Episode 22
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車がゆるやかに発進すると、安室は思い出したかのように口を開いた。
忙しなく動くワイパーは、フロントガラスを次々に濡らす雨のせいで休む暇もない。
「そういえば・・・
前に君が風邪を引いた時に、結局夕飯の件が流れてしまっていたよな。」
「私の看病してくれたし、それでおしまいなんじゃないの?」
「え、違うだろ?」
目を瞬かせてこちらを見た安室に、凛も目を瞬かせる。
「・・・え、違うの?」
思わず復唱した凛に安室は笑ってもちろんと頷いた。
嬉しい反面申し訳ない気持ちもある凛はその返答に渋った。
「まぁいいじゃないか。
俺が凛と一緒に食べたいから誘ってるんだ。」
「あ、ありがとう。」
「というワケで、明日のポアロの後に何か予定はあるか?」
「ないよ。」
「確か17時までだったよな・・・
なら、その時間にポアロまで迎えに行くよ。」
「えぇ!?いいよ!
零さんは明日シフトに入ってないでしょ?」
「いいんだ。
これも俺がそうしたいからするだけだ、気にするな。」
「あ、ありがとう・・・ございます。」
満足気に微笑む安室に、凛は赤くなった顔を隠す為、助手席の窓ガラスの向こうを流れる景色へと視線を移した。
窓ガラスの向こうは、横に流れる雨粒が邪魔をして綺麗に見えないはずなのに綺麗に輝いて見えた。
翌日ーーーー
ポアロの店内に居るのは、女子大学生が二名だけでとても緩やかな空間だった。
その女子大学生たちは窓側の座席に座り、テーブルの上にノートやプリントを広げ、講義の課題をやっていた。
その内の一人の女子大学生が、左肘をテーブルに付いてその手の上に頬を乗せながら何気なく視線を窓の向こうへ移した。
すると、視線の先に見える路肩に寄せて一台の白のRX-7が停まった。
ハザードランプを点滅させて停まっている車内には、見知った顔の人物が乗っている。
「・・・え、ねぇちょっと。
あの白の車に乗ってるのって、あむぴじゃない?」
窓の外を見ていた女子大学生は、向かいに座るもう一人の女子大学生へと慌てて声を掛ける。
声を掛けられた女子大学生も、指を差された窓の外へ視線を移した。
すると、ちょうど運転席から安室が降りて来た。
「ヤバ! あむぴじゃん!」
「今日シフトインしてなくてショックだったけど、めっちゃラッキーじゃない!?」
突如騒ぎ始めたテーブル席に、カウンター内で作業していた梓は釣られて店外へと視線を移した。
カラン・・・と出入口の鐘の音が鳴り、安室が店に入ってきた。
店に入って来るなり店内を見回しながら、梓に声を掛ける。
「お疲れ様です、梓さん。」
「安室さんお疲れ様です。
どうしたんですか?」
「凛はーーーー 」
安室の言葉の途中で、先程の女子大学生たちが安室の周りに駆け寄ってきた。
「きゃー!あむぴー!
ウチらあむぴ目当てで来たのに居なかったから落ち込んでたんだよー?」
「ねぇねぇ、あの店の前の車ってあむぴの!?
めっちゃカッコイイ車乗ってんだね!
今度ウチらも乗せてよー!」
安室の腕に触れながらキャッキャッと騒ぐ女子大学生たちの熱量に、梓は眩しすぎて若干退いた。
その女子大学生たちの熱をヒートアップさせている元凶である安室といえば、笑顔一つ見せずに彼女たちを一瞥した。
それと同時に、腕に絡みつく女子大学生たちの手を引き離しながらすぐに梓に視線を戻す。
安室 透という人物は、誰にであれ分け隔てなく優しく紳士的に接する男だ。
現に、いつもであればこの女子大学生たちにでも課題を教えてくれと頼まれれば困ったように微笑みながらも教えていたりする。
それは今この場に居る女子大学生たちだけでなく、女子高校生たちが相手でも同じである。
もちろん若い子たちだけでなく、時に子どもの自転車に乗る練習の手伝いをしたり、年配の客の為にこまめに椅子のチェックも欠かさず行っている。
そんな彼が、ニコリと愛想笑いすら見せず、自分に言い寄る女子大学生たちの手を振り払い、明らか無視したのだ。
これには目の前の梓も驚いて目を瞬かせた。
「梓さん、凛は?」
その言葉に、シフトに入っていない安室がわざわざポアロへやってきた理由が凛であるとわかった梓は、すぐさま返答した。
「凛ちゃんなら、少し前に上がって・・・
今バックヤードで帰る準備をしていますよ!」
「そうですか。」
安室はカウンター越しからバックヤードの方へ視線を移すと、そこにはバックヤードのドアを少しだけ開けてこちらを見ている凛の姿があった。
その姿を見付けた安室は、途端に目尻を下げて微笑む。
そして手招きをしながら声を掛けた。
「ふふ、凛。
そんなところから見てないで、早くこっちへ来てください。」
おずおずとバックヤードから出てきた凛の元へ歩を進め、そして彼女の顔を覗き込むようにして話し掛ける。
「お疲れ様です、凛。」
「透もお疲れ・・・
その、色々。」
「では行きましょうか。」
「・・・梓ちゃんお疲れ様です。」
「お疲れ様、凛ちゃん。」
安室は凛の肩に自然と手を回して店内から出て行き、梓は頬を染めながらその二人を見送った。
店内に残された女子大学生たちは、目の前で繰り広げられる安室と凛の行動に、信じられないとでも言いたげな表情だ。
「・・・ちょっと。
ウチらあむぴに完全に無視された?」
「・・・何、今のあむぴの緩みきった顔。」
「え、待ってどういう事?
もしかして、あの二人って付き合ってんの?」
ボヤく女子大学生たちが見てる窓の外では、安室が助手席のドアを開けて、ドア上部に凛の頭をぶつけないよう手を添えている安室の姿がある。
「わざわざシフト入ってないのに凛ちゃんを迎えに来るくらいだもんね。」
「めっちゃショックなんだけど・・・
でも相手が凛ちゃんなら許せるっていうか・・・」
「確かに。
あの二人、お似合いだもんね。」
(え!?ええええ!?
ついにあの二人が!?
ちょっと早く詳しく聞きたいんだけど!)
彼女たちの会話に、梓は心の中で踊り狂う程に喜び、カウンター内で小さくガッツポーズを決めていた。
