Episode 25
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部屋を出た降谷は、薬の入った小袋をポケットに押し込むとすぐさまトイレへと入った。
水を大量に出し、女に触れた手を念入りにハンドソープで洗う。
その瞬間、自身のジャケットから香ってきた女の香水に、眉間に皺を寄せた。
(あの女の匂いが消えない。)
「・・・凛さんに逢いたい・・・」
彼女に逢いたい、触れたい、そんな欲望ばかりが膨らみ、降谷は深い溜息を漏らした。
欲望を振り払うように乱雑にジャケットを脱ぐと、足早にホテルから出てRX-7に乗り込んだ。
そして、ベルモットが待つバーへと車を走らせた。
バーに着いた降谷は、ベルモットの姿を見付けると隣に腰掛けた。
「あら・・・随分と早かったのね。」
「遅い方ですよ。」
「何をそんなに苛立っているのよ。」
降谷はベルモットの言葉を無視して、ポケットから先程の薬の入った小袋を取り出した。
「言われていたクスリです。
体内に摂取後、わずか数秒で効果は現れます。
効能も確認済なので間違いないでしょう。
こんなものの為に大金を注ぎ込む人種がいるとはね・・・」
カウンターに置かれた薬に視線を移したベルモットは、その薬の錠剤を型取るように指で撫でた。
「人間の三大欲求の内の一つだもの。
これも我々の組織の為の大きな資金集めになるわ。
一度でも強い快楽を得た人間は、二度と普通じゃ満足出来ない。
だから大金を注ぎ込んででも何度も薬を欲する・・・」
ベルモットは薬から降谷に視線を移すと、ニヤリと笑みを浮かべた。
「効能も確認済って事は・・・
余程楽しめたって事かしらね。」
ベルモットの発言に、降谷は苦虫を噛み潰したような顔で反論した。
「楽しむワケないでしょう。
女に飲ませた後は、何もせずホテルに放置してきましたよ。
今頃一人でお楽しみでしょうね。」
「ふぅん?
まぁ・・・今の貴方には、今回のような仕事は嫌でしょうね。」
どういう事だと言うような顔をする降谷に、ベルモットは続ける。
「貴方のハニートラップの仕方・・・随分と変わったじゃない。
凛の存在がそうさせているんでしょう?
貴方・・・凛の事が好きなんでしょ。」
そう、以前の降谷であれば目的の為ならば手段は厭わない。
以前から本番をする事がなくても、それなりにありとあらゆる手を使って仕事を果たしてきた。
しかし、凛という存在が出来てからは、無意識の内に対象にほぼ触れる事すらしなくなっていた。
さらに、凛以外の女性に触れられる事に対して不快感を抱く程だ。
ベルモットに言われて図星だった降谷は、視線を外した。
「貴方が凛の事を傷付けないのはわかっているけれど・・・
あまり私たちの世界へ巻き込まないでちょうだいよ?」
「わかっていますよ。」
「ならもういいわ。
今日は立て続けに仕事に回ってもらって悪かったわね。
お疲れ。」
ベルモットは右手を軽くあげてヒラヒラと振った。
夜の帳がすっかり落ちているにも関わらず、外の気温はさほど低くもなかった。
降谷はMANSION MOKUBAの自宅へ帰り、脱衣所で着ていた服をすぐさま脱いだ。
洗濯機に放り込んで回してる間に自身は風呂場へと向かう。
頭からシャワーを被り、シャンプーやボディーソープを使って女の香りを消す。
(・・・まだあの女の匂いが取れない。)
泡立てたスポンジで身体を強く擦りながら、降谷は消えない香りに舌打ちをした。
しばらくして、自身の髪や腕の香りを嗅いで完全にあの女の香りが消えた事に満足すると、クローゼットの中からグレーのスーツを手に取って身に付けた。
ネクタイピンが並ぶ棚に視線を移し、ワンポイントにラピスラズリがあしらわれたネクタイピンに手を伸ばす。
それをネクタイに着けると、降谷は再び玄関を開けて部屋を出た。
降谷は警察庁に行く前に凛のマンションへ来た。
彼女からもらったスペアキーで玄関の鍵を開け、静かに玄関ドアを開けて中に入る。
玄関の近くにある扉を開けて調合部屋に入り、さらに奥にある寝室の扉を開ける。
その瞬間、薔薇のような甘い香りが降谷の身体を包み込んだ。
(薔薇のような香り・・・
凛さんの香り・・・
俺の落ち着く香り・・・)
降谷はベッドの上で眠る凛の寝顔を見て、目尻を下げてフッと微笑んだ。
(寝顔、可愛い。)
ベッド横に腰をおろし、ピンクに色付く形のいい柔らかな凛の唇にそっと触れる。
先程まで降谷の胸の中を占めていた不快感が、一瞬にして消え去っていく。
(君に好きだと・・・
元の国に帰らないでくれと・・・
ずっと俺の傍に居てくれと言えば、君はなんて言うだろう。
困ったように微笑んで、俺の知らない間に俺の前から居なくなってしまうのだろうか・・・)
降谷は凛の手を取ると、手の甲にキスを落とした。
(俺はもう君なしでは生きていけない程に、君を欲している。
こんな俺で・・・)
「・・・ごめん、な。」
降谷は呟くような小さな声で言うと、寝室から静かに出て行った。
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