですか?
そもそもちゃんと付き合ってから手を出すんです。
文句言われる筋合いなんてありませんよね?
それに凛だって意外と僕とそうなる事を期待してるかもしれないですし。」
「はっ破廉恥!
それが心に余裕のある大人が言う事ですか!?
まるで盛りついた獣じゃないですか!!」
「はっ!
男はみんなケモノですよ。
それに好きな女性が自分に触れていて、こんな可愛い事をされてしまえば・・・欲望を抑え込むなんて無理でしょう?」
「ーーーーくっっ!」
天使と悪魔による脳内討論会は、どうやら悪魔降谷の方がやや優勢のようだ。
勝ち目がないと思われた天使降谷だったが、彼は諦めなかった。
「ーーーーこれも凛の為です!
僕は彼女を決して傷付けない、大切にすると強く誓ったんです!
公安ともあろうヤツがこれしきの欲を耐えれずして何を護れると言うんですか!
うぉぉぉぉぉおお!!」
「!?」
天使降谷は言葉では悪魔降谷に敵わないと思ったのか、なんと悪魔降谷の顔面に向かって拳をめり込ませた。
悪魔降谷は後方へ勢いよく吹っ飛び、降谷の脳内から外へ飛び出して行った。
脳内に残った天使降谷は、ふぅ・・・と額の汗を手の甲で拭い取ると、そっと呟いた。
「・・・まぁ、キスくらいならしても罰は当たらないでしょう。」
その天使降谷の言葉を最後に降谷は稼働した。
目線を下げれば見える凛の旋毛に、1つのキスを落とす。
やっと顔を上げた凛の頬をするりと指先で撫でれば、くすぐったそうにふにゃりと微笑む。
(可愛い・・・本当に愛おしい・・・)
その様子にフッと柔らかく微笑み、彼女の顎をゆっくりと持ち上げる。
それが何を意味するのか理解した凛が目を閉じて待つ。
そして彼女の唇へ、触れるだけのキスを落として距離を少し取る。
パチッと瞼を持ち上げた凛は、目を瞬かせた。
「・・・どうかした?」
「え、あ・・・えっと、その・・・」
「うん?」
降谷は凛が何を言いたいのかわかっていた。
先程の触れるだけのキスでは物足りないのだろう。
もちろん降谷だってそれだけで満足したワケではない。
だが、降谷は彼女の口から催促の言葉が欲しくて悪戯心に火をつけた。
頬を染めて降谷の目を見て物欲しそうにする凛に、先程の悪魔降谷が脳内に舞い戻って来そうになるが、必死に天使降谷が悪魔降谷の顔面を足蹴にして追い払う。
降谷が凛から離れようとした瞬間、凛が慌てて降谷の胸元のスーツをキュッと握った。
離れていかないでと言われてるようなその行動に、降谷は口の端を持ち上げる。
「・・・何?」
「あの、零・・・?」
「うん、何?」
「・・・もう終わり?」
「何が?」
「その、き、キス・・・」
恥ずかしいのか目を少し潤ませて眉を下げて見つめてくる凛に、降谷の理性が爆発しそうになった。
しかし必死に耐え抜いた降谷は、凛の腰に左手を回して再び抱き寄せ、右手の親指で凛の唇をゆっくりと撫でた。
「んー?
凛はどうして欲しい?」
「・・・っ
もっとして欲しい・・・」
「何を?」
「キス・・・もっとして欲しい。」
「ん、よく出来ました。」
降谷は目尻を下げて微笑むと、凛の唇へ優しく唇を寄せた。
触れるだけのキスを繰り返し、酸素を求めて僅かに開いた凛の唇の隙間から舌を割り込ませる。
ビクッと身体を揺らし、奥の方へ逃げる凛の舌を追い掛けて捕まえると自身の舌と絡ませる。
「・・・んっ、ふ・・・」
頬を赤く染め、降谷から与えられる快楽にただ身を委ねる凛。
その彼女の口の端から漏れる甘い吐息に、ゾクゾクと興奮の波が押し寄せる。
もっとその声を聞きたい、もっと快楽に落ちる顔を見たい欲に溺れ、凛の舌の甘い熱をより堪能する。
その瞬間、一際ビクッと身体を震わせた凛は、一瞬にして力が抜けたように膝が折れた。
「!?」
驚いた降谷だったが、すぐさま凛が倒れないように抱え込んだ。
慌てて凛の首元に触れて脈を確認する。
凛は速い鼓動だけでなく、身体全体が僅かにピクピクと痙攣するように震えていた。
その反応に降谷はある1つの答えに辿り着いた。
「・・・え、キスだけでイった・・・のか?」
降谷は自身の胸元で頬を上気させながら少し粗めの呼吸を繰り返す凛に、より愛おしさが込み上がった。
その凛の頬に、チュッと触れるだけのキスを落とす。
「本当、可愛すぎる。」
「・・・バーボン、凛に何してるの?
殺されたいのかしら。」
調合部屋のドアの隙間から鋭い眼光で覗いていたキュラソーは、素早く降谷から凛を奪い取った。
そして降谷はキュラソーによって玄関ドアから外へ追い出されたのであった。
