Episode 27
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降谷が警察病院へ着いて院内を歩いてると、その姿を見付けた風見が早足でこちらへ向かって来た。
「降谷さん、お疲れ様です。」
「風見もお疲れ。
それで、キュラソーは?」
風見は降谷と共に院内を歩きながら話を進めた。
「検査の結果、脳や身体機能などに異常は見られませんでした。
記憶が完全に戻ったとの事でしたので、すぐにでも組織について問い質すつもりでしたが・・・」
言い淀んでいる風見に、降谷は一度足を止めてから続きを促した。
すると風見はチラッと降谷の顔を見ては困ったように眉を下げた。
「・・・神崎さんにでないと話さないとの事です。」
降谷は なるほどな・・・と言うと、再び歩き始めた。
「キュラソーが何故彼女にこだわるのかはわからかいが・・・
一度俺がキュラソーに逢ってみよう。
風見は警視庁へ戻って、今回の書類を全部まとめて俺のデスクに置いといてくれ。」
「承知しました。」
風見は降谷に頭を下げると、降谷とは別の方向へ身体の向きを変えて歩いて行った。
キュラソーの病室前には2人の公安刑事が立っていた。
互いに挨拶をした後、降谷は病室のドアをノックをする。
中から聞こえた了承の声に、病室のドアを開けて室内へ入った。
病室内の窓には本来そこにはない鉄格子が嵌め込まれ、窓から外へ逃げられないようになっていた。
その窓から差し込む月明かりが、暗い病室にわずかな光を与えている。
病室の明かりはつけられていなかった。
キュラソーはその薄暗い病室のベッドの端に腰掛け、窓の外で淡い光りを放つ月を静かに見上げていた。
キュラソーは病室に入ってきた降谷に目をやると、フッと口の端を持ち上げた。
「あら、今度はバーボンなのね。」
「電気、つけないんですか?」
「月明かりの方が落ち着くのよ。」
その言葉に、降谷は電気のスイッチに伸ばしていた手を引いた。
そして電気はつけずに話し始めた。
「検査の結果、どこも異常がなかったそうですね。」
「えぇ。
記憶もバッチリ戻っているわ。」
降谷はキュラソーのベッド横にある椅子まで行かず、ドアの近くに立ったままで口を開いた。
「でしたら、話してくれませんか?
まさか・・・我々に協力すると言う言葉は嘘だった、なんて事はありませんよね?」
「協力する、その言葉に嘘偽りないわ。」
「では話してください。
貴女が知り得ている組織の情報を・・・」
降谷がキュラソーを鋭い目で見ると、彼女は再び口の端を持ち上げた。
キュラソーは後ろで1つに結い上げていた髪のゴムに指を掛けて解いた。
彼女の銀髪がふわりと広がって落ち、その髪に月の光が当たってキラリと淡く光った。
「さっきの公安にも言ったけど、凛さんなら話してもいいわよ。」
降谷は握っていた拳に力を込めた。
「彼女は公安刑事ではなく一般人です。
一般人を巻き込むワケにはいきません。」
キュラソーは降谷の顔をジッと見たかと思えば、面白そうにクスクスと笑った。
その様子に降谷は眉間に皺を寄せる。
「何が可笑しいんです?」
「バーボン、貴方・・・
あの子を護る為に必死ね。」
小さく舌打ちをした降谷に、キュラソーは手櫛で髪を梳きながら妖艶に微笑んで続けた。
「どうせ凛さんから貴方たちの耳に入るじゃない。」
「それなら尚更、今我々に話せばいいだけでは?」
キュラソーは窓の向こうに見える月に視線を移すと静かに言った。
「・・・凛さんになら話せる・・・
何色にもなれた色のない私に、私だけの色をくれた凛さんになら、私の知り得るすべてを話せる気がする・・・
ただそれだけよ。」
キュラソーが言いたい事はわかる。
降谷が凛の前ではありのままの自分を曝け出せるように、キュラソーも彼女に心から救われた1人なのだろう。
そんな凛にだからこそ、何も隠さずに真実を話せる。
己の弱さや醜さでさえもすべて曝け出し、本能のままに彼女の腕に縋り付きたくなる。
凛は無自覚だろうが、彼女には人をそうさせる不思議な力がある。
このままでは埒が明かないと判断した降谷は、キュラソーに背を向けて病室のドアノブに手を掛けた。
「・・・また来ます。」
降谷は病室から出ると、近くにあった長椅子へ腰掛けた。
ポケットからスマホを取り出し、凛の連絡先を親指がなぞる。
(・・・組織を裏切ったキュラソーが発信した俺とキールはノックではないという情報は、恐らくヤツらは信用していない。
となれば、しばらくの間は盗聴器や監視をつけられるハズだ。
そうなると、凛との行動も控えなければいけなくなる。
今回で組織が凛に目を付けた感じはなさげだが、万が一の事もある。
俺に監視の目がある間、凛の安全については風見たちに任せるとして、キュラソーは・・・)
降谷は溜息を漏らすと、長椅子から立ち上がって警察病院を出た。
RX-7に乗り込み、スマホ画面に指を滑らせて凛の電話番号をタップしてからスマホを耳に当てた。
何コールかの後、受話口から凛の声が聞こえた。
「もしもし、どうかしたの?」
「夜遅くに電話をしてすまない。
寝てたか?」
「さっきお風呂から上がったばかりだし、まだ寝てないよ。」
「そうか・・・」
凛は受話口から聞こえる降谷の声に、どこか迷いが含んでいる事に気付いた。
「・・・零、何かあった?」
「どうして?」
「んー・・・声が少し不安げというか、何かに迷ってる感じがしたから。」
(あぁ、本当にこの子は・・・
出逢った頃から俺の些細な変化にすぐ気付いてしまう。)
凛のこの人の感情の変化に敏感なところを別に嫌だと思わず、むしろそれが心地よく感じる。
ただそれが他の人間であれば、自分の心の中にズカズカと踏み込んで来て欲しくなくて、放っておいて欲しいと思う。
しかし相手が凛であれば、自分でも驚く程にそれがないのだ。
ただただ心地よく、その優しさに縋ってすんなりと甘えてしまう。
これが惚れた弱みだと言われればそうなのかもしれない。
降谷は自然と口元に笑みを浮かべた。
「・・・凛のそういうところ、俺すごく好き。」
「へぁ!?
いっいきなり何!?」
「んー?
俺の愛しい愛しい彼女は、本当に可愛くて優しくて最高だなぁって思ってたところ。」
「ななななな何をいきなり言ってんの!?
仕事に戻った時にどこか頭でもぶつけたんじゃない!?」
恐らく凛は顔を真っ赤にさせながら言ってるだろう。
それを想像すると、より愛おしい気持ちが膨らんでいく。
受話口から聞こえてくる凛の小言が、降谷の耳に心地よく響いた。
「もう!
それで結局何の用だったの?」
「あーそれなんだが・・・
すまないが、こちらの事情に1つ巻き込まれて欲しい。」
シフトレバーの上に置かれていた左手の人差し指が、トン・・・トン・・・と一定のリズムで叩く。
「・・・と言うと?」
「キュラソーが君になら組織の情報を話すってさ。
風見も俺も断固拒否らしい。」
降谷は不服そうにしながら話した。
「・・・本当は凛をこれ以上巻き込みたくなかった。
だがーーーー」
「え、どうして?
もっと巻き込んで巻き込みまくって絡まる程に巻き込んでくれてもいいんだよ?」
その言葉に降谷は思わず目を瞬かせ、ふはっと笑ってしまった。
「なんだよそれ。
絡まったらダメだろ。」
「それ程巻き込みOKって事だもん。
零の力に少しでもなれるなら巻き込みWelcome!
巻き込みCome on!」
降谷は笑いすぎて目元に溜まった涙を指で拭いながら、今すぐにでも凛を自身の腕の中へ閉じ込めたくなった。
それをグッと堪えて感謝の気持ちを述べた。
「あー・・・久々にこんなにも笑った。
ありがとう、凛。」
「どういたしまして!
えーと、キュラソーさんが私にしか話せないって事だけど・・・
なるべく早い方がいいよね?
明日ならポアロ終わってからでも良ければ行けるよ。」
「助かる。
そうだ、風見の番号を教えておくよ。」
「風見さんの?」
「あぁ。
俺は完全に疑いが晴れたワケではないからな。
しばらく組織からの監視の目があるだろう・・・
その間、何かあれば風見を頼ってくれてかまわない。」
「ちょっと待って。
これ以上風見さんの過労に磨きをかけるワケにはいかないんだけど?」
「君は何も心配しなくていいさ。」
凛はどうせ何も起こらないし大丈夫かと軽く考えた。
その後、降谷から伝えられた風見の電話番号をしっかりと記憶した凛は、降谷に気遣いの言葉をかけてから通話を切った。
通話を終えて何も聞こえなくなったスマホを耳から離してポケットに入れる。
組織の目が光るであろうしばらくの間、普段よりも一層気を引き締めなければと、降谷はハンドルを握る手に力を込めた。
